東方屍姫伝   作:芥 灰仁

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疑心

射命丸 文は冷や汗を流す。

空を見上げどう言い訳をするか、または再就職先の事を考えていた。

理由は立ち入り禁止区域の髑髏塚にいるところを、上司どころか自分らの組織のボスに見られたからだ。

 

 

「む、覚妖怪と地底の鬼? それに……人間」

 

天魔、夜鴉 黒羽がそれぞれを見渡す。

そして、黒羽は文に目を向ける。

 

「そこの鴉天狗……この状況を説明しなさい」

 

「はひっ! ど、髑髏塚にて敵襲です! そこの黒桜 刃なる者が屍の姫の封印塚を真っ二つに割り、敵と見なし交戦中でした!」

 

文は綺麗な敬礼を決め、黒羽を見上げて答える。

 

完璧な答えだ、これなら自分は警備中にたまたま敵に出会い交戦した優秀な天狗にしか見えない。

決して部外者を立入禁止区域に招き込んだ裏切り者ではない。

文はそう思いながら内心満足していた。

 

しかし、黒羽は首を傾げて尋ね返す。

 

「黒桜 刃って奴は、何処にいるのかしら?」

 

文はその黒羽の言葉にそれは、と言いながら刃の居る場所に視線を向けた。

だが、すでに刃は何処にも居なく、この場に居るのは文と魔理沙、さとりと勇儀のみであった。

 

逃げられた?

文はそう思い立つといつの間にと驚愕した。

魔理沙とさとりらもどうやら空を飛ぶ黒羽に夢中になっていたようで、刃がいつの間にか居なくなっていることに気づいていなかったようだ。

 

そんな惚ける魔理沙らを見て、黒羽はため息をつき口を開く。

 

「質問を変えるわ。"だれ"がその髑髏塚の封印を解いたの?」

 

その黒羽の言葉にさとりがいの一番に反応した。

黒羽の心を読み、さとりはやはりと思いながら周りから這い出てきて自分らを囲む人骨の形をした怨霊らを見た。

 

「黒羽さんっ、それより今はこの怨霊らをどうにかしなければ……」

 

「……ええ、そうね。今でも妖怪の山中でその死体もどきが出て大騒ぎだわ」

 

「そうです。だから……」

 

「なら、単刀直入に聞くわ。"白鷺 雪"は何処にいるのかしら?」

 

黒羽のその言葉に、さとりは言葉を詰まらせた。

 

その戸惑いは負い目があるからではない。

完全に黒羽は、天魔はさとりらを疑っている。

自分たちが封印を解いたと思い込んでいる。

真っ二つに割れる封印塚を見て、立入禁止区域に足を踏み入れている自分らを疑っていると、さとりは黒羽の心を読み解きどう弁解するかを考える。

 

「おいさとりっ、こいつらどんどん近づいてくるが攻撃していいのか!?」

 

魔理沙が騒ぐ。

先ほど影から這い出てきた亡者に八卦炉を向け、警戒しながらさとりに尋ねてきた。

 

そういえばその問題もあったと周りからユラリと這い寄る亡者を見る。

そして、上空にて羽ばたく黒羽の方にも視線を向け、口を噤む。

 

「もう一度、聞くわ。"白鷺 雪"は何処?」

 

その睨みに文は完璧に萎縮をし、さとりはどう答えるかを考える。

変に刺激して戦闘になったらこちらが不利だ。

数の利はこちらにあるが、力量的には圧倒的に天魔と呼ばれる黒羽の方にある。

 

「白鷺、雪は、どこに、いるの、かしら?」

 

どんどん黒羽から感じる殺気が強くなる。

 

これは、戦闘は避けられないか。

さとりがそう考えたその時であった。

 

 

「魔理沙っーー、ぼやっとしてないでそいつらをぶっ飛ばしなさい!」

 

 

黒羽より、上。

遥か遠き天の方からその様な声が聞こえた。

 

「れ、霊夢っ!?」

 

魔理沙が声の聞こえてきた方を見上げながら驚きを見せる。

 

魔理沙の視線の先には紅白の巫女服を着て、天から急降下してきている霊夢がいた。

助けが来た、と思い気が緩むがすぐに霊夢に言われた事を思い出しカードを構えた。

 

 

ーー魔符「スターダストレヴァリエ」

 

 

魔理沙はそう宣言し、星の様な魔弾を周りにばら撒き、骸骨に打ち込んだ。

 

「や、やったかーー」

 

「まだよ魔理沙っ!!」

 

 

ーー夢符「封魔陣」

 

 

魔理沙の攻撃を喰らってもまだ立ち上がろうとしていた骸骨らに霊夢はお札を投げつけた。

そして、そのお札を貼り付けられると僅かに動きを見せていた骸骨らは動きを停止させ、サラサラと砂の様に消えていった。

 

しかし、いまだに半分ほどは残っており、約二十ほどの骸骨らが残っている。

その残る骸骨らを見て霊夢は魔理沙の隣に降りてきて舌を打つ。

 

