クラップスタナーは2度鳴る。   作:パラプリュイ

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答え合わせのはなし。

 

 片岡さん、もとい、凛として説教の指揮下でぼくたちは作戦を伝えられた。サボりたそうにしていた中二半も渋々ながらも訓練に参加した。

 遠くからの狙撃担当は2人。ギャルゲーの主人公とツンデレスナイパーだ。2人とも狙撃に強そうなコードネームをもらっている。

 ぼくは標的を発見したらすぐ報告するために茂みの中に隠れていた。

 

「殺戮の天使、東ルートの監視を継続」

 

「了解」

 

 凛として説教の指示から5分経過し、待てど待てども標的は現れなかった。こっち側には来ないのではないかとも思えてくる。

 

「殺戮の天使、堅物は一本松の近くにいる。鷹岡もどきチームの援護射撃を頼む」

 

「了解」

 

 貧乏委員から連絡があり、ぼくは茂みから移動して、木に登って銃を構えた。

 悔しいことに、射撃は1周目からそこまで上達していない。こういうものはセンスも関係していると思う。

 それでも、援護射撃を頼まれるぐらいの実力は身につけた。

 

 ホームベース、へちま、コロコロ上がりの3人が射撃し、地上に引きつけたタイミングを鷹岡もどきが木の上から狙い、まずは1発。

 ぼくは木の上からジャンプして1発射撃して、地面に着地する。弾は堅物の腰に直撃した。心臓を狙ったつもりだったのに、ずれてしまった。

 練習では何度も成功していたのに。焦りが、ほんのわずかに指先を鈍らせた。

 

「その程度だと、やつには到底当たらないぞ!」

 

 堅物が逃げながら指摘する。

 ごもっともな指摘だ。悔しいが、今回の主役はぼくではない。

 

 ぼくはすぐに撤退して、状況を眺めることにした。

 堅物を追い込むように射撃が続き、その先に待っているのはギャルゲーの主人公だった。

 しかし、銃声が響いた後、堅物は木の板を盾にして、ニヤリと笑っていた。

 

「ギャルゲーの主人公! 君の射撃は常に警戒されていると思え」

 

 おそらく、気配でどこにいるのかを察知していたのだろう。堅物の野生の勘は鋭そうだ。そんな彼は気づかなかった。背後から降りてきた暗殺者の存在に。

 

「ジャスティス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、どうでした? 1時間目をコードネームで過ごした気分は」

 

 殺せんせーの言葉に対して、クラスの皆は非常に疲れた顔をしていた。

 

「「「なんか、どっと傷ついた」」」

 

 これだ! と思うような絶妙なコードネームもあれば、悪口かと思うようなものもあった。人数分考えた結果、真剣に考えるというよりも、思いついたものでつけたからだ。

 

「殺せんせー。何で俺だけ本名だったんだよ」

 

 木村君が不思議そうに尋ねた。

 

「君の機動力なら活躍すると思ってたからですよ。さっきみたいにかっこよく決めたときなら、ジャスティスでもしっくりきたはず」

 

 殺せんせーの発言に皆が頷く。

 コードネームとしてジャスティスはかっこいい。

 

「親がくれた名前に正直大した意味はない。大事なのは、その名前でどんな人生を歩んだか」

 

 1周目と2周目は性別が違ったのに、ぼくはずっと同じ名前だった。きっと母さんはぼくが男でも女の子らしい名前を付けたかったんだ。そう考えて、少しモヤモヤした気持ちになることもあった。

 

「名前は人をつくらない。人が歩いた足跡に名前がそっと残るんです」

 

 モヤモヤした気持ちが取り除かれていく。

 ぼくがどんな名前であっても、きっとぼくは変わらない。周りも変わらない。

 名前は最初から用意された記号にすぎない。それに意味を与えるのは、自分の生き方だ。

 

「そうでした。先生のコードネームも紹介するので、皆さんぜひ呼んでください」

 

 殺せんせーが黒板に素早く文字を書き込んでいく。

 

「『永遠(とわ)なる疾風(かぜ)運命(さだめ)の皇子』と」

 

 殺せんせーのキメ顔にぼくらの顔は思わずひきつった。

 

「一人だけ何スカしたあだ名つけてんだ!」

 

対先生ナイフが投げられた。

 

「エロダコ!」

 

「このバカ!」

 

「チキン!」

 

 罵詈雑言が飛び交い、殺せんせーに弾が降り注ぐ。それを殺せんせーがニヤニヤしながら避けていった。

 

