鷹岡先生が怒った。何故だか分からないけど、ぼくか学秀の行動が彼の逆鱗に触れたらしい。しかし、ぼくは気にせずに学秀に愚痴をこぼしていた。
「あ、学秀。そういえば酷いんだよ、殺せんせーと律。昨日帰ったら冷蔵庫の中空っぽになっていてね__________」
「渚……冷蔵庫の中に何を入れたのか忘れたのか?」
怪訝そうに学秀は顔を顰めた。視端では鷹岡先生が顔を引っ掻いていたが、もちろん構いもせずに学秀に訊き返す。
「冷蔵庫の中に?何の話?」
突如前に冷蔵庫が現れた。中には凍りついた茅野が眠っている。ぼくは慌てて駆けつけて、茅野を揺さぶった。茅野は目をぱっちりと開けると、彼女は泣きそうな顔でぼくに助けを求める。
「……てっ……助けて渚……っ!」
茅野の息が途切れ、冷たい死体のような彼女がぼくに倒れかかってきた。
「うわああああ!!!」
後ろでは鷹岡先生が薬のビンを投げ捨てて狂気に満ちた笑い声をあげていた。
*
というところで目が覚めた。
後になって思い返すと変な夢を見たなあとぼくは裏山を駆け抜けながら考えていた。殺せんせーが冷蔵庫の中身を全て平らげてしまったと言うのが根本的な理由だったが、度々鷹岡先生が出てくるのが解せない。
茅野から貰ったプリンを食べられてしまったのが理由だとは思うけど。いくらなんでも殺せんせーは食いしん坊すぎる。
その日、異変に気付いたのは始業のベルが鳴った時だった。いつもは1番後ろで堂々と構える浅野学秀の姿が今日はどこにも見当たらないのだ。
「今日はA組に居るのかも」
自分に言い聞かせるように言葉を漏らす。思った以上に声に説得力がなく、唇を噤んだ。
あれだけ鷹岡先生に嫌悪感を露わにしていた学秀のことだ。カルマ君のように体育をサボりたくて本校舎に居るつもりであってもおかしくない。でも、ぼくの知っている学秀はサボるなんて絶対にあり得ない。
「__________では先生出欠を取りますねぇ」
殺せんせーは何を考えているか分からない虚ろな丸い目を普段学秀がいる奥に向けていた。
「杉野君、学秀から何か聞いていない?」
「何も聞いてないよ。どうしたんだろーね、浅野」
ピロリン。不意にスマホから着信音が鳴る。ルールに厳しい殺せんせーがギラリと目を光らせた。ぼくは慌ててスマホをマナーモードにしようとスマホを見て__________スクリーンの通知で誰からのL1NEなのかを目の当たりにする。その名前に彼女からL1NEなんて珍しいな、なんて微笑んで内容を見てぼくは顔色を真っ青にした。
長沢珠理亜。内容は……内容、は。
椅子から弾けるようにして走る。後ろから殺せんせーが「渚さん!」とぼくの声を呼んでいたが、関係がなかった。
じゅりあ:浅野君が停学になった。渚ちゃん理由知らない?
