※ネタバレ注意。自作品「名も無き歌」と若干被ります。
―――どれだけの時間が経過したのだろうか。
ぼろ布を身にまとった一人の人物が山の頂を貫くようにして生える大木の先端で胡坐を掻いていた。
太古の昔。まだ世界が霧に覆われ灰の大木と岩の古竜によって統べられていた時代。
突如前触れも無く発生した最初の火が誕生した場所が人物の座する場所であった。
――最初の火の炉。
その体躯は凡そ尋常な背丈を超えていた。
だが、巨人という種族でもなければ神族でもなかった。人間。それが人物の種族だった。
胡坐を掻きつつ今はもう遠い過去にかすんで見えない自分の名前を思い出そうとしていた。
自分の目の前に刺さったらせん状の剣の根元には、風が吹けば散ってしまいそうな白い骨がある。骨に宿った柔らかい火は世界に差異を齎した原初の火の末裔であり、薪という名の人柱によってのみ生きながらえる哀れな存在であった。
かつて、四人の偉大な王たちを下した人物は、自らの意思によって火を受け継いだ。
気の遠くなるような時間の果てに燃え殻と成り果ててもなおソウルだけは残り続けた。
拡散していく世界を繋ぎとめるための楔となったのだ。やがて人物のソウルは代々王たちによって受け継がれていった。いつしか火を守るための概念に成り果ててしまったことに気がつくことも無く。
人物は火を前にひたすら待ち続けていた。
左腕は火そのものと化していた。呪術の火はもはや人物と一体である。原初の火に触れた人物はかのイザリスにさえ匹敵する術を身に付けている。原初、竜を殺戮した風景でさえ再現できるだろう。
右腕には歪に歪んだ手斧が握られている。楔石の原盤を使い強化されたそれは大昔人物が沼地で振るっていた武器である。呪術の道を究めんとしたために火に近づき自分自身が薪となるなど皮肉な話である。
預言者曰く。
―――火は陰り 王たちに玉座なし。
原罪の探求者は言った。
闇を越えた先を目指すことこそが我らが使命であり、探求こそが我らが原罪なのであると。
闇を迎えた世界に道など無い。光さえ届かない暗闇の中に手を貸してくれるものなど存在しないのだ。
人物は天を仰いだ。暗黒の球体に今にも飲み込まれんとしている太陽があった。太陽はまるで涙を流すかのように赤い線状を垂れ流していた。
人物が面を上げた。
時空を隔てるという霧をくぐって英雄がやってきたのだ。
火を継ぐべくに相応しい者か。闇を齎すべきものか。あるいは――その先を目指す探求者か。
いずれにせよ人物には役割があった。
腰を上げると、火そのものと化した左腕を相手に向かって掲げる。顔の半分までがどす黒い火炎によって包まれる。目玉の奥から白い灰が伝い落ちていく。燃え殻と化した無数のソウルが体という体から空気中に四散していった。握られた手斧を一振りすると、柄の部分の木材が瞬く間に伸長して腕を覆っていく。
人物を前に怖気ついたのか、英雄が盾を構えた。
やがて火は消えるだろう。
だが、いつか火は熾るだろう。
繰り返す輪廻の中で人は彷徨い続ける定めなのだろう。
苦しみながらも人は可能性を追い求め続けるしかないのだ。
まるで、火に誘われる哀れな蛾のように。
英雄は負けじと剣を抜くと切りかかった。
火の化身たる人物を下すために。新たな時代を継承するために。
英雄はごく平凡な騎士だった。
騎士が化け物を倒し世界を救う。この救われない世界に残された、燃え殻のように儚い救いの物語。英雄譚はいずれ御伽噺となり、伝承となり、記憶から消え去っていくのだ。
いずれ言い伝えさえ残らないであろう英雄へ捧げられるのは名も無き子守唄だけなのだろう。
英雄の剣を受けながら人物は思う。
叶うならばその先を見てみたいと。
叶うことはないだろう。
英雄によって火の怪物は倒される運命なのだから。
化け物を下した英雄は思う。
継ぐべきか。継がずに背を向けるべきか。新たな小人の歴史を始めるべきか。
英雄の選択を待つかのように最初の火が燻っていた。
太陽万歳!
※ネタバレ注意
ラスボスがダクソ初代の主人公とは思いませんでしたが、ニトとかシースとかいろいろ混ざった攻撃してきて血肉踊りましたね。