機動新世紀ガンダムX アムロの遺産   作:K-15

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第3話

ガロードのガンダムを起点として、周辺地域からモビルスーツが次々に現れる。

初めはティファの事を狙う3機のドートレスだけだったが、今やその数は10機を超えて居た。

更にはガンダムタイプともなれば、ハイエナ達の格好の的である。

幾ら性能が高くとも、四方八方を囲まれた状態で戦える程の技術をガロードは持ち合わせて居ない。

 

「一斉に集まって来やがった。頼むぜガンダム!!」

 

ペダルを踏み込み、リフレクターに隠れて居たメインスラスターから青白い炎を吹かす。

飛ぶガンダムは握るビームサーベルを敵に目掛けて振り下ろした。

装甲を容易く分断し、エンジンの爆発が大地を揺らす。

それでも次の時には四方から砲撃を浴びせられる。

 

「ぐああァァァッ!! クソッ、負けるもんか!!」

 

激しく揺れるコクピット。

歯を食い縛り、操縦桿を力の限り握り締める。

画面に映る敵を睨み付けるガロードは、兎に角前に出た。

作戦も何も考えず、機体の性能を頼りに突撃する。

 

「ウオオオォォォッ!!」

 

突き立てられるビームサーベルは敵機のコクピットを貫く。

だが、まだモビルスーツを2機倒したに過ぎず、ガンダムの前には20を超える機体が待ち構えて居る。

更なる攻撃と爆撃がガンダムを襲う。

 

「俺はまだ死なない!! 死んでたまるかぁぁぁ!!」

 

『ガンダムを倒せば一攫千金だ!! コクピットを狙え!!』

 

『腕1本でも大金だ!! ガンダムは俺達が倒す!!』

 

『パイロットを燻り出せ!!』

 

ガンダムに向けられる様々な思念、欲、憎悪。

ガロードはそれらに対して、生きる為に牙をむき出しにして立ち向かう。

ティファもその事に気付いており、静かに目を閉じると意識を集中させた。

そして開放されるガンダムの封印された力。

 

「ガロード……アナタに……力を……」

 

戦闘画面に突如として表示される『サテライトシステム』の文字。

苦戦するガロードは思わず目を見開いた。

 

「何だ!? こんな操作してねぇぞ!! サテライトキャノン? コレか!!」

 

接続させたコントロールユニットのガジェットを押し込む。

背部のリフレクターが展開され、背負って居たビーム砲を前面に向けグリップを掴む。

月から発射される照準用レーザーが、ガンダムの胸部に当てられる。

 

「4.03秒後にマイクロウェーブ!?」

 

「来ます」

 

月にあるマイクロウェーブ発振施設。

レーダードームから発射される膨大なエネルギーはガンダムに吸収され、リフレクターと身体各所に設置された青いエネルギーコンダクターが眩く光る。

 

「エネルギーチャージ完了。撃てる!! 行けぇぇぇ!!」

 

引かれるトリガー。

砲門からは、受信した膨大なエネルギーが一気に発射された。

余りのエネルギー量に周囲は閃光に包まれ、目の前に居たモビルスーツは光に飲み込まれる。

 

///

 

フリーデンのブリッジで戦況を見て居たジャミルはシートから立ち上がった。

月から発射されるマイクロウェーブ。

その光景は戦争が終結して15年経っても忘れる事はない。

 

「マイクロウェーブ!? ティファか!?」

 

ジャミルは瞬時に理解する。

そして自身の能力でティファへ必死に呼び掛けたが、苦しい思いをするだけで声は届かない。

 

「止めるんだティファ!! その兵器は……」

 

戦場へと向かうアムロもその光景を目にして居た。

 

「何だ、この感覚……プレッシャー……来る!!」

 

ペダルを踏み込みメインスラスターを全開。

機体をジャンプさせ数秒後、目の前を閃光が通り過ぎる。

サテライトキャノンから発射されたエネルギーが、集まって来たモビルスーツの全てを飲み込んだ。

装甲は数秒として保たずネジ1本残らない。

木々を薙ぎ払い、大地を焼き、発射線上のモノ全てを消し去る。

けれどもサテライトキャノンのエネルギーも無尽蔵ではない。

数秒後にはエネルギーは尽き、その場には何も残って居なかった。

高熱を浴びせられて地面に風が触れると、溶けたガラスが固体化し始める。

先行して居たウィッツとロアビィも発射線上から離脱した先でこの光景を見ており、その先に居るモビルスーツの戦闘力に舌を巻いた。

 

「なんつー威力してんだよ。アレもガンダムなのか?」

 

「GX-9900、とんでもない機体を作ってくれたもんだ」

 

