ファンタジーな魔法って言わなかったっけ?   作:いつのせキノン

1 / 24
一期
魔に惹かれあう者達


 

 輪廻転生。人が死に、その霊魂はあの世に逝き、そして再び現世に帰って来る。

 不思議なことにこの考えは仏教だけではなく、多くの宗教に見られる事でもあった。興味があって調べた時には驚いたものだ。

 

 アリストテレスは知を愛するのが人間の本性と言い、それをフィロソフィアと呼んだ。後の哲学だ。

 だからこうして放課後に学校の図書館(ここ)で意味もなく宗教学の書物を読み漁り、毎日の日課である現実逃避をしながら知識を追い求めるのも哲学である筈だ。そう、これが意味のある行動だと願ってやまない。

 

「……はぁぁ……」

 

 溜息が重い。溜息をすると幸せが逃げるとは言うが、もう自身の幸せはとっくに底を突いてしまったような気がする。前世、前々世、その前も、その前の前も、一体どれ程の溜息を吐いてきただろうか。わからない、嗚呼、残念ながらわからない。数えきれない程、幸せを捨てて来たに違いない。

 

 これは何度目かの転生の、その途中。多分3ケタを優に超える程の様々な人生を経験してきたのだろう。初めてのあの時から時を経て、自分の精神が酷く摩耗しているのを実感できる。

 しかしそれに何かを思う訳でもなく、ただ淡々とこの身体の寿命を使い潰して行く。感動も悲観もなし。生き慣れてた人生は退屈を極めるだけであった。

 

「……もうこんな時間だ」

 

 壁掛け時計はそろそろ17時を指す頃合い。机の上に広げていた本を閉じて席を立ち、のっそりと緩慢な動きで本棚に本を戻す。図書室を出る時、入口近くのカウンターに座る顔見知りと目が合った。軽く会釈をすると向こうも薄く笑って会釈を返してくれた。そして無言で部屋を出る。

 

「……残り30秒」

 

 腕時計を見る。時刻は16時59分33秒。見慣れた学校の廊下を早足で抜け、玄関に。図書室から比較的に近いからこそまで僅かに20秒。下駄箱に内履きを投げ入れ、外履きに変えるまで5秒。残り2秒で外へ大きく一歩を踏み出す。

 ジャスト17時。同時に、ふわりと風が舞った。そしてどこからともなく黒地の布が現れローブとなって肩に羽織られる。ごそごそとその内側をあさって出てくるのは、一般的に魔女帽子と呼ばれるであろう黒地でつばの広いとんがり帽子。カクカクと2度鋭角に曲がっていながらも形を保つ、不思議な帽子だ。

 そこへ不意に上空から竹箒が1人でに飛んできて足元で止まる。その箒に躊躇いなく脚を駆けて飛び乗り、細い柄の上で器用に立った。

 人間1人を乗せて箒はいとも簡単に飛ぶ。傍から見れば否応に目立つであろうそれは、誰1人として気にはしなかった。気にできなかった。何故なら、それは一般人には決して見えていないのだから。

 

「……方角は……、東」

 

 箒に乗りながら掌に水晶を置いてじっと見やる。水晶の中では赤い矢印が1つ、東の方角を指していた。

 方向を東に変えて空を飛ぶ。その速度は充分に速い。乗用車や電車が容易く出せてしまう速度に匹敵するだろう。

 

 飛翔してやってきたのは、とある山の上の公園。箒を飛び降りて広場に着地し、素早く周辺を観察した。人影はない。

 手早くローブの懐から杖を取り出す。その杖の大きさは到底懐に仕舞えるとは思えない程に長く、容易く大人並の身長を超える。少年が持てば尚更大きさが際立つ。

 

「“励起する波動”」

 

 ポツリと1つ呟き、歪な木製の杖の先端、枝が絡まるようにして太くなったソレを地面に向ける。刹那に先端を中心に波動がぶわりと空間を凪いで行く。重っ苦しいその風は液体の様で、しかし草や木々を揺らすことなく広がった。

