レッツゴー死地。
「さよなら!じゃあまた明日もここでなの!」
「そ、そうだね、サヨナラ、あはははは…」
さり気なく明日以降の約束(強制)をされて去っていく高町ちゃん。あ、そういえば今日の日付とかこの場所について聞くの忘れた…まあもう仕方ないかな。
さて、…これから本当にどうしよう。家は無いし(元の場所に戻っても無いけど…)、体は縮んだし、お金も無い。確か手持ちは12円くらいだ、うわ何も買えないじゃん…!
そうだ、まずは衣食住を整えることを考えよう。
まずは衣、…当分この服かな。それ以上は…特に出来そうにない。次に食、これはもしかしたら自然公園とかあればそこで釣りをしたり食べれる雑草を探したりして賄えるかもしれない。最後に住、…この辺りに廃家とか廃墟ビルとかあるかな…?
「…まあやってみなきゃ分からない!綾崎ハヤテ、住宅街でサバイバル生活、行きます!」
意気揚揚、僕は取り敢えずこの意外と大きい公園の探索に乗り出すのだった。
ーーー。
「びっしょびしょに濡れた…」
現在僕は、偶然見つけた廃墟ビルの三階部分で焚き火をしながら池で取れた魚を焼いている。
「それにしてもまさかあんな住宅街の真ん中の公園で、10m以上の魚が居るとは…」
一応それなりにサバイバル能力を持っていると自負している僕は高町ちゃんと遊んだ後、そこら辺に落ちてる材料を使ってボロい釣り竿を作って池で魚釣りをしていたのだけど一匹釣った後に突然物凄く大きな魚に遭遇、作ったボロい釣り竿ごと僕は池の中に引きずり込まれたのだ。
流石に池の魚なので肉食じゃないのは幸いだったけどボロい釣り竿は壊れシャツとズボンはズブ濡れ、仕方なく就寝用の新聞と焚き火用の薪を拾い集めて魚をビニール袋に突っ込み、ここを見つけるまで二時間もの間歩いてきたのだ。
「にしても、結構良いなぁ…本当に廃ビルなのかな?」
今勝手に間借りさせてもらってる廃ビル、実は中々良い感じの環境なのだ。壁はあるので風は通らず、屋根もあるから雨も来ない。そして地面もさして汚れていない。実家よりも良い環境かもしれない。あとこれで電気とかあれば良かったけど、廃棄されたビルにそこまで求めるのも酷な話かもしれない。本当にサバイバル慣れしてて夜目が効いてて良かった…。
「うーん、やっぱり塩が無いのは少し辛いよなぁ…今度作るか」
焼いた魚を丸齧りして食べ終えると、布団の代わりに新聞紙を引く。おっと、濡れた服は全部焚き火の上で乾かさないと。
頑張って拾ってきた木で工夫して焚き火の上に服を掛けると、僕は新聞紙の上で就寝した。
ーーー。
そして迎えた翌日。朝。
僕は情報収集のために海鳴市にある図書館に来ていた。
「えっと、パソコンって使って大丈夫ですか?」
「ええ、問題ないわよ」
図書館の受付の人とそんな会話をしたあと、早速僕はパソコンを起動させる。いやぁ…本当に昨日の夜に廃ビルまで歩いた時に通りがかりで見つけてて良かった…。
まあまず検索するのはそうだな…やっぱり負け犬公園のことかなぁ、結局あるのかどうか分からないわけだし。
そう思って某検索サイトで検索を掛けてもヒットは0件。逆に海鳴海浜公園と検索すると意外と有名なのか、何十件と出てきた。やっぱりこれ、僕のいた世界と全く違う、いわゆるパラレルワールドって奴なのかな…。
次にそのまま、海鳴海浜公園の位置を調べると更に予想を上回る結果が出てきた。
「僕の世界にあった県が無くなって、そこに別の県名が代わりに存在してる…」
…どうやら、パラレルワールドで間違いはないのかもしれない。2年前に県名が変わった記憶は無いし、負け犬公園も無くなっている。つまり僕は全く知らぬ世界に飛ばされた、…よって戸籍ももしかしたら無いかも…あれ、やばくないかこの状況?
「えっと、要するに僕はこの世界に居ない人間という事になってるのか…」
…うん、これは極めて不味い状況だ。
パソコンの電源を切って僕は席を立つ。
さっき鏡で見たけどこんな幼い五・六才くらいの容姿で自分から働き口を見つけるなんて多分無理だし、そもそもの問題戸籍が無い。一応海鳴市の地理は頭に叩き込んだけど、これと言って行く必要のある場所も無いし強いて言うなら高町ちゃんと約束してしまったあの公園くらいだろうか。
「…こうなったら、サバイバル続行あるのみかぁ…」
まあ、親がいない分気楽には出来るか。そう考え直して僕は図書館を後にした。
ーーー。
色々と必要になりそうな資材を集めていたら既に昼過ぎになっていた。僕は昼食に、今度は海で釣った魚(再びボロい釣り竿を自作)を焼いて食べると海鳴海浜公園へと向かう。
「あ、ハヤテ君!こんにちわなの!」
「あはは…こんにちわ、高町ちゃん」
いつの間にそんなに懐かれたんだろう…。高町ちゃんは満面の笑みを浮かべながらこちらへと駆け寄ってくる。
「えっと、じゃあ今日は砂場で遊ぼうか」
「うん!」
公園の端にある砂場は、昨日はかなり多くの子どもたちが居たのに今日は何故か誰も居なかった。なんだろう、今日は何かあるのだろうか…?