「何で……」
裏庭の崖から下を見下ろす。
「何でなんだよ!!!」
声は山に響いていた。自分の口調が男の時のものに変化したのは怒りの気持ちを上手く心の中で消化出来なかったからだった。誰がこれをやったのか、ぼくには見当がついている。何故こんなことをしたのかも。
「渚ちゃん、落ち着いて」
ぼくの様子を見に来たカルマ君はぼくを抑えて地面に座らせた。
「カルマ君。ぼくは落ち着いているよ」
「教室飛び出したのに?」
「……学秀に何があったの?」
カルマ君はぼくの反応を気にしながらゆっくりと説明を始めた。
昨日、鷹岡先生が学秀に殴りかかってきたこと。学秀はそれに応じることがなかったが、鷹岡先生のとある発言で学秀が彼にやり返してしまったこと。怪我のない学秀と右腕に傷を負った彼では学秀に非があるようにしか見えなかったこと。そして、学秀が1週間の停学になったこと。
それらを聴き終えて、1番最初に思い浮かんだ感情は殺意だった。
鷹岡先生は学秀をE組に居させないために、学秀にとって1番の屈辱を与えた。それは暴力でも羞恥でもなく、1週間の停学という一見軽いものだ。でも、それは生徒会長の名誉をズタボロにするには十分であったし、生徒たちからの評価も降下したはずである。
人の嫌がることをさせたら一流というのは、きっと鷹岡先生を示すのだろうとぼくは再認識した。
「どうする、渚ちゃん?俺さ、あいつの体育サボる気満々だったんだよね〜。ウザすぎて手出したらまた停学になりそうだしさ。でも、想像以上にクズ過ぎて歯止めきかないかも」
「何でもいいよ。カルマ君は好きにやってくれて」
ぼくはぼくで復讐をするから。そんな物騒な言葉を口の中で呟いた。
「ふうん……だったら好きにするよ」
そういえばカルマ君は何で鷹岡先生が怪しいと思ったんだろう。
*
初回訓練から数十分。鷹岡先生の化けの皮が剥がれおちた。
「さあて!新しい時間割だ。これをみんなに回してくれ」
「え……何これ」
10時間目、夜の9時まで続く欄の半分以上が訓練で埋められた時間割をぼくは一蹴した。政府の焦りがありありと感じられる一枚の紙である。超生物を殺すために殆どの時間を訓練に費やす。それはぼくが日常的にやっていることだ。間違ってはいない。それが殺せんせーを殺すためだけの
「おっと、このぐらいは当たり前だろ?理事長の承諾もばっちり得てる。「地球の危機ならしょうがない」ってな!」
「ちょっ……無理に決まってるだろ、こんなの!!」
「……ん?何が無理だって?」
意識の波長に暗さが含まれている。これ以上下手に突くのは危険だ。
「前原君、だめ……!」
「勉強の時間これだけなんて可笑しいだろ?!それに遊ぶ時間もねーし。出来るわけねーだろ!」
言ってしまったと目を瞑った。生々しい殴った効果音と呻き声が耳を襲う。
「できないじゃない。やるんだよ」
相手の顔を見なくても分かる。前を向きたくなかった。そこにはきっとあの顔があるのだろう。あの、「自分はちっとも悪くない」と信じ込んでいる無害のふりをした悪魔の顔が。
「言ったよな?俺たちは家族で俺は父親だ。世の中のどこに父親の言うことを聞かない奴がいる?」
「…………!」
1番聞きたくない家族なんて言葉を出されて、ぼくは鷹岡先生を睨みつけた。前原君が殴られたからか、誰も表立って逆らう生徒は居ない。
そんな中、1人__________赤髪の少年が普段あまり見せないどこか落ち着いた表情で鷹岡先生に近づいていく。
「……あんたさあ、父親のふりも出来てないくせにずらずらとよく並び立てられるよね」
「ああ?
「それだよソレ。来た時から可笑しな奴だとは思ったよ。こんなこと本校舎の教師でも出来るってのに」
彼はため息を吐き、指先をビシッと鷹岡先生に示した。
「__________こいつは俺らの名前を1度も呼んでいない」
「…………あ!」
ぼくは鷹岡先生とのやり取りを頭に思い浮かべ、カルマ君の言うことが正しいことに声を上げる。カルマ君が何故鷹岡先生の正体を事前に見抜けていたのか。それは鷹岡先生がごくごく単純な人としての振る舞いを欠いていたからだったのだ!
