クラップスタナーは2度鳴る。   作:パラプリュイ

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勉強会のはなし。

 4月からすでに半年が過ぎ、またテスト前を控えた10月のある日曜日の朝7時半。いつもは9時まで鳴らない目覚まし時計が鳴った。ベッドから飛び起き、お母さんに選んでもらった赤チェックのワンピースを見て思い出す。

 そうだった。今日は勉強会の日だったんだ。

 同じくお母さんに買ってもらったふわふわのパジャマからワンピースと黒タイツにはき替える。髪の毛はサイドポニーにしてみた。この前姫希さんに似合うと絶賛された髪型だ。

 

「渚? 今日は随分と早いなあ」

 

 ぼくが朝ごはんの準備をしていると、いつもぼくの目覚まし時計で器用に起きてくるお父さんが眠たそうに目を擦りながら居間へとやって来た。

 

「友達と勉強会の約束してるんだ」

 

「こんな朝早くからか?」

 

「まあね」

 

 実は浅野君の家で開かれる勉強会は10時からなのだが、浅野君にみんなが来る前に体術の練習をしようかという誘いを受けたので有難く了承したのだ。そういうわけで8時半に浅野君の家で待ち合わせをしているわけである。

 

「ベーコンエッグとごはん、お味噌汁でいいかな?」

 

 出来立てのものをお皿によそってお父さんの目の前に置く。いつもの日曜日に比べたら少し手抜きな感じだが、朝食に手の込んだ和食が出てくる家はあまり多くないだろう。

 

「充分だよ。渚は偉いなあ。この前上司にお前の話をしたら感心されたよ。成績も優秀で家事を手伝ってくれるなんて良い娘さんだって」

 

「うちは共働きだから2人に無理させたくないんだ。わたしが椚ヶ丘に行けるのは2人のおかげだしね」

 

 2人のおかげとは言いつつ、実のところ助かっているのはお母さんだ。ぼくは2人の中を取り持つためになるだけお母さんの負担を減らす努力を日々行ってきた。家の家事はできるだけぼくの分担にして、彼女がぼくを着せ替え人形のように扱う時は与えられた服を着る。幸いお母さんの趣味は悪くないし、友達と出かける時に必要な分だけの服をくれるのは服にダブりが出ないので助かっていた。

 

「そういえばお父さん、お母さんまだ起きない?」

 

「何だか体調が悪いみたいだ。今日は当分起きそうにないね」

 

「それじゃあお味噌汁とごはん後で温めてお母さんが起きたら用意してあげて。もうそろそろ行かなきゃ」

 

 小さなドットが刺繍された薄ピンクのリュックにテストのまとめノート、先生に配られた復習プリントとペンケースが入っていることを確認する。

 時計をちらりと見やるともう8時を過ぎていた。浅野君の家が幸い自転車で20分ほどなので全く問題ないペースだ。

 

「行ってきます」

 

「行ってらっしゃい」

 

 ぼくはお父さんの声を背中に玄関を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅い。何故10分も遅れたんだ」

 

「ごめん……」

 

 浅野君の家に着くなりぼくは玄関で一喝された。自転車で行けば大丈夫だと思っていたが、何故か踏み切りがなかなか開いてくれず、さらにはいつもは学校帰りに寄る程度なので道をあまり覚えていなかったことが災いして迷ってしまったのだ。結局スマホの地図の力を借りて来てはみたものの、着いた時には8時40分。完全に浅野君の怒りを買う羽目となった。

 

「まあいい。荷物は奥の書斎に置いておいてくれ。今日はそこで勉強会をするから。着替えだけ持って――「着替え?」持ってきてないのか」

 

「そんなこと君言ってた?」

 

「まさか渚がそんな格好でくるとは思ってなかったからな。体術の練習をする約束だったからてっきりズボンで来ると思っていたよ」

 

「あーそうだよね。ぼく私服ズボン持ってないからどっちにしても意味ないけど」

 

 お母さんが女子のかわいい格好が好きなので家にズボンはない。本当は買ってほしいと頼みたいところだが、1度話を持ちかけた時に「いつどこで履くの」という言葉に何も言い返せず買ってもらえなかった。

 

「困ったな。僕の服じゃあ大きすぎるだろう」

 

