東方屍姫伝   作:芥 灰仁

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"少女"

霊夢と黒羽は上空にて、既に元の面影も無くなった荒廃した妖怪の山にて未だに腕をぶん回して暴れる巨大骸骨を見下ろす。

そして、頭上ではいつ自分らに落雷するかもわからない黒雲からの轟を聞きつつも、霊夢は呑気に口を開いた。

 

「あんなに暴れちゃって、もうあの山には住めないわね」

 

「いいわよ別に。また、一から作り直せば」

 

メンツは丸潰れだけどね。

ついでに今回の責任で私も地位を追いやられて、のんびり生活でも送りたいわ。

黒羽は心の中でそう自嘲しながらも、背後に控える天狗に声をかけた。

 

「各員、配置にはついた?」

 

「はっ、指示された通り」

 

「ならあんたも下がってなさい」

 

「御意に」

 

淡々としたやり繰りを終え、黒羽自身も名を覚えていない天狗は消え去った。

霊夢は黒羽のやり取りを一通り見て、ふと思った事を口に出した。

 

「……別にあんなの私一人で十分なんだけど、一応聞くわ」

 

「なにかしら?」

 

「なんで大将であるアンタが前線に出て、他の天狗には取り逃さないようになんて面倒な建前つけて下がらせたわけ?」

 

霊夢の単純な疑問に黒羽はそうね……、と呟きながら、遠すぎて見えることはないが巨大骸骨を囲むように散り散りとなる天狗らの方を一度見てから答えた。

 

「別に。理由なんてくだらないものよ」

 

「ふーん、天狗ならほとんどの奴らが自分たちの住処をこんな滅茶苦茶にされて苛立ってるものだと思ったけど」

 

「そうね……、ついでに言うなら私の事を気に食わなくて、今後これをネタに突っかかってきそうな奴らも出てきそうね」

 

主に大天狗とか煩そうね、とまたもや自嘲しながら自分の今後を考える。

これを気に本当に引退してやろうか、そう思っていると二人に大きな声を出して近づいてくる存在があった。

 

「れ、霊夢さーん!! 神社が! 神社がっ!!」

 

大きな泣き声とともに緑髪の巫女服を着た少女。

東風谷 早苗が上空にて佇む霊夢の姿を見て、急いだ様子を見せて近づいてきた。

 

「あら早苗じゃない? 神社がどうしたのよ?」

 

「き、聞いてくださいよ!! あの大きな骸骨がいつの間にか現れて暴れて神社が吹っ飛んでそしてそのショックで神奈子さまと諏訪子さまがーーーーーっ!!!!!」

 

「ああ、そういえばアンタらも妖怪の山に構えてるのだったわね」

 

泣き喚く早苗を見ながら妖怪の山を見つめ、確かに守矢神社の本来あった場所を探すが、他と同様に吹き飛ばされたのか荒廃となっていた。

霊夢は内心に自分の所じゃなくてよかった、と思いながらもおちゃらけた様子で口を開く。

「ま、これを気に転職でもしたら?」

 

「うぅ……本当に私たちはこれからどうすれば……」

 

「私としてはライバル神社の廃業万歳、だけどね」

 

「ひどいですぅー!?」

 

冗談八割の霊夢の言葉にさらに泣き崩れる早苗を見て、黒羽は先ほど部下たちの前で見せた醜態を思い出す。

緊迫する部下たちの気持ちを和らげるためにしても、あの茶番はやり過ぎたかと少し恥ずかしい気持ちになりながらも、二人のくだらないやり取りを見ていてそろそろ行動を起こさないとまた大天狗共に後でドヤされてしまうと思い、そろそろ口を挟む。

 

「ま、アンタも自分の住処を潰されて巨大骸骨(あれ)に思ってることがあるでしょうに」

 

黒羽の言葉に早苗は泣きながらも小さく頷く。

そして、その早苗の返しに満足そうに黒羽は笑う。

 

「なら今から私が巨大骸骨(あいつ)を吹っ飛ばすから、手を貸しなさい」

 

「え、は、はい!」

 

「……吹っ飛ばすってあんなのどうすんのよ?」

 

早苗は流れで返事をしたが、霊夢は妖怪の山よりも何回りも巨大な骸骨を見て呆れた。

 