「もう1発撃たれたらマズイぜ」

 

「あぁ、同感だね。でも、向こうさんはそうでもないみたいだぜ」

 

視線を向けた先では、サテライトキャノンを構えるガンダムに迫るアムロの機体。

 

///

 

コクピットの中でガロードは唖然として口を開ける。

目の前で起きた光景が目に焼き付き、それで居ながら信じられないで居た。

ビームの照射が終わって数秒、ようやく口から空気を吸うと頭の中で思考を巡らせる。

 

「すげぇ……これがガンダムの力……でも、これで邪魔な奴らは居なくなった。行こう、ティファ」

 

隣に座る少女に呼び掛けるガロード。

けれども彼女の表情は見る見る内に青ざめて、小柄な体が震え始める。

焦点の定まらない瞳。

耐え切れなくなったティファはあらん限りの金切り声を上げた。

 

「ティファ!? どうしたんだ、ティファ!!」

 

ガロードの声は彼女に届かない。

サテライトキャノンにより破壊された無数のモビルスーツ。

当然、中にはパイロットが乗っており、破壊されたと同時にこの世から消える。

死ぬ間際の絶望、痛み、恐怖、生への執着。

それらの感情全てが塊となり、感覚の鋭いティファは感じ取ってしまう。

まだ幼い少女に、それら全てを受け止められるだけの精神力はない。

 

「ティファ!! しっかりしろ、ティファ!!」

 

呼び掛けても反応すら返せず、そして金切り声は止んだ。

ティファは気を失い、ガロードの腕の中に倒れるとまぶたを閉じて動かなくなってしまう。

 

「クソッ、どうしたって言うんだ。レーダーに反応、まだ敵が居るのか?」

 

反応がある先にメインカメラを向ける。

そこから来るのはビームライフルを握る白いモビルスーツ、νガンダムの姿。

サテライトキャノンに脅威を感じるウィッツとロアビィとは違い、アムロは2発目が来ない事を確信めいて居た。

 

「たった1機であれだけの威力……戦略級の戦闘力を持って居るのか。だが、第2射はない筈だ」

 

「ならもう1発!!」

 

ガロードは操縦桿のトリガーを押し込むが、砲門からビームは発射されない。

そして月も、現れる太陽と入れ替わる。

 

「1回のマイクロウェーブで1発しか撃てないのか? 月も沈む。他の武器は?」

 

コンソールパネルを叩くガロード。

画面に表示された指示に従い操縦桿を動かしてリフレクターと砲門を収納し、バックパックにマウントされたビームライフルを引き抜く。

向かって来る白いモビルスーツに銃口を向けて、試し撃ちするようにトリガーを引いた。

発射されるビームは狙った相手とは程遠い所へ着弾する。

 

「ビームライフル、こんなのまであるのか。これなら!!」

 

次はしっかりと狙い、本気で当てるつもりでトリガーを引いた。

だがアムロの動きは早い。

銃口を向けられた時にはもう、回避行動に移って居る。

2発3発とビームを発射しても装甲にかすりもしない。

 

「はやい!?」

 

「さっきまでのプレッシャーが消えた? 敵意が弱い。あの少女とは違う、子どもか?」

 

「このっ、このぉぉ!! 当たれってんだ!!」

 

「素人か?」

 

アムロはビームライフルを向けトリガーを引いた。

逃げようとするガロードだが、ビームは右脚部に着弾。

簡単に攻撃を当てられてしまう。

 

「ぐぅっ!? さっきまでの相手とは違う!!」

 

「悪いが逃がす訳にはいかない」

 

技量の差を痛感するガロード。

それでもティファを守る為に、当たらなくてもビームライフルのトリガーを引き続け、リフレクターからエネルギーを放出してνガンダムから距離を取る。

だが、νガンダムから鋭い攻撃が迫った。

アームレイカーを操作して、回避しながらビームを撃つ。

正確な射撃はガロードのガンダムが握るビームライフルを撃ち抜き、その衝撃にマニピュレーターから手放してしまう。

 

「ライフルが!? ぐああァァァッ!!」

 

右脚部へまた直撃。

姿勢を崩すガンダムは背部から倒れこむ。

激しく揺れるコクピットで歯を食いしばるガロード、ティファの体を支えながらペダルを踏み込んだ。

リフレクターからのエネルギー放出量が増大し、νガンダムに背を向け機体を浮遊させる。

 

「ここまでは着いて来れないだろ。一気に突き放してやる」

 

「甘い!!」

 

2機の距離は離れるが、アムロは構わずにビームライフルで狙撃する。

ガロードは当然回避するが、避けた先を先読みしてビームは放たれた。

1発がリフレクターをかすめる。

 

