少し悲しいお話です。
この訳は、最後で。
「ツバサちゃん。"Tomorrow is another day." って、どう訳すか知ってる?」
「...知らないわね...。」
...あの時、あなたがくれた優しさ。
...君が。立ち直れますように...って。
「Tomorrow is another day.」
あの事故から約1週間ほど。
彼は無事に目を覚まし、どんどんと元気になっていった。
腕も治ってきたようで何より。
あの事故を振り返る。
頭からは出血。死亡の確率も高かった筈だ。
なのに。
...彼がいなくなってしまったら。
そう考えたからなのか、彼は戻ってきてくれた。
...意識を、身体に戻してくれた。
何かあれば必ず助けてくれる。...私は、彼のそんなところが好きだった。
だが、一番の理由は、助けてくれるからじゃない。
...ずっと一緒にいたいと思えたから。
いつのまにか、そんな風に思っていたのだ。
そんな彼の入院生活の世話を少しの間担当。
大変だったけど、とても充実していた。
それもそのはず。
...ずっと一緒にいたい。その願いの一片が叶っていたのだから。
そして彼の退院の日。
私が以前から準備をしていた退院祝い。
所謂パーティーだ。
彼の目には、少し涙。...そんな姿を可愛いなんて思ってしまったり。
その日は色んな事を語り合った。
昔のこと。彼の大阪でのこと。友達のこと。
...大人になった時のこと。
...だがその話をした途端。
「...。」
「...どうしたの?」
「...いや。何でもない!」
彼がとても悲しそうな顔をしたのだ。
私はその顔を見かね、思い切って遊びに行く事を提案した。
すると後の休日に、彼と一緒に出かけることになった。
私は我を忘れ、はしゃぎ回ったのを覚えている。
...恥ずかしかったなぁ...。
だが、それほどに彼との時間は。
「ねぇ!ここ行きましょ!」
「フフッ...そうだな!」
とても楽しかった...。
「ちょっと!?ツバサさん速いよ!?」
「あなたが遅いの!」
「あっ...(察し)」
時間が経つのを、忘れるほどに。
他人の視線なんて、気にならないほどに。
いつの間にか空はオレンジ色。
今日はとても楽しかった。ショッピングだったり、遊園地だったり。
...私が、こんなに幸せでいいのか。
そう思うほどに。
今日も彼におねだりし、家に泊めてもらう。
少しでも長い間一緒にいたい。そういう気持ちがどんどん募っていた。
ベッドに入り、さあ寝よう。そういう時に、彼が不思議な言葉を口にした。
「ツバサちゃん。"Tomorrow is another day." って、どう訳すか知ってる?」
...そんな質問を、私に投げかける。
意訳も兼ねると、 「明日は別の日」 。そんな訳になる。
...だが、このままでは意味がわからないのだ。
「...知らないわね...。」
悩んでいても仕方がない。そう思い、彼に答えを聞く。
...だが。
「教えな〜いwww」
「えぇっ!?」
...ふざけた様子でそう返す。
私は真剣に考えていた故、この態度にムッとしてしまい...。
「...知らないっ!」
そっぽを向いたのだ。
この時の彼の慌てようと言ったら...。
今、思い出しても笑いが込み上げてくる。
いつも笑い合えて。とても楽しい。
...そんな生活だった。
だがそんな生活に、"風" が吹いた。
彼のリハビリも兼ね、外へ繰り出す。
歩けるのだが、念の為ということで、彼と外を歩いているのだ。
歩きながら色んなスポットを見て回る...。
そんな些細なことが、私たちの楽しみとなっていた。
展望台やタワーなどなど...。
数え切れないほどに、色んなところへ行った。
...色んな、思い出を作った。
そして丁度3時。
「ツバサちゃん、着いてきて!」
「え?なになに?」
「目、瞑ってて!」
彼のイキイキした声に、私は自然と目を閉ざす。
目にシャッターを下ろし、暗闇に飲み込まれたところで、彼は私の手を引いてどんどん歩いて行く。
散々歩き、目を開けろと言われた場所は...。
じゃりじゃりとした砂。水が出る蛇口もある。
