東方屍姫伝   作:芥 灰仁

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私は勢いよく飛び上がるように、身体を起こした。

はぁはぁと息を吐きダラダラと汗を垂らす私は呼吸を整えながら周りを見回す。

 

薄暗い部屋で灯りはなくて月光だけが頼りな部屋に私は居た。

そして、私の隣には全裸で寝ている愛しの"あの人"がいた。

 

「んにゅ……雪ニャン起きちゃったんですかぁ……」

 

私の突然の飛び起きに目が覚めたのか、愛しの"あの人"は目を擦りながら、うすら目で同じく全裸の私の方を見つめてきた。

 

「あぁ……、目が覚めてな」

 

「ふふ、怖い夢でも見ましたか」

 

私の言葉に愛しの"あの人"は笑って答えてくれた。

私はその笑顔を見て、安心すると同時に不安になってしまう。

そんな笑顔を見て、私はあの"最悪な夢"での出来事を思い出した。

 

「■乂……」

 

私は愛しの"あの人"に抱きつくように密着した。

互いに生まれたままの姿なので、くっつくと体温やら匂いやら柔らかさなどを直に感じ、変な気分になってくる。

しかし、私は丁度いいと思いながら擦り付けるように愛しの"あの人"の裸に抱きついた。

 

「どうしたんですか?」

 

「なぁ、斬■は……私の事を愛してるか?」

 

私が甘えるように愛しの"あの人"に寄り付いてそう尋ねると、愛しの"あの人"は急な言葉にポカーンとするも、すぐに微笑んで私の頭を撫でてくれた。

 

「えぇ、愛してますよ。すっごく愛してます」

 

「……あぁ、知ってる。私も愛してる」

 

愛しの"あの人"の言葉に私は顔をニヤけさせながら返し、さらに力強く抱きつく。

そして愛しの"あの人"の顔に口を近づけた。

しかし、その行動は愛しの"あの人"の手によって止められた。

 

「雪ニャン、寝る前にしたばっかですよぉ?」

 

「……うるさい、抱け」

 

私はそう言いながら私の頭を制止させた手を退けて、愛しの"あの人"にキスをする。

そして、貪りつくように舌を舐めまわした。

 

10秒ほど私が口を押し付けていると、愛しの"あの人"は私を引き剥がすように肩を押す。

 

「うへへ、気絶するほどされたのに、まだ求めるなんて雪ニャンはイケない子ですねぇ」

 

愛しの"あの人"がそう言うと、今度は愛しの"あの人"が私の唇を奪い、空いている両手をそれぞれ私の胸と股に持ってくる。

愛するように撫でられ、私は小さく喘ぎながら、さらに望むように愛しの"あの人"に身体を押し付ける。

 

「わ、わたしを……こんな風にしたのはお前のせいなんだ……。おまえが好きだから、わたしは、こんな……」

 

「ありがとうございますねぇ、お礼にいつもよりじっくりして上げますねぇ……」

 

「……う、ん」

 

私が愛しの"あの人"の大きな乳房に顔を埋めながらそう言うと、さらに私を触る手がイヤらしくなる。

私はその快感の変化を感じながら愛しの"あの人"に身を委ねた。

 

そして行為の最中にふと言う。

 

「うひ、雪ニャンは本当に可愛いですねぇ」

 

愛しの"あの人"の言葉に私の乙女はさらに疼き嬉しくなる。

そして、喘ぎながらも震えた声でお礼を言おうとすると、愛しの"あの人"が続けて言葉を言ってきた。

 

 

 

「でも、そろそろ飽きてきたので捨て頃ですかね?」

 

 

突然と、愛しの"あの人"は私の事をゴミを捨てるのと同じ感覚で言ってきた。

 

私はその言葉に、愛しの"あの人"にかけようとしていた言葉を詰まらせて愕然とした。

私は信じられない様な物を見て、愛しの"あの人"を見た。

しかし、愛しの"あの人"は続けて言葉を言ってくる。

 

「いやぁ、都合良く私にだけ股を開いてくれるのは嬉しいんですが、そろそろ雪ニャンの反応にも飽きてきちゃって」

 

愛しの"あの人"はいつの間にか私に対する愛撫では止めており、私を覚めた目つきで見てくる。

私はその愛しの"あの人"の言葉に信じられない事を伝えるため口を開いた。

 

「な、なんで……私の事を愛してるって……」

 

私が、そう尋ねようとすると先ほど見た夢と同様に、辺りが暗闇に染まる。

 

そしてそんな中でいつの間か愛しの"あの人"は普段から着ている煌びやかな着物を着ており、私は私で全裸のまま膝をつき愛しの"あの人"を見上げていた。

 