「魔理沙、一度撤退するわよ!」

 

「お、おう……」

 

魔理沙のその曖昧な返事に気にせず、霊夢は勇儀の方に目を向け、手負いである事を確認して、文とさとりに勇儀を抱えて飛ぶ様に指示をし霊夢は空へと浮かぶ。

 

「ーー博麗の巫女」

 

霊夢らが群がる骸骨から脱するために空へと浮かび上がると、腕を組み突然と現れた霊夢にも動揺した様子を見せずに、黒羽が立ちふさがる様に霊夢を呼び止めた。

 

「……天魔」

 

「久しぶりね」

 

立ち塞がる黒羽を見て、霊夢は睨みつける様に口を開く。

 

「なんか用? 私は忙しいのよ」

 

「そう、奇遇ね。私もあの寝起きの馬鹿を殴りに行かないといけないの」

 

黒羽はそう言って霊夢より後ろに飛び、箒にまたがる魔理沙と文とさとり、その二人の肩に腕を組みぶら下がる様に飛ぶ勇儀の方を見る。

黒羽に視線を向けられた文はげっ、という顔をして黒羽から目を逸らした。

 

「あぁ、こいつらが封印を解いたって疑ってんの?」

 

霊夢のその言葉に黒羽は首を縦に振った。

 

「だってそうでしょう? そこの白黒の人間はなんでいるのかは知らないけど、そこの鬼と覚妖怪は屍の姫と面識があって……それに友好的な関係があるのだもの」

 

封印を解く理由には十分でしょ、と黒羽は霊夢の方を睨みつけた。

霊夢はそんな反抗的な様子を見て、やれやれとため息をついた。

 

「大丈夫よ、こいつらはただこの場に居合わせただけ。封印自体はここ数日で解けたものでは無いらしいわ」

 

「……っ!?」

 

霊夢のその言葉に黒羽は動揺を見せた。

そして、それと同時に霊夢の傍にスキマが開く。

 

 

「ーー霊夢、屍の姫を見つけたわ!」

 

 

紫が慌てた様子を見せて、そう騒ぎながらスキマの中から出てきた。

 

しかし、霊夢が現れた紫に声をかけるより先に黒羽が勢いよく紫に迫り、叫ぶ様に声を上げた。

 

「スキマ妖怪っ、あいつはどこにいるの!!」

 

「て、天魔がどうしてここに……」

 

「良いから早く教えなさい!」

 

「め、冥界よ、というかそんなに肩を揺すら……」

 

「そんなに遠く無いわね! 待ってなさいよあの馬鹿あぁっ!!」

 

紫の肩を勢いよく掴む黒羽が、紫の言葉を最後まで聞かず、天狗の最高速度で飛んでいく。

そしてあっという間に姿が見えなくなった。

 

紫を含め、霊夢らも文字通り風の様に去っていく黒羽の様子を見て安心すると同時に呆れていた。

 

「な、なんかわからんけど……、あれが天狗の長なのか?」

 

「え、えぇ……」

 

魔理沙の疑問に文が首をコクコクと動かして答えた。

そして、魔理沙はなんかスゲェなと苦笑していた。

 

 

「……そうだ、紫! 屍の姫が見つかったって」

 

霊夢も黒羽の慌ただしい様子を見て呆れていたが、すぐに紫が出てきた理由を思い出して声を上げた。

 

「え……えぇ、そうだったわ! あいつは冥界に現れたわ。だから、このスキマを使って一気にいくわよ!」

 

紫は言葉を詰まらせながら霊夢の方に目を向け、口を開く。

そして霊夢の目の前にスキマを広げ、その中に入る事を促した。

 

霊夢はその紫の言葉に顔を歪ませる。

その理由は開かれたスキマの中に足を踏み入れる事を躊躇ったから。

 

目がギロギロと動く不気味な空間。

そこに入れば移動は楽だが、どうしてもその不気味な空間に足を入れることに躊躇ってしまう。

だが、今は一刻も早く異変の解決に勤めなければと思い嫌々、足を踏み入れることにする。

 

そして一度、深呼吸をして足を踏み入れ様とした時であった。

 

 

「ーーれ、霊夢さん! その紫さんは"偽物"ですっ!!」

 

後方からさとりのその様な叫び声が聞こえた。

霊夢はいきなりのそのさとりの声に反応をするが、時既に遅し。

 

"紫"の姿をしたモノが霊夢の背中を押して、"スキマ"の様なモノの中に突き落とした。

 

 

「あぁーあ、バレちゃった☆」

 

 

霊夢は"スキマ"の様なモノに突き落とされると同時に、後ろに顔を向けるがその突き落とした"人物"の顔を見て、苦痛の表情を向けた。

 

"紫"の姿をしたモノは霊夢のその歪む顔を見て、三日月の様に口角を上げた笑顔を浮かべ、その"スキマ"の様なモノを消したーー

 

 

 

 

 

❇︎❇︎❇︎

 

場所は博麗神社から少し離れた場所。

そこには石で囲まれた露天の温泉が湧き、湯気が立つ。

 

