ビーラビットも異世界から来るそうですよ? 作:shin-Ex-
それでは本編どうぞ。
「お?来たかオズ、アリス」
ブレイクから渡された地図を頼りに無事"ノーネーム"の居住区角の入口に到着したオズとアリスに、十六夜がに声をかけた。近くにはもちろん飛鳥と黒ウサギ、耀と三毛猫もいる。
「皆待たせてごめんね」
「別に気にしてないですよ」
「それで?ちゃんと話はできたのかしら?」
「うん、まあね」
「・・・・今度聞かせてね?」
「・・・・・面倒だな」
「アリス・・・・・そう言わないで」
あからさまに面倒くさそうにするアリスを見て、オズは思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「ところで二人は白夜叉に魔王のゲームには生き残れないとか言われた?」
「え?いや、そんなことは言われていないけど・・・・そもそも白夜叉ちゃんとは話してないし」
「なんだ?貴様等はそんなことを言われたのか?」
「俺は言われてねえよ。言われたのはお嬢様と春日部だ」
十六夜が言うと飛鳥と耀の二人はムッとした。
「そんなに魔王のゲームは厳しい・・・っていうことなの?」
「・・・・ええ。この先を見れば魔王の恐ろしさは感じていただけると思います」
黒ウサギは表情を暗くし、戸惑いながら居住角の入口の門を開いた。
門の向こうから感じる乾いた風。砂塵が舞い、視界を遮る。その中で微かに見える景色は、廃墟としか形容できないものであった。
「っ!?これは・・・・!?」
街並みに刻まれた傷跡をみた飛鳥と耀は息を呑み、オズとアリスは目の前に広がる荒涼とした光景を只々悲しそうに見つめ、十六夜はこの光景にスっと目を細める。
十六夜は木造の廃墟に歩み寄って囲いの残骸を手に取った。そのまま少し握り込むと、残骸は音もなく脆く崩れる。
「・・・・・おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは今から何百年前の話だ?」
「・・・・僅かに三年前でございます」
悲しそうに顔を伏せる黒ウサギ。
「・・・ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化しきった町並みが三年前だと?」
"ノーネーム"のコミュニティは・・・・十六夜の言うとおりまるで何百年の時間経過によって滅んだように崩れ去っていた。砂に埋もれた街路、腐って倒れ落ちている木造の建築物、要所で使われていた鉄筋や針金は錆に蝕まれて折曲り、該当は石碑のように枯れて放置されていた。
ここが三年前まで人で賑わっていたとは住んでいたと言われても信じることなどできない。
「・・・・・断言するぜ。どんな力がぶつかってもこんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」
(これが・・・・・魔王の力。こんなのどのチェインの力でも不可能だ・・・・・次元が違いすぎる)
十六夜はあり得ないと言いながらも目の前の廃墟に冷や汗を流し、オズは想像をあまりに絶する魔王の力に戦慄していた。
「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」
「・・・・生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて・・・・」
飛鳥と耀も廃屋を見て複雑そうに重みを感じさせる感想を述べる。
黒ウサギは廃屋から辛そうに目を逸らしながら朽ちた街路を進みだした。
「魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ・・・・コミュニティから、箱庭から去って行きました」
醜く残る魔王の爪痕。魔王は自らの力を見せつけ、楽しむためにあえて白夜叉のようにゲーム盤を用意しなかったのだ。
黒ウサギは感情を押し殺した瞳で風化した街を進んでいき、飛鳥や耀も複雑な表情でその後に続く。その中で十六夜だけは瞳を輝かせ不敵に笑っていた。
「魔王・・・・か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか・・・・!」
「・・・・ふざけるな」
「アリス?」
「なんだこれは?こんな『破壊』・・・・・我欲を満たし、愉悦に浸り・・・・信念のない『破壊』など・・・・私は認めん!認めんぞ!」
破壊の限りを尽くした魔王に・・・・・アリスは怒りを顕にする。
かつて"
ある意味では『破壊』の意味を誰よりも理解しているアリス・・・・・故に魔王の所業は許せないのだろう。
「アリス・・・・・そうだね。俺も認めたくないよ」
「魔王は倒す。必ず・・・・・この手で!」
オズとアリス・・・・・二人は魔王の打倒を強く決意した。
6人が居住区を通り抜け、貯水池にやってきた。十六夜が手に入れた水樹の苗を設置するために訪れたのだ。
「あ、皆さん!水路と貯水池の準備は整ってますよ!」
貯水池には先客がおり、ジンとコミュニティの子供達が清掃道具を持って水路の掃除をしていた。
「ご苦労さまですジン坊っちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」
「黒ウサのねーちゃんお帰り!」
「眠たいけどお掃除手伝ったよ!」
ワイワイと騒ぎながら黒ウサギの元に駆け寄ってくる子供達。
「ねえねえ、新しい人達って誰!?」
「強いの!?カッコいい!?」
「YES!とても強くて可愛い人達ですよ!皆に紹介するから一列に並んでくださいね」
パチン、と黒ウサギが指を鳴らす。するとさっきまで黒ウサギに群がっていた子供達はテキパキと移動して横一列に並んだ。
数は20人前後といったところか。中には猫耳や狐耳の少年少女もいた。
(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)
(じ、実際目の当たりにすると想像以上に多いわ。これで六分の一?)