「まあそんなんで父親面されても俺らは「は?」ってなるワケ。それとも何、世の中には子供の名前を呼ばない父親もいるーとか開き直る?」
「黙れ」
「今更弁解の余地がないって感じだね。ほら、'できない' じゃなくて 'やる' んでしょ?ちゃんと覚えなよ、名前ぐらいさあ」
「黙れ黙れ黙れ!!!」
鷹岡先生の蹴りをカルマ君は緩やかに交わした。駆け引きを楽しんでいるのが見て取れる。今の今までの挑発は相手を怒らせて判断を鈍らせるためのものだろう。
「言っとくけど、俺は停学とか気にしないから。好きなだけ殴りかかって来なよ」
鷹岡先生の眉間がピキピキと音を立てている。しかし、カルマ君は余裕あり気に動きを交わしていた。その動きの法則性にぼくは烏間先生の防御術を思い浮かべる。鷹岡先生も顔に焦りが出ていた。いくら何でも烏間先生の動きを出されると勝ち目はないのだろう。
攻撃は次第に速くなり、2人から遠ざかっていた生徒たちも動きに追いつけなくなっていった。
「やるじゃないか。でも__________」
鷹岡先生が突如E組の生徒側に攻撃を仕掛けてきた。それを感知して未然に防ぐカルマ君の右腕を、鷹岡先生は嬉々として蹴った。ボキッと鈍い音がして、ぼくらは何が起こったのかを目の当たりにする。
「あ……うっ……!」
「父ちゃんは嬉しいぞ。家族を庇う心意気は立派だ!」
腕を押さえて蹲るカルマ君とそれを見下ろす鷹岡先生がそこにはいた。
「今ボキッて音しなかった……?」
倉橋さんが震える声で呟く。
「ははっ、でも勘違いするんじゃないぞ?骨の一本折ったからって、それは教育上の罰に過ぎない。父親に逆らう奴は力でねじ伏せるしかないからなぁ」
「狂ってる……!」
嘘だ。カルマ君がE組のみんなを庇った……?
「こいつみたいに不満のある奴は抜けてもいいぞ。俺の権限で新しい生徒を補充する。けどな、父ちゃんは1人もかけて欲しくない。さあ、家族みんなであのタコを殺そうぜ!」
三村君と神崎さんの肩に腕を回し、上機嫌に鷹岡先生は笑っていた。意識の波長は狂気で揺れ、ぼくの目には真っ黒な鷹岡先生が映る。
「お前は父ちゃんについて来てくれるよな?」
鷹岡先生は神崎さんに優しい父親のふりをして脅した。杉野君が拳を握りしめて怒りに震えている。
「……は、はい。あの……」
神崎さんは前原君とカルマ君を見てぐっと歯を食いしばった。ニッコリと笑みを作り顔を上げる。
「私は嫌です。烏間先生の授業を希望します」
鷹岡先生の手が神崎さんに当たる前に彼の行く手を遮る男が居た。カルマ君だ。
「……否定されたからって殴るとか、可笑しくね?」
「またお前か。ようし、父ちゃんリベンジは大歓迎だぞ!」
「止めろ鷹岡!」
烏間先生が慌てたように駆けつけた。この様子だよようやく彼も鷹岡先生の正体に辿り着いたのだろう。
「腕に異常はないか?」
彼は真っ先に1番重症であるカルマ君に尋ねる。カルマ君はふっと笑った。
「ボキッて音したから……骨は折っただろーね」
「カルマ君大丈夫なの?」
「渚ちゃんが無事でいるうちは平気かな」
「え?」
「約束したんだよね〜、学秀君と。現実から逃げないって」
……カルマ君は1周目の時、鷹岡先生の授業をサボっていた。 喧嘩っ早いカルマ君は敵を作りやすいのもあって、危機察知能力に優れている。鷹岡先生の異常にいち早く気付いたのもそれが理由だ。
でもカルマ君にはみんなの為にとか、助けなきゃとか言った感情は皆無で。敵を多く作ってきた分孤独に慣れている。誰も助けようだなんて思わないぐらい。
「いつだって俺は自分勝手に大人ぶって、実際は現実から目を逸らしたガキだよ。停学のときも、拉致騒動の時も、修学旅行の時も__________」
「逃げて自分が助かることしか考えてなかったんだよ。悪いけどこれが本音」
カルマ君は腕を庇いながら立った。彼は獲物を狙うような研ぎ澄まされた目を鷹岡先生に向けている。
「でも俺はもう逃げない」
「はははっ、泣ける話だ!父ちゃんは感動したぞ!」
