東方屍姫伝   作:芥 灰仁

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そして憎悪は薄れ、愛が芽生える

【見て見せる程度の能力】

 

それが、私があのふざけた狐面の"道化"に与えられたであろうもので、それの存在に気づいたのは空髪の幽霊幼女と出会った時であった。

 

この【見て見せる程度の能力】とは、名の通り、【見る】能力だ。

 

私が【見た】あの赤い糸しかり。

私が【見つけた】幼い幽霊、"憑"しかり。

私は、【見る】ことに対して、不思議な力を得た。

 

おそらく、あの自称神様の贈り物だとは思っていた。

あれ以来会えていないから定かではないが、おそらくはそうであろう。

 

いろいろ試してみた。

遠くのものが【見える】千里眼のようなものが使えた。

【見た】ものの知りたい情報がなんとなくわかった。

他人の心を【見る】事もできた。

または他の人の目に別のものが見えるように、【見せてみる】事もできた。

明日の天気を予想するなどちょっとした未来も【見る】事もできた。

この目に写ったありとあらゆるものが私には、【見えた】。

 

それ故にわかった。

ここが、私の暮らしていた遥か千年以上前の日本であったことに。

そして、そこで私が愛しの"彼女"に似ていた【白鷺 雪】という人物が、私の探していた"彼女"とは別人で、私と同じく過去に飛んできたとか転生したとかではなく、全く毛ほども関係ない人物であったことを、私はこの【見て見せる程度の能力】で【見て】理解した。

 

「はは……、なにが君の願いを叶えてあげようだ」

 

私はその事実がわかった途端に、笑った。

すべてを【見て】理解した。

私はただこの【見る】能力を植え付けられただけで、あのよくわからない"道化"に捨てられたのだと。

私の能力は実際に目で【見】ないとわからないので神の存在は不確かだが、実際にこの目で私は愛しの"彼女"を探したりしてもどこにも【見】当たらず、関係がある人物といえば"彼女"に似た【白鷺 雪】にしか心当たりがなかった。

 

「……結局は私は騙されたんだ」

 

"あんなもの"を【見】せられて、その反応を面白がられたに違いない。

全くいい趣味だ……。

 

 

「ーーなわけで、すむわけないじゃん!!」

 

なら……なら私はどうしてこの"場所"に来た。

こんな見知らぬ人が多い時代に、連れてこられた。

 

私が、どういう思いで愛しの"彼女"を想っていたか。

私が、どういう思いであの最低な"光景"を見ていたことか。

 

私が、如何に【桜井 命】を想っていたか、あの"道化"は理解していない。

 

「……憎い」

 

なにがって?

それは全てが。

世界が、神が、愛しの"彼女"に似る【白鷺 雪】が憎い。

 

私を馬鹿にしたように用意した"偽物"を。

自称神である狐面の"道化"が用意した、【白鷺 雪】が気にくわない。

 

「……無茶苦茶にしてやる」

 

そして私のこの"恋"を滅茶苦茶にしたように、私も台無しにしてやる。

【白鷺 雪】の恋心を、人生を、自尊心を、愛情を、尊厳を、権利を、感情を、想像を、夢を、幻想を、自立心を、人権を、生活を、平穏を、家庭を、全てを……私が壊してやる。

それで【白鷺 雪】の心を徹底的に壊した後に、私の人形として飼ってやる。

私の愛した"彼女"に似たその容姿を思う存分、可愛がって、可愛殺してやる。

 

それまでは、私は愛しの"彼女"である【桜井 命】に似た、【白鷺 雪】に酷いことをする。

心を鬼にして、悪魔にして、"狐"のように騙し続けてやる。

 

「……【見てろ】、道化師」

 

お前を楽しませてやる。

思い通り、楽しませてやる。

 

だからーー、

 

 

「【桜井 命】を手に入れて、"僕"はお前を嘲笑ってやる!!」

 

 

それまでは、【柳 飛鳥】におやすみなさいだ。

 

 

 

 

ーーそれが、"僕"の絶望への抗いであった。

 

 

❇︎❇︎❇︎

 

ーー最初は、【白鷺 雪】を洗脳した。

 

いや、洗脳というより夢を【見せた】。

木から落ち、頭を打ち気絶して意識が朦朧としていた【白鷺 雪】に、偽りの記憶を見せた。

 

