東方屍姫伝   作:芥 灰仁

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二章 その歌姫は幻想に歌う
歌姫


ーー夢を見た。

その夢はどこにでもある悲哀。

それは愛する子を亡くす母の夢。

 

ーー夢を見た。

その夢はどこにでもある死。

それは看取られることなく孤独に死に行く老人の夢。

 

ーー夢を見た。

その夢はどこにでもある偶然。

それは不慮の事故にて若くして命を亡くす少女の夢。

 

 

見慣れた、聞き慣れた悲劇に"私"は耳を塞ぐ。

しかし、それは運命が、神が許さない。

聞きたくなくても、【聞こえて】しまう。

 

ーー声が聞こえる。

誰か助けて、という命乞いが。

ーー声が聞こえる。

誰か助けて、という願望が。

ーー声が聞こえる。

誰か助けて、という懇願が。

 

耳を塞いでも、それは聞こえてくる。

まるで地獄の底で亡者が呻くが如く私の足を引っ張りこみ、悲しみの渦へと引き込もうとする。

 

だけど、私はその亡者を蹴っ飛ばして前へ行く。

私の"目的"のために立ち止まることなく。

ーー私は前を、歩き続ける。

 

✳︎✳︎✳︎

 

 

「霊夢! 霊夢!!」

 

時刻は日付けが変わる頃。

博麗神社の境内にて一人の女性が声を上げていた。

 

神社の主の博麗 霊夢はこれから寝床に着こうとしていた時に、突然の来訪者が来たことによりイラつきながらも、寝巻きのまま縁側から外に出る。

そして、突然の来訪者にしては珍しい人がおり、少し驚きながらも返事をした。

 

「慧音じゃない? あんたがこんな夜中に珍しいわね」

 

「こ、こんな時間に申し訳ないな霊夢」

 

急いでここまで来たのか、呼吸を乱した状態で話す。

霊夢は慧音にとりあえず落ち着きなさいと声をかけ、呼吸を整えさせようと促すが、慧音はそれどころではないと声を張り上げた。

 

「命がっ、命がどこにもいないんだ!」

 

「命が?」

 

「先に寝床についたのは確認したのだが……、気づいたら布団の中はものけのからで、家の中をどれだけ探してもどこにも見当たらないんだ!」

 

「眠れなくて散歩でも行ったんじゃないの?」

 

「あの子は! 目が見えないんだぞ!」

 

気が気で仕方がない慧音はそう張り上げた。

慧音曰く、一応は家の周りも一通り確認してから博麗神社に来たがそれらしき人物はどこにも見当たらず、現在も人里の一部の人に捜索を手伝ってもらっていると語る。

しかし、慧音が目を離したのは一瞬で、そんなに遠くに行っているはずもないのに家の周りにもおらず、複数人で探しても見当たらない。

なので、こうして助けを借りに博麗神社に慧音は来た。

 

霊夢は慧音の話を一通り聞き、頭を悩ませた。

自分の本業は巫女と妖怪退治で、迷子の捜索は博麗の巫女の仕事にあらず。

それも元から人里に住む人間がではなく、ここ最近に外から来た外来人がだ。

正直にいってめんどくさい。

 

「少し時間を置いて見たら? もしかしたら、朝にはひょっこり戻ってくるかもしれないわよ」

 

「そんな悠長なことを言ってる間に、あの子に何かがあったらどうする!」

 

「そう言われても……」

 

話に聞くかぎりは、手を尽くすかぎり探したようだが、案外と誰かの家で保護されているのかもしれない。

最悪、幻想郷のルールを破った妖怪が人里に手を出して、攫っていったのかもしれないが。

そうなれば、博麗の巫女である自分の仕事であるが、夜中の闇夜に隠れて攫っていく妖怪など手を焼くに決まっている。

人里の人ならまだしも、外から来た人間を助ける義理など……。

 

「あの子は、雪に似てるんだ……。私怨かもしれないが、"次"こそは守ってやりたいんだ。何かがあってからでは……遅いんだ……」

 

慧音が思い出すのはまだ自分が純粋な人の身で、まだ雪や茜が生きていた頃の話。

そして、血に塗れた寺の中を見て、涙を流しながら膝をつく自分の姿。

次こそは……、そんな決心と覚悟の表情を彼女は見せた。

 

そんな慧音の悔やみきれない顔を見て、霊夢はため息をついた。

そんな顔をされて、そんなことを言われたら博麗の巫女というよりも、一人の人としてどうにかするしかないではないか。

 

「…………はあ、仕方がないわね。私も探すのを手伝うわよ」

 

「ほ、ほんとか!?」

 

「その代わり今度雪を連れて来なさい。久し振りにあいつの美味しいご飯が食べたいわ」

 

その言葉に慧音は任せろと言おうとした。

しかし、その言葉と同時に幻想郷に響き渡る、巨大な叫び声が上がった。

 

 

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

 

「ーー世界が、私を呼んでいる」

 

少女はポツリと呟いた。

盲目の少女は手元に持つ杖を振り回し、ヘラヘラと笑いながら杖をクルクルと回して遊ぶ。

 

少女がいるのは、とある山の頂。

景色が良く、夜に映える月がとても美しく見える。

しかし、少女の見るのは月にあらず。

 

「見えなくてもわかる。この幻想郷は幸せに満ちている」

 

少女は山の頂より、幻想郷を見下ろす。

常人ならば、山の上から見る景色など灯りがない限り暗闇が邪魔をして見ることはできない。

ましてや少女は盲目で、マトモに物を見ることもできない。

しかし、何かを見て……いな、【聞いて】少女は笑う。

 

「さあでは、今宵より始まる"物語"は全て揃った」

 

少女は見えぬ眼を閉じ、歌を歌う。

その歌は、決して死ぬことのない少女の歌。

題目はーー

 

「さあさあ。今宵は皆に【聞かせ】よう、 哀れな哀れな"少女"の物語を」

 

 

「唄う。謡う。詠う。歌おう、私の"目的"のために」

 

 

「幻想郷の諸君よ。私の"傲慢"な"願い"のために、踊りたまえ」

 

 

「ーーでは、始めよう」

 

 

 

「私のためのーー、私だけの救済劇を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

では、刮目せよ。

今宵の題目はーー、【屍の姫】。

どうか、ご覧あれーー。

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