クラップスタナーは2度鳴る。   作:パラプリュイ

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ガストロ(暗殺者)目線。


銃のはなし。

 今日も銃が美味い。

 やっぱり銃のチョコがけは何よりも優っているな。チョコバナナとか、イチゴのチョコがけも不味いわけじゃない。ただ、銃が食の中で最強なのだ。美食家の俺が断言する。銃に勝るものはない。

 

 チョコ銃をしゃぶりながら、監視カメラを見ていて妙な胸騒ぎを覚えた。

 

 さっきから監視カメラに異常はない。変化が無さすぎる。日本人はお人好しの国だ。クラスメイトが死にかけているのに助けるのが日本人(ジャパニーズ)だと聞いている。

 それに''スモッグ''とも''グリップ''とも携帯が繋がらねー。最初は電波がいかれてるのかと思ってたが、2人続けて起こると事件性を感じる。

 ボスと2人だけの息苦しい空間もそろそろ飽きてきた。見に行ってくるか。

 

「あのっすね、ボス。見回りに________」

 

「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる……」

 

 目に包帯を巻きつけたボスは机の上に突っ伏したまま、ただひたすら同じ言葉を羅列した。気が狂ったのかと思いきや、ただの寝言らしい。いびきが聞こえるのがその証拠だ。

 

「ガストロさん。ボスは少し疲れているみたいなんだ。そっとしといてあげた方がいいよ」

 

 中学生のような幼さの混じる声で、エンジェルが言った。エンジェルは俺らとは別のルートからボスが雇ったらしい殺し屋だ。こんな少女がと初対面では驚いたのを覚えている。

 

「年上には敬語使え」

 

 どうしてこいつのが依頼主に優遇されてるんだと俺は相手に聞こえないようにぼやく。ボスの様子を見ようと近づき、異臭に思わず鼻をつまむ。

 

「お前、なんかこぼしただろう。スモッグが持ち込んだ毒か?」

 

「分かんない。間違えて(・・・・)ボスがかけちゃったんだと思うな。大丈夫大丈夫。それよりガストロさん、見回り行くんじゃないの?」

 

 どこも大丈夫じゃないだろと思ったが、一回の依頼限りのボスよりは何度か組んだことのある仲間のが大事だ。それにこのボスはどうも胡散臭い。

 

「あーそうだな。今から行く。何かあったら電話しろ」

 

「うん。片耳にイヤホン付けておいてね」

 

 この仕事も不味くなったもんだ。殺し屋のガキの相手に中坊どものお迎え。賞金はいいものの、見かけ倒しでやり甲斐がない。日本っぽい喩えだと餡の無い餃子。でっかいチョコのイースターエッグを叩き割った時に空洞ができてるのと同じ。その点銃ってすごいよな。最後までチョコたっぷりだ。

 

 銃を咥えながらステージに上がり、俺は十数人の気配を察知して頭を切り替えた。

 

「若いのが12、いや13匹隠れてやがる。ほとんどが10代半ばか」

 

 慌てて口を押さえているところまで、簡単に想像できる。それにしても……

 

「驚いたな。動けるやつ全員で乗り込んできたのか」

 

 素直に感心した。ここまで来たってことは監視カメラを欺いて、スモッグとグリップを倒したってことだろ。どこの手練れだよ。中学生がやることじゃねえ。

 

 ふっと笑みが浮かぶのを隠すように後ろに銃を撃った。本音としちゃあもう少し遊んでいたいところだが、相手を降伏させるのがボスの意向だ。

 

「言っとくが、このホールは完全防音で、この銃は本物だ」

 

 軽く脅してやれば息を呑む音が聞こえてくる。

 反応はやっぱ中学生だな。少し惜しいがここで完全降伏させときゃ俺が殺さなくて済む。

 

「お前ら全員撃ち殺しても誰も気づかねえ。どうせ人殺しの準備なんてしてねーだろ? 大人しく降伏しろ!」

 

 銃を回転させながら脅し文句を言うと、銃弾が肩の上を通った。あと少しで当たる、ギリギリの距離だ。

 

 は、実弾?! え、こいつら実弾持ってんの??

 

 待て、落ち着け。発砲音はM60……ってことはボスの手下をパクったのか!!