(・・・・・私子供嫌いなのに大丈夫かなぁ)
(・・・・・鬱陶しい)
(はははっ・・・・なんだか微笑ましいね)
5人は子供達に各々の感想を心の中で呟く。
「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、アリスさん、オズ・ベザリウスさんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」
「あら、別にそんなの必要ないわよ?もっとフランクにしてくれても」
「駄目です。それでは組織は成り立ちません」
飛鳥の申し出を黒ウサギが今までで一番厳しい声音で断じた。それは今日一日の中で一番真剣な表情と声であった。
「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きていく以上、避ける事が出来ない掟。子供のうちから甘やかせばこの子供達の将来の為になりません」
「・・・・そう」
黒ウサギの有無を許さぬ気迫によって飛鳥は黙ってしまった。
(厳しいね・・・・でもまあ、それも仕方のないことなのかな?)
今日までの三年間もの間、実質コミュニティを支えてきたのは黒ウサギだった。この言葉はコミュニティを存続させていく上で大切なことを正しく理解している彼女だからこそ言えるものであった。
そして、オズは規律と規範を重んじる貴族として育ったため、そんな黒ウサギの姿勢を理解できるのだろう。
(だったらせめて・・・・・支えてくれるなら守らないとね)
子供達が自分達を支えることが責務だというのなら、そんな子供達を守ることこそが自分達の責務・・・・・オズは自らにそう言い聞かせる。
「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから何か用事を言いつける時はこの子達を使ってくださいな。皆も、それでいいですね?」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
耳鳴りがするほどの大声で20人前後のの子供達が同時に叫んぶ・・・・・それによって発せられる音の爆弾を5人は耳に受けることとなった。
「ハハ、元気がいいじゃねえか」
「こちらこそよろしくね」
「そ、そうね」
(・・・・・本当にやってけるかな私?)
(・・・・やはり鬱陶しい)
その大声に十六夜とオズは笑顔で応えるが、飛鳥と耀、アリスは慣れていないためか何とも複雑そうな表情を浮かべていた。
「さて!皆さんの紹介も終わりましたので水樹を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれますか?」
「あいよ」
十六夜はギフトカードを取り出し水樹の苗を発現させ黒ウサギに渡した。
水路は骨格は立派に残っていたが所々ひび割れが目立ち要所に砂利もたまっていた。相当の年季が感じらる。
「大きい貯水池だね。ちょっとした湖ぐらいあるよ」
『そやな。門を通ってからあっちこっち水路があったけど、もしあれに全部水が通ったら壮観やろうなあ。けど使ってたのは随分前になるんちゃうかウサ耳の姉ちゃん?』
「はいな、最後に使ったのは三年前ですよ三毛猫さん。元々は龍の瞳を水珠に加工したギフトが貯水池の台座に設置してあったのですが、それも魔王に取り上げられてしまいました」
水樹の苗を大事そうに抱える黒ウサギが振り返り答えた。
「龍の瞳?何それカッコいい超欲しい。何処に行けば手に入る?」
十六夜はキラリと瞳を輝かせて黒ウサギに尋ねた。
「さて、何処でしょうね?知っていても十六夜さんには絶対に教えません」
黒ウサギは適当に・・・・しかしきっぱりとはぐらかした。十六夜に教えれば、確実に挑みにいくであろうことは容易に想像できたからだ。さすがに龍を相手に一人で挑まれれば助けようがない。
「水路も時々は整備していたのですけどあくまで最低限です。それにこの水樹じゃまだこの貯水池と水路を全て埋めるのは不可能でしょう。ですから居住区の水路は遮断して本拠の屋敷と別館に直通している水路だけを開けます。此方は皆で川の水を汲んできたときに時々使っていたので問題ありません」
「あら、数kmも向こうの川から水を運ぶ方法があるの?」
「はい。みんなと一緒にバケツを両手に持って運びました」
「半分くらいはコケて無くなっちゃうんだけどねー」
「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外で水を汲んでいいなら、貯水池をいっぱいにしてくれるのになあ」
忙しい黒ウサギに代わってジンと子供達が答えていく。
「・・・・・そう。大変なのね」
飛鳥はちょっとガッカリした顔をする。もっと画期的で幻想的なものを期待していたんだろう。だがそんなものがあれば水不足で頭をかかることなどなく、水樹であそこまで歓喜することもなかったであろう。
「皆頑張ってたんだね」
その一方でオズは笑顔で苦労話をした子供達の頭を撫でてやった。
「それでは苗の紐を解いて水門を開けます!十六夜さんは屋敷への水門を開けてください!」