 身長の差が大きいぼくたちは服の貸し借りが難しい。それが雨に濡れたなんて時ならいいんだろうが、今からするのは体術である。今更ながらに体操着を持って来るべきだったと後悔していた。

 

「仕方ない。染井さん!」

 

 浅野君が声を上げると、奥の部屋から50代ぐらいの優しげな女の人が出てきた。前来た時にも見たことがある。浅野家のお手伝いさんだ。

 

「何でございますか、お坊っちゃま」

 

「この子が着れるサイズで、僕の古い服上下持ってきてくれ。できれば動きやすいもので頼む」

 

「かしこまりました」

 

「自転車で来たんなら喉が渇いただろう。キッチンでお茶でも出すよ」

 

「うん、ありがとう」

 

 広めのキッチンは居間と繋がっていて、テーブルは思ったより小さく、2つだけ椅子が置かれていた。浅野君と理事長の椅子だろう。そしてテーブルの上にはまだグラスが2つ乗っていて、つい先ほどまで2人が朝食を共にしていたことが分かる。

 

「浅野君、今日理事長は……?」

 

「僕たちが今日使う書斎とは別の書斎で仕事だ。いつも篭っているがたまに顔を出すはずさ。基本僕には無関心だが、勉強に関してはまた別だからね」

 

 麦茶を注ぐ浅野君はぼくの発言に対して何も思っていないようでほっと胸を撫で下ろした。てっきり家族の話に首を突っ込むなと怒られると思ったのだ。

 

「他のことはノータッチなんだね。寂しくないの?」

 

「……まさか。僕はこれが普通だと思っているよ。それにしても」

 

「どうしたの?」

 

 ぼくにお茶を渡し、彼は話題を逸らした。彼が何となく家庭内の話をしたくないんだろうなあと思いぼくも返事をする。ふと顔を上げるとくっくっと笑いを堪えていた。

 

「日本語で話すことが少ないから今日は新鮮だと思ってね。聞こうとしなくても会話が耳に入ってくるのが不思議な気分だ。これでも違う言語で渚と話すのは結構楽しんでいるんだけどね」

 

「今も日本語じゃない方がよかったかな?」

 

「それは勘弁だな。これから運動も勉強会もするのに別のことにまで頭を働かせていたらエネルギーが切れる」

 

「お坊っちゃま、服の用意ができました」

 

 丁寧に畳まれた男物の服上下を持って染井さんが現れる。浅野君はそれを受け取ると尊大な眼差しで相手を見据えた。

 

「ご苦労。もう下がっていい」

 

「失礼します」

 

 お手伝いさんっている家にはいるんだなとぼくが彼女がキッチンを出るまで凝視していると、浅野君が服を投げて寄越した。鍛えられた反射神経でそれをぼくは掴む。

 

「「…………」」

 

 3秒ほど間が続いた。浅野君が痺れを切らし、ため息を吐く。多少の苛立ちがその態度から分かった。ぼくがのろのろしているからだ。

 

「おい、トイレで着替えてこい」

 

「だよね。キッチンで着替えるのも変だし」

 

「そうじゃなくて……渚、男相手にストリップショーでもするつもりか?」

 

「え? ……ああ! そうなっちゃうのか」

 

 そういえばぼく女子だった。

 すごくナチュラルに浅野君のことを同性の友達のような気分で接していたため、すっかり忘れていた。同性の友達なら「ちょっと後ろ向いてて」と一言言って着替えればいいが、異性の友達はもちろん別である。着替える方も待ってる方も互いに気を使うため面倒だ。

 

「やっぱり分かっていなかったな。少しは自覚を持て。いつか襲われるぞ」

 

「気をつけるよ。トイレどこ?」

 

「こっちだ」

 

 彼は廊下の向かって左を指差した。着替えを持ってぼくが知っている家庭用トイレより若干広めの空間で服を着替えた。サイズがぴったりで、お手伝いさんに心の中で「グッジョブ」と賛辞の言葉を送った。

 あ、思い切り声に出てた。

 

 トイレから出ると浅野君の呼び出しで神出鬼没の妖怪の如く現れた染井さんに服を預け、ようやくぼくらは畳の広い部屋で練習を始めることとなった。

 

「いつもの通り言っておくが、クラップスタナーは禁止。ディープキスは論外。後は好きにやれ」

 

「……了解」

 

