何もかもが穢れた道。まるで死者が通るようなその道。その道では、男は延々と走り続けていた。何かから逃げるように。いや、実際に逃げている。そう、さっきからずっとこの男は逃げているのだ。追手から逃げなけらばならないのだ。
男は思う。自分は何処まで逃げればいいのかと。先が見えない道に、そのような思いを馳せていた。逃げなければならない。なんとしてでも。
必死に動き続ける足はもう悲鳴をあげている。だけど、止まってはいられない。完全に逃げ切れるまで止まってはいけないのだ。
はあ、はあ、と息も段々とあがってくる。それでも休憩は出来ない。走り続けなければならないのだ。
男は逃げるために、追手に自分の髪飾りや、櫛の歯を投げつけた。それによって追手の何人かは撃退することが出来た。
そしてさらに、追手の一人である、雷神に桃の実を投げつけることによって、雷神すらも撃退に成功した。
しかしそれでも、その女だけは男を追い続けた。その女は何が起きても、男を追い続けた。
必死に男は逃げ続ける。それに対して、女は男を追いかける。どんなに男が逃げても、女は追う。女はどんな手を使ってでも、男を追い続ける。男はどんな手で逃げても、女は追うのをやめない。それはひたすらに。もはやそのやりとりは永遠に続くのかもしれない。
男はなぜ、こうなったのだろうと、逃げながらも考える。
答えはもうすでに知っている。
彼女を恐れてしまったのだ。彼女の成り果ての姿に。男は、彼女を見ているようで彼女を見ていなかった。自分のことしか考えずに、彼女を羞恥の底に叩きつけた。結局、男は彼女のことを全く考えてなかった。そして男は逃げてしまった。男は彼女と向き合えなかったのだ。そのツケがこの様だ。
全ては自分のせいかもしれない。だが、やり直したくても、やり直せないところまで来てしまったのだ。
もう彼女とは別離するしかほかない。そう男は悟った。ただ、それでも、彼女と仲良かった頃に戻りたいと心の何処かで思っていた。男は走りながらも葛藤し続ける。だが、こうなってしまったら、もう遅いと決めつける。
逃げる男と追いかける女。それはかつて、仲の良い兄妹だった。それはとっても。誰もが認める、睦まじき仲だった。
兄は妹を愛し、妹は兄を愛した。
その兄妹は別天津神の御言を受けてから、夫婦の契りを交わした。妻となる女は子をたくさん産んだ。その夫婦は確かに愛しあっていた。
しかし、その愛しあっていた夫婦の最後の形が、逃げる男とそれを追いかける女になっていた。
必死に逃げる男は、道の先に巨大な岩を発見する。
「!……これだ」
男は思いついた。これならば、彼女を足止め出来る……と。
男に残っていた、全ての力を用いて、追手が来るその道を巨大な岩で封鎖する。
男はその力を使い果たしてしまい、地面に転びそうになる。
だが、それでも倒れないように踏ん張る。
どうやら、封鎖した岩によって、女も男の側に来ることが出来ないようだ。
男の足止めは成功したのだ。
「なんで、なんで逃げるのですか……私と貴方はかつて愛しあっていたのに」
岩の向こうからしてくる、泣きが混じった女の声を、男が聞いた。
「お前はもう、私の妻ではない!私の妻ではなくなったお前は、私の国に必要ないのだ」
男は答えた。もうお前はかつて愛していた妻では無いのだと。そしてお前はもう必要ないのだと。
「!?……ならば、貴方の国の人間を一日、千人。穢れをもって死へと
「……ふん、ならば一日、千五百人。産めるようにしよう」
男がそう言い切った事によって、言葉の応酬が止んだ。
二人は無言になる。
その間は、長く続いた。
「もう、かつての頃に戻れないのでしょうか……」
しばらく経って、岩の向こうにいる女から声が聞こえた。
その言葉は、男の心の何処かで思っていた事と一致していた。
しかし、それを男は切り捨てる。
「もう遅い。遅すぎるのだ。何もかも。そしてこれが別れなのだ」
と、男は巨大な岩から離れようとする。
しかし、岩の向こうからまた声が聞こえてくる。
「貴方にとって私はもう妻では無いのかもしれません。しかし、これだけは貴方の御心に留めていてください。私は今でも、貴方を愛しています。そして、これからも。……それをお忘れなく」
それを聞いた男は、何も言わずにその場所から去った。かつての妻であり妹である女との別れに、一筋の涙を溢れ落として。
そして女はその岩の下で泣き崩れる。
この兄妹はこうして別れ、地上の世界に女の宣言によって穢れが満ちて、死を知らぬ生命に寿命が発生する。しかし、この男によって生命生産の連鎖は絶えることなく続く。
◆◆◆◆
96年間居続けた、ある意味この世界での故郷でもある、不気味な樹海を亜月と一緒に脱出することが出来た。
今思えば、この樹海は、思い出一杯の樹海だ。でも二度この樹海に戻りたくないと思ってしまうのは必然である。
そんで亜月と一緒に旅をすることになった。
亜月は神としての仕事はないらしい。そもそも、信仰なくても力は湧き上がるということで、信仰を手に入れる作業は必要ないらしい。
亜月曰く、もし俺と出会っていなければ、高天原の奥でつまらぬ隠居生活していたとのこと。
そんな神霊の亜月と旅行生活である。隣に歩く、亜月は神々しく眩しい。いや、光っていないんだけどね。そして亜月の胸には、これでもかと存在感を主張する豊かな双実が。亜月にバレないようにチラッチラッと見てみる。そうしていると、亜月は両腕でその双実を両側から挟み、それを強調していた。そして、亜月は俺に極上の笑顔を向けていた。
はい、チラッチラッと見ていたのがバレていたようです。
とりあえずそんな感じで旅を続ける。
そんなある日、そろそろ休憩しようかなと思っていた時、とある建物を見つけた。
まるで神社みたいな建物である。いや、神社である。
「とりあえずあそこに行ってみるか」
「わかりました」
亜月も了承した。
その神社は、見た目的には開けており、訪れやすい形だ。
そしてその神社の境内に一歩踏み込んでみる。
すると、神社の本殿から、青年が出てきた。どうやら俺達が訪れたことに気づいたらしい。
その青年は、ニコニコとした表情で俺たちに近づいてきた。青年は、白い羽織に質素な浅葱色の袴を着ていた。見るからに、神社の神主っぽい。
「この社にどのようなご用件で?」
と青年は俺達に話しかける。
「すこし休憩したいんだが、いい場所がありませんかね。あとこの地域の名も知りたい」
そして俺は答える。
隣にいる亜月は何故か、その神主っぽい青年を睨んでいた。
神主っぽい青年は亜月の睨みに怯みながら、答える。
「そ、そうですね。休憩ならばこの社でどうでしょうか。あとこの地域は多賀といいます」
おお、この神社で休憩させてくれるらしい。亜月に睨まれながらも、よく言ってくれたよこの神主っぽい青年さん。
「で、ではその前に大神様のもとへご案内しますので……」
その青年の言葉で、この神社の神様に会わしてくれるのか?と思ってしまう。
しかし、その言葉で亜月の睨みが更に鋭さが増していく。
そして青年を睨みつけていた亜月は言葉を発する。
「その必要は有りません」
「え?」「はい?」
亜月が発した言葉に俺と神主っぽい青年は驚愕をする。一体、何故そのようなことを言うだろうか?
亜月は神主っぽい青年に指を指しながら、言葉を続ける。
「おまえが多賀の大神、
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それにしても未だに東方キャラ出てない……