...幻想の世界にいるような。
...そんな綺麗で、恵まれた景色。
私はそんな景色に喜びを隠しきれない。
後ろを振り向き、彼に呼びかける。
「ねぇ!駿くん!すご...。」
だがそこに。
彼の姿は無かった。
「...ツバサちゃん。...この前の、答え合わせしよっか。」
声だけ微かに、聞こえるのだ。
気配など感じない。
私は訳がわからなかったが、彼の言葉を聞くことにした。
「多分...気づいてるよね。
俺、死んじゃったんだ。」
「...。」
知って、いた。
彼は、私が創り出した幻覚。
「俺は、君が創り出した幻覚。」
本物のあなたは、もう死んでいる。
「本物の俺は、もう死んでいる。」
そして。
「この前の言葉の訳...だったね。
"明日は明日の風が吹く" 。そんな意味なんだ。」
「...そんな...意味が...。」
「...良い言葉だよね。君のいじめが終わった日。
...あれこそ、明日は明日の風が吹く。
...だと思うんだよな。」
風のおかげじゃない。
駿くんが助けてくれたから。
あの日、救世主が現れたから。
「でも。俺は今、風みたいなモンなんだ。
...ってことは、わかるよな?」
「...うん...。さよなら...ッ...なんだよねっ...!」
明日は明日の風。
...なら彼は、明日にはいなくなってしまうのだ。
今まで見えたのは、まだ彼の姿が風によって削れていなかったから。
「...そうだな。...俺のことは忘れて...新しい、良い人探しなよ?」
私は、そっと彼を抱き寄せる。
...「相沢 駿之墓」
「...探さないわよ...。あなたと一緒に...居続ける。」
「...ありがとう...。本当に、ごめん。」
ううん。
わかっていた。彼が死んじゃった事なんて。
突き飛ばしてくれた後。
...あなた、腕の骨が頭に刺さってたじゃない。
命に代えて、私を助けてくれて。
本当に、バカ。でも、大好きな人。
「...さよなら。ツバサちゃん。」
「...えぇ...!さよならっ...!駿くん...!」
私はリミッターが外れたかのように、そこで泣き続けた。
もうここに、居もしない彼を。風に吹かれ、消えてしまった彼を。
抱きしめながら。
30分ほど泣いていたのだろうか。
涙も枯れ果て、ゆったりと立ち上がる。
立ち上がり、顔を上げた先には。
「...ありがとう。」
そう、微笑む少年が。
...私の小さい頃の友人に、そっくりだ。
その子に手を振り、その場から立ち去る。
「きゃっ!」
「やめろ!!」
「じゃまだ!」
「いたっ...。」
小学生の3人組が、外で喧嘩をしてしまっている。
女の子は怪我をし、相当酷い状態。
...自分の過去と重ね合わせてしまい、ズカズカと踏み込んで行く
そしていじめている少年の向かい、こう一言。
「こら!」
「やべっ!?」
そう言い、少年はその場から逃げ出す。
そして女の子と、女の子を守ろうとした男の子の手を引っ張り、怪我がないか確認する。
「大丈夫?」
「うん!」
「大丈夫!おねえちゃんありがとう!」
「いえいえ、どういたしまして!」
そう、笑顔で返す。
「...でも...いじめって嫌だなぁ...。」
「...俺が守る!」
そんなやり取りも、私たちそっくりで。
「 "Tomorrow is another day." 」
「え?」
「お父さん、お母さんに意味を聞いてみて?
...幸せになれるから。」
「え!?ほんと!?」
「ほんとうに!?」
目をキラキラさせ、見つめてくる。
そんな彼らに飛びっきりのウインクと共に。
「うん...本当に、ねっ!」
その時の風は。
とても暖かく。
...とても、優しい風だった。
「ありがとう。駿くん。」
「こちらこそ。ツバサちゃん。」
オレンジ色に輝く空を、見つめながら。
「...っていう夢を見たんだって〜♪」
「だからってこんなにくっつく!?っつかツバサちゃん苦しい!離れて!!」
「やーーだーー!!!」
「死んでない!ほーら、死んでないぞ〜!よしよし!」
「...えへへ。」
あとがきは救いが欲しい方にどうぞ。
あと本編とは関係ありませんよー!