 好きにやれ。これは浅野君がぼくと合わせ稽古をしてくれる時に必ず言う言葉だ。これをぼく流に解釈すると――殺す気で殺れということ。

 ぼくの目には殺意が宿っていた。今の標的(ターゲット)は殺せんせーじゃない。浅野学秀だ。

 浅野君に向かって拳を丸めたまま走り込んだ。彼はそれをするりと避け、ぼくは2撃目として違う角度から殴りにかかる。彼は攻撃を綺麗に捌き、ぼくの脇腹を蹴った。

 

「これで1回」

 

 ぼくは浅野君を睨みつける。ずるいと分かっていて彼の足を引っ掛けて転ばせようとした。少し体制の崩れた彼のTシャツを引っ張り、後ろから羽交い締めにする。

 

「こっちも1回――痛っ」

 

 腕を捻られ、痛がっている隙に体制を逆転された。浅野君がぼくの上からTシャツを掴み、右手を大きくかざして顔に寸止めのパンチをよこした。殴らなかったのは女子であるぼくの顔に傷を付けないための配慮だ。

 そこからぼくは両足を浅野君の胴に回して締めつける。主に胴締と呼ばれる技である。彼は舌打ちをして「そこまで」と言った。

 

「僕の負けだ」

 

「でも浅野君手加減してくれてたもんね」

 

「練習とはいえ女子に負けるとはどういうことかね?」

 

「理事長……!」

 

 背後の低い声にぼくは驚いて声を出す。

 

「大石渚さん、だったね?」

 

「は、はい」

 

「随分と多くの才能を持っているようだね。学問の天使とはよく言ったものだ」

 

「……お言葉ですが、才能なんて持ってないですよ。努力して多くの才能を持った天才のふりをしているだけです」

 

「つまり、自分は凡人であると?」

 

「そう思っています」

 

「私の愚息とはどういう関係なんだい?」

 

「とても大切な友達です。もっとも相手にそう思われているかは分かんないですけどね」

 

 秒コンマも置かずに理事長の想像とは違う答えを返した。浅野君に視線を送ると照れ隠しのように目を逸らす。

 

「浅野君、君は彼女のことをどう思ってる?」

 

「渚は友達ですよ、手下とは違った」

 

 ぼくは意外な発言に照れ頬を赤くした。あの浅野君が友達だと思ってくれているなんて!

 

「結構。君に友達がいるか分からないが、とりあえず認めるとしましょう。彼女の優秀さに免じて」

 

「あの……」

 

「何か聞きたいことでもあるのかい?」

 

「1度手合わせお願いしてもいいですか?」

 

「おい、渚__________「浅野君は黙っていて」」

 

 ぼくだって理事長が強いことなんて10も承知だ。それでも強い相手に挑む時ほどわくわくし、緊張感に包まることはない。

 

「……私は手加減をしないが」

 

「むしろ本気を見せてください。強者の一撃というものに興味があるので」

 

 浅野君は確かに強い。でも、ぼくは密かに物足りなさを感じていた。何かが違う。2代目死神と戦う時、烏間先生と戦う時。そもそもぼくが手加減されているというのもあるが、そんなの浅野君の時だって同じだ。烏間先生のように途轍もなく強い人に教わってもぼくじゃあ習得できそうにないからと同年代を選んだのが間違いだったか。それとも……

 

 ぼくは体格の大きな理事長を見上げ、横蹴りから争いをスタートさせた。理事長はそれをわざと片手で受け、ぼくを突き飛ばした。浅野君は恐る恐るといった様子でぼくらが対戦する様子を見ている。そういえばとぼくを見て思いついたかのように言った。

 

「渚、禁止は取り消しだ!」

 

 ぼくはハッと気がついた。浅野理事長はクラップスタナーの存在を知らない。これはぼくにとって唯一、彼より優位に立っている点ではないか。

 ぼくは浅野理事長にニッコリと微笑みかけた。ぼくの笑顔は相手の隙を突くのに1番良い。戦闘をしながら相手に笑いかけることに動揺しない人がどこにいるんだろう。

 意識の波長の中で、笑顔に気を取られたほんの0.1秒。ぼくは両手を鋭く合わせた。

 理事長の表情が固まる。殺ったかと期待の目を寄せるぼくに、理事長は口を開いた。

 

「へえ、君は面白い手を使うね」

 

 気絶していない?! しかも、全く効いてもいない。

 

「でも私にはその衝撃では足りない」

 

 理事長は口端だけに笑みを残し、あんぐりと口を開けるぼくに()()()()()クラップスタナーを食らわせた。

 ぼくより強い大人の手で打たれた、何倍も威力のある衝撃波がぼくの全身を襲う。意識が消えそうだ。自分の技なのに何の予防策も取っていなかった!