 この後殺せんせーは「バカなるエロのチキンのタコ」と一日中呼ばれた。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 本校舎での昼食と午後のA組授業参加はもはや日課となっていて、ぼくの居場所が当然のようにそこにあった。いつものように昼食をA組でよく一緒にいる姫希さん、じゅりあちゃんとの3人で食べていると、話題がE組の話に移る。ぼくがつい口を滑らせて、クラスメイトにコードネームを付ける話をしてしまったのが原因だ。

 

「コードネームを付ける遊びか~。楽しそうだね」

 

「うん。きっかけは木村君の名前で」

 

「あの入学式の正義(ジャスティス)君?」

 

 姫希さんとじゅりあちゃんもすぐに誰の話か分かったようだ。木村君は変な意味で周りの印象に残っているのだろう。じゅりあちゃんは苦笑いしていた。

 

「あー……あれは目立ったよね~」

 

「偏差値が高い中学ほどキラキラネームって少ないものだよね。育ちの違いがはっきり分かるっていうか。海外でも変わった名前は低収入の親が付けるって言うし」

 

「姫希さん辛辣」

 

 辛口なコメントに、ぼくが窘めるようにつっこむ。姫希さんは悪いと思っていない顔で首を竦めた。じゅりあちゃんは話を聞きながらグラタンをのんびり食べていたが、口に入っていたものを呑み込むと、会話に参加する。

 

「でもでも、名前の呼び方迷うのは、よくあることだよねぇ。姫ちゃんだって、ひめきって読むのかな~って最初思ったし。じゅりあの名前はぶっちゃけ当て字だから、漢字に意味ある名前が羨ましいなぁ」

 

姫希(ひめの)だよ。意味は親バカだからNG。私は赤羽君の名前読めなかったな~。あんなに読みにくい名前なのに、そこまでキラキラネーム感ないのが不思議。渚ちゃんと仲良いよね?」

 

「うん。そうだね」

 

 カルマ君の名前が出て、ぼくは思わずドキリとする。盗聴されていることを打ち明けはしたものの、実は前よりも少し気まずく思っていたからだ。

 

「その反応は告られたでしょ? ふ〜ん、しかも断ったんだぁ」

 

「えっ、じゅりあちゃん何で分かったの?」

 

「渚ちゃんが分かりやすいからだよ。カルマ君は成績かなり良いし、優良物件だよねぇ」

 

「基準に成績しか出てこないのは気のせいかな?」

 

 じゅりあちゃんの言葉に補足するように、姫希さんが続ける。

 

「椚が丘だと成績が一番評価されるから、何よりそこに目が行くよね。A組はどんなブサイクでもある程度モテるし。浅野君は全部良くて神だけど」

 

 出た学秀信者。姫希さんってほんとブレないよなあ。

 そういえば、カルマ君が勝手に付けた学秀のコードネームが「新世界の神になる」だったっけ。あの場に学秀がいなくて本当に良かった。いても本人は平然としてそうだけど。

 

「それで、渚ちゃんのコードネームは何だったの?」

 

「……何だったかな」

 

 目を逸らして微妙な顔をしてしまう。どんなコードネームだったか言えるわけがない。

 

 だって「殺戮の天使」だよ? 

 殺戮は酷くないかな。性別よりはだいぶマシ? 

 

 考え事をしていると、横でじゅりあちゃんが小さな悲鳴をあげた。何事かと顔を上げると、目の前に学秀が立っていた。

 

「渚、今時間あるか?」

 

「うん、食べ終わったところ」

 

「生徒会室で話をしたい」

 

「分かった。お皿戻してくる」

 

「渚ちゃん、片付けておくから浅野君優先して」

 

 姫希さんがぼくの動きを制止して、トレイを持って素早く立ち去った。

 さすが学秀ファースト人間。新世界の神信者。

 姫希さんが手伝ってくれる時には、断らない方が喜ばれる。それは、彼女が良い人だからというよりも、彼女が手伝いを申し出る時は利益を得るためにやっているからだ。

 

「姫希さん、ありがとう」

 

「ありがとう、伊藤さん」

 

 学秀もお礼を言った。姫希さんは役に立てて嬉しいというような笑顔を浮かべている。

 

 生徒会室には誰もいなかった。人払いをしているのか、誰も見当たらない。

 

「何だか、久しぶりだね」

 

 ぼくはそう口にしながら、スマホにつけたくぬどんのキーホルダーを指さした。学秀は「そうだな」と口にして、キーホルダーを見ている。ぼくはスマホをバッグにしまうと、盗聴されていることを手話で伝えた。彼は手話で了解と合図を送った。学秀相手ならばたとえ盗聴されていてもどうってことない。他の伝達手段がいくらでもあるからだ。