その温泉は先日に地下から怨霊と共に湧き出たものだが人影は少なく、現在では二人ほどしか入っていなかった。

 

 

「いやー、温泉なんて久しぶりに入った哉」

 

人影の一人が、湯に使り背伸びをしてリラックスをしていた。

その人影の人物は胸元がかなり大きく、全裸なおかげでそれがさらに強調されており、それだけで女とわかるのだが、顔には狐の面を被っており、全裸の狐面の少女が温泉に浸かるという少しシュールな光景になっている。

 

狐面の少女がふー、と息をつきマッタリとしていると、ふと自分の正面にいる少女が目に入り声をかけた。

 

「君も、転生してからは初めて入っただろう"ミコト"ちゃん?」

 

「……まあ、そうだな」

 

狐面の少女の正面に同じく湯に浸かる白髪の少女。

 

彼女は右腕に包帯を巻き、首には首輪をつけ、白髪が湯に入らない様に髪をタオルで纏めながら肩まで浸かっている。

その"ミコトちゃん"と呼ばれた少女は、狐面の言葉にぶっきらぼうに答えた。

 

そんな無愛想な少女を見て、狐面は笑う。

 

「五百年封印されていたけど、身体の調子は良さそうだね」

 

「ーーそうだな、幻想郷中に私の中にいた大量の怨霊を放ったからか頭がスッキリしている」

 

「それは良好。あとは"ヤツ"が出てくるのを待つだけだね」

 

少女は狐面の言葉にあぁ、とだけ答えると再び黙った。

 

そして、それと同時に騒がしい女が来る。

 

 

「もー、いつの間にぃ始めてたのよぉ〜。出遅れちゃったじゃないぃ」

 

緑髪の女、黒桜 刃が空から降りてくる。

少女が刃が現れると同時にげっ、と声を鳴らし嫌そうな顔をした。

狐面は刃が現れたら、ごめんごめんとカラカラと笑い口を開く。

 

「いやぁ、刃さんは憑と鏡と違って私の側に居てくれないからさ。勝手ながらこちらの判断で始めさせてもらったよ」

 

「けどぉ、いきなり過ぎじゃないぃ……。暇潰しに一人二人ヤれそうだったのにぃ」

 

「すまないね、お詫びに刃さん向けの仕事を頼みたいんだ」

 

拗ねる刃に狐面が悪気のない話し方をする。

しかし、刃は気にする様子はなく何よぉ〜、と首を傾げる。

 

 

「人里に行って、たくさん"人"を殺してほしい哉」

 

 

その言葉に刃はぱあー、と笑顔となり嬉しそうな顔をした。

 

「あらぁ、あらあらあらぁそんなことしちゃって良いのぉ?」

 

「うん、好きなだけ殺っていいよ? 幻想郷で唯一の人間の居場所が崩れれば、流石の"アレ"も高みの見物ともいかないだろうしね」

 

狐面の言葉に、刃は口角を吊りあげた。

 

「たぎるわぁ〜。雪ちゃんは私と全然してくれないから欲求不満だったのぉ」

 

「さ、触るなヘンタイ!?」

 

刃がヘラヘラと笑いながら先ほど"ミコトちゃん"と呼ばれた少女ーー、雪の一糸纏わぬ背中を舐める様に撫でると、気持ち悪いと言いながらその撫でる手を払い拒絶する

 

「うふふぅ、良いじゃないのぉ。死なないんだしぃ」

 

「……とっとと行ってこい」

 

「ふふ、つれないわねぇ」

 

雪が追っ払う様に刃に向け手を振る。

その雪の反応を見て、クスクスと笑い再び空に飛んでいった。

 

あいつだけはどうも苦手だと思いながら雪は温泉から上がり、髪に巻いていたタオルで身体を拭く。

 

「おや、もうあがるの哉?」

 

「……ああ」

 

「それは残念だ。その白くて綺麗な肌は目の保養になっていたからね」

 

狐面のその言葉に雪は五月蝿いと言いながら頰を少し染める。

そして身体を急いで拭き、隠す様に白装束を着た。

 

そして、雪は着物を着終わると狐面の少女に背を向け歩き出す。

そんな自分のもとから去っていく雪を見て、狐面の少女は声をかける。

 

「……君は、"アレ"と殺り合うまで動かなくていいんだけど?」

 

「……これは私の事だ。私も一思いに暴れるさ」

 

「そうかい。……けど人里には向かわないでくれよ、君には人を殺すってのには躊躇いがあるからね」

 

「……だまれ」

 

雪はそう言い残し、その場から離れた。

 

そして、その温泉に残ったのは狐面の少女だけであった。

 

 

「それに、君に合わせたくない人も居るしねーー」

 

狐面の少女は独り言でそう呟き、去っていく雪の背中を見つめる。

そして、付け加える様に狐面は雪の背を眺めポツリと呟いた。

 

 

「ーーごめんよ、ミコトちゃん」

 

 

彼女は一言そういい、目を瞑った。

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