愛しの"あの人"はそんな暗闇の中で私に冷たい目を向け、私の言葉に対する返答をした。

 

「あー、それは雪ニャンの身体に、って事で雪ニャン自体にはそんなに執着はないからですねぇ」

 

「……え」

 

「私ぃ、見た目とえっちの時の反応が可愛い女の子だったら誰でもいいんですよねぇ。でもぉ、雪ニャンは長いこと抱いて飽きちゃったので、もういらないでーす」

 

「な、なんで……そんな事を……」

 

私を見下す"あの人"に震えながらも声をかけると、"あの人"はさっぱりと言い放った。

 

 

「でも良いじゃないですか? 雪ニャンも愛してくれる相手なら、誰でもいいんですよね?」

 

愛されれば、誰にでも身体を許す変態の癖にーー

 

 

その言葉は先ほど見た夢と同じ様に■紅と同じ様な言葉を言い、私の脳裏にその妹■の声が浮かんできた。

 

私は先ほど見た"夢"と同じ様なその言葉を拒絶する様に、みっともない姿のまま口を開く。

 

 

「■■はっーー、■■はそんなことは言わない!! こんなのまた夢に決まってるっ!!」

 

「えぇ、そうですね。けど……」

 

夢。

やはり夢だった。

人間の時のも、茜の為に生きた頃のも、■■と旅をしたのも、今見てた■■との夜伽も全部、夢だった。

ならば、私が今まで妖怪として生きてきたのは全部夢で、"白鷺 雪"という存在も夢だけの偽りの存在で……。

 

「これが"現実"だったんですよ?」

 

「違う……」

 

「貴女が白鷺 茜を好きになったのも」

 

「違う……」

 

「貴女が妖怪になったのも」

 

「違う……」

 

「貴女が意味の無い殺しを続けたのも」

 

「違う……」

 

「貴女が友を捨てたのも」

 

「違う……」

 

「貴女が孤独を埋める為に結婚したのも」

「違うっ!! 全部、悪い夢なんだ!!」

 

私が■を好きになったのも。

私が妖怪になったのも。

私が意味の無い殺しを続けたのも。

私が■■と旅をしたのも。

私が■■と結婚したのも。

全部、全部夢なんだ。

 

本当は私"白鷺 雪"なんて存在は私の妄想で、本当は私は"桜井 命"でトラックになんかには轢かれてなくて、ちょっと長い夢を見ているだけなんだ。

こんな、過去に転生したとか妖怪になったとかそんな夢見物語があるはずがなかったんだ。

 

だから、こんな夢は早く醒めろ……。

こんな意味のわからない夢は早く覚めて、あの"平和"だった世界に、暮らしに、私を返してくれ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、そうだね。こんな悪い夢からは早く醒めるべき哉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声は、■■の声ではなかった。

それどころか■■の姿はいつの間にか消えていた。

そして、私は暗闇の先から伸びてきている変な札の巻きつく幾つもの鎖に全裸で縛られていた。

まるで封じられる様に縛られていた。

 

私がこれはなんだとジタバタと暴れているそんな時、その声が聞こえた。

 

「怖かったよね、妖怪に殺されて、人に否定されてくる人生は」

 

その声はいつの間にか私の目の前に現れた"狐面"の人物から発せられたものだった。

その"狐面"の人物は、男物の着流しを着ており、髪の毛が肩にかかるくらいの長さの黒髪の女性であった。

いや、女性というより私と同じ位の身長で少女と言える。

しかし、胸のそれは少女とは言えないほどの大きさで結構大きい。

 

その"狐面"の少女に、私は見覚えがあった。

かつて、"白鷺 茜"を生き返らせようと、私が能力に目覚めた時にキッカケを与えた女だ。

 

「……おまえ、なんだよ」

 

「ボク? ボクは神様さって前に言ったよね?」

 

「なわけないだろ……、何処に殺しを勧める神様がいるんだよ……」

 

「はは、ボクはただ白鷺 茜が生き返るかもって言っただけで殺し云々は君が勝手に勘違いしてやり出したことだよ」

 

その"狐面"は鎖に縛られて身動きの出来ない私の顔を覗き込む様に見る。

私はそんな言葉にイラつきを感じた。

 

「それに、実際に生き返った様に動いただろ? 君の能力で傀儡の様に操って」

 

「き、貴様っ!!」

 

私は耐えきれずに怒鳴り散らした。

その言葉は私の今までの全てを否定するものに等しい。

力を手に入れるまで殺されて、拭いきれないほど血で手を汚して、生き返る事のない■を、■を……。

 

