クラップスタナーは2度鳴る。   作:パラプリュイ

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異質のはなし。

「だめですよ、渚さん」

 

 ぼくを引き留めた触手からじんわりと熱が伝わってくる。殺せんせーが元殺し屋で、それが理由で苦労してきたことは理解していた。殺せんせーにぼくの将来の夢がバレないようにある程度セーブしてきたのはそれが理由だ。

 でももう誤魔化せない。殺し屋になりたい。自分に暗殺の才能があるって初めて知った時は、ただ漠然と殺し屋になるべきなんじゃないかと思った。ぼくにはそれ以外才能がなかったから。2周目になって、ぼくが殺し屋になりたい理由は誰かを救いたいと願ったからだ。

 

「殺せんせー、ぼくは……」

 

「ほう、それではこのタコのような身体をした奴が?」

 

 ロヴロさんはぼくの言葉を遮り、目の前の標的に興味を示し始める。殺せんせーは1本の触手をロヴロさんに差し出し握手を求めた。

 

「初めまして。渚さんの担任教師をしています、殺せんせーです」

 

「ロヴロ。イリーナ・イェラビッチを送り込んだ者だ」

 

 2人は握手を交わした。先生の触手もロヴロさんの手も何故か力がこもっており、力比べになっているような気がするのは気のせいではなさそうだ。

 

「渚……と言ったな。君は殺し屋になりたいと?危険な仕事だ。それに裏世界で生きなくてはならなくなる」

 

「ならなきゃ、だめなんです」

 

 ぎゅっと拳を握りしめた。ロヴロさんはぼくの目に篭った殺意に気づいたらしく、ふむと考え込む。

 

「……何やら事情があるようだ」

 

「だとしても渚さん。いけませんよ」

 

「何で?殺し屋になったらだめなの?」

 

 殺せんせーは困った顔で頭を掻く。ぼくは何を言われるのかと身構えて、意外な言葉に目をぱちくりとしてしまった。

 

「椚ヶ丘中学校は校則でアルバイトは禁止ですからねぇ」

 

「あ」

 

 そういえばそんな校則もあったっけ。

 てっきり殺せんせーが殺し屋の夢に猛反対しているから止めるのだと思っていたぼくは一気に脱力した。

 そっか……校則はどうにも出来ないや。

 

「校則か。残念だな」

 

 ロヴロさんは顎に手を当ててぼくを見定めるような視線で見やる。

 

「先ほどの吹き矢を止める動体視力。年齢が6、7歳程度に見えるのもちょうど良い。何よりも才能がある。ふむ、惜しい人材だ」

 

「プライベートの電話番号だ。この業界も近頃は人手が足りないものでね。平凡な日常を捨てる覚悟ができたらかけるといい」

 

「分かりました」

 

 山を下っていくロヴロさんを見送り、殺せんせーと向き直る。

 

「先生は渚さんの選択に関してどうこう言うことはしません。ただ、一度考え直してください。簡単に選択していい職業ではない____________「殺せんせー」」

 

「正しくないことは分かってるんだ。でもさ、もう取り返しがつかないとこまで来てるんだよ」

 

 殺せんせーが言いたいことは理解していた。でもその理解の上にある絶対に破られてはいけない感情が殺し屋になりたいという決意だった。

 

「それほどまでに成りたいんですか?確かに渚さんには才能がある。でも、おすすめはしない」

 

「ぼくの人生はぼくのものだ。先生も言ってたのに」

 

 殺せんせーは前の時のように普通に応援してくれないのだろうか。ぼくが教師を目指した時は明るい顔でとても嬉しそうだったのに、今は暗い。何だか喪失感すら感じる。

 

「渚。どこに居るかと思えば……何か取り込んでいる最中だったか?」

 

 A組の用事から戻って来た学秀はぼくらを見つけ、あまりにシリアスな雰囲気に困惑していた。

 

「ごめん、今行くから。またね、殺せんせー」

 

「また明日、渚さん」

 

 事務的な挨拶をして、ぼくは学秀に「行こっ」と声をかける。

 

「何の話をしていた?」

 

「ロヴロさんっていうビッチ先生の師匠さんが来ていたからね、仕事したいってお願いしたんだ。でもうちの学校アルバイト禁止だからさ」

 

「校則は僕にもどうすることも出来ないからね。訓練から受けさせてもらう見習いという手は?」

 