「感動?私の生徒に何をしているんですか」
ドスの効いた声と共に触手が鷹岡先生の腕を掴んだ。
「おっと、モンスターの登場かな?体罰ごときでぐだぐだ……体罰は教育の範囲内だろう?」
「なっ……!」
「お前のような怪物を殺すんだ。厳しくしなくてどうする?それともあれか?多少教育論が違うだけの一教師を攻撃するっていうのか?」
「そ、それは……」
殺せんせーは反論出来ずに口を噤んだ。鷹岡先生は勝ち誇ったような目で殺せんせーを見下す。ぼくらは殺せんせーも助けにならないのだと絶望的な表情をしていた。
「烏間先生……」
ぼくは無意識のうちに烏間先生を呼んだ。しかし、それは鷹岡先生に影響を与えたようで彼はぼくの近くまでやって来ると眉間に皺を寄せて気が狂ったような笑顔を見せた。
「……おいおい、烏間は俺たち家族の一員じゃあないぞ。家族を頼らない人は__________」
烏間先生が無表情で鷹岡先生を止めた。
「それ以上生徒に手荒な真似をするな。暴れたいなら俺が相手をしよう」
「烏間〜、これは暴力じゃない。教育なんだよ。お前と戦いたいのは山々だが、俺らは教師同士。戦うとしたら教官としてだろう?」
台本通りの言葉を投げかけ、鷹岡先生は対先生ナイフに手を触れた。
「イチオシの生徒を選べ。俺にナイフを当てられたらこの教室を潔く出てやろう」
E組のみんなは普段の訓練の成果を見せられるとばかりに真剣な顔になった。しかし、鷹岡先生には彼なりの手がある。
「ただし、使うのは
対先生ナイフを捨て、本物のナイフを取り出す鷹岡先生に張り切っていたE組も一気に慄いた。ぼくを除いては__________
さあ、烏間先生。準備は出来ました。あとは殺るだけです。
*
「渚さん、やる気はあるか?」
烏間先生は前と1周目と同じ言葉をぼくにくれた。
「選ぶのなら君しかいないが、その前に俺の考えを聞いてほしい。地球を救う側として、俺は君たちと対等のプロ同士だと思っている。そしてプロとして最低限払わなくてはいけない報酬は当たり前の中学生活だ」
躊躇ったように言葉を続ける。
「このナイフを無理に受け取る必要はない。その時は俺から鷹岡に掛け合って報酬を維持してもらえるように努力しよう」
「ははっ、土下座でもすりゃ考えてやってもいいけどな!」
勝利を確信している鷹岡先生を無視し、烏間先生に向き直った。
「烏間先生、初めからぼくの答えは決まっています」
烏間先生は断られると思ったのか、身体を強張らせた。
「__________殺らせてください」
ぼくは暗殺をする方の意味を含めて言った。
「そんなチビ女を選ぶとはお前の目も腐ったな!」
「渚さん、君にアドバイスを用意していた」
「えっと、アドバイスは__________「必要ないな」」
「烏間先生……?」
「君は俺よりずっと良い教師に恵まれたようだ。近距離暗殺も射撃も元から出来ていたんだろう?」
「気づいていたんですね」
でもこの様子だとぼくに暗殺の才能があるとはあまり考えてなさそうだ。ちょうど良い。前と同じ「暗殺」にしようと思っていたけど、計画変更だ。
「昨日の訓練で確信に近づいた。でも、戦闘はするな」
ぼくは顔を上げた。
「はい。殺せば勝ち__________なんですよね」
ぼくはナイフを持って考えた。
殺せば勝ち__________ナイフを当てれば殺したことになるんだ。そしてぼくがナイフを当てればこの試合は終わる。
でもこう考えてみるのはどうだろうか。ナイフを当てなければ試合は続行なんだ、と。
殺さなくていい。試合を長引かせてみんなの復讐をしよう。
だからぼくは1周目と同じように笑顔で、通学路を歩くようにゆっくりと近づいた。前髪に付けられたヘアピンを外し、ナイフを持つ手とは逆の手で握る。
異常に気付かない鷹岡先生もぼくがナイフを振り上げた瞬間、自分が殺されかけていることにようやく気付いた。そこでぼくはナイフの軌道をワザと逸らす。ナイフを避ける鷹岡先生の右目に
「うわああああ!!!!」
