「...ふぁぁ...眠いな...。」
夕日に見守られながら、ツバサちゃんの記憶が戻ったことを喜び合ったのは、もう昨日のこと。
自分の病室に戻れ、と看護婦さんに怒られ、俺が渋々と帰ってきたときには、夕日は沈んでいた。
消えないで夕日、戻ってきて夕日。...そんな気持ちを胸にしまいながらあっという間に寝てしまった。
そして現在、午前9時。
内臓の病気など、そういったものを患った患者は午前6時に採血の時間として叩き起こされる。
だが、俺は内臓系の病気じゃないんだなぁ。それゆえ、俺は寝ていても放置されている。
起こしてくれなきゃナマケモノになってしまう。
木にしがみつける様になってしまう。
重たい瞼を無理やりにでも開き、目の焦点を合わせる。
その瞬間、ある人物が病室を訪れた。
「...駿...大丈夫か...?」
「...お前の方が大丈夫かよ...智樹...。」
「...大丈夫...じゃ、ないな...。」
...痩せ細り、目の焦点も合っていない、変わり果てた親友だった。
「...なんか、良いことあったのか?」
「あ、あぁ。ツバサちゃんの記憶が戻ったんだ。」
「おぉ!おめでとう!今度どっか飯食いに行こうぜ!」
そう言って無理やり笑顔を作る智樹。
そこには以前まであった無邪気さ、何より、楽しさが感じられなかった。
切れかかった電球のような、そんな笑顔を浮かべたのだ。
「ありがとう。...んで、智樹はどうしたんだよ?」
「...そうだな...。この苦しみから解放される...楽になれる、方法を見つけた。」
「...やっぱり、きついよな...。ごめんな、智樹...。」
このとき俺は、苦しみ、というワードにトラウマを持っていた。
...俺を守るために、智樹が苦しみを背負ってしまった。それゆえ、智樹は変わり果ててしまったのだから。
「...駿は悪くない。...悪いのは俺なんだよ...。」
「...智樹...?」
目が見開かれ、尋常ではない冷や汗を流している智樹の姿に、俺は恐る恐る名前を呼んでみる。
すると、智樹の口から出てきたのは。
「...毎晩毎晩あの時の事が夢に出る...。...しかも殴って殺しちまった後は...起き上がって...俺に...っ!!」
「落ち着け!!」
智樹は全ての出来事から目を背けたい、そう言うかのように顔を、爪を立てた手で覆った。
そしてその中からは、嗚咽が聞こえる。
まるで、決して出ることの出来ない檻に入れられた、囚人のように。
「大丈夫だ!もう終わった!!」
咄嗟の言葉。
...だが、この言葉のせいなのかもしれない。
「...そう...だよな...今日でこの苦しみから...。」
「駿、元気付けようとしてくれて、ありがとうな。
そして、さようなら。」
俺には最後まで、意味がわからなかった。
さようなら。この部分が、特に。
だが直ぐに、分かることになる。
希望の夕日は、昇るのか。
智樹が俺の病室から出て行った後、一人で智樹の言葉を思い返していた。
ずっと、さようなら、の部分がリフレイン。
何度も何度も、俺の頭に刻み込まれる。
一体どういう意味だったのか。
今でも全くわからない。
そうして頭を抱えていると。
「駿くん、お邪魔します。」
「ツバサちゃん...なんでそんなに畏まってんの...。」
「雰囲気よ、雰囲気!」
今度はツバサちゃんが病室に。
そこから他愛もない話をする。
入院生活が辛かっただとか、学校へ全く行けていないだとか。
自虐をしては、二人で笑いあう。
そんな時間を過ごしていると。
...何か、嫌な予感がしたのだ。
そう感じている俺の気持ちを、ツバサちゃんは読み取ったようで。
「...どうかしたの?」
「...何か...嫌な予感がして...。」
「...嫌な予感?」
ツバサちゃんが首を傾げる。
自分でも何を言っているのか分からない。
...だけど。
"あの時" のような、そんな雰囲気を感じてしまうのだ。
昨日、あんなに励ましてくれた夕日も、今日は見えない。
...それに、どちらかというと。
今日は、"絶望" の夕日しか出ない筈。
だって。窓の外を見た時に見えたのは。
「...!?智樹ッ!!!」
屋上の柵を乗り越えようとする、智樹の姿が見えたのだから。
俺はそれを見た途端、扉を乱暴に開け、病室を飛び出す。
ツバサちゃんは何があったか分からない様子だが、こちらについて来ていた。
未だに "?" が浮かんでいる彼女だったが、俺の焦燥感を目の当たりにし、何も聞かないでいてくれていた。
走って向かう先は、屋上。
「智樹ッ!!!」
半ばタックルの様な形で、屋上のドアを無理やり開く。
その行為に智樹は驚く様子も見せず、器用なことに此方へ向き直る。
「...駿。」
「こんなことやめろって!!」
「...速いっ...わ...よ...え!?加藤...くん!?」
ツバサちゃんも後から追いつく。
その顔は恐怖に怯え、そして焦っている。
俺はその間にも説得を続ける。
無駄なことかもしれない。が、時間は稼げるかもしれない。
そんな淡い希望を持ちながら。
「...お前、あの時のこと覚えてるか?...俺を助けてくれた日のこと。」
「...幼稚園の時か...。」
「そうだ。...あの時、お前のことをすっげぇカッコいいって思ったんだ...。」
一呼吸置き、でも。と繋げる。
その間俺は、智樹のいる方へジリジリと近づいていく。
「...でも。今はどうだ?...俺の知ってるお前は、自分から命を投げ捨てない筈だ。人の幸せを何よりも喜ぶ奴だった筈だ!」
「...変わるんだよ。」
「ああ変わった!悪い方向にな!!」
「...っ...。」
そうだ。俺はこいつに憧れて。
「俺はお前に会って初めて、人を救いたいって思ったんだ!...だから...今度は!」
こいつに憧れたからこそ。俺は。
「今度は俺が、お前を助ける!!」
智樹に向かって一直線に、その言葉をぶつけた。
何も間違った事なんて言ってない。俺は、こいつを助けたい。
そう思ったのだから。
...いわば、恩返し。
その気持ちを、今。
「だから、そんなことやめてくれ!!!俺の "ヒーロー" !!!!」
ありったけ、ぶつけてやる。
...その結果は。
「...そうか...俺は...お前にとってのヒーロー...だったのか...。
...でも、人を殺すヒーローなんて...いやしない。」
...暗い表情。暗い言葉。
「...世の中は罪と罰で成り立ってるんだよ。...だから、これは俺に対する "罰" 。」
...彼は、柵越しに俺に、そう告げる。
"こっち側" と "向こう側" が、まるで別世界のようだった。
"よう" じゃない。"別世界" だ。
「だから...ありがとう、駿。」
「本当に、ありがとう。」
タンッ!
響くのは、無機質な音。
少年は。
病院から、飛び降りた。
「止せええええぇぇぇ!!!!!」
その声。その手。
差し出した手に。希望は?
マズイですよ!?
ってことで38話でした!
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