 それは既に考えたんだよなあと苦笑い気味に首を振った。ロヴロさんの殺し屋の訓練__________そこから想定されるのはビッチ先生と同じレベルの技術ということ。彼女が色仕掛けに特化していると言うのもあるが、現役でないロヴロさんに烏間先生の指導を超えるものが出来るかと尋ねられると否だ。

 

「訓練なら烏間先生のが上。まあ1周目と同じ訓練内容だから何とも言えないけどね。それに訓練からやれば……みたいな、そんな軽い気持ちで殺し屋になれるわけないから」

 

「だろうな。だからこそ、渚の夢にはあまり賛成できない」

 

 意外な否定の言葉にぼくは立ち止まった。てっきり学秀は賛成しているものと決めつけていたため、その言葉に疑問をぶつける。

 

「何で?」

 

「それは……心配だからに決まっているだろう。もともと災難に遭いやすい渚が殺し屋になったら、最悪の結末を迎える可能性だってある」

 

「そっか……ごめん」

 

 学秀に謝って、その意見には一理あるなと頷く。ぼくはしょっちゅう危機に見舞われるある意味で不幸体質なのに、殺し屋になったら死ぬ確率を上げているようなものだ。

 

「先生も心配しているから止めるんだと思うよ」

 

「分かってる、だからこそ酷いんだ。元殺し屋として失敗して欲しくないっていう考えが伝わっちゃうから……」

 

 殺し屋になってほしくない。あまりおすすめしない。その言い方じゃあまるでぼくが先生の2周目みたいじゃないか。自分の失敗を繰り返して欲しくないから違う道に誘導する。殺せんせーはぼくの意思を尊重してくれていると思っていたけど、お母さんとやっていることは同じだ。

 ぼくは誰の2周目でもない。誰かの人生のやり直しなんて、自分のだけで充分だ。

 

「元殺し屋……って殺せんせーが?」

 

「そうだよ」

 

「大切にされているだけなのにな」

 

 学秀の言葉に思わず黙り込む。気づいてた。でもだからこそ、悔しいじゃないか。殺せんせーの気持ちが分かっちゃう分、善意を余計だと感じてしまうぼくがいる。

 

「でもなりたいんだもん、殺し屋」

 

 拗ねた声でぶつぶつ文句を言うぼくに学秀は「気持ちは分からないでもない」と大きく頷いた。学秀曰く、世界征服の夢を理事長に持ち出して苦い顔をされたことがあるらしい。そしてその理由は理事長も同じことを目指して失敗しているからだという。

 学秀のはあまりにもスケールが大きい話だがどこにでもいるものだなあ、自分の失敗を他人に重ねる人。何だか納得して、ぼくはどうにか怒りを鎮めた。

 アルバイトは校則で禁止されているから今なるのは無理だ。でも、中学卒業したら本格的に殺し屋になることを進学相談の時にさり気なく出してみよう。そう決意して、ぼくは帰路を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨が止まない中、殺せんせーが2度目の転校生について説明をする。反応はあまり芳しくなく、みんな律の経験からどこか悟った顔をしていた。

 

「まーた転校生か」

 

「どうせ殺し屋だろ」

 

「律さんの前例がありますからねぇ。今回は油断しませんよ。何にせよ、暗殺者が増えるのは良いことです」

 

「律、お前は何か聞いていないか?」

 

「はい、情報料500円です」

 

 学秀の席の後ろで自動販売機営業を行う律に磯貝君が言葉を投げかけると、律は営業スマイルを浮かべ情報料を請求した。500円はちょっとと渋るクラスメイトたちを前に学秀が情報料500円を渡し、律は雄弁に語り始めた。

 

「堀部糸成。政府によって手配された暗殺者の1人ではありますが、殺し屋ではなく戦闘要員です。政府の提案では同時投入の予定でした。私の遠距離射撃と彼の近距離戦闘でなら殺せんせーを殺せると判断してのことでしょう」

 

「でも律は先に来たんだよね。何で?」

 

「理由は3つあります。1つは彼の体調管理が万全ではなかったこと。2つ目は私自身が早期投入されるべきだと判断したこと。そして最後は____________私が暗殺者として彼より圧倒的に劣ると想定されたから」

 

 殺せんせーの腕を3本も飛ばしたのに?と生徒たちは冷や汗を流す。

 

「ということは律より高性能の砲台?」

 

「ガ○ダムかもよ」

 

「魔人とか電人じゃね?」

 

「電人HALじゃあるまいし、第一キャラが被る転校生なんて願い下げ」

 

「不破さん、自重」

 