五百年前に起きた髑髏塚異変と同じ様に封印する、という手もあるが、封印したその後の管理は自分の管轄になるので、仕事が増えるのだけは避けたい。

まあそんな事を言ってられる状況ではない事はわかっているが。

と、霊夢は思いながらも黒羽の言葉に耳を傾けた。

 

「部下の話だと、生半可な攻撃では傷もできず、できてもすぐに再生するらしいわ」

 

「げっ! めんどくさ……」

 

「なら超怪力でぶっ飛ばすんですね!」

 

黒羽の説明に霊夢は顔を歪ませ、早苗はその場でシャドウボクシングをしながら黒羽に期待を込めた目を持って見る。

黒羽はそんな早苗の言葉に苦笑を浮かべながらもそれは無理と首を振る。

 

「でも、そんな感じかしらね。ま、アンタらは黙って私の言う事を聞いて、囮でもしてなさい」

 

「なによそれ……」

 

「部下にでも囮くらいならできるけど……、間違えて消し炭にしちゃったら困るでしょう?」

 

「それは私達なら消し炭になってもいいってことかしら?」

 

「さあ、どうでしょう?」

 

含みのある笑みを浮かべる黒羽に対し、霊夢はやれやれと思いながらも、囮で終わるつもりはさらさらない、と最後に言い残し霊夢は骸骨の方に飛んでいく。

そして、早苗もそれに続く様に黒羽の方を一度見て、頭を小さく下げた後に霊夢に続いて骸骨の方に飛び去っていった。

 

黒羽は二人が飛び去っていく様子を見て、人間の相手は疲れると一度ため息をつきつつも、ここにはいるはずのない人物に声をかける。

 

「スキマ妖怪、見てるんでしょう?」

 

「ーーあら、よく居るってわかったわね?」

 

黒羽の呟きに、空間にスキマを開け素直に現れる紫。

そんな紫を一瞥し、呆れた様に答える。

 

巨大骸骨(あれ)が現れて、アンタが黙って見てるはずないもの」

 

「それもそうね。それでも貴女の側に隠れていたとは限らないけどね」

 

「現れるわよ。一番に"屍の姫(あれ)"に因縁があるのは私で、そんな面白そうなものを近くで見たがるのがアンタよ」

 

「そう。まあ、そういうことにしておいてあげますわ」

 

黒羽のよくわからない推測に紫はクスリと笑う。

黒羽はそんな紫の誤魔化す表情を見て、時間のない中で簡潔に呼び出した用件を伝える。

 

「率直に聞くわ。あれは、雪なの?」

 

「いえ違いますわ」

 

聞かれる内容がすでに想像できていたからなのか即答をする紫の言葉を聞き、黒羽は喜びも悲しみも見せずに続いて尋ねた。

 

「なら、雪と、斬乂は無事なのね?」

 

「ええ。まあ少々、ここ数日は鬼神の()()で、お二方は隠れていますがね」

 

「あっそ。まあ、無事ならいいわ」

 

紫の言葉にやっぱりただ人気のない場所でイチャイチャしてるだけだったじゃないの、と呆れはするも、なんやかんやで安心する黒羽。

他にもあれの正体についてなど聞きたいことは山ほどあったが、黒羽は今は安堵に酔いしれたい気分であった。

そして、安心すると同時に黒羽は腰に掲げる日本刀の鍔を撫でる。

 

「ふふ、これで気兼ねなくーー」

 

 

 

 

 

ぶっ殺せるわーー。

 

 

 

 

 

黒羽のその笑みに八雲 紫はほんの少し。

ほんの少しだけひたいに冷や汗を流し、恐怖を抱いた。

 

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

 

ーーとある少女は"それ"を見て、目を見開いた。

それが現れたのは妖怪の山と呼ばれる山の方角。

かつて見たことの、かつて"自分"がきっかけとなり呼び起こした"バケモノ"を見て、茫然と口を開けたままになる。

 

それが現れたとともに人里の人々は"それ"から発せられる大きな叫び声とともに眠りから目を覚ましたのかぞろぞろとそれぞれの家から覗き出てきて、"それ"を見た途端に悲鳴をあげながら家の中に戻ったり、遠くの方に逃げようと走り出す。

 

しかし、"私"は逃げもせず、室内に戻ろうともせずに茫然と立ち尽くした。

 

「……なにが、起こってるの?」

 

"私"は顔につけている"狐"の面を取り外し、茫然としながら巨大骸骨(それ)を【見た】ーー。

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