それは私の知る限りの【桜井 命】の記憶で、夢の終わりには私の覚えているトラックに轢かれ死んだ記憶を植え込んでおいた。

そして、目覚めた時は自身が転生した【桜井 命】という人格であると勘違いをし、【白鷺 茜】の事を忘れていたのは傑作であった。

まあ、それをさせたのは私であるが。

 

そして、その後すぐに【白鷺 茜】を殺しに、私が能力で視線誘導させて連れてきた野良妖怪に、殺させた。

【白鷺 雪】が【白鷺 茜】を殺された未練により、妖怪化する事は、私の【見て見せる程度の能力】の一つである未来を【見る】力でわかっていた。

この時、私の思い描いたように、物事が上手く進んだことに笑いが止まらなかった。

 

 

ーーーー

 

 

その後も、思い通りに【白鷺 雪】は【白鷺 茜】の仇にと妖怪を殺しまくろうとしていたが、逆に返り討ちにあい殺されていた、それも想定通り。

 

おかげで【白鷺 雪】の精神はどんどんと擦り切れていく。

 

 

ーーーー

 

 

半世紀経った頃に私はかつて出会った幽霊幼女の憑に死んだはずの【白鷺 茜】に取り憑かせ、生きているように動くそれを【白鷺 雪】に見せてやった。

その時が私と【白鷺 雪】の初めての会合であり、【白鷺 雪】にとって騙された最低の記憶。

 

この時、すでに彼女の心は壊れており、私が救いの手を伸ばし、彼女を私に依存させても良かったのだが、まだ心の底に【白鷺 茜】の記憶が巣食っていたのが【見て】わかった。

それが気にくわない。

だから、私はもっとこいつの心を壊すために、嘘の情報を教えた。

 

妖怪を壊しまくれば、【白鷺 茜】は生き返る、と。

 

 

ーーーー

 

 

その後も想定通り。

思ったように【白鷺 雪】の心は壊れていった。

 

【魂を狩り盗る程度の能力】

その能力のせいで彼女はどんどんと心を壊していく。

自分の殺した妖怪の魂に……怨霊に取り憑かれ、自身が狂っていく。

まさに自業自得。

昔より一層と【白鷺 茜】に依存していたが、壊れれば壊れるほど扱いやすくなるのでその辺は放置。

 

もう、【白鷺 雪】の思うそれは愛ではなく、依存。

滑稽であった。

 

私はというとしばらくは、放置で大丈夫であろうから、今後のために仲間を集めようとしていた。

 

 

ーーーー

 

 

ここで想定外のことが起こった。

【白鷺 雪】が別の女に恋をした。

予定外で、想定外だった。

自分の能力は完璧にすべてを予知できるわけではない事は知っていたが、こんなところで綻びが出るとは思わなかった。

 

が、それは依存の対象が【白鷺 茜】から【千樹 斬乂】に変わっただけ。

それも女遊びの激しいことで有名な奴が相手だ。

さんざん遊ばれ捨てられちまえ。

そしてその後に私が拾って甘やかしてやるよ、と余裕をこきながらその場は【見て見ぬ】振りをする。

 

 

ーーーー

 

【白鷺 雪】に友人ができた。

名は【藤原 妹紅】。

 

こいつのせいで【白鷺 雪】の壊れた心が少しずつ安定していってしまっていた。

由々しき事態。

このままいけば【白鷺 雪】が過去の事を忘れ、自分は一人ではないと前を向いて生きるかもしれない。

それだけは許せない。

 

私は、【白鷺 雪】という人格を殺さなければ。

でなければ私は何のために生きて……。

 

 

ーーーー

 

 

【白鷺 雪】が、【千樹 斬乂】と婚約した。

そんな幸せは許せない、そう思えたが滑稽な事に【白鷺 雪】は友情より愛を取るため【藤原 妹紅】と道を違えた。

そのおかげで【白鷺 雪】はますますと【千樹 斬乂】へと依存心を高めていった。

 

彼女が居ないと自分は生きていけない、【白鷺 雪】はそう思う様になっていた。

このままいけばますますと彼女は壊れていく。

 

私の予言で言えば、このままいくと……二百年後が楽しみだ。

 

 

ーーーー

 

 

【白鷺 雪】が暴走した。

依存して依存し尽くして、離れ離れとなった【千樹 斬乂】のもとへ戻ろうと、彼女は正気ではなくなった。

そして、封印された。

 