「あーあ、外しちゃった」
これは学秀の分。
しょぼんとわざとらしく落ち込んでみせ、鷹岡先生の目からヘアピンを抜いた。右目を押さえ込んで中二病のような姿をした彼を生徒たちは怪訝そうに眺める。鷹岡先生はナイフを避ける時みんなに背を向けていた。つまり、ぼくの手が当たるところは見えたとしても、ヘアピンが刺さったところまでは見えない。
名前を呼ばない教官に教え子の姿は見えているのだろうか。否、見えていない。自分のことしか考えてない、自分を中心に世界を回しているような錯覚をしている人、それが鷹岡明だ。そしてそんな人に目は不必要だとぼくは思う。
「ぐああ!!!」
「また外れかあ」
カルマ君。
ナイフが当たらなかったので落ち込むふりをして、うずくまる鷹岡先生のお腹にぼくは蹴りを食らわせた。
「もう止めろ__________「何で?」」
無邪気に首を傾げて目をぱちくりとすれば相手は小さく呻き声を漏らした。
「試合はもう終わりだ!俺の負けなのは分かったから止めてくれ__________っ」
ぼくは容赦なく弱り切った彼を殴った。
「試合はまだ続行ですよね?」
「な、なんで……っ」
「だってぼくは先生にまだ1度もナイフを当てていない」
右手に握られたままのナイフを鷹岡先生の顎に向ける。
「殺してないんだからまだ勝負は決着つかずのはずだ」
笑顔でヘアピンをもう片方の目に刺す。これで盲目の教官の誕生だ。
「うわああああああ!!!」
「あーあ……思った以上に弱くてつまらんないなあ。そんなんでどうやって学秀と戦ったんですか?……ああ、全部避けられたんだっけ」
くすりと嘲り、意識の波長を読み取る。目線が見えないことから構築される情報量は少ないが、いつも通りそれはしっかり機能していた。
まだ伏魔島の分とか残っているけどなあ。まあいっか。もう終わりにしよう。
相手の意識が向いていない時を狙い、ぼくはゆるりとナイフを当てた。両目を手で覆っているからか、ナイフを当てただけなのに刺されたような反応をする鷹岡先生は哀れだ。それと同時にいい気味だとも思った。
「はい、ナイフ当てましたよ。これでぼくの勝ちです」
「渚……」
茅野の声でぼくはE組のみんなに目を向ける。彼らの顔には驚愕と、ぼろ雑巾のようになった鷹岡先生を前に勝利を喜んでいいのか分からないといった感情が含まれていた。
「えっと、何が起こったの?」
「渚ちゃん意外とやるねぇ〜」
「意外と戦闘力低かったのか、あいつ」
「俺もあれぐらいはできるって」
「馬鹿言わないの」
口々に生徒たちが口論を始める。誰も彼がやられたことに対して喜んだりしないのは、何となくぎこちないと思うからだった。それ以外は前と同じ。ぼくに祝福と感謝の言葉を投げかけてくる。当然だ。彼らにはぼくが鷹岡先生の目を刺した瞬間が見えていなかったのだから。彼らにはぼくが純粋な戦闘で鷹岡先生を倒したように見えたのだろう。
恐らく目を刺したことに気づいたのは…………。ぼくは周りを見渡して意識の波長が異なる人を探し出した。殺せんせー、烏間先生、ビッチ先生、それからカルマ君。
「渚さん、君は……」
烏間先生の顔は1周目で見たものとは違っていた。ぼくがやった行いに対して咎めるような面持ちで真っ直ぐと目の奥を覗き込んでいる。既視感にぼくは目を何度も瞬いた。
彼の言葉が、1周目での言葉が脳裏に浮かぶ。それはきっと人生の最後ら辺のこと。烏間先生は同じ顔でぼくに尋ねたんだ。
『君は何故__________を殺したんだ?』
「あ……っ、どう、して……?」
目の奥から涙が零れ落ちた。
原作からの変更点
・学秀君の停学。理由は鷹岡。
・カルマの挑発と骨折
・暗殺ではなく虐殺。それもギリギリまで殺さない。
・2周目の真相に迫る__________?
渚ちゃんの残忍性が若干現れた回でした。ちなみに烏間先生は渚ちゃんに暗殺の才能があるとはほとんど気づいていません。純粋に戦闘が他の生徒より優れているという理由で選んでます。
次回プール回。