 

「そこに座ってくれ。紅茶を入れよう」

 

 誰、と手話で尋ねられ、新任教師と返した。学秀はその間にティーポットを運んできた。

 

「準備いいね」

 

 実は殺し屋だと手話で告げても、彼は眉をピクリと動かしただけだった。

 

「生徒が相談によく来るからな」

 

 ティーカップに注がれた紅茶を少し飲み、その味に感嘆する。どうやら浅野学秀には美味しいお茶を入れるスキルも備わっていたらしい。

 危うく思考が本題と逸れそうになったが、何を言おうとしていたかを思い出し、ティーカップをテーブルに置いた。

 学秀は何を言われるのか全て分かっているような顔でこちらを見ていた。

 

「学秀は律が真犯人だって知ってたんだね」

 

 ぼくは確信を持って、相手を睨み付けた。

 

「気づいていなかったと言ったら嘘になる」

 

 何で言わなかったのかと問いかけそうになり、口をつぐんだ。学秀を避けたのはぼくの方だからだ。

 

「記憶を消したのも、律に言われたから?」

 

「それは違うな。僕が人に諭されて、はいそうですかと従う人間に見えるかい?」

 

「全く」

 

 ぼくは苦笑して、彼の意見を認める。学秀が人に命令される姿がどうにも想像できなかったからだ。

 

「渚のトラウマを消したかっただけだ。君が1周目で自殺したのなら、現実で起こらないように絶対にそれを阻止しようと思った」

 

 意識の波長を読み取り、巧妙に本当のことを混ぜた嘘だと咄嗟に判断する。トラウマを消したい云々は嘘。自殺を阻止したかったのは本当。だが、根本的な理由はそこにない。

 

「ぼくはそんなに脆くないよ」

 

 ひとまず、学秀の言葉を訂正する。彼は大きく頷いた。

 

「そうだな。だからこれは建前の理由だ。本音を言うと、渚にE組で危険な目にあってほしくなかった」

 

「心配してくれたのは嬉しいよ。でも、ちゃんと言ってほしかった」

 

「ごめん。本当にすまなかった」

 

 学秀が謝った。ぼくは珍しいものを見たと少し目を見開いて、じっとその謝罪を見つめていた。少し間が空いて、ぼくは息を吐く。

 

「こっちこそ、心配かけてごめん」

 

「そういえば、イトナ君から意味不明なことを言われて……卒業式に爆発テロが起こってみんな死ぬって。ぼくははっきり覚えてないけど、そんなこと起きなかったはず。おかしいよね?」

 

「渚はどういうことだと思う?」

 

「律が犯人だって分かってから気づいたよ。律がぼくの知っている律と違ったから。だから、最初から別の世界だったんだ。ここはぼくの2周目じゃなかった。でも卒業式にどうなるかまでは分からない」

 

 今までは、自分が過去に戻ったと信じて疑わなかった。しかし、自分の性別の違いや律の違い。死神の性別まで異なるとなると認めざるを得ない。

 ここは過去ではない。全く別の世界なんだと。

 

「僕たちにそれを確かめる術はない。だが、律は大石渚が卒業式の日の朝に自殺したから彼女の名前を知っていたと言っていた。だから、推論としては悪くない」

 

「悪くない、ってことは学秀は答えを知ってるの?」

 

「全部答えは出ている。そうだろう?」

 

「え?」

 

 今の話でどう繋がるのか分からず、ぼくは聞き返した。

 

「大石渚は卒業式の朝に自殺して死に、卒業式の日にみんなが爆発テロで死んだ。この2つは同時に起こったんだよ」

 

「爆発テロを起こしたのは……ぼく?」

 

「いや違う。この世界の大石渚の1周目だ」

 

 大石渚の1周目。その言葉が全てを表していた。

 律がぼくのことを警戒するわけだ。卒業式の日に爆発テロを起こした女子生徒なんて、どう考えても危険すぎる。ぼくを排除しようと考えるのも無理はない。

 

「3年A組の浅野学秀。至急、理事長室に来てください」

 

 話を中断するかのように、校内放送が流れた。

 

「続きはまた今度……行ってくる」

 

 重そうな足取りで学秀は理事長室へ向かった。ぼくはその姿を見送り、生徒会室を後にした。

 本校舎によく来るようになってから、学秀が理事長と定期的に面談の時間を取らされていることに気がついた。洗脳をされているわけではないと思うが、理事長は教育熱心な人だ。学秀は何を教わっているんだろう。

 

「て、考えても無駄か」

 

