幻想郷に再び紅い霧が覆われた。
春先なのにまるでいつかの日の様に雪が降り始めた。
紅く覆われた霧と降り続ける雪の向こうには僅かに見える月が浮かぶ。
それはまるで何時ぞやの"再現"。
霊夢は突如現れた紅い霧と降り始めた雪に驚嘆し、たった今ほどおかしな呪文の様なものを唱えた命に対して目を向けた。
「……アンタ、いま何をしたの?」
「
「バカな理由ね。アンタの"目的"ってのは異変を起こす事なの?」
「いや、その先にある"モノ"が目的さ」
命はそう呟き、手に持つ杖を振り回す。
そして、杖を霊夢らの方に向けた。
「霊夢さん? 気づいていないかもしれないが、私が呼び起こしたものは紅い霧や季節外れの雪だけではないよ?」
「……ええ、終わらない夜、でしょう?」
霊夢はそう答えながら空を見上げ、紅い霧にぼんやりと浮かぶ小さな月光を見て、先程とは違う月の位置の存在に気付く。
そして、先程の巨大骸骨や紅い霧、季節外れの雪、月の異変、と聞き覚えのあるキーワードを辿り、ある一つの結論に辿りつく。
「"模倣犯"ってところかしら?」
五百年前の髑髏塚異変に、自分が解決してきた三つの異変を思い出す。
そして命は霊夢の言葉を聞き、首を縦に振った。
「ま、そんなところかな。私に出来ることは【聞いたこと】を誰かに【聞かせる】事だけだからね。だから、私は【聞かせる】んだよ?」
「あら? 何を聞かせてくれるのかしら?」
「この世の"悲劇"を、かな?」
盲目少女は、杖を振り上げた。
そして先程と同じ様に呪文を、"歌"を歌う。
「ーー夢を見た。それは惨劇。終わらぬ戦争、続く紛争。飛び交う弾丸、降り続く血涙、死に倒れる人々。嗚呼、それはとてもとても悲劇的ーー」
ーー題目『現代の殺戮悲劇ショー』
ドシン、とともに霊夢達の周りに金属質な箱のようなものが複数も落ちる音がする。
霊夢は自分らの周りに突如降り注いできた"それ"を見て、目を凝らす。
紅い霧と降り続ける雪により、視界はあまり良くなく、見ることに苦労をし、辛うじて見えても、その物体は霊夢らには見覚えのない存在。
それは幻想郷にはあるはずもない兵器で技術。
通称ーー、"戦車"。
それらが現れ、命は最後に捨て台詞を吐く様に口を開く。
「今回の異変はすごいシンプルさ。私を倒せば勝ちだ」
「あら、"模倣犯"程度で異変と認識されると?」
「ふ、君が思ってなくても今頃、人里どころか幻想郷全体でかつての異変が起きてパニックだと思うよ? 魔理沙さんなら手当たり次第に異変の黒幕を探してるんじゃないかな?」
命の言葉に霊夢は呆れた様に笑った。
魔理沙どころかレミリアや妖夢辺りなんかは自分の起こした異変が再度起きていることを知れば、真相を晴らすために真犯人を見つけるべく走り回っていそうだ。
「けど、私がアンタをぶっ飛ばせば万事解決ね」
「あぁ、そうだ。だから、これが異変と認められるまで精々、霊夢さんを精一杯困らせてやろう」
「アンタ、性格悪いってよく言われるでしょう?」
「そうかな? まあ、そういうことにしておいてあげるよ」
クスクスと笑う。
そして命は
「では、始めようか?」
ーーミコトちゃん……ファイヤッ!!
いきなりの合図とともに、霊夢らの周りに聳える戦車が一斉に火を噴く。
その合図とともに、戦いの火蓋は切られたーー。
✳︎✳︎✳︎
少女は走る。
先程まで荒野と化していた山が、いつの間にか元の緑豊かな山に戻ったことも気づかないほど必死に走り続ける。
走って走って走って、息を切らしても転んで足を擦りむこうとも、すぐに立ち上がり走り続ける。
いつの間にか紅い霧と季節外れの雪が降り続け、視界が奪われようと足が取られようと少女は前を【見て】走り続ける。
「もう……少し……」
少女は人里から此処まで一人で走ってきた。
そして紅い霧と降る雪の先に大きな屋敷を見つけ、辛辣な顔を浮かべ、戸を叩く。
「はぁ……はぁ……"ユキちゃん"!! "ユキちゃん"!!」
少女が"彼女"にモノを頼める立場でないことはわかっている。
しかし、無力で、【見る】ことしかできない少女は、大きな声で、"想い人"の名を呼び、助けを求めた。
ーー"ミコトちゃん"を、助けてあげて!!
少女は叫んだ。
"自分"のために戦う少女の名を叫ぶ。
めちゃ短い
申し訳ない(T_T)