「はい、みんな注目!」
そう言って瀬川は、にこやかに手を叩いた。日勤と第二当直のシフト交代が行われる午後2時30分。一係はひさしぶりに全員が勢揃いしている。
「長いこと現場を離れて治療に専念していた北条君ですが、本日の第二当直シフトから無事に現場復帰することになりました。はい、拍手!」
瀬川の合図で、一係の室内に拍手の音が響いた。今までなら、この手の軽いノリに付き合うことのなかった三波でさえ、真面目な表情のまま手を叩いている。
「やめてください、瀬川さん。本気で恥ずかしいじゃないですか」
自分の席で貯まったメールや資料をチェックし始めた芹香が、いきなりの瀬川の言葉に困ったような表情を見せた。
「いいじゃねーか、芹香。めでたい事なんだしさ。お前がいないと、難しい話されたとき、教えてくれる奴がいなくて不便だったんだよ。牧野じゃ役にたたねーしさ」
片山の言葉を聞いて、牧野が傍らにあった缶コーヒーの空き缶を投げつけ、それが片山の額にクリーンヒットする。
「痛ってー! 何すんだ牧野!」
「自業自得」
そう一言だけ言うと、牧野は片山から顔を背けた。
「芹香、何とかしろよ、こいつ」
「今のは牧野が怒って当然。空き缶は、ちゃんとゴミ箱に捨ててきなさいよ片山」
芹香の言葉に、牧野が勝ち誇ったような顔をして、片山を挑発する。
「その言い争いも、久しぶりに聞くと、新鮮だな」
いつもなら、片山と牧野の言い争いを窘める高峰が、今日は二人を止めることなく見守っている。
「いつものケンカはそれくらいにしてもらって、北条君には復帰の挨拶してもらおうかな。はい北条君、起立!」
有無を言わせぬ瀬川の笑顔を見て、芹香はあきらめてその場に立ち上がった。
「えっと……いろいろとご心配をおかけして、申し訳ありませんでした。今日からまた一係の執行官として……」
芹香の言葉は、通報アナウンスに突然遮られた。
『エリアストレス上昇警報。 東24エリアにおいて規定値超過のサイコ・パス色相を計測。当直監視官は執行官を伴い、直ちに現場へ急行してください』
警報音と共に機械的な女性の声がフロア全体に響き渡る。
「残念、北条君の挨拶はまた今度ということで、出動するよ! 三波さん、後はよろしくお願いします」
そう言うと瀬川は、レイドジャケットを片手に、廊下に向かって歩き出した。
「了解した。全員気をつけて行ってこい!」
前まではそんな事を言ったためしがない三波監視官の言葉に、少し驚きながらも、芹香は防寒用のフライトジャケットを手に、瀬川の後に続く。
「いってらっしゃい、北条先輩!」
にこやかに手を振る牧野に、片手をあげて見せ、芹香は一係のオフィスを出た。
「また、よろしく頼むぜ相棒! やばそうな時はサポートしてくれ」
そう言って拳を突き出す片山に、苦笑しながら芹香も拳をぶつける。
「やばくならないように、気をつけなさいよ」
芹香の言葉に、片山は肩をすくめて苦笑いをしてみせた。
これからもこの場所で、芹香は執行官を続ける。
シビュラシステムが作り上げた、この”楽園”を守る為に。
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これにて、ハーメルンへの投稿は一応終了いたします。
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