ーーー早く!!挿管!!
ーーー...西木野先生!!患者の血圧低下!!
ーーー分かってる!!止血剤投与!!早く!!
...耐えろよ、駿君。
...絶対に助けてやる。
...そう、心に決めていたのに。
「開頭...うわっ!?」
「...!!早く取り出すぞ!!」
開頭した直後に見えたものは...。
...血。
だが、何かが不思議でならない。
アスファルトや縁石に頭を打ち付けたにしてはあまり出血もないし、頭蓋骨も折れ方が軽い。
「...!おい!右腕!!」
「!!」
右腕は複雑骨折。
ここで確信した。彼は右腕をクッション代わりにし、頭部を守った。
咄嗟に出来る判断じゃない...。
...幸運か...。
"あの男の子" がもう悲劇を繰り返すまいと、そう願ったのか...。
だが、この右腕のお陰で希望は見えた。
脳の損傷は比較的軽度。
...記憶喪失になんて、させない。
...もう2度と、悪夢を繰り返させはしない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
...ずっと手術室の前で待っている。
何時間も、何十時間も。
...私はあの時、全てを思い出した。
お兄ちゃんを殺したのは、私。
前も見ず、道路に飛び出して。
誰かが突き飛ばし、助けてくれた。
...それも2回も。
...今度は...駿くんを...。
「...うわああぁぁん...」
...泣いても何も戻ってこない。
そんなの分かってる。けど。
お兄ちゃんの笑顔。駿くんの笑顔。
そのどちらも、私が消した。
...私は...。
ーーーこの殺人鬼!!!!
ガチャ、と扉が開く音。
そして扉からは、西木野先生。
「先生...。...駿くんは...。」
「...手術は成功だ。もう悪夢は繰り返させないよ。」
「...そう...ですか。」
「...自分が殺した、なんて思ってるんじゃないだろうね?」
私は、西木野先生のこの言葉に押し黙る。
図星。
まさにその通りだったから。
「...そんなことを言うより、もっと言うことがあるだろう?」
「...え?」
「...助けてくれて、ありがとう。と言ってやりなさい。...それだけで十分のはずだ。」
...それだけで十分。
そう言って西木野先生は、私の頭に手を置いた。
そして、こう語りかける。
「... "あの子" も、そう思ってるだろうさ。」
「...!!!」
「じゃあ、ね。」
そう言って先生は、私に背を向ける。
「...お兄ちゃん...。」
実の兄じゃないけど、私を実の妹のように可愛がってくれた。
「...
私のせいで、人生が狂ってしまった女の子。
...もう、泣いている場合じゃない。
「...皆に、いっぱい迷惑かけちゃった...。」
ーーーでも、君を助けた。これは僕の本望。
「...そう...かな?駿くんも...。」
ーーーきっとそう。こういう時は、何て言うの?
ーーー
「...ふふっ。そうね。」
前を向いて、いかなきゃね。
ありがとう、お兄ちゃん。
そして。
さようなら。
...過去の...自分。
5日後
「...駿くんはまだ起きない...か。」
今日も駿くんの好きなリンゴ、持ってきたのにな。
...彼の顔には、呼吸器が付いている。
もう5日も、寝っぱなし。
彼の優しさ、厳しさ、楽しさ。
...笑顔に...触れたい。
「...剥いて、置いていくからね?」
聞こえるはずもないのに、彼にそう言う。
いつか、返事をしてくれるのを願って。
シャリシャリと、リンゴを剥く音、そして彼の呼吸器の音だけが聞こえる。
「よしっ、綺麗にうさぎ型に剥けた!」
剥いたリンゴを、彼が横たわっているベッド横の机に置く。
そして、誰かいるわけでもないのに周りを十分に警戒し。
彼の頬に、軽くキスをした。
「駿くん...。私ね?お兄ちゃんと駿くん、二人ともを...殺しちゃった殺人鬼だと思ってた。」
周りから見れば、殺人鬼。
それこそ疫病神にも見えるかもしれない。
「...でもね?」
そう続ける。
「そうじゃ...ないんだって。あなた達が...私を助けてくれたから...。」
今の、私がある。
「本当に...っ!ありがとう...っ。」
...やはり、涙を堪えきれない。
涙声になってしまい、少し恥ずかしいが...。
「だから私...。もうさよならしたの...。
過去の、弱い自分に...。」
ーーーいじめられてるの...
そんなの、わかってる。
ーーー...苦しくないの?
苦しかった。...でも、救世主が現れた。
ーーーあなたは...本当に...。
ーーー"
...えぇ。正真正銘、綺羅 ツバサ。
私は...あなた自身。
ーーー私...幸せになれるの...?
うん、とびっきり。
ーーーいじめられてた私なんかが...?
うん。だって...
「...ぁ...ぁ...あり...が...と...ツバ...サ...ちゃん...」
こんなにも素敵な人が、現れるんですもの。
不運があれば、幸運があります。
幸運があれば、不運があります。
希望を持てば、世界が変わります。
...過去の自分から、さよならだって。