Paradise Lost   作:颯月りお

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 芹香の乗った車を見送り、村木は腕のデバイスに視線を落とした。指先でボタンを操作するとディスプレイに10件近い守秘回線のコール履歴が表示される。

 

「まったく……」

 

 守秘回線のコール履歴をうんざりしたような表情で見つめた村木は、ホログラムディスプレイに表示されたコール履歴を一括で削除した。

 ディスプレイ表示を消し、歩きだそうとした村木のデバイスに、再び守秘回線の通話要求を示すサインが表示される。

 数秒躊躇した村木だったが、渋々通信許可ボタンを押した。

 

「さっきから、しつこい奴だな。お前のコール履歴で画面が埋まってたぞ」

 

 相手のIDコードだけが表示されているホログラムディスプレイに向かって、村木が忌々しげに言った。

 

『彼女は今どこにいる? 犯人の要求にすんなり応じて、身柄引き渡しを認める局長では無いはずだ。何を企んでいる? 答えろ』

 

 通話相手の声は、明らかに怒りがこもっている。村木は相手に聞こえるよう、わざと大きなため息をついてみせた。

 

「お互いの作戦行動には干渉しない。それが俺達の暗黙の了解だろう」

 

『人の任務を、横から奪っていった奴に言われたくないな』

 

「あれは、不可抗力だ。解除コードを持参してきたのは彼女自身だし、彼女から岩谷の残したデータと解除コードの在処を聞き出すっていうお前の任務を邪魔する目的でやったわけじゃない。それにこの程度の事で、時間をかけすぎたお前も悪いだろう。まあいい、今回はサービスしてやろう」

 

 そう言うと村木は、芹香が去っていった正面ゲートに視線を向ける。

 

「彼女は犯行グループと決着をつけるために、さっき出て行った。いい顔をしていたよ。潜在犯じゃなけりゃ、うちにスカウトしたいくらいだ」

 

『一人で行かせたのか?』

 

「そうだ。それが彼女の提示した取引条件だからな。解除コードを渡すかわりに、単独で犯人確保に向かわせろってな」

 

『無茶だ! 犯行グループの武装レベルも、何人いるかも判らないんだぞ! 何故そんな無茶を許した!』

 

 この男が、ここまで怒りを露わにすることは珍しい。だがおそらく、彼の犯罪係数はほとんど上昇していないだろう。そういう面でもエリートであるからこそ、特務課の人間でいられるのだ。

 

「許すも何も、別に引き留める筋合いもない。これは彼女自身が望んで、それを局長が了承したんだ。別に問題はあるまい。それにもう解除コードを使ってロックは解除してある。たとえケーブル施設を全て破壊されても、こちらへの影響はほとんど無い。ならせめて、彼女の希望を聞いてやってもいいだろうとの局長判断だ。うまくすれば我々の手を一切汚さずに、犯行グループを始末できるしな」

 

『潜在犯ごときの命はどうなろうとかまわない、という事か』

 

「人聞きの悪いことを言うな。本当にどうでもよければ、ここまで彼女をバックアップしたりしない。成功を期待しているんだよ、一応な」

 

 この調子だと話が長くなりそうだと思った村木は、場所を移動することにした。周囲を見回し、シャッターの降りた資材倉庫に向かってゆっくりと歩き出す。

 

「彼女の考えた作戦は、素人が考えたにしては上出来だった。相手がうまく引っかかってくれればの話だが」

 

 資材倉庫の前にたどり着いた村木は、出入り口にある階段に腰を下ろす。

 

「それに彼女には、局長権限でドミネーターの使用許可も与えてある。いざという時の度胸もありそうだし、なんとかなるんじゃないか?」

 

『他人事だと思って、いい加減な事を……』

 

「いい加減じゃないぞ。俺も一応人を見る目はあるつもりだ。彼女なら、やれる可能性は十分にある。もっと彼女を信じてやれよ」

 

 村木の言葉を聞いたせいなのか、通話相手のわざとらしいため息が聞こえてきた。

 

『それも、お前には言われたくない。で、彼女の行き先は、最後に残ったケーブル収容施設なのか?』

 

「ここまで知られていちゃあ、今更黙ってる事もないか」

 

 村木はそう言うと、腕のデバイスを操作し暗号化したファイルを1つ転送した。

 

「彼女の移動ルートだ。今日は待機ポイントに向かって、後は犯行グループが出てくるのを待つ。おそらく明日か明後日には、犯人が動き出すだろうからな。だが、これを知ったところで、お前は手出しできないだろう?」

 

 5秒ほどの沈黙の後、再び相手の声が聞こえる。

 

『このまま黙っているつもりはない。俺もやれることはやる。余計な手出しはするなよ、村木』

 

「俺の任務はこれで終了だ。お前のやることに干渉はしないさ。せいぜい大事な部下を守ってやるんだな、瀬川」

 

 村木がそう言うと守秘回線は切れた。オフライン表示になったホログラムディスプレイを消し、村木は口元に笑みを浮かべる。

 

「局長相手にどこまで言い分を通せるか……。お手並み拝見と行こうか」

 

 そうつぶやいて村木は立ち上がり、芹香が使っていた部屋に戻るため、ゆっくりと歩き出した。

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