 

「なるほど。これは使える。問題点はそうだね、君の衝撃波は詰めが甘い。笑顔は不意を突くには良いように思える。でもね__________」

 

「笑顔ほど相手を警戒させるものもないんだよ」

 

 意識が薄れる中、浅野理事長の言葉がぼくに響いていた。カルマ君のように舌を噛むという案は思いつかなかった。そのままぼくは自分の1番得意な技で気絶をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「渚……渚ちゃん!」

 

 ぼくが目を開けるとそこはベッドの上だった。目の前に姫希さんがいて、ぼくの手を優しく握っている。

 

「びっくりしたよ。来るなり渚ちゃんが気絶してるなんて言われるんだから。貧血、だったっけ?」

 

 辺りにキョロキョロと目を動かすと、勉強机の上に置かれたシンプルな時計が11時20分を示していた。

 

「他のみんなは?」

 

「今部屋で勉強している。本当は浅野君が心配して一緒に居るって言ってたけど、五英傑のみんなを待たせるわけにもいかないから私が」

 

 浅野君ぼくが気絶するとは思わなかっただろうしね。理事長はほんと手加減ってものを知らなさすぎる。

 

「姫希さんありがとう」

 

「ううん。もう大丈夫なの?今日は家に帰る?」

 

「大丈夫だよ。せっかくだから勉強していく」

 

 ぼくが起き上がると、自分の服が預けておいた服に戻っていることに気がついた。奥からやってきた染井さんに会釈を受け、彼女がやってくれたんだなと感心する。

 書斎に移動すると既に大きなテーブルの上で教科書やノートなどを広げる五英傑プラス毛利君の姿が目に入った。そういえば毛利君はどの教科も成績が良く、五英傑とカルマ君の次に頭の良い生徒だけど、幸か不幸か突出した教科がないため浅野君の五英傑選びから除外されてしまった。器用貧乏というかなんというか。つくづく運のない男子だ。

 

『渚!もう気絶は大丈夫か?』

 

『大丈夫……っていうかわざわざスペイン語で言う必要ないって』

 

「少し動揺したからね。朝食抜きで来るのは良くないと思うよ」

 

 ああ……そういう設定なんだ。

 

 ぼくは朝食をかなりしっかりと食べてきたが、そういうことにして薄く微笑んで頷いておいた。

 

「今回の古典の範囲随分とイージーすぎやしないかい? 範囲が広いというのもあるけれど」

 

 榊原君は困ったものだねと伏し目がちに言った。それに対してこの人は男の前でもこんなキャラなんだから全部素でやってるんだろうな、と遠い目をしたのは内緒である。最近になってようやく榊原君は女たらしだけど悪いやつではないことに気がついた。女の人はころころ変わるけど二股はしていないところとか。

 

「そうか? お前にとってはってだけだと思うけどね。僕は今回の社会で何のニュースが出るかって気になっているところだ」

 

 と荒木君がドヤ顔で言った。自分はもう分かっているような口ぶりだ。

 

「ふん。英語の簡単さは初めから過ぎて何とも言えないな」

 

「理科は暗記だ。暗記さえできれば何も要らない」

 

 全員が自分の得意教科について主張を始める。よくテーブルの上に広げられているノートの教科を見ると、全員が自分の1番の得意教科をやっていた。

 

「……お前ら少しは自分の得意教科以外もやってくれないか?」

 

 浅野君は呆れていた。彼は満遍なく全ての教科を勉強するため、得意教科がある彼らの気持ちは分からないのだろう。

 

「なら社会からだ」

 

「いいや、国語だね」

 

「理科に決まっている」

 

「English!」

 

「あーもううるさいな! 数学からにすれば解決だろ?!」

 

 毛利君が教科書を閉じて叫んだ。全員の動きがさっと止まり、毛利君へと視線が注がれる。

 