 メタ発言が続く不破さんを片岡さんは飼い犬に「ハウス」と言うような感覚で止めた。一方でぼくが転校生について知っていると考えた学秀がフランス語で呟く。周りはまたいつもの語学会話だという具合に無視した。

 

『渚、どんな奴が来るんだ?』

 

『うーん……教えたいけど学秀にも驚いて欲しいからなあ。内緒』

 

『驚く?僕が驚くほどの殺し屋が来るのか?』

 

 疑わしげに呟く学秀に、僕はむーっと唸った。思い返すと今までの殺し屋に対して、学秀は一度だって驚いた顔をしなかった。それが外国人であろうと人工知能であろうと通常通りの反応を示すのだ。

 でも今回は__________触手持ちのイトナ君には驚くに違いない。

 期待に胸を膨らませ学秀がわあっと驚く姿を想像する。いや、案外ええ!っと声を上げるのかも。

 

 ドアがガラリと開き、白装束の男が現れる。学秀の驚く様をイメージしてウキウキしていたぼくは途端に気分を沈めた。茅野が死んだ元凶が自分はシロですとばかりに歩いている。この場で刺したいぐらいだ。殺意をどうにか抑えてぼくは男の手品に感心しているフリをした。

 

「すまないね。私は転校生の保護者だよ。まあ白いから、シロとでも呼んでくれ」

 

 シロ。許すもんか。イトナ君を使ってこの教室に立ち入ったことも、殺せんせーのことも、雪村先生のことも。ぼくは決して彼を許そうとは思わない。

 

「びっくりした……いきなり白装束で手品したら誰だって驚くよね」

 

「うん。そういうKYな保護者は自宅待機していて欲しいよね。殺せんせーも無駄にビビっちゃうし」

 

 奥田さんの毒を借りて液状化した殺せんせーをチキンだなあと呆れた目で見上げた。

 

「ビビってんじゃねーよ!」

 

「まだ攻撃もされてないじゃんか!」

 

「にゅやっ、律さんがおっかない話するもんで思わず逃げてしまいました」

 

「初めましてシロさん。転校生はどちらに?」

 

「初めまして殺せんせー。ちょっと癖の強い子でね。私も保護者としてしばらく居させていただきますよ」

 

 シロは教室中を見回し、学秀の方に目線を寄越した。この中で1番強い生徒が学秀だと見破ったのかもしれない。そして更に僕の隣に視線を向け、自分の義理の妹がいることを受け意識の波長の波が揺れた。それも3秒間ほどで静まったが。

 

「何か?」

 

 殺せんせーが相手が生徒たちを観察していることに懐疑的になり尋ねる。シロは大したことはないとばかりに首を振った。

 

「いえいえ。みんな良い子そうで。これならあの子も馴染めそうだ。イトナ!入っておいで」

 

 みんなが固唾を呑んで教室のドアを見守る中、ぼくの視線だけは座席後ろの壁に注がれていた。

 が、クラスのほぼ全員の想像を斜め上に上回り壁をぶち破って入ってくる転校生に、クラス全員は心の悲鳴を上げた。

 ドアから入れ!と。

 

「俺は勝った。この教室の壁よりも強い事が証明された……それだけでいい」

 

 胡散臭そうにイトナ君を見た学秀はぼくに目配せをした。その顔には驚くとは言っていたけどこんな登場の仕方は聞いてないぞと書いてあった。

 

「おい、その首のファーと制服。校則はちゃんと見たのか?」

 

 今はそんなこと誰も気にしないよ?!

 

 生徒会長らしいお堅い発言にぼくはイトナ君に触手で滅多斬りにされないか気が気ではなかった。ハラハラしてもしもの時のために対先生ナイフを握りしめる。しかしそれは杞憂だったようだ。

 イトナ君はキョロキョロと教室内を見渡し、席を立った。

 

「お前はこのクラスで1番強い。でも安心しろ。俺より弱いから__________俺はお前を殺さない」

 

「僕がお前より弱いだと?」

 

 学秀が相手の腕を掴み戦闘態勢に入った。イトナ君も獲物を見る目つきで学秀を睨んでいる。

 

「だーめだってば」

 

 イトナ君の背後から現れたぼくはイトナ君の頭に対先生ナイフの柄を押しつけ、学秀ににっこりと微笑みかけた。触手の影響で集中力が散漫なイトナ君の意識は攻撃面が強く、防御が薄い。更に意識の波長が人に比べて荒んでおり、彼の後ろを取ることは案外容易に達成できた。呆気に取られたイトナ君がぼくの登場に息を呑む。