「じゃあなのはは鯉のぼり作るの…!」
そう言って土を固めたり崩したりし始める高町ちゃん。にしても鯉のぼりが…時期的には5月だけど…もしかして…!?
「ねえ高町ちゃん、今日って何日だっけ?」
「今日は5月5日なの」
…やはり今日はこどもの日だったのか!だから今日の公園はこんなにも子どもたちが少ないんだ…。
そして高町ちゃんの家族はこんな日でも休まず働いてるんだ…父親が居ない分を埋めるために。そこに僕みたいな浮浪者の意見なんて挟む余地は無いの分かってる、だけどもう少し家族の時間を大事にしても良いんじゃないだろうか…?
「…どうしたの、ハヤテ君?」
いかんいかん、表情に出てしまったか。
「ううん、何でも無い。そうだな…じゃあ僕も鯉のぼり作るの手伝うよ」
「本当なの!?じゃあ一緒に作るの!」
「じゃあまずは家から作ろうか」
「分かったの!」
「そうだ、そういや昔ショーハウスのバイトで見た家を参考にしよう!」
そうして出来上がった鯉のぼりは、従来の砂遊びを遥かに超えたものになったと後に高町なのはは語ったことを、その時の綾崎ハヤテはまだ知らない。
ーーー。
昨日同様、今日も高町ちゃんと遊び終えると薪を拾い集め釣り竿で魚を1匹釣り、それをビニールに入れて廃ビルに帰宅、するとビルの前に先客が来ていた。
「えっとすみません。ここのビルのオーナーさんですか?」
取り敢えず僕は黒い車を横に止めて黒服黒サングラス金髪ピアスと、如何にもと言った様相の男性に話しかける。
「あぁ?何だ貧相な顔をした坊主?ここはてめぇみたいな奴が来る場所じゃねえぞ?」
「貧相な顔って…そっちなんか完全に裏側に片足突っ込んでるタイプの顔付きしてるじゃないですか」
…ってやべ!思ったまんまの事言っちゃったよ…。これ、怒鳴られて戦闘に入るパターンじゃ……?
一昨日のこちらへ来る前の体ならいざ知らず、でも今の小学生くらいの体じゃとてもじゃないけど戦う体力なんて無い…!
「…ハッハハ!坊主、言うじゃねえか!結構俺はお前のこと気に入ったぜ」
そう思い様子を伺うと、僕の予想と異なりそこには唐突に笑いながら僕の頭を軽く叩く強面の姿があった。…ふう、良かった。
「まあそれはともかく、さっきの質問だったな。俺はしがいない唯の用心棒だから違うぜ、ただ今はここに入らない方が良い」
「それはどうしてです?一応そのビルは僕の活動拠点なんで入れないと困るんですけど…」
強面の男性は少し悩みながらも、髪をかきながらまあいいかと呟いて話し始めた。
「まあ坊主ならいいか、これはここだけの話だ。この中で誘拐が行われている」
「誘拐ですか…!?」
それは奇しくも、僕がこちらへと来る前にお金を得るために考えて却下した犯罪だった。
「そうだ。まあ世の中に五万とある営利誘拐だ。囚われてるのはこの海鳴市どころか、日本でも有数の企業の娘が一人、その友達でそちらも県内では有数の企業の娘が一人。身代金の額は俺は知らされていないが、多分1億2億のレベルではないだろうな」
「そうですか…」
まさか丁度良いからと言って入った廃墟が翌日に犯罪現場になっちゃうなんて…未だ世界が変わっても僕の不幸は生きてるんだなぁ…としみじみ思ってしまう。
「そういうことなら仕方ないです」
「そうだな、まあ今は大人しく公園にでも行って数時間待って…!?」
強面の男性が喋ってる間に僕は懐へ入り込み、即座に腹に拳を突き刺す。
「ぼう…何で…」
「流石に僕の仮拠点で、堂々と犯罪を行ってる人を見過ごす訳には行きませんから」
「まじ…か…」
そう言い、強面の男性は気絶した。
僕は倒れた強面の男性をバックに、廃ビルへと入る。にしても良かった…確かに体力も筋力もこの頃の僕くらいのものになってたのは昨日の時点で分かってはいたけど、技術力はどうやら無くなってないらしい。まあ思えば手際良く木の棒と木の板を使って火種から焚き火を作れてたんだから当たり前かもしれないけど。そのお陰で勢いを殺さずに上手く拳を入れることができた。
そうして僕は廃墟内に足を踏み入れると、声が上の方から響いてくる。この感じだと四階部分からだろうか、僕の生活スペースじゃなくて本当に良かった。
「何するんのよ!この縄を離しなさい!」
「アリサちゃん落ち着いて…」
「ボス、こいつらどうします?」
「放っとけ。どうせ逃げられない」
4階まで上がると、とある部屋から高町ちゃんと同い年くらいの女の子の声と共に、複数の男の声が聞こえてきた。観察してみたところ、相手の人数は恐らく4人ほどだ。あとは銃を持ってるかどうかで変わってくるけど、その都度対処すれば良いだろう。取り敢えずここはそうだなぁ…。
僕は先程道端で見つけた仮面○イダー的仮面を身につけ、部屋に入る。
「…!なんだお前!」
黒服のこれまた強面の男たちが僕の姿に気づき、こちらへ警戒の眼差しを向ける。
「僕の、僕の名前は綾崎は…」
「「綾崎は、?」」
いけないいけない、こういう所で本当の名前を名乗っちゃいけないような気がする。多分向こうは組織だし、名前がバレたらすぐに報復とか来るかもしれない。
綾崎は、は、ハ、…そうだ!