「ウソだろ!? これだけ離れてるのに」

 

「次で当てる」

 

アムロの宣言通り、リフレクターにビームが直撃する。

推力を失うガンダムは地面へと降下して行く。

メインスラスターを吹かすガロードは着地と同時にビームサーベルを引き抜き、迫るνガンダムに向き直った。

 

「データにはないけど、向こうもガンダムなのか?」

 

「あのパイロット、来るのか?」

 

「こっちだってガンダムだ!! 負けてたまるか!!」

 

逃げて居たガロードは一転、ビームサーベルを片手にνガンダムへ走った。

戦略も何も考えずにただ突き進むのみ。

そんな相手に冷静に対処するアムロ。

積み重ねて来た戦闘技術と場数は、気力だけで埋まるモノではない。

アームレイカーを素早く動かし、ビームを2射。

迫るガンダムの直前で地面に直撃すると土煙を発生させ、前方の視界を効かなくさせる。

更に見えなくなった事に動揺するガロードは、機体の動きを止めてしまった。

 

「煙幕のつもりか。どこから……」

 

「遅い!!」

 

「っ!?」

 

気が付いた時にはもう遅い。

土煙の中がら現れたνガンダムはマニピュレーターを伸ばして頭部を殴った。

鉄と鉄とがぶつかり合う。

重く鈍い音が響く。

殴られるガロードは必死に操縦桿を握り締めるしか出来ないが、アムロは一方的にマニピュレーターを叩き付ける。

2発、3発、4発目が入った時にメインカメラからの映像にノイズが走った。

そして股座に膝を叩き込み、ガロードのガンダムは再び地面に倒れ込む。

 

「ぐぅっ!! ここまでなのか……」

 

「動くな。投降しろ」

 

アムロはビームライフルの銃口をコクピットに密着させて、中のパイロットに呼び掛ける。

動きを停止したガンダムだが、すぐに返事は返って来ない。

 

「この至近距離でライフルを撃てばこの機体でも耐え切れまい。彼女はコクピットに置いたまま、パイロットだけ外に出ろ」

 

「わかった……」

 

考えるが、もう他に選択肢がなかった。

素直に従うガロードはティファをコクピットシートに置いてハッチを開放させる。

生身でνガンダムと対面するガロード。

その後方からは、ティファを連れ出したフリーデンが見える。

 

///

 

フリーデンに収容される4機のガンダム。

その中でもガロードのガンダムは損傷が激しかった。

脚部、スラスターにも使用出来るリフレクター。

機体は破壊せずに、けれども動けなくする為に、ピンポイントで攻撃が当てられて居る。

メカニックのキッドはその有様を見て苦言を呈した。

 

「あ~あ~、派手にやってくれちゃって。修理に時間が掛かるぞ」

 

「だが完全に破壊した訳ではない。なんとか頼む」

 

「でも、そうなるとアンタの機体は後回しになるぜ?」

 

「それで良い。ある程度は自分でやるさ」

 

「あいよ。んじゃ、さっさと仕事に取り掛かるか!!」

 

言うとキッドは部下を呼び出し段取りを説明し始める。

アムロはその場を後にして、病室へ担ぎ込まれたティファの元へ向かう。

通路の進むその途中、腕を後ろに回され両手首に手錠を掛けられたガンダムのパイロット、ガロード・ランとジャミル・ニートがそこに居た。

足早に近づくアムロはジャミルに呼びかけた。

 

「キャプテン、彼女の容態は?」

 

「2日は絶対安静だ。フリーデンは暫くここに留まる」

 

「そうか。それで、キミがガンダムのパイロットだな?」

 

視線を交わすアムロとガロード。

でもガロードは鋭い目付きで敵意をむき出しにする。

 

「キャプテン、彼と話しても良いか?」

 

「構わんが、いつ逃げ出すかもしれん。営倉の中になるが」

 

「それで良い。鍵はあるか?」

 

言われてジャミルは上着から鍵を取り出しアムロに手渡した。

受け取るアムロはガロードを引き連れてこの場から去って行く。

そしてジャミルは病室のティファの元へと向かう。

通路を歩いて暫くすると、鍵に付けられた番号札と同じ部屋番を見付けた。

アムロは扉を開け、ガロードを中に居れると自分も一緒に入る。

壁に備え付けられた電源を押し、部屋の中に明かりが付いた。

 

「俺はアムロ・レイ。キミの事は何と呼べば良い?」

 

「言いたくないね。どうしてテメェなんかに!!」

 

「わかった、言いたくないならそれで構わない。こっちは少々聞きたい事があるだけだ」

 

「素直に応えると思う?」

 

「キミが言わないなら彼女に聞く事になる」

 