 

 いーねぇ。美味そうだ。

 

 俺は舞台のライトを最大限まで点け、狙撃しにくい環境を作った。いつも通り流れるように銃の味見をする。

 

「今日も元気だ。銃が美味え!!」

 

 銃声がした先に銃先を向けて発砲した。

 軍人舐めるなよ。1度撃った敵の位置はすぐに分かる。悪いが2度目はない。

 M60を持って7階の見張りしてたのは2人。そこから導き出される答えは簡単だ。

 

「もう1人、銃持ってる奴がいるな」

 

『だとしたらそれは千葉龍之介じゃないかな』

 

「お前に構ってやれるほど俺は暇じゃねえ、エンジェル」

 

 片耳から少女の声が流れ込んできて顔をしかめた。

 

『酷いなあ。ガストロさんのお手伝いにきたんだよ! こういうことも想定して、クラス名簿持ってるからさ』

 

「クラス名簿とか要らないだろ」

 

 エンジェルの持つ情報は基本雑多で、スモッグがイライラしながら毒を盛るのに必要な情報を聞き出していたことを思い出す。エンジェル曰く、情報収集より戦闘のが得意らしく、ボスには触手が使えることをアピールしたらしい。残念なことにそれは全く活かされてない。そもそも本当にエンジェルが触手を出せるのか疑問だ。

 触手ってあれだろ、超生物が出してるやつだろ? どこからどうやって触手出すのかさっぱり分からねえよ。

 

「速水さんはそこで待機!」

 

「は?」

 

 突然どこからともなく大きな声がして、思わず声が漏れた。戦場でこんな堂々と指示を出すのはどこのどいつだ?

 

「今撃たなかったのは賢明ですよ、千葉君! 君はまだ敵に位置を知られていない! 先生が敵を見ながら指揮をするので、ここぞという時に撃つんです!」

 

「お前どっから……」

 

 座席の上に乗ったボール。そのボールが喋った。きめえ。

 

「テメー何かぶりつきで見てやがるんだ!!」

 

 銃を連射する。

 

 あ・た・ら・な・い。

 

 いや、当たってはいるのだ。当たってはいるのにどうってことないニヤニヤ顔でこちらを見ている。透明なボールの表面には傷1つ付いていない。

 

「ヌルフフフフ、無駄ですねぇ。あなたほどの銃手に中学生が挑むんです。これぐらいの視覚ハンデはいいでしょう」

 

『殺せんせーは今完全防御形態で24時間経つまで核爆弾も効かないらしいよ』

 

「あーそーかよ」

 

 だから何でお前はそんなの知ってるんだよ。

 

『ついでに今殺せんせーが言った、千葉君がさっき言った千葉龍之介。長距離射撃の成績がクラス1位だから要注意だね』

 

「…………お前はほんと、そういうどうでもいい情報ばかり持ってるよな」

 

 俺が小声でブツブツ呟くのを超生物がじーっと見つめる。超生物は息を吸い込んで、大声で生徒たちに向けて叫んだ。

 

「では木村君。5列左へダッシュ!」

 

 男子生徒が素早い走りで通路を駆け抜ける。何が起きたのかと口をあんぐり開けてしまう。

 

「寺坂君と吉田君はそれぞれ左右に3列!」

 

 動きのする方に視線が釣られた。それを超生物は見逃さなかった。

 

「死角ができました!この隙に浅野君は2列前進!」

「カルマ君と不破さん、同時に右8!」

「磯貝君左に5!」

 

 シャッフルだと?!?!

 くそっ、今ので何人か動きやがった。だが、今ので5人の位置と名前を手に入れたのは大きい。これならすぐに指示が機能しなくなる。

 すぐにもう1人のM60持ちを特定してやる。

 

「出席番号12番!右に1で準備しつつ、その場で待機!」

「4番と6番は椅子の間から標的を撮影。律さん経由で舞台上の様子を千葉君に伝達!」

 

「……え」

 

 名前を覚えるために待機していたのに、超生物はスラスラと出席番号を呼んでいく。

 

 出席番号なんて分かるかよ! そもそも生徒に番号付けるとか日本人は学生を家畜だとでも思ってんのか? くそ……出席番号ってアルファベット順、なわけないよな。日本語は確か「いろはにほへと」を使うと聞いた。で、その後はなんだっけ?

 

 だめだ、分からん。俺は日本語は話せるだけなんだ。日本語での出席番号の付け方とか分かんねーよ。

 とにかく千葉って奴を見つけねーと!!

