「保護対象者の収容は完了しました。更正施設に移送し緊急セラピーを受けさせます。必要書類は……」
白い制服を着た救急隊員が、瀬川の元に駆け寄って報告しているのを、芹香と片山は少し離れた場所で見守っていた。
「規定値超過の色相って言っても、あーゆー落ち込み系の人間が相手だと、大人しく言うこと聞いてくれるし、なんかつまんねーな」
片山はスーツのポケットに両手を突っ込み、退屈そうに言った。
「そう? 仕事的には気楽でいいけどな。これ抜く必要も無かったし」
そう言うと、芹香は寄りかかっていたドミネーター運搬用の自走式カートをポンと叩く。
「待たせたね、お仕事完了だ。局に戻って報告書を……」
そう言いかけた瀬川の腕の監視官用デバイスに、緊急コールの表示が出た。
瀬川は芹香達に肩をすくめてみせながら、腕の端末を操作する。
「瀬川です。……はい、了解しました。このまま直行します」
新たな仕事の発生を予感して、芹香と片山は顔を見合わせる。
「出動ですか?」
芹香の問いかけに、瀬川は苦笑しながら頷いた。
「ああ、廃棄区画そばの倉庫群に不審人物がいると通報があった。あの辺りは監視の目をすりぬけた密航者とかも多いからね。ちょっと見に行こうか」
瀬川はそういうと、パトロールカーにホログラム偽装した普通車に乗り込み、芹香と片山は護送車へと移動する。
「片山がつまんないとか言うから、めんどくさそうな事案よんじゃったんじゃない?」
芹香はため息をつきながら、護送車に乗り込む。
「俺のせいかよ……」
芹香の言葉にむくれながら、片山もその後に続いた。
札幌港から車で10分ほど離れた場所に、小規模な倉庫群がある。
かつて漁業というものが存在していた時代には、陸揚げされた魚を取引したり、冷凍された魚を保管したりしていたその場所は、今では輸出業者の資材置き場として利用されているだけだ。
この倉庫群の向こうは、道路が封鎖され、かなり古い作りの鉄条網が張り巡らされていた。
そこから先は、廃棄区画となっており、公には一切の管理を放棄された場所になっている。
一般人の立ち入りはもちろん、外部からの上陸も認められていないが、実際は監視の目を盗んで不法滞在者が潜んでいる危険な場所でもあった。
現場についた芹香達は二手に分かれ、倉庫群を見回り始めた。
芹香は、瀬川と共に倉庫の中や細い通路をくまなく見て回ったが、それらしい不審人物を見つけることは出来なかった。
「片山、そっちはどうだった?」
出発地点に戻ってきた片山に、芹香は声をかけた。
「誰もいないぜ。通報してきた警備会社の奴、寝ぼけてたんじゃねーの?」
「こっちも同じ。今瀬川さんが警備室に、監視カメラの映像もらいに行ってる」
「はぁー早く帰りてーよ。とっくにシフト明けの時間過ぎてんだぜ」
芹香が腕のデバイスで時間を確かめると、時刻はまもなく午後3時になろうとしている。
日勤のシフト明けの時間からすでに30分が経過していた。
「片山君、その顔だと収穫はゼロだったようだね。監視カメラのデータもらってきたよ」
瀬川は片手に持っていたデータディスクを掲げながら、芹香達のいる場所へと戻って来た。
「とりあえず過去1週間分のデータはもらってきた。不審人物ってやつは、こいつらの事らしい。デバイスに転送するよ」
芹香達のデバイスから、映像ディスプレイが出現する。
そこに表示された画像には、黒づくめの男達が映っていた。
「あっ……」
芹香はそこに映る一人の男性を見て、思わず声をあげた。
「どうした?」
片山の問いかけに、芹香は慌てて首を振る。
「ううん、何でも無いの」
そう言いながらも、芹香は画像に映る男の姿をじっと見つめていた。
その男は紛れもなく、岩谷が殺害された日に、すれ違った車に乗っていた男だった。
「見るからに怪しい感じの男達だね。まずは局に戻って、映像の解析だ。さあ、帰ろうか」
瀬川はそう言うと、さっさと車に向かって歩き出した。
「おい芹香、行くぞ」
「うん、今行く」
片山に促され、芹香は護送車に向かって歩き出す。
(間違いない、あの男だ……)
芹香は、そう心の中でつぶやいた。