 

「お前今どこから_________?」

 

「普通に前から来たよ?」

 

 彼の返事に首を傾げてぼくは学秀に向けて忠告をした。

 

「転校生に喧嘩売るなんて、E組監視役としてやっちゃいけないでしょ。ね?」

 

「……それもそうだな」

 

 学秀はイトナ君の頭とぼくの対先生ナイフを交互に見やる。ピクリと眉を上げたところからするともう気づいちゃったみたいだ。

 

「俺は自分より弱い奴とは闘わない。だからお前、その手を退けろ」

 

「渚だよ。よろしくね」

 

 笑顔で自己紹介をするぼくにクラスメイトたちはざわめきたった。クラスで1番小柄な女子。しかも弱そうときた。そんなぼくが得体の知れない転校生に愛想良く振舞っている。自殺行動だと考えているようだ。

 普通の反応としては好奇心を示すか、恐れを持って傍観者となるかの2択だ。稀にいる強者として学秀のように敵意を持つこともあるがそれは例外といって良いだろう。更に例外中の例外がぼくのように親しみを持って接することだ。

 

「渚?お前があの……」

 

「何の話?」

 

 イトナ君の言葉にキョトンとまた首を傾げると彼は我に返って低い声を発した。

 

「……話しかけるな。弱い奴に興味はない。俺が興味あるのは俺より強いかもしれない奴だけ」

 

 教卓の前まで向かい、殺せんせーを見上げる。その目にはシロによって植えつけられた殺意が燃え上がっていた。

 

「__________この教室ではあんただけだ、殺せんせー」

 

「強い弱いというのは喧嘩の話ですか?そんなレベルでは先生と同じ次元には立てませんよ」

 

 羊羹を包みごと齧る殺せんせーに、イトナ君は全く同じ羊羹を取り出した。

 

「立てるさ__________だって俺たち血を分けた兄弟なんだから」

 

「「「「兄弟?!?!」」」」

 

クラスに大声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み。クラス中に衝撃を与えたイトナ君を周りは遠巻きに眺めていた。それは彼が異質だったからで、来て早々放課後に勝負を申し込んだからでもあり、昼食に物凄い勢いで甘いものを食べているところに殺せんせーとの類似点を見出しているからだろう。

 

「甘党なところは殺せんせーと一緒か」

 

 そう呟いたのは前原君だ。それに付け加えるように磯貝君が発言する。

 

「あとは表情が読みづらいところとか?」

 

「それにしても……天使ちゃんは何を考えてるんだ?」

 

 イトナ君の机の前に自分の椅子を持って来て、食事を共にするぼくに2人は首を傾げていた。それは他の生徒たちも同じだ。構わずぼくはイトナ君に質問責めを繰り広げる。話が全く展開していかないが、一応答えてはくれるので嫌われてはいないのだろう。

 

「イトナ君、強いとか弱いとかってどうやって判断してるの?」

 

「見たら大体分かる」

 

「へえ……ぼくって弱い?」

 

「このクラスで最底辺の弱さだ」

 

「ふふっ、心外だなあ」

 

 ぼくは机に乗ったお菓子だらけの中にそっと自分のスペースを作りお弁当を平らげていた。周りの視線が痛いほど降りかかってくるが、そんなことは関係ない。ぼくにとってイトナ君と友達になることは今最も重要な課題の1つだからだ。

 

『何のつもりだ、渚』

 

『ごめん、まだ秘密』

 

 隣からの低い声で呟かれたスペイン語に素っ気なく返す。学秀はまたそれかとため息を吐いた。

 

「さて、今日買ったグラビアでも読みますか。これぞ大人の嗜み」

 

 殺せんせーが鼻歌混じりにグラビア雑誌を開くと、それに合わせたかのように同じグラビア雑誌を出し始めるイトナ君。趣味嗜好が合っているにも程がある。

 

「巨乳好きなの?茅野に殺されないように気をつけてね」

 

(めっちゃ普通に注意してる?!)