 悩みのタネである厄介なキーホルダーを握りつぶしたが、くぬどんはすぐに元の形に戻った。このまま盗聴器つきでずっと過ごさないといけないのが憂鬱だ。

 

「渚さん、渚さん」

 

「……律?」

 

 スマホから声がして、少しびっくりしながらも返事をする。

 

「残念、hacked律です!」

 

 ダブルピースした律が答えた。目の上には相変わらずhackedの文字が付いている。ぼくは拍子抜けして息を吐いた。

 

「ああ……だよね」

 

「死神からの伝言で、夕食を作って欲しいそうです」

 

「……分かった」

 

 想像もしていなかった連絡に、ぼくは疑心暗鬼になった。

 先生は一体何を企んでいるんだろう。

 食事に毒を入れたら一瞬で殺せるけど……すぐ気づかれそう。

 一瞬物騒なことを考えたが、A組に戻るとすぐに荒井君に声をかけられて現実に引き戻される。

 

「天使ちゃん、E組で隠れてアルバイトをしてる人がいるっていうタレコミがあったんだけど、何か知らない?」

 

 ぼくのことだ! 

 と気づいたが、表情には出さずに首を傾げた。

 

「……分かんない。どこ情報?」

 

「匿名で連絡が来たんだ。これが本当なら校則違反じゃないか!」

 

 荒井君が憤って犯人を見つけようと躍起になっている。しかし、彼はその情報がぼくのことを指しているとは気づいてないようだ。

 荒井君は放送部と新聞部両方を掛け持ちしている。ゴシップに強く、正義感で悪事を暴く企画もよくやっていて好評だ。

 自分の話かもとつい思ってしまったが、ぼくが記憶を失っていた間に始めたアルバイトは、死神に弟子入りを決めた後にすぐ辞めた。今は死神に殺し屋の技術を学ぶ方が優先だからだ。

 世の中どこで見られているか分からないものだ。行動には気をつけないとこのクラスでは足元をすくわれる。

 

「何か新しいことが分かったら教えてね」

 

「逆に校則違反が判明したら、天使ちゃんも遠慮なく教えて」

 

「もちろん」

 

 荒井君と嘘の約束を交わし、ぼくは午後の授業をA組で過ごした。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 授業が終わって家に帰る途中、家の近くのスーパーに向かった。夕食に何を作るか迷ったが、なるべく安めのひき肉を厳選して選んだ。学生に高級なものを求められても予算的に無理だ。

 肉以外にも野菜を何個かカゴに放り込み、牛乳も入れた。ぼくはまだ大人になるまでに身長が伸びることを期待している。

 レジの列に並んでいたら、前に並んでいた外国人の女の人が40代くらいの女性店員に英語で質問しているのが見えた。

 

「Is it still or sparkling?」

 

 ペットボトルを店員に見せて、外国人女性が聞いた。店員は困ったように首を横に振っている。

 

「スチ……? ソーリー、ノーイングリッシュ! ノー!」

 

「It’s still water. No bubbles」

 

 助け舟を出すと、外国人の女性がにっこりとぼくに微笑んだ。

 

「Thank you! I’ll take it」

 

「これ買うみたいです」

 

 店員がほっとしたように外国人の会計を進めた。ぼくの番が来ると、店員は近所のおばちゃんのように気軽にぼくに話しかけ始めた。

 

「助かったわ〜、英語ってほんとわかんなくて。何て言ってたの?」

 

「炭酸水か水か聞きたかったみたいですよ」

 

「そんな簡単なことだったの!」

 

 1周目でよく遭遇した近所のおばちゃんのノリを思い出して、ぼくは少し懐かしい気持ちになった。一人暮らしを始めてからは近所付き合いもほぼなく、こういう気さくなおばちゃんって感じの人と話す機会が減ったので久しぶりの人種だ。

 もしかして、母さんと同い年くらいかな。

 

「よく見たら椚が丘の制服じゃない! うちの子も椚が丘なのよ」

 

 商品のバーコードを読み取りながら、店員がニコニコ笑いかけてきた。

 

「偶然ですね」

 

 うちの学校の生徒の親か。そう考えると余計に親近感が湧いた。

 

「これ、お礼ね」

 

 肉のパッケージに半額シールを貼って、店員がぼくにウィンクした。急にそのおばちゃん店員が女神様に見えてくる。

 

 いい人だ! 