ザマァみろ。

このままいけばお前の人生無茶苦茶だ。

いや、すでに無茶苦茶である。

あとは私が彼女の封印を解き、私に依存させれば良い。

もう私しかいないと、依存させれば良い。

 

それまでは、しばらくは放置だ。

 

 

ーーーー

 

 

私は、【白鷺 雪】が封印されている日々を退屈に過ごしながらも考えていた。

 

この"世界"の時はどうやら私がいた"世界"と歴史が似ているらしい。

いや、もしかしたら本当は過去の世界に飛ばされただけなのかもしれない。

妖怪とかそんなものはいなかったが、私が気づいていなかっただけで、私の身近にいたのかもしれない。

そして、そのまま行けば私の元いた時代に戻るかも……。

まあ、そんなことはどうでもいいか。

 

それよりも、【白鷺 雪】の封印が解けたらどうしようか。

おそらく妖怪であるから自分は不幸になる、と自身を否定しだすと【見て】いるし、私がかつて【見せた】偽りの夢のせいで自分を【桜井 命】であると思い、【千樹 斬乂】と離れたことにより依存するものがいなくなり、今度は"それ"に依存するように現実逃避をしだすだろう。

そして、その後は昔の様に人間のような暮らしに戻りたいと思う【白鷺 雪】を、私は【見た】。

 

なら、私は……。

悪くないか。

そういう、未来も、"現実"も……。

 

かつて、平和に暮らしていた自分。

今では、変な憎しみを持ち、すでになにを憎んでいたかも忘れたが、そういう未来も、悪くない。

 

ーーそういう、夢のような"現実"も……悪くない。

 

 

ーーーー

 

 

【白鷺 雪】の封印が解けた。

今こそ私の人生の集大成。

 

そしてもう少しで【桜井 命】と平和に暮らせる。

もう少しで、"ミコトちゃん"に……

 

 

ーーーー

 

 

……いつから、だろう

 

 

ーーーー

 

 

ワタシが、変わってしまったのは

 

 

ーーーー

 

 

愛していたのに、憎しみに変わってしまったのは

 

 

ーーーー

 

 

憎んでいたのに、憎む相手を忘れたのは

 

 

ーーーー

 

 

ワタシはダレを憎んでいたんだっけ?

 

 

ーーーー

 

 

なんでワタシは、【白鷺 雪】を【桜井 命】と勘違いを

 

 

ーーーー

 

 

そしてなぜワタシは、【桜井 命】と"現実"に戻りたいと

 

 

ーーーー

 

 

…………………?

 

 

ーーーー

 

 

……ああそうか

 

 

ーーーー

 

 

ワタシが欲しかったのは

 

 

ーーーー

 

 

あの"道化"に"願った"ことは

 

 

ーーーー

 

 

ただ、【桜井 命】と

 

 

ーーーー

 

 

"ミコトちゃん"と

 

 

ーーーー

 

 

夢のような"現実"に戻って

 

 

ーーーー

 

 

昔の様に、ただ……

 

 

ーーーー

 

 

 

"二人"で、一緒に過ごしたかっただけなんだ

 

 

 

ーーーー

 

 

それがーー、【柳 飛鳥】の"願った"ことなんだった

 

 

ーーーー

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ……、また来たのかい?」

 

うずくまる私の背後に二つの人影が見えた。

その影は二つとも自分よりかは小さいが、地べたにうずくまる自分よりは背丈が大きかった。

 

その二人が、私を心配そうに見つめながら言葉をかけてきた。

 

「お姐さまぁ……、いつまでこんなところにいるんですかぁ……」

 

『くさる』

 

弱々しく呟いた憑と、スケッチブックに文字を書き言葉を伝えてきた鏡が、背後から私の正面に回り込みそう言ってきた。

しかし、私は"いつも通り"二人を無視する。

 

私の今いるところは名前も知らぬ森の中。

幻想郷の何処かの森、というのは確かだ。

 

そして、私はその森の中で一人うずくまる。

 

昔の様に。

今度は狐の面で素顔を隠して、森の中でうずくまる。

 

 

なにもかも失敗した。

あれからどれだけの月日が経ったのだろうか。

【白鷺 雪】が【千樹 斬乂】を選び、彼女のところへと向かったあの日から……。

 

「いや……失敗することは、【白鷺 雪】の封印が解けたときからわかっていた」

 