「綾崎、は、…ハーマイオニーだ!!」
「いや声質男でしょあんた!?」
そう縛られている金髪の女の子にツッコまれる。…案外余裕なんじゃないかあの子?
「まあそんなことはどうでもいい、取り敢えずあいつを殺せ!」
「了解だぜボス!」
「あのふざけた仮面をぶっ飛ばしてやる!」
そう言って僕に拳銃を向けてくる強面三人組。どうやら命令している、あの奥で腕を組んでるハゲで強面の男性がリーダーらしい。
「とにかくそこの人、逃げてください!」
「その必要は無いです!」
今、確かに僕には体力と筋力は無い。だけど今まで人に言えないようなバイトや仕事を重ねてきた僕の技術があれば、そこをカバーするくらいは容易なこと…!
「グホッ…!」
銃弾を避けつつまず高速で近寄って一人の顔面に回し蹴りを叩き込み、その後男が手を離したことで空中に浮いた拳銃を右手でキャッチ。そして流れるように前方回転受身から膝立ちの状態で立ち上がり、残り二人が手に持っていた拳銃を狙い撃って落とさせる。
「おい何やってやがる!?」
「無理だボス!こいつ動きが化け物染みてやがる!」
「ええい!俺が撃つ!」
奥にいたボスと呼ばれる男は、ホルダーから拳銃を抜いて僕の方に発砲してくる。しかし、脇の締りが弱かったり拳銃の持ち方が違ったりしているせいか、全く見当違いの方向へ弾丸が刺さる。
「…でもこれはこれで危ないですね」
人質になってる女の子達に流れ弾が行ってしまう前に僕は更にもう一発、リーダーの拳銃を撃ち抜き使用不可能にする。
「お、お、お前…目的は何だ…!?」
取り敢えず僕はまだ意識のあった手下二人の首筋に手刀を入れ、リーダーの方へ近づく。
「そうですね…取り敢えず警察にでも捕まってください」
そう言い、僕はリーダーにも手刀を入れた。
「あ、あんた何者なの…?」
金髪の女の子が震えながらも力強く聞いてくる。…まさか今までのは虚勢だったのかな、そうだとしたら大したものだと思う。僕にはさっぱり分からなかった。
「そうですね…まあ敢えて言えば唯の浮浪者です。…あ、そうだ。さっさと縄を切っちゃいましょう」
そう言って僕は縛られている縄を手で一本一本引きちぎぅて切っていく。
「こんな太い縄を…私でも無理なのに」
ポツリと紫色の髪の毛が特徴的な女の子がそう零す。
「そりゃ女の子には難しいですよ…」
「いや…そうではないんだけど…」
なんだろ?…まあいっか。
「とにかくこれからは気を付けて帰ってくださいね?警察への連絡は僕から電話ボックスでやっておくのヘブッ!」
…転んだ。何も無い所で、思い切り。
「痛たたっ…ってあれ、仮面…」
「…男の子?」
「しかも私たちと同い年くらい…」
…どうやらこんな所でもパッシブスキルの不幸が発動したようで、転んだ拍子に仮面が取れて僕の素顔がバレてしまったみたいだ。
…これは、まずい。
「……じゃあ今度は気をつけるんだよ!」
「ええ…って待ちなさーい!」
「待ってくださーい!お金の縁がまるで無さそうな人ー!」
何であの女の子、僕の悲しき特徴を知ってるんだろ…。
そう思いながら夜の町中を走る綾崎ハヤテ15歳(外見5、6歳)であった。
色々とオリ設定は入ってますがそこらへんはハヤテのごとく!原作のあのノリのつもりで見て下さると嬉しいです