ディスプレイに表示された日本地図を見つめながら、竹下浩三は腕組みをしたまま黙り込んでいる。
画面上では、東京と札幌を結ぶラインが、赤く点滅を繰り返していた。
「現状は、手詰まりですね。岩谷に死なれたせいで監視が厳しくなり、この3年シビュラシステムの専用回線についての、新たな情報は何もつかめなかった。」
竹下の向かいに座っていた、山本武が残念そうに言った。
「今のところはな……」
そう言うと竹下は、テーブルの上に置かれた煙草を手に取った。
「シビュラシステムとの通信は、膨大な量のデータを超高速かつセキュアな状態で行う必要がある」
咥えた煙草に火をつけ竹下は、深く息を吸い込んだ。
「システム本体と距離の関東周辺ならともかく、距離の離れた北海道でもまったくのタイムロスなくシステムは機能しているんだ。必ず何か大きな仕掛けがある。そのヒントはおそらくコレだ」
竹下はテーブルの上に置かれた紙の束に手を置いた。
「この間入手した、岩谷宗一郎が書いた論文ですね。品質を微塵も劣化させることなく、超高速で遠隔地と大容量通信ネットワークを確率する技術の実用化について書かれた」
そう言うと、また山本はため息をつく。
「岩谷から何も聞き出せなかったのが、やはり痛かったですね。まさか自殺用の電極を身体に埋め込んでいたとは」
山本の言葉を聞いて、竹下は口元に笑みを浮かべた。
「確かにあれは予想外だった。しかし彼はこの論文の他にもいろいろヒントをくれていた、気づいていたか?」
「ヒント……と言いますと?」
「彼はたいそうな仕掛けをして、パソコンが爆発するのを我々に見せつけた。あたかも彼が持っていたデータを破壊によって消し去ったと印象づけるようにね」
「違うんですか?」
「実際に入っていたのかもしれないが、彼の本当の目的は、我々にもうデータは無いと思わせる事。そうすれば今のデータの持ち主に危害が加わる可能性が減る」
煙草の吸い殻を灰皿に押しつけ、竹下は厳しい表情を見せた。
「おそらく、このシステムに関する全データを持っている人間がいる。それが誰なのか、見当もつかないがね」
山本に苦笑いして見せ、竹下は再び煙草に手を伸ばす。
「ようやくほとぼりが冷めて北海道に戻ってこれたんだ。我々が次に取るべき手は、生前の岩谷の交友関係、接触のあった可能性のある人物等を徹底的に洗い出すことだろうな」
「判りました。人員を岩谷の身辺調査にまわさせます」
「そうしてくれ。同時にこの論文を元に考えられる専用回線構築システムを検討しよう。そこが糸口になるかもしれん」
「わかりました」
山本が現状使える人員のリストをチェックし始めるのを横目に、竹下は再び煙草に火をつける。
「どんな仕組みで機能しているのかが判るというのは、まだ第一段階だ。我々の真の目的は、東京のシビュラシステムと北海道のリンクを完全に切断すること。そうすれば……」
そういうと竹下は、深く息を吐いた。
「北海道を完全にシビュラシステムから切り離すことが出来た時、この北の大地がシステムに統制された世界から解放され、本当のパラダイスになるんだよ」