 

『12番は菅谷創介。4番岡野ひなた。6番片岡メグ』

 

 迷いがないエンジェルの発言。俺はもう少しでスマホを抱きしめるところだった。

 

「すげーな。初めてお前のこと尊敬したわ」

 

 クラス名簿なんてどうでもいいと思ってたが、この状況ではどうでも良くはないのか。

 

 ニッと笑みが溢れた。

 

「どうやら千葉ってやつは動いてないようだな」

 

 自信満々に胸を張る。エンジェルが呆れたように『わざわざ教えるなんて、ガストロさんバカなの?』と辛辣なことを言っていたが、気にしない。挑発って戦闘で大事だと思うぞ。

 

「…………何故それを!」

 

「こっちの情報網舐めんな」

 

 超生物は一瞬顔の笑みを消したが、すぐに次の指示に移る。

 

「……ポニーテールは左前列へ前進! バイク好きも2列前に進んでください!」

 

『ポニーテールは矢田桃花。バイク好きは吉田大成』

 

 千葉じゃない。無視していいか。もしも千葉が動かなかったら、その時は殺意の強さで探す。狙撃手の殺意は簡単に隠せねーからな。

 

「ジャンプっ子は右に2移動!」

 

『不破美月』

 

「前髪が長い________」

 

『千葉龍之介』

 

「こいつか!」

 

 銃を向けて撃とうと身構えた。しかし、超生物はそこから更に付け足した。

 

「________男子に片思いしている人!その場で待機! あ、すみません速水さん。バラしてしまいましたね」

 

「べ、別にそんなんじゃないんだけど!」

 

 速水という狙撃手がいる場所から否定の声がして俺はがっくりした。千葉って奴じゃないのかよ。そいつのこと好きな奴かよ。てかこいつら、スナイパー同士で恋愛してるのか…………ちっ、考えてて虚しくなったぜ。

 

「……なるほど。クラス全員の名前と出席番号。暗殺での得意分野のみならず、あだ名まで全て覚えているんですか」

 

 千葉龍之介の特徴に反応したことから、いとも容易く超生物に俺が名前以上の情報を持っていることがバレてしまった。さっきのはカマかけだったようだ。

 

「生徒に邪魔された殺し屋がいたと聞いたんでね。大体の情報は持ってる」

 

 エンジェルが。

 

「なるほど、よく考えましたね。しかし、表面では見えにくい情報もあるんですよ」

 

 ニヤニヤと嫌味な笑みを浮かべて、超生物は自信満々に言った。

 

「告白したのに忘れ去られた人!3列前方に移動」

 

「んぐっ!」

 

『…………』

 

 エンジェルが初めて口を閉ざした。

 

「最近メイド喫茶に行ったら思ったよりハマりそうでちょっと怖かった人、撹乱のために物音を立てる」

 

「うるせえ!!!何でお前が知ってるんだよ!!」

 

 さすがに知るわけないだろ。

 

『寺坂竜馬』

 

 分かるのかよ!

 

「ツインテールの子が好きな人、左に3!」

 

「…………」

 

「2年間片想いでいまだに告白もできていない人!左前列4進む!」

 

「殺す」

 

 何だこの心を抉る会。さすがのエンジェルも特定ができなかったのか、黙り込む。

 

『…………』

 

 いや、な。さすがのお前でも中坊の恋愛事情まで知ってたら引くわ。エンジェルの情報の欠点は生徒の恋愛事情の欠如だったようだ。

 

「あなたの協力者も誰がいつメイド喫茶に行ったとか、生徒の恋愛まではさすがに記憶していないでしょう?」

 

 超生物の鋭い発言に俺は目を逸らす。

 

 協力者がいるってバレてね?

 

「次元差恋愛のリア充君、前に出て撹乱してください」

 

 小柄な男子生徒がステージまで飛び道具を使ってジャンプした。俺が慌てて発砲しまくるが、俺の銃弾を軽々と避けつつ、攻撃を仕掛けようと拳を向けてきている。

 

 何故こいつには俺の弾が見えてる?!まさかこいつ、エンジェルと同じ触手持ちか……!

 

『左に3歩。右に1歩。前にジャンプ』

 

 電話の向こうでエンジェルが言う言葉に従い、俺は相手に銃を向けながらひたすら逃げ回った。銃弾が掠りもしない。こんなの初めてだ。

 

 触手持ちは動体視力までバケモンなのかよ!

 

「マッハ20に比べたら止まって見えるな」

 

 触手持ちが俺のイヤホンを引っ張り、その反動でイヤホンがスマホから引っこ抜かれる。素早いスピードで、触手持ちは俺の銃を奪ってしまった。

 

「お前________!」

 

「浅野」

 

 銃が空中に投げ出された。想定外の出来事に慌ててジャンプしたが、あっさり俺の愛銃は後ろにいたもう1人の少年、浅野によって捕らえられてしまった。スマホは触手持ちの手の中だ。

 

「協力者からの助言はもう使えない。銃も僕が持っている。先程の言葉を返そう。大人しく降伏しろ」

 

 いつの間に……戦闘中に舞台裏に移動していたのか!

