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運転席のシートに体を預けたまま、瀬川は腕組みをして考え込んでいた。
昨日局長から、専用回線に障害が発生した場合には、捜査権を一係に与えるとの確約は取った。問題はその後、どれだけ迅速に動けるかだ。
おそらく芹香も最後の1回線が生きているうちに決着をつけるつもりだろう。だとすれば動き出すのは、爆破前のはずだ。
それにも関わらず、回線がオフラインになるということは、芹香が爆破を阻止出来なかった、つまり相手をうまく仕留められなかったということだ。
とすれば、回線がオフラインになった時点で芹香は、相当危険な状態に陥っている可能性が高い。タイムロスを極力減らし、迅速に動かなければ、手遅れになる。
けれど、爆破予定日時も判らない状態では、事前準備も何一つ出来ない。捜査権を与えられても、すぐに動けない可能性もある。
「局長も、相当食えない奴だな……」
おそらく局長の見せた最後の笑みは、これを見越しての事だったに違いない。
「せめて、爆破予定日時が判れば、こっちもあらかじめ手を打っておくことが出来るんだが」
そう独り言をつぶやいた時、瀬川の監視官デバイスから電子音が鳴った。
ホログラムディスプレイに表示された通話要求のサインは、通常のものではなく、特務課用の守秘回線のものだった。そして表示されているIDナンバーも瀬川には見覚えがある。
「何の用だ、村木」
瀬川の不機嫌そうな声を聞いて、村木が小さく笑ったのが判る。
「ずいぶんと機嫌が悪そうだな。そんなんじゃ、鉄壁のクリアカラーを誇るお前の色相だって、さすがに濁るぞ」
お気楽な口調で言う村木の一言が、余計しゃくに障ったが、瀬川は平静を装って話を続けた。
「別に機嫌が悪い訳じゃない。任務終了で浮かれてるお前と違って、こっちは忙しいんだ。何か用か?」
「そんなお前の機嫌が、多少改善しそうな情報を入手した。聞きたいか?」
「もったいつけるな、何だ!」
瀬川は眉間にしわを寄せ、語気を荒くして村木に問いかけた。
「最後の爆破予定日時が判った。10月26日午前0時。今日の真夜中だ」
村木の言葉に、瀬川は息をのむ。
「それは、本当なのか?」
瀬川はデバイスに表示されている時間に視線を向ける。今は25日の午前10時過ぎだ。爆破予定日時まで、もう24時間を切っている。
「ああ、お前のかわいい部下に使わせている車に、盗聴器をしかけておいた。彼女と犯行グループの会話から得た情報だ」
「そのへんは、抜かりないな村木。北条君は、犯行グループと直接接触したのか?」
「いや、直接じゃない。彼女には、傍受した通信に強制割り込みをかけて、相手との通信を可能にする最新型の軍用無線機を与えてある。犯行グループが仲間内で通信してるところに割り込んで、トップと話をさせろって言ったんだよ」
「ずいぶん大胆なことを……」
そう瀬川は思ったが、爆破予定日時まで犯行グループから聞き出せたということは、それなりに、この策はうまくいったのだろう。
「犯行グループのトップ相手に、堂々としたもんだった。彼女の見事な演技力、聞かせてやりたかったよ。もっとも俺は、素の彼女を知ってる分、笑いを堪えるのが大変だったがな」
「演技力だと?」
「ああ、彼女の話し方だと堅苦しくて、敵も警戒する。相手をちょっと油断させるような口調で話すように、俺がアドバイスしておいたんだ」
普段の芹香なら、真面目なきっちりした話し方をする。それが相手を油断させるような話方をするというのは、どういう事なのか、瀬川は今ひとつ想像できなかった。
「で、向こうとどんな話をしてた。爆破の日時を聞き出しただけじゃないんだろう? ここまで話したんだ、知ってることは全部吐け」
「判ってるよ。彼女は自分が持ってるデータを買い取れと要求して、向こうはそれを承諾した。取引場所はケーブル収容施設の地上管理棟だ。爆破予定時刻より前には行くと言っていたが、はっきりとした時間は伝えていない」
「取引をすると呼びつけておいて、そこへ一気に乗り込むつもりなのか、北条君は。しかし、相手が何人いるかも判らないのに無謀すぎる」
「犯人グループだって、いくらなんでもあの場所に百人単位の人員は投入しないだろう。一応ドミネーター以外の装備も渡してあるし、彼女だってドミネーターの発射可能弾数は把握しているはずだ。うまくやってくれることを祈るさ」
確かに、もう全ては動き出している。今考えるべきは、リスクを最小限に抑える手立てだと、瀬川は思った。
「とにかく、もうあまり時間は無い。なにかするつもりなら、さっさと動いたほうがいいぞ」
「お前に言われるまでもない」
「だろうな。俺はこれ以上動けん。後は任せる」
「ああ。爆破日時が判っただけでも大助かりだ。感謝するよ」
「今回の件で多少の負い目もあるしな。しっかりやれ」
次の瞬間、ホログラムディスプレイに通信終了の表示が現れ、数秒後に消えた。
瀬川は、村木と会話をしながら考えていた策を、もう一度頭の中でシミュレートし、車の外に出る。
駐車場を急ぎ足で突っ切り、エレベーターホールに向かう瀬川が目指していたのは、真里亜のいる分析室だった。