そのころはすでに失敗が【見えて】おり、どんな手を使って避けようとしても、結局は失敗に繋がっていた。

所詮は、私は【見る】ことにしか能がないのだ。

【見える】だけで、運命に抗う事もできない。

 

結局は、私はあの狐の"道化"の思い通り、私自身も"道化"であったのだろう。

 

「……死にたい」

 

初めて、そんなことを思った。

今までは【白鷺 雪】の事で頭が一杯で、それが生き甲斐であったが、それが潰えたとなると……私はどうやって生きていけば……。

 

 

「し、死なれたら困りますぅ」

 

『しなないで』

 

ただの呟きに、真剣な反応で答える二人。

私はそんな二人を一瞬見るも、すぐに下を向く。

そしてまた"彼女"の事を考える。

 

今頃、【白鷺 雪】はなにをしているだろうか。

【見れ】ばすぐにわかることだが、【見る】事が怖くて仕方がない。

 

もし私の目に映り込むのが【千樹 斬乂】との幸せな光景ならば。

そう思うと、【見る】に【見れなかった】。

 

もし私の目に映り込むのが【千樹 斬乂】との情事の光景ならば。

そんなのが映り込めば、私はさらに死にたくなる。

あの【白鷺 茜】との行為が再び頭に過ぎり、自分の頭をカチ割りたくなる。

 

もし私の目に映り込むのが【白鷺 雪】の幸せの表情なら……。

私のしてきた事は、すべて無駄であったということである。

 

「……"僕"は、何のために生きているんだ」

 

死にたい。

どんどんとその感情が強くなる。

 

ああ、これこそが絶望か。

【白鷺 雪】の味わった、絶望か。

 

笑えてくる。

これは、【白鷺 雪】の人生を無茶苦茶にした私への、罰なのかもしれな……。

 

 

「私はぁ、お姐さまに生きていてもらって良かったとおもってますう!!」

 

 

気の沈む私の耳に、その声は聞こえた。

気弱だけど元気のいい憑が、目に涙を浮かべながらそんな事を叫んでいた。

 

「わた……しも……、アナタに……いきて……ほし、い」

 

普段、全く話さず筆談で交わす鏡が、顔を真っ赤にし恥ずかしがりながらも文字でではなく、ぎこちなく口を開いて自分の思いを伝えた。

 

そんな二人の言葉に、私は顔を上げた。

顔を上げて、二人の顔を見た。

 

 

「私がこうして一人じゃないのもぉ、お姐さまのおかげですぅ」

 

「わたしも一人じゃ……ないのは……アナタの、おかげ、です」

 

「だから、死ぬなんて……」

 

「いわない、で」

 

涙を流しながら私に抱きつく二人。

私は、そんな感情的になる二人を【見て】、目を【見】開く。

その二人の心を【見て】、本心を【見て】その言葉に偽りがないことが伝わる。

そして、如何に二人が私の事を大事にしているのが【見え】、愛されているのが【見て】わかる。

 

そんな純粋な二人にかける言葉は、一つしかなかった。

 

 

「……もう、お前らは自由だ」

 

 

刃さんはすでに私にお別れを言い、何処かに行ってしまった。

おそらく、また誰かを殺す為に何処かに行ったのであろう。

だけど、この二人は今もまだこうして私のところに……。

 

 

「私の居場所は、お姐さまのとなりですぅ!!」

 

「アナタと……いっしょが、いい……」

 

知ってるよ。

【見て】、知ってる。

 

憑は私を本当の姉として見ていることも。

鏡が私の事を女として意識していることも。

 

ーー私は、愛されていると【見て】知っている。

 

なら、私はどうする?

このまま二人に流され、家族ごっこを続け、恋人ごっこでも始めるか。

違う、私の望んだのは【白鷺 雪】と、"ミコトちゃん"との日々で……。

 

 

「もう、やめましょう……、お姐さまぁ」

 

「……なにをだい?」

 

馬鹿が。

引き返したところで、私にはそれしかないのに。

 

 

「アナタが、ひどいことをするのは……にあわない」

 

「……お前が、"僕"のなにを知っている」

 

阿呆め。

私の憎しみは、愛への裏切りへの復讐は終わらない。

 

 

 

その為に、私はお前らを利用してきたのだ。

ヘラヘラと私についてくるお前らを、利用したのだ。

 

 

 

 

