東方屍姫伝   作:芥 灰仁

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急変

それは鬼が地底に来てから、一ヶ月ほどたった事だった。

 

 

「さとりぃー、斬乂に浮気されたぁっ!!」

 

雪は涙を流しそう叫びながらさとりの屋敷、地霊殿の中にあるさとりのいる部屋に訪れた。

さとりは何事かと思いながらため息をつき、筆を置く。

そして、勢いよく扉を開け中に入ってきた人物の方に目を向けた。

 

「……藪から棒になんですか」

 

「だから、斬乂に浮気されたんだよぉ!」

 

いやそれはさっき聞いたと言わんばかりにさとりはため息をまた吐く。

さとりには雪の心が読めないので、口に出して貰わないといけないので面倒だと思いながらも、とりあえず座れと真新しいソファに座る様に勧めた。

雪は勧められるままにソファに座り、目から溢れる涙を拭きながらグスグス泣いている。

本当に面倒ごとがやって来た、と思いながらさとりは雪の正面に座った。

 

「で、斬乂さんが浮気されたと言いますが、なぜ私のところに来るのですか?」

 

「ふんっ、家出してきてやった!」

 

「……だからって私の所に来ないでくださいよ」

 

さとりはそう言うも、雪は聞いていないのか浮気された事に嘆きながらぶちぶちと文句を言い出していた。

 

「というか聞いてくれよっ! 私というものがありながら斬乂の奴ってば、金払って風俗なんか行きやがったんだ!」

 

「はぁ……」

 

そりゃ酷い、明らかな浮気だ、と思っても口には出さない。

絶対にここで下手に同調したら面倒くさいことになる。

そうだろと更に怒り、長引くだけだ。

さとりはそう思いながら適当な返事を返すが、雪は言葉を続ける。

 

「風俗だぞ風俗っ! 金払ってとか明らかに確信的な浮気じゃないかよぉ……」

 

雪はそう言い、呻きながら顔を伏せる。

そしてサメザメと泣き出す。

さとりはそんな惨めな雪を見て、ちょっとだけ同情する。

そして、ほんの少しだけ話してみることにした。

 

「雪さん、それは実際にお店から出てくるところを目撃したのですか?」

 

さとりは雪の方をチラリと見ながらそう尋ねる。

本当は目を見て話すべきだが、さとりにとっては雪の心を読むということは雪の中に巣食う怨霊の声を読むということになる。

地底に来て怨霊の管理をする事になったと言っても、未だに雪の中に大量に巣食う怨霊を見る事は慣れないので、さとりは雪の方をまともに見ることが出にない。

まあ、目をそらしてもそれらの声は普通に聞こえてはくるので、気休め程度にしかならないが。

 

雪はさとりの言葉に顔を上げ、よくわかったなと言いたい様に首を振る。

そして、その反応を見てさとりはやっぱりと言う。

 

「ま、まさかさとりも斬乂がそういう店から出てくるところを見たことが……」

 

「違いますよ」

 

雪の慌てふためく姿を見てさとりはため息をつく。

 

「おそらく、それは仕事の一環ですね」

 

「……ど、どういうこと?」

 

さとりは首をかしげる雪を見て口を開いた。

 

「斬乂さんは旧都の管理を任されているではないですか。おそらくそれの見回りでお店に寄っただけですよ」

 

「そうなの……?」

 

グスッと鼻をすすりながら首をかしげる。

そんな反応をする雪を見て、さとりはたぶんですがね、と言う。

その言葉に雪はホッとするように力を抜いた。

 

「よかったぁ……なら浮気はされて……」

 

「まあ仕事とは別で、利用するために寄ったかもしれませんが」

 

「ひぐっ……」

 

さとりの言葉にせっかく安心した雪は、再び泣き出す。

コロコロ変わるなー、と思いながら冗談ですとさとりは言う。

 

「流石にそこまで斬乂さんは尻の軽い人じゃありませんよ」

 

「いやでも……」

 

また愚図り出したところを見て余計な事をいったなぁ、とさとりは呆れる。

まぁ、尻が軽いと言っても斬乂は女にだらしがないので浮気の是非は確信を持って否定はできない。

しかし、ここで変に愚図られて滞在されては鬱陶しいので早く出て行って欲しい。

ので、帰って欲しい。

むしろ帰ってください。

 

「結婚してもう二百年近くは経つし……、私に飽きて……」

 

どうやら既に遅かったらしく、雪が愚痴り始める。

さとりはネガティブに呟き出す雪を見て、本当に余計な事を言ってしまったと思いながらフォローする。

 

「大丈夫ですよ、雪さんが斬乂さんの事をちゃんと好きならば、斬乂さんも雪さんの事を好きに決まってますから」

 

「でも……私、おっぱい小さいから飽きられても……」

 

あぁ言えばこういう……。

面倒くさい女だ。

さとりはそう思いながらどうするかを考える。

 

「まあ、そんなに気になるなら本人に聞けば良いんじゃないですか?」

 

「け、けど、本当の事を言ってくれるかどうか……」

 

「……なら、飽きられない様に努力でもしてください」

 

だから早く帰れ。

そう思いながらさとりは若干投げやりな答えを返すが。

 

「うぅ……かくなる上は八雲に頼んで、子供を作って……」

 