 

『あーあ、やっぱりだめか』

 

 スマホからエンジェルの声が流れる。その声を聞いた浅野が目を見開き、肩を震わせた。

 

「その声…………」

 

「…………」

 

 超生物の顔が一瞬強張る。触手持ちは無表情で、感情が読めない。何故か俺の方を見ている。

 

 何だ、こいつら。知り合いだったのか?

 

『また、後でね』

 

「待て________っ!」

 

「落ち着いてください、浅野さん」

 

 浅野を宥めるように客席から呼びかけられた声に、彼はさらに苛立っているようだ。あともう少しで銃が投げ飛ばされるところだった。俺は大歓迎だから投げ飛ばしてくれと切実に願う。

 

「浅野君。君が取り乱してどうするんですか。今は考える必要はありません。後で確かめればいい話です」

 

「…………そうだな。話を聞くのは後だ」

 

 俺は首を傾げ、エンジェルがE組に潜入していたという話を思い出す。そりゃあ知っていてもおかしくないか。

 

「あー……そーいやエンジェルはE組にいるんだったな。でもそんなことより、お前ら。俺は降参する気無いぜ」

 

 俺はズボンの後ろポケットから即座に銃を取り出した。浅野も触手持ちも驚くほどに動揺しない。俺は脳みそをフル回転して、銃を持ってる奴を封じる方法を考える。

 

 エンジェルが使えなくなった今、どの生徒が動き出すのか特定するのは不可能。だが、俺は誰が動き出しても即座に撃てる自信がある。むしろ、動きがでかい方が狙いが定めやすい。

 銃を持ってるのは浅野と千葉、速水の3人。浅野はきっと撃たない。だってこいつからは殺意を感じない。速水の居場所は既に超生物がバラした。

 撃つとしたら千葉って奴だ。

 

「そうですか。降参しなかったことを後悔するでしょうね。勝負はすぐにつきますから。では行きますよ」

 

銃の味を確認する。最高レベルだ。外す気がしねーな。

 

「千葉龍之介!立って狙撃」

 

 来たか!!!千葉!!!

 

 俺は銃弾を放った。文句無しのクリーンヒットだ。だが、そこにいたのは生徒ではなかった。上手く人間に似せてはいるが、人形。「千葉龍之介」と乱雑に書かれた名札が付けられている。

 

「なっ!!!」

 

 そんなのってありかよ?! 千葉龍之介の人形とか……反則だろ!!

 

 超生物の方を振り返ると、緑と黄色のシマシマ模様のボールがニヤニヤしていた。いつの間にか舞台上にいた触手持ちと少年が消えている。

 怯んだ隙に別の生徒によって銃弾が撃たれる。それは俺の横を通り、舞台の方で何か硬いものに直撃した。

 

 俺は心臓のあたりを押さえた。戦争中、何度もこうやって確認した。腕を撃たれても、脚を撃たれても、心臓じゃなければ永遠に戦える。

 

「ふっ、当たらなかったみてーだな」

 

 生きてる。だから、まだ戦える。2人目の居場所も見つかった。

 俺は弾が来た方向に向かって、銃を向けた。

 

 俺の勝ちだ!!!

 

 後ろから崩れる音がして、舞台のセットが俺の体にのしかかる。

 

「ヌルフフフフフ、先生の指示はダミーです。焦りすぎて騙されましたねぇ」

 

 吊り照明の金具を狙った……だと……

 

 もう一発の銃弾で俺の愛銃が手元を離れた。先ほどの衝撃で床に倒れる。

 

「やっと当たった」

 

 速水という狙撃手が呟く。

 

「寺坂〜〜、ガムテでそいつ縛っちゃって」

 

「言われなくてもそのつもりだっての」

 

 朧げな視界で中学生が俺にガムテープを巻きつける。ぼんやりと超生物と生徒との会話が耳に入った。

 

「浅野君、渚さんと茅野さんに連絡してください」

 

「あの2人は待機じゃないの?」

 

 女の声が言った。

 

「状況が変わった」

 

 さっきの少年の声を最後に俺の意識はぷっつりと消え去った。




原作からの変更点

・殺し屋エンジェル初登場
・臭いボス
・情報増加で戦況に変化
・殺せんせーの公開処刑
・やったね!両想いだよ!
・イトナ参加で銃の略奪に成功
・もう1つ銃持ってた

エンジェルとかいう殺し屋が出てきましたね。3人の殺し屋たちの中ではガストロと1番気が合うこの子。特に強い殺し屋でも無いですし、物語にも深く関わらないので覚える必要はありません(大嘘)
次回、遂にラスボス(仮)登場?

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