函館の海底ケーブル収容施設を爆破したあと、一時的に奥尻島近海へ移動していた竹下達の船は、10月24日の22時近くになって、室蘭沖に到着した。
最後の爆破地点、室蘭にある海底ケーブル収容施設をはるか遠くに望む海域に、ステルス偽装された船が停泊していた。
その船の艦橋で、海上レーダーを確認していた男が、山本に向かって報告をする。
「副長、周辺海域に怪しい船影はありません」
「暗視スコープでも、不審な動きは確認できません」
艦橋の窓際で外を偵察していた男も、山本に観測結果を伝えてきた。
「よし、偵察班を出せ。あとはいつもどおりに進めろ」
山本はそう指示すると、艦長席にいる竹下の側へ歩み寄る。
「いよいよ最後ですね」
感慨深げに言う山本に、竹下は微かな笑みを口元に浮かべる。
「7カ所か……。始める前は多いかと思ったが、実際はあっという間だったな。公安局の抵抗が、ほとんどなかったせいもあるが」
「その点は不安要素ですね。公安局の反応が悪すぎる。結局、北条芹香の身柄引き渡し要求には返答をよこしませんでしたし。正直、本当にこれがシビュラシステムの回線として利用されているのか不安にさえなります」
「だが、先日の調査で、ノナタワーから出力されている電波がダイレクトに到達するのは、せいぜい関東周辺までという結果が出た。そこから先は中継アンテナを経由させているが、北海道方面まで中継させるアンテナは存在しない。衛星も使っていないとなると、やはりケーブルによる有線回線しかありえない」
「はい。それに苫小牧の施設が、復旧作業を本格化し始めました。作業の様子からみて、この場所はやはり専用回線のケーブルが通っていたのではと思います」
タブレット端末に指を滑らせながら山本が言った。端末の画面に、最大望遠で撮影した画像が現れる。数台の建設作業用大型ドローンが作業をしている様子が映っている画像を見ながら山本が話を続ける。
「この様子だと1週間もあれば工事は終了するでしょう。しかし明日システムがオフラインになったあと、1週間も放置しておくとは考えにくい。まだどこかに、予備回線でも隠し持っているんでしょうか?」
「有線で接続可能なルートは、これで全部のはずだ。こちらの知らない予備回線があるとは、考えにくい」
山本の言葉を聞いて、竹下は難しい顔をして腕組みをする。
「システムがオンラインになっていないと、街中に設置されている簡易色相スキャナはもちろん、一般市民が持っている携帯色相チェッカーも使い物にならなくなる。オフライン状態を、一般市民に1週間も隠し通すことは不可能だろう。ましてや、システムがオフラインになっていることを一般市民が知れば、混乱が起きる事も公安局は予測しているはずだ。それでも、大きな動きが無いということは、何らかの形でオンラインを維持する術を持っているとでも言うのか?」
「一般市民を欺ける程度の処理が出来るシステムが、北海道支部の中に用意されていると見るのはどうでしょう。一般市民が使う携帯色相チェッカーの演算処理だけでもなんとかすれば、ごまかせると考えているのかもしれません」
山本の推理を聞いて、竹下はしばらく考え込む。。たしかに、街頭スキャナが正常に稼働していなくても一般市民は気づかないだろう。その程度の処理が出来るシステムなら、公安局内に用意されている可能性はゼロでは無い、と竹下は思ったが、どうも胸にひっかかるものを感じていた。
「一般市民は欺けても、犯罪者の対応はどうする。オンラインになるのを待って、一斉検挙でもするつもりなのか。しかし犯罪者を野放しにするような状態を、1週間も公安局が放置するというのも考えにくい。そこはどう考える、山本?」
竹下は眉間にしわを寄せながら、そう言うと山本に視線を移した。
「そうですね……。あとは、処理の遅延を覚悟の上で、東京から何台も中継器を経由して、なんとかオンライン状態を維持する……というところでしょうか」
「我々の思考では、この程度の考えしか浮かばないな。だが明日最後の施設を爆破すれば、システムがオフラインにはなるはずだ。オフラインになれば、公安局など恐れることはなくなるが、警戒するにこしたことはない。市街地への侵攻部隊には油断するなと伝えておけ」
「了解です」
山本は頷くと、視線をコンソール席に向けた。
「状況はどうなっている?」
「偵察部隊の船は、目標地点に到達しました。これより飛行偵察ドローンを使用して、上空から施設周辺を調査するとのことです」
通信用インカムをつけた男が、山本に答えた。
「これで周辺を厳重に警備していれば、公安局もやっと本気を出したと言えるんですが」
山本は、ふたたびタブレットに視線を落とす。
「重要施設という認識があるなら、国境警備用のドローンが配備されていてもおかしくないはずです。しかし、これまでの施設は、市街地に配備されているような警備ドローンが数体に、せいぜい監視カメラという防犯体制でしたから」
「そうだな。本気でこの施設を重要視しているのなら、そうなるはずだが」
重要施設のはずなにに、あまりにもお粗末な対応が続いていることで、竹下は、公安局の意図を掴みかねていた。
「副長! 外部からこちらの周波数へ強制的に割り込みをかけてきた通信が入っているのですが……」
困惑したような表情で、インカムをつけた男が山本に声をかけた。
「外部からだと? いったい誰からだ?」
「それが相手は、北条芹香と名乗ってまして、こちらの一番偉い人間と話をさせろと……」