 

「ありがとうございます!」

 

 ぼくはホクホク顔でスーパーを出た。いいことをするとラッキーなことが起きるものだ。

 

「殺し屋志望なのに人助け?」

 

 名雪先生の姿をした死神がどこからともなく現れた。盗聴器と言って渡されたキーホルダーには発信機も付いているのだろう。

 

「ちょっと困ってる人を助けただけですよ」

 

「さっきの店員、どこかで見たような顔だったね」

 

「そうですか?」

 

 ぼくはそれが誰なのか分からず首をひねった。近所のおばちゃんみたいとは思ったけど、会ったことあったっけ。

 

「さっき美味しいブドウジュースを買ったんだ。今日の夕食は何を作るの?」

 

 先生が期待に満ちた顔でぼくに聞いた。

 

「さっきひき肉を買ったので、ハンバーグにしようかと」

 

「へえ。私ハンバーグ食べたことない」

 

「え、ハンバーグを?」

 

「だって、日本の食べ物でしょう? わざわざ食べるものでもないし」

 

 死神の意外な発言に、ぼくは目を見開いた。この人がこんなに自然に話しているのに、実は日本人ではないことを思い出した。言われないと気づかないのが恐ろしいところだ。

 

「……先生ってどこの国の人なんですか?」

 

「秘密」

 

 先生の本当の顔をぼくは見たことがない。1周目のように顔の皮は剥いでしまったのか、気になるけど怖くて聞けなかった。

 先生はどこの国から来たんだろう。殺せんせーがぼくを間違えるくらいだから、少なくともスペイン語をネイティブで話さない国、かな。

 

「夕食はぼくの家でいいんですか?」

 

「君の家がいい。メルダリンもいるし」

 

 先生がこう言って譲らないので、ぼくたちはぼくの家で夕食の準備をすることにした。

 師匠のはずの先生を適度に手伝わせながら、ぼくはハンバーグと付け合わせの野菜、それからスープを作った。炊飯器ではご飯もセットしてある。

 ハンバーグにはデミグラスソースをかけて、上に半熟の目玉焼きを乗せてロコモコ風に。和風のソースにするか迷ったが、外国人ならデミグラスソースの方がとっつきやすいと思ったのだ。

 

「……うっま。なにこれ、お店出せるんじゃない?」

 

 先生がハンバーグの一口目を食べてすぐに言った。ぼくは心中でガッツポーズを取りながらも表面的には涼しげに微笑む。

 

「褒めても何も出ませんよ」

 

「ハンバーグってこんな美味しかったんだ。標的が毒で死ぬなら、すぐにこれで殺せそうなのにね」

 

「そうなんですよ。殺せんせーには大抵の毒は効かないんですよね」

 

「となると、やっぱり対触手弾に頼るしかないのかな」

 

 先生とはいつも殺せんせーをどう殺すか相談した。本職の殺し屋のアイデアは意外なものも多くて、いくつか試してみたくなる。

 

「そういえば今日、本校舎で浅野君って子と不思議な話をしていたよね。1周目ってどういうことなの?」

 

「話すと長いんですけど」

 

 盗聴器がある状態で話したので、聞かれることは予想していた。殺せんせーの正体は言わずに、自分がこの世界を生きるのが2回目であることを正直に話した。ただし、自分と先生だけ性別が以前と違うこと。どうやらこの世界の1周目では自分が爆発テロを起こして卒業式に皆死んだらしいこと。律はぼくを異質だと恐れていたらしいことを話した。意識の波長が分かる相手には正直でいることが重要だ。

 

「なるほどね。私と渚だけ性別が違う世界か」

 

ブドウジュースのグラスを傾けながら先生は言った。

 

「先生はどう思いますか?」

 

「この話が嘘じゃないなら、きっとパラレルワールドなんだろうね」

 

 先生の反応を見る限りだと、彼女は完全にぼくの話を信じているわけではなさそうだった。信じたふりはしているが、まだ半信半疑に見えた。

 

「ぼくもそうだと思います。ただ、少し不思議なのが」

 

 ぼくはこの疑問を口に出していいものか一瞬ためらったが、悩んだ末に言うことにした。

 

「なんでこの世界の大石渚は爆発テロを引き起こしたんでしょう。A組にいて、たぶん成績も悪くなくて、性別に疑問を感じるわけもない。何一つ不自由なさそうなのに、何が不満だったんですかね?」

 

「……さあね」

 

 全てを悟ってそうな声で、彼女ははぐらかした。それ以上は聞いてはいけない気がして、ぼくは何も言わないことにした。

 

 





原作からの変更点

・訓練内容に若干の変化
・爆発テロの犯人
・死神に1周目のことバラす渚

たくさんの感想と評価ありがとうございます!長い期間更新待ってくださった方が多くてとても嬉しいです。新規の方もありがとうございます。時間あるときに更新頑張ります。

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