「でも、君にとってもそんなに悪いものではなかったはずだ?」

 

「…………」

 

「殺す為に鬼子母神に挑み、籠絡されて愛すべきものができた。どうだい、あれも一種の女の幸せだとは思うが? えーと……彼女を想い続けたのが五百六十七年とイチャラブ期が二百三十一年で……合計七百と九十八年も好きだという感情を持ち続けれたんだ。だいたい人生十回分だね。そう考えると悪夢と言うほどでもないかもね」

 

ベラベラと独り言を話し続ける"狐面"。

私はその滑稽な物を語る様に話す"狐面"を見て、殺したくなった。

それと同時に言いたくなる。

 

「はっ……、というとなんだ? お前もその気持ちは依存やらなんやらと言うのか」

 

「んー、否定はできない」

 

ほら、みんな言う。

私と■■の関係は依存だって。

■■や■■の出てきた夢でも、それはただ私が長年の、■が死んでからの孤独を埋める為に縋りつくようにしたものだって……。

それに肌を重ねたのも、私がまた孤独にならないように繋ぎ止めるためだけの行為で……。

 

「あぁ……知ってるさ。全部、私の弱さからのものだって」

 

「ま、いいんじゃない哉。依存も恋愛の一種だと思えば素晴らしいものだとボクは思うよ」

 

私の言葉にうんうんと頷く"狐面"。

面を被っているからちゃんと私に同意してくれているかはわからない。

しかし、"狐面"は改める様に言葉を加えた。

 

 

「けど、君はそんな恋愛ごっこも含め、これは長い夢だと思ったーー」

 

「だって、そうだろ……? そうじゃないと考えられない。私は普通の高校生だったんだ。なのに、いきなり死んだと思ったら前世の記憶を持ったまま転生してて、それで妖怪になったとか、笑えないって……」

 

「あぁ、そうだろう?気づいたら "桜井 命"としてこの世界に転生してきて、"白鷺 雪"なんて呼ばれて、意味のわからない女と結婚してて、死んで、妖怪になって、平和からの真逆な殺しの生活が始まって、いつの間にか倒された敵と結婚しててとか、普通の女子高生ならまず送る事のない人生だろう」

 

「……なぁ」

 

なんでお前は私の事をそんなに知ってるんだ、と私は"狐面"を被るそいつに尋ねようとした。

しかし、言わなくてもいいと言うように私の唇に指をあてる。

 

 

「言わなくていいよ、ボクは神様だ。なんでも知ってるし、なんでも見てきた」

 

 

私は、一瞬だけそいつの言葉に飲まれ、"狐面"が本当に神様かと思えた。

喋り方はいまいち胡散臭くて信じられないが、自称なんでも知ってるというこいつに聞いておきたいことが一つあった。

 

私はその解を聞く為に口を開く。

 

「教えろ、これは夢か?」

 

「いや、"現実"だ。"桜井 命"が既に死んでいるのも、"白鷺 雪"に転生したのもすべて現実」

 

私はその言葉に失望した。

世の中、そんなうまくできているわけないかと。

 

しかし、だけどと"狐面"の少女は言葉を付け加え私に言う。

 

 

「君が、これを"夢"というならば、君の望むべき"現実"にしてはみたくはない哉?」

 

 

私はその言葉に唾を飲み込む。

その言葉の真意はわからないが、謎の高揚感がある。

 

そう。

あの時と、同じ感じだ。

白鷺 茜を生き返らせようと決めた時、私が能力に目覚めた時にこいつに予言と言われた時と同じような謎の高揚感。

縋りたくなるような言葉。

全くあの時と同じだ。

 

あの時の、■の死体に依存していた頃の私と……。

 

 

「……本当に、私が望む"現実"になるのか?」

 

「嗚呼、君が望めばボクは動こう。大丈夫、今度こそ君に損はない」

 

 

「本当に、私はこの"悪夢"から目覚められるのか?」

 

「嗚呼、君が望めば全てが元に戻る。帰りたいだろう? あの素晴らしき"青春"へ」

 

 

「本当に、私は、私が望む"平和"に帰れるのか?」

 

「嗚呼、君が望んだ"現実"が訪れればーー」

 

 

「本当にーー」

 

私は、何をこいつにさっきから縋るように尋ねているのだろうか?

私はこいつに一度、騙されていたのに……。

なのに、なぜ。

なぜ、わたしは……。

 

 

「本当に、私は"人間"に戻れるのかーー?」

 

 

涙を流してまで、"こいつ"に縋り付くのだろうかーー




其ノ哀ハ、望ム
夢ノ様ナ現実ヲーー
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