 

「茅野って?」

 

 イトナ君は首を傾げる。

 

「あの子」

 

 プリンを頬張る茅野を指差した。イトナ君はじーっと5秒彼女を見つめ、ぼくに向き直って一言漏らす。

 

「……かわいそう」

 

「何が?!」

 

 ああもう。確定しちゃったなあ。茅野の殺意がイトナ君に注がれているし。ぼくは遅かったかとため息を吐いた。

 昼休みが終わると気まぐれなイトナ君はまたどこかに姿を消した。触手をつけた状態での勉強はやはり厳しいのだろう。そう考えると普通に教室にいる茅野にはやっぱりびっくりさせられる。

 ぼくはE組に来て初めて仮病を使い、イトナ君を追った。

 崖間際の大きな木に座って漫画を読む彼を発見し、ぼくはイトナ君の兄弟設定はあくまで設定なのだなとしみじみ思う。副作用で甘党と巨乳好きだとはいえ、彼はプライベート環境では殺せんせーの好みではなさそうな漫画も読む。そんな普通の中学生なのだ。

 

「イトナ君、授業受けないの?」

 

「サボる」

 

「そっか。ぼくもサボろっかな」

 

 木のイトナ君が居る位置まで登り、隣に腰をかける。イトナ君はぼくのことをじっと見て淡々と言った。

 

「……律が、お前はイレギュラーだと言った」

 

「律がそんなことを?まあ、合ってるよ」

 

「仲良くしようとするのはそれが理由か?俺がお前と同じで人と違うから……同族意識か?」

 

 違うよ、とぼくは首を振った。君はみんなと同じでぼくが異質なんだ、と心の中で呟く。

 

「ぼくはね、イトナ君。君が本当はE組のみんなと話したいんじゃないかなって思ったんだ」

 

「っ、何を根拠に……」

 

「みんなの話、実はこっそり聞いていたよね。それに、ぼくに話しかけられても無視しなかった。独りになりたい人は無視するよ」

 

 1周目の時、イトナ君は転校早々孤立していた。転校生暗殺者なので無理はないが、そんな彼だって誰かと話したかっただろうし、誰かに話しかけられて欲しかったはずだ。1周目のぼくは顔色を伺うその性格から何となくそれを理解していて、それなのに無視した。彼は異質だったから。殺せんせーを殺すと断言した謎の転校生に話しかける勇気がなかったのだ。

 でも今は違う。ぼくはイトナ君の手の内を知っているし、イトナ君と仲良くなりたいと思っている。おまけとして1つの目的があるが、そうでなくてもイトナ君と友達になりたい。

 ぼくは続けて言葉を紡ぎだした。

 

「殺せんせーの兄弟設定なんてシロに押し付けられたもの、望んでやってるわけじゃないよね。ただの副作用」

 

「お前、触手のこと知ってるのか?」

 

「うん。捨てちゃいなよ、そんなもの。そんな、頭を掻き回すいやな武器。強くなるのにそんなもの要らないよ」

 

「俺、は……」

 

 後ろに回した手に対先生ナイフを持ち、ぼくはイトナ君に近づいていく。少し狼狽え、殺意を無くした彼にもらったとばかりにナイフを振り上げる。1つの声にその行動は邪魔された。

 

「イトナ、こんなところに居たのか」

 

 シロの姿に対先生ナイフを持つ手を引っ込めた。もう少しだったのにと惜しみ、彼の登場でイトナ君の触手を抜くことを諦める。どちらにせよ、今の彼は触手への執着心が簡単に消えていないし、簡単に引っこ抜けるなんてことはないはず。その時、ぼくは茅野にやった方法を思い出し、その手があったかと頭を抱えた。とはいえ、シロがいる以上それは不可能だ。彼は確か麻酔銃を持っていて、ぼくがそんなことをしようものならすぐにイトナ君かぼく、もしくは両方が眠らされてしまうだろう。

 

「じゃあね、イトナ君。ソレ、要らなくなったら教えて」

 

 耳元で囁き、木から下りる。シロは興味深々とばかりにぼくを頭のてっぺんからつま先まで見下ろした。

 

「何の真似かな、君」

 

「クラスメイトを助けようと思っただけですよ。イトナ君、苦しそうだったので」

 

「必要ないね」

 

「それはあなたの方だ」

 

 ぼくとシロは互いに睨み合った。しかしすぐに踵を返して旧校舎に向かい、ぼくは殺せんせーの授業に舞い戻ったのだった。





原作からの変更点

・殺し屋になることを止める殺せんせー
・ロヴロさんが早くも渚ちゃんの才能に気づく
・イトナ君と友達になろうとする渚ちゃん
・今の時点での目標は「イトナ君の触手を引っこ抜くこと」

杉野「絶対やきもち焼いてるだろ、浅野」

学秀「やきもちじゃない。殺意だ」

杉野「やきもちにしてあげて?!」

裏ではこんなやり取りが行われています。

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