「私はぁ、お姐さまの笑顔が見たいです」

 

「なら、【見れ】ばいいだろう?」

 

"ミコトちゃん"が手に入れば、いつでも笑ってやる。

 

 

「わたしは……アナタと、しあわせになりたい」

 

「なら、【見て】ろ」

 

"ミコトちゃん"と幸せになるところを、わたしの隣で。

 

 

 

 

その為ならば私は鬼にだって、悪魔にだって、"狐"にだってなれるんだ。

他人を蹴落として、私は幸せになる道を選べるのだ。

 

 

 

 

「お姐さまにとってぇ、わたしとはどういう存在ですかぁ……」

 

「ただの、道具だよ」

 

憑はただの【白鷺 茜】の死骸を操るためのカードだ。

 

 

「わたしは……アナタのなんですか……」

 

「ただの、駒だよ」

 

鏡はただの【白鷺 雪】を欺くためのカードだ。

 

 

 

 

そう。

私は鬼で、悪魔で、"狐"だ。

こんな純粋な二人だって平気で騙せるんだ。

 

 

 

 

 

「なら、お姐さまはなんで私を……」

 

「たまたま君がそこに居たから、話しかけただけだよ」

 

一人で寂しかったから、私は憑をそばに置いた。

 

 

「わたしは……なんで……」

 

「別に、理由なんてないよ……」

 

昔のうずくまる自分に似ていたから、鏡に手を差し伸べた。

 

 

 

 

あれ?

違う、そんな理由じゃない。

そんな理由で二人を助けたのではない。

もしそうなら私はいい人で、鬼でも、悪魔でも、"狐"でもなくなって、ひどい人ではなくなってしまう。

 

 

 

 

 

「わたしはぁ、お姐さまに愛されてますかぁ……?」

 

「わからない……」

 

なにもわからない。

 

 

「わたしは……アナタに、あいされて……ますか?」

 

「わからない……」

 

もう、なにもわからない。

 

 

 

 

疲れた。

もう、なにも【見た】くない。

 

 

 

 

「なら、今からでもいいので私を……」

 

「あいして……ください……」

 

……なぜ。

なぜそんなことが言える。

駒だ道具だと言われ、そんなことがまだ言える。

 

 

 

 

「"僕"はクズだ」

 

 

 

 

平気で、"一人の少女"の人生を無茶苦茶にしたのだ。

裁かれて当然だ。

罰せられるべきだ。

死んでもいい人間だ。

 

 

 

 

「……知ってますぅ」

 

「けど、アナタは……わたしたちをひとりにしないでくれた」

 

「だからぁーー」

 

「……いいひと」

 

そんな……わけ……。

そう言おうとした時に、二人が私の頭に結びつく狐面の紐を解き、その"狐"の面を取り私の素顔を露わにする。

邪魔な仮面がなくなり視界がクリアになった私は、二人の顔を"見た"。

 

能力ではなく自分の"目"で、はっきりと"見た"。

 

 

「……やり直しましょう、私達でぇ」

 

「まだ……まにあう、から」

 

なぜ、そんな希望を"見る"ように二人は笑うのだろうか。

 

 

「まずはぁ、【白鷺 雪】に謝りましょう」

 

「それから……、さんにんで、やりなおしましょう」

 

なぜ、そんなに私のことを真っ直ぐに"見れる"のか。

 

 

「なので、そこから……」

 

「はじめ、よう」

 

なぜ、私を信用するように"見ている"のか。

 

 

信じても、良いのだろうか?

この二人を。

哀れな私を、この二人は救ってくれるとでも……。

 

 

憑と鏡。

その二人は呆ける私を"見て"、二人で顔を合わせクスリと笑った後に、合わせるように口を開いた。

 

「とりあえず、お姐さまのぉ……」

 

「"なまえ"を……おしえてください……」

 

二人は、かつて捨てた私の"名"を聞いてきた。

この世界に来てから一度も呼ばれていないこの"名"を、この二人は純粋な言葉で聞いてきた。

そういえば誰にも教えてなかったな、と私は思い出した。

 

私は、二人のその笑顔を見て馬鹿馬鹿しいと、笑った。

そしてーー、

 

 

 

 

「ーー"私"の名前は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はどうすればいいのだろうか。

 

まだそれは決めてはいない。

だけど、とりあえずは目の前のものを"見て"から、決めていこう。

この二人と私の……"三人"で……。


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