「っ!! ティファの事か!?」

 

「嫌なら応えるんだ」

 

脅迫じみたやり方ではあるが、質問に応えさせるにアムロはこれを選んだ。

抵抗しようにも、満足に動けないガロードにはどうしようもなく、悔しい表情をあらわにして頷いた。

 

「良し。まずは1つ目だが、このフリーデンは地球連邦のモノなのか?」

 

「はぁ? 何馬鹿な事言ってんだよ。地球連邦なんてとっくの昔に失くなってるだろ」

 

「だったらこの艦はジャミル個人のモノなのか?」

 

「そんなの本人に聞けば良いだろ? だからバルチャーなんてやってんだろ」

 

「バルチャー……なんとなくだが理解した。もう1つ聞くが、何で地球連邦は失くなったんだ?」

 

「アンタも変な奴だな。今の地球に生きてる人間で、そんな事聞く奴なんて1人も居ないぜ?」

 

「頼む、何もわからないんだ」

 

アムロの様子を見て、ガロードは少しずつ警戒心を解いて行く。

自身も言った様に、このような事を聞いて来る人間など初めてだし、冗談で言って居る様には見えない。

肩に入れて居た力を少し緩め、備えられたベッドに腰掛けまた口を開く。

 

「15年前の戦争。まさかコレも知らないなんて言わないよな?」

 

「続けてくれ」

 

「俺もそんな細かな事まで知ってる訳じゃないけどさ。宇宙で戦争してた地球連邦と宇宙革命軍ってのが居てさ。革命軍は勝つ為にスペースコロニーを地球に落としたんだ」

 

(15年前の戦争、宇宙革命軍、また知らない単語か)

 

「んでもって、地球は穴ぼこだらけになって、とても人の住める状態じゃなくなった。人間も殆ど死んじまって……」

 

(15年も前にそんな戦争はない。宇宙革命軍もな。だが地球の状況は大まかにはわかった。どうやら俺が思ってる地球とは違うらしい。それでも節々に共通点があるのが気になるな)

 

宇宙世紀0093、地球連邦軍とネオ・ジオンとの2度目の戦争。

少なくともその時の地球圏の状況とはかけ離れて居る。

考えるアムロだが、これだけの情報で結論を導き出す事は出来ない。

 

「あんた、アムロってんだろ? 見た感じ大人なのに、どうして知らないんだ? 俺でも知ってるくらいだぜ」

 

「そうだな……7年……」

 

「7年?」

 

「地球連邦のパイロットとして戦ってた俺は、戦争が終わった後に怖くなったんだ」

 

「怖い?」

 

「あぁ、笑うかい? それから7年、俺はずっと外に出る事もなく幽閉されて居た」

 

「7年も……それで……」

 

(上手く誤魔化せたと思いたいが……兎も角、情報を集めるしかないか)

 

区切りを付けるアムロは鍵を取り出し、ガロードに掛けられた手錠のロックを外す。

もう1度向けられるガロードの視線は、初めて出会った時と変わって居た。

 

「良いのか?」

 

「この部屋からは出さないがな。大人しくして居れば、ジャミルも出してくれるだろ」

 

「なぁ、ティファは大丈夫なのか? あの子、凄く苦しんでたんだ」

 

「彼女なら大丈夫だ。感覚が敏感過ぎて、受け止め切れなかったんだろ。あのガンダムのビーム砲でキミは窮地を脱したつもりだったのだろ? だが同時に大勢の人間が死んだ」

 

「でもそれは!!」

 

「わかってるつもりだ、必死だったんだろ。俺も昔はそうだった。でも彼女はそれに耐える事が出来ない。だからさ」

 

「俺の……せいなのか……」

 

「悲観する事はない。キミはこの時代を生き延びて来たんだろ? だったら――」

 

 

 

第3話 キミは今、何を為す?

 

 

 

うつ向くガロードに、アムロはこれ以上何も言わない。

静かに部屋から出て扉を施錠すると、ジャミルが居るであろう医務室を目指して歩いた。

 

(あの時ガンダムに乗ってから13年も経っちまった。当時の俺と比べたら、まださっきの少年の方がたくましい。昔の俺だとあぁはなれないだろ。俺はこの先、どう生き延びる?)

 

長い通路を歩きながらアムロは考えた。

行く宛もない世界で、何を支えにして生きて行けば良いのか。

かつてのスペースノイドはその支えを自ら作った。

ジオン公国、光さえも届かぬ宇宙でスペースノイドが心の支えにしたモノ。

そしてジオン・ズム・ダイクンの提唱してニュータイプ論。

人と人とが誤解なくわかりあえる存在。

その答えは自身で見つけるしかない。




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