「それもそうだな」

 

「伊織君、君たまには良いこと言うね」

 

 髪をなびかせ榊原君が褒めた。「たまには」という言葉のせいで嫌味に聞こえる。本人にその気はないのだろうが。

 

「どうせ俺は五英傑から外された除外品だよ!くっそ……2週間後の試験でお前ら全員抜かしてやる!」

 

 何だか毛利君って報われないなあ。姫希さんへの態度も明らかに好きな子に対するものなのに姫希さんには気付かれていないし。テストで良い点取ってるのにみんなは5英傑ばかり褒めるし。

 

「渚、伊藤さん。こっちの席が空いてるからそこについてくれ」

 

 ぼくらは空いている浅野君の横の席に座ると、ノートを出し始めた。

 

「とは言っても、何勉強すればいいか決まりそうにないや。苦手科目からだったら理科かな?」

 

「じゃあ私も理科一緒にやるよ。実は分からない範囲があって聞こうと思っていたんだ。この実験なんだけど……」

 

 2人で理科の範囲をやっていると1時間ほど過ぎ、時刻が12時半を回ったところになった。

 

「このまま勉強するならファミレスでも行く?」

 

「いや、何事もメリハリが大事だからね。出前でもとろうか」

 

 姫希さんの提案を却下し、浅野君は電話を取り出した。何の選択肢があるのかという毛利君の質問に対し指を折る。

 

「そうだね、そばとかピザ、寿司とかかな」

 

「お寿司……」

 

 じゅるり。ごくりと唾を呑み込むと、全員が振り返った。実はこの中にいるほぼ全員がお金に余裕がある富裕層であったりする。回転寿司には行ったことがなく、寿司といえば高級寿司を指すのが彼らの特徴だ。もちろん行き慣れており、珍しいものでもない。

 だから寿司によだれを垂らしそうなぼくの表情に驚いたのだろう。慌てて誤魔化そうとしたが既に遅かった。

 

「誰かこの天使に寿司を恵んでやってくれ!」

 

「寿司だ寿司!」

 

「え、俺ピザちょっと食べたいんだけど……」

 

 毛利君の言葉で空気が凍る。全員の意見が一致していた。

 

「毛利君、レディーファーストという言葉を知っているかい?」

 

 呆れ顔の榊原君に毛利君は怯んだ。しかし中学1年生の男子は育ち盛り。食べたいものは食べたいのである。そんな様子を見かねて姫希さんが駄々をこねる。

 

「私もお寿司食べたいんだけどな、伊織」

 

「うっ、分かったよ」

 

 驚くべき意見の一致率にふうんと浅野君は思うところがあったようで。ぼくの顔を見てにこりと微笑む。

 

「渚、みんなの意見を一致させるのにその手はうってつけだね。今度からそれでお願いするよ」

 

「わざとじゃないよ?!」

 

 出前でとったお寿司はめちゃくちゃ美味しかった。みんないつもあんなものを食べてるなんて羨ましい。

 勉強会は昼食の後も行われ、結局あの後理事長とは会わなかったけど、ぼくの中で受けたショックと理事長への尊敬の念はしばらく消えることはないだろう。

 

『笑顔は相手を警戒させるものでもあるんだよ』

 

 そうだよ。浅野君の時クラップスタナーが初見にも関わらず見破られたのはぼくの笑顔に彼が警戒もしたからだ。不意をつくという点で戦闘とかけ離れた表情は相手によっては何か起こると思わせることと同じ。

 あとはクラップスタナーの衝撃が弱かった?

 まずいなあ。あの技のアプローチ方法を少し考えなくては。

 みんなが試験勉強をする中、ぼくはひたすら技について考えていた。

 

 




原作からの変更点

・家事全般をこなす渚ちゃん
・理事長にクラップスタナーが効かない件
・5英傑+3名の勉強会。好きな科目しか勉強しない人たち。これでも他の試験だって点数を取ってるらしい。
・レディーファースト精神旺盛な5英傑諸君

ぶっちゃけ理事長に負けてほしくてこんな話を出しました。渚ちゃんは強くなりたいので、いつも少しの手加減を忘れない紳士な浅野君に少し不満があります。今の時点で浅野君が手加減無しでたたかったらもちろんボロボロにされますが。

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