 その直後、公園の一角で青白い光がドンと音を立てて立ち上がった。弾かれるようにその方向を見て手を掲げ、虚空を掴むかと思えば飛んできた箒が手に収まり、引っ張られるように狙っていた方向へ飛んでいく。

 

 林を駆け抜け光源の近く。箒から飛び降りて再び杖を構えた。

 茂みの中から光が飛び出している様を見て、いつも通りに事を済ませる。懐から取り出したのはフィラメントが焼き切れて使い物にならなくなった透明の電球だ。

 

「“封縛の粉塵”」

 

 光へ杖の先端を向けて詠唱、すると先端から灰色の煙が沸き出して光へ降り注ぐ。深呼吸を3回すれば、その間にたちまち光は収まっていた。

 

「……うん、順調」

 

 茂みの中に入って手を伸ばし、掴んだのは小さな青い宝石のようなモノだった。8面体の結晶は日に当てるまでもなく内側から光を発しており、こうして封印した今でも不思議な力を感じる。

 その宝石をそっと電球にかざせばひとりでにすっぽりと中へ入り込んだ。さながら青い電球だ。

 

「……帰ろ」

 

 用事は済んだ。後は家に帰って宿題をやらなければ。

 これでもまだ小学3年生、わかっていても勉学はこなさなければならないのだ。

 

 これが転生者、輪廻(リンネ)メグルの最近の日常だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 輪廻メグルは転生者である。現在は何周目かもわからない人生で【魔法使い】を趣味として嗜んでいるところだ。

 転生は全ての魂が輪廻の中で行われ、それは彼以外も例外はない。

 しかし特異な事として、輪廻メグルは前世の記憶と呼べるものがあり、かつ転生の度に特典を得ることが可能なのだ。

 輪廻メグルとなる前の世界でもそれが普通だった。摩訶不思議なものや到底役に立たないであろうもの、時には世界を崩壊させかねないものまで扱ったことだってある。

 実はその特典と呼ばれる、と言うか、彼が特典と勝手に命名して呼ぶその力は、彼が転生をする度に大概がランダムで付与される。

 今回の転生による特典は【魔法使い】と【絶対記憶】のどちらかを選択する形式になっていて、面白そうな前者を選んだのだ。

 赤ん坊の時から時を経て様々な知識を取り入れ、今は一人で黙々と不思議な現象に対して魔法で対処をしてまわる日々。今の楽しみは【魔法使い】をしていられる間だけだ。

 【魔法使い】でない間はただの人間。何回何十回と繰り返されたサイクルと同じことを繰り返すだけで、非常に退屈だ。ようは、飽きた。

 何度も学んだ事柄は適当に流し、彼は殆どの情熱を【魔法使い】に注ぐ。それが今現在で最も楽しいとわかっているからだ。

 

 彼の使う魔法は、それはそれはオカルトチックだ。呪文と触媒、時には血や生け贄を必要とし、普段から入念な準備を擁する、端から見れば非常に面倒臭いものだ。

 しかし彼はこの魔法しか知らないし、これで良かった。数え切れない人生を経て来て【魔法使い】になった経験はないからだ。

 かつては、指パッチンで何でも真っ二つだとか、異次元から取り出したとんでもない武器を滅茶苦茶に飛ばしたりだとか、女性にしか使えない人型パワードスーツを使ったりとか、異能力を全て無効化する右手だけで戦ったりとか、そんな物騒な人生もあった。

 普通の高校生生活で恋愛したり、人外モンスター達と平和に暮らしたり、周りが大きな事件に関わっていたのを知らずにスルーしていたり、異世界に飛んで遅れた文明の中を現代知識で滅茶苦茶に掻き乱して、そんなちょっとバタバタしたけど至って平和な