雪はかつて紫に言われた事を思い出しながら、どうすれば飽きられないかを考え出す。

そんな雪を見て、だから帰れよ、とさとりは思う。

てか、願う。

 

 

「な、なぁ、さとり。私と浮気しないか?」

 

「……はぁ?」

 

悩んでいる雪を傍らに見ていたら、突然その様な事を言い出してきた。

あまりにも唐突な申し出にさとりは思わず声を上げてしまった。

何をこいつは言い出す、と言いたげな顔をしながらさとりは間抜けな顔をした。

 

「い、いや……もし斬乂が浮気したなら私もしようかな、と……。そしたら、斬乂も嫉妬してくれて……」

 

「……バカですか」

 

イコールも何もない考えにさとりは呆れる。

例え、雪の浮気に斬乂が嫉妬するとしても自分を巻き込まないで欲しい。

 

「雪さん、私を巻き込まないでくださいよ……」

 

「だ、だってぇ、そういう事を頼めるのはお前くらいしか……」

 

「お断りです、面倒くさい」

 

やっぱりかぁ、と言う雪。

そんな落胆する雪を見て、さとりは逆にどうして女同士で、それも友人と浮気の真似事なんてしないんだと言ってやりたくなった。

てか、女同士で浮気ってなんだ。

男としてろ、それか知り合いに男がいないなら男でも買ってろ、とさとりは思った。

そして、雪にそういう度胸がない事は知っているので口に出しては言わないが、とも思う。

 

「というか、そんなに心配なのなら四六時中くっついていれば良いじゃないですか……」

 

「うぅ……、だって斬乂は仕事で忙しそうだから邪魔するのは……」

 

「はぁ……」

 

さとりは雪のその言葉にため息をつく。

確かに斬乂は地底に来てから、旧都の管理を任されたり怨霊らの管理を任されてはいる。

だから、その邪魔をしてはいけないというのもわかる。

だけど、邪魔しなければ良いのでは?

むしろ妻として仕事を手伝えば良いのではないだろうかとさとりは思う。

そしてその旨を雪に伝えると、雪は恥ずかしながらも口に出す。

 

「その……前に一度手伝おうとしたら、結局イチャイチャしちゃって……そのまま始めちゃったら仕事にならなくて……」

 

惚気か、さとりは呆れながら恥ずかしながらも語る雪を見る。

結婚して二百年も経つのによくそんな長持ちするものだ。

というか、そんなにイチャイチャできるのなら別に浮気の一つや二つくらいあっても良いのでは?

別に愛されていないというわけでも無いのだから。

さとりはそう思いながら呆れる。

そして言う。

 

「なら、ストーキングでもなんでもして浮気できない様、手綱を掴んでおいてください」

 

だからもう帰ってくれ。

さとりは真摯に願う。

自分も地底に来てから仕事が増えたのだから早く帰れと願う。

しかし、次の雪の言葉に更に呆れる。

 

「ストーカーとかしてたら、斬乂に抱きつきたくなっちゃいそうで……」

 

「……本当に貴女はああ言えばこう言いますね」

 

雪の惚気を聞くとさとりは遂に口に出して言ってしまう。

しかし、雪はさとりのその言葉にだって……、と文句を言う。

 

「そんなに心配なら大人しく家で、床の準備でもして待ってれば良いんですよ」

 

股濡らして待ってろ、とも言いたくなったが流石に下品なのでさとりはそこまでは言わない。

さとりのそんな投げやりな言葉に雪はうぅ、と呻きながらそうすると首を縦に振る。

 

「で、でも……今日の夜に帰って来なくて……そのお店に通ってたら……」

 

振り出しに戻った……。

さとりは段々とイライラとしてきた。

話がまた最初に戻った、と。

またあの面倒くさいやり取りをやり直すのか、と考えるとさとりは呆れを通り越して笑えてきた。

まあ、実際には笑えないが……。

むしろ泣けてきた。

そして真摯に願う。

 

「もう今日は帰ってください……。それで、もし本当に浮気してたのならまた相談に乗りますから……」

 

もう今日はなんか疲れた。

そう思いながら追い払う様にさとりは言う。

さとりの言葉に雪は元気のない返事でうん、と首を振る。

そして、雪は席から立ち上がり帰ろうとする。

 

あぁやっと帰ってくれるか、とさとりは思い安堵する。

そして雪を見届けようとさとりも同じく席を立とうとすると雪がポツリと口を開いた。

 

「その、いきなり来てごめんな……」

 

恥ずかしそうに頰を掻きながら雪は言う。

一様、悪いとは思っていたのかとさとりはため息を吐くが、そんな素直な雪の姿を見て、さとりは微笑んだ。

 

「いいですよ、友達じゃないですか」

 

さとりのその言葉に雪は嬉し恥ずかしそうに微笑む。

さとり自身も自分の言葉に若干げに恥ずかしさを覚え、雪から目を逸らした。

そして雪のその微笑みを見て、ほんのたまにだが愚痴くらいは聞いてやろうと思っていた。

そう、思っていた。

 

 

 

「では私は、夕飯を作りながら斬乂の帰りを待つ事……に…………」

 

 

ドサリーー

 

鈍い音が部屋に響いた。

その音は突然と人が倒れた音で、そこには雪がうつ伏せに倒れていた。

 

 

 

「ゆ、雪さんっ!?」

 

 

さとりは倒れた雪の側に駆け寄ったーー

 

 

 

 

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