「あいよ」
十六夜が貯水池に下り、水門を開ける。そして黒ウサギが苗の紐を解くと根を包んでいた布からまるで大波のような水が溢れ返り激流になり貯水池を埋めていく。
「ちょ、ちょっと待てやゴラァ!!流石に今日はこれ以上濡れたくないぞオイ!」
水門の鍵を開けていた十六夜はモロに水を被りながら跳躍して水路から戻って来た。今日一日、散々ずぶぬれになったというのに・・・・・
「うわ!この子は想像以上に元気ですね♪」
そんな十六夜の様子などいざ知らず、黒ウサギは水樹の出す水の勢いを見て喜んでいる。
「大丈夫十六夜?」
流石に哀れに思えたようでオズが声をかけてきた。
「大丈夫に見えるか?たくっ・・・・・今日は水難の相でも出てたのか?」
「あははっ、そうかもね」
「凄い!これなら生活以外にも水が使えるかも・・・・!」
濡れた服を絞る十六夜と同情するオズ。その一方で、かつてのように並々と満ちていく水源を見てジンは感動的に呟いた。
「なんだ、農作業でもするのか?」
「近いです。たとえば水仙卵華などの花のギフトを繁殖させればギフトゲームに参加できずともコミュニティの収益になります。これならみんなにもできるし・・・・・」
「ふぅん。で、水仙卵華ってなんだ御チビ?」
え?とジンは何の前触れもなく『御チビ』という尊敬と嘲笑の交わった愛称で呼ばれたことに驚いた。
「す、水仙卵華とは別名・アクアフランと呼ばれ、浄水効能のある亜麻色の花の事です。薬湯に使われることもありますし観賞用にも取引されています。確か噴水広場にもあったはずです」
「ああ、あの卵っぽい蕾のことか?そんな高級品なら一個ぐらいとっとけばよかったな」
「な、何を言い出すのですか十六夜さん!水仙卵華は南区画や北区画でもギフトゲームのチップとしても使われるものですから、採ってしまえば犯罪です!」
「十六夜・・・・・流石に公共の場所に咲いてる花を毟るのは良くないよ?」
十六夜の言い分にオズは呆れた様子で突っ込んだ。
「冗談だよ冗談。お前も間に受けんなよな御チビ」
「なっ!?僕は・・・・」
カチン、とジンは癪に障ったように言い返そうとする。
「悪いが、俺は俺が認めない限りは"リーダー"なんて呼ばないぜ?この水樹だって気が向いたからもらってきただけだ。コミュニティの為なんてつもりはさらさらない」
しかし十六夜は真剣な顔と凄味のある声でそれを遮り、そう続けた。
「・・・・え?」
「黒ウサギにも言ったが、召喚された分の義理は返してやる。だがもし、義理を果たした時にこのコミュニティがつまらねえことになっていたら・・・・・・どうなるかわかるな?」
ジンは十六夜のその言葉に衝撃を受けた。紳士とも威圧的とも取れる不思議な言葉で語った十六夜。軽薄そうな態度に気が取られていたがどうやらこの男こそが5人の中で最も問題児であるのだろうとジンは悟った。
(・・・・まあ、言い分はわかるかな?十六夜達からしてみたら召喚されたはいいけどあとはよろしくだなんて筋は通らないし)
一方でその様子を黙って見ていたオズはどちらかといえば十六夜の言っていることに賛同していた。
ジンはコミュニティのリーダーなのだ。たとえ11歳の子供であろうとリーダーならばその覚悟と自覚を持って欲しいと考えている。今はまだ経験不足で周りに支えられるのは仕方がないであろうがいずれはその責を果たすことができるようにならねばいずれコミュニティが崩壊するのは明白なのだから。
「・・・・・僕たちは"打倒魔王"を掲げたコミュニティです。いつまでも黒ウサギに頼りっきりでいるつもりはありません。次のギフトゲームで・・・・それを証明します」
十六夜の指す"つまらないこと"が何かはわからないが、だからこそジンも覚悟をもって頷いて返した。
「そうか。期待してるぜ御チビ様」
さっきとは一転し、ケラケラと軽薄な笑いを滲ませる十六夜。ジンとしてはイラッとくる呼び名だが、それでも今は仕方のないことだと言葉を飲み込んだ。
黒ウサギに依存しきっていたジンとは違い水樹を手に入れた十六夜の方が確実にコミュニティに貢献できてているのだから。
(初めてのギフトゲーム……僕が頑張らないと)
水面に浮かぶ十六夜の月を見降ろしジンは一人呟いた。
(・・・・・頑張っては欲しいけど少し気負い過ぎだね)
だが、オズは意気込むジンを見て少々危惧していた。頑張るのは確かにいいことだ。だが、気負いがすぎれば心は疲弊してしまうし、何より・・・・・・努力というのは必ずしも実を結ぶとは限らないことをオズは知っている。
かつて、父親に認められたいという一心で努力を続けてきたオズ。だが、それが実を結ぶことは無かった。オズの父親・・・・・ザイは決してオズを認めなかった。
(ジンにはあの時の俺のようにはなって欲しくない・・・・・できる限りフォローしてあげたほうがいいかもね)
かつての自分のようにならないようにと・・・・・オズはジンを見守ろうと誓う。
あとがきお茶会は今回はおやすみです
・・・・・すみません、スランプなんです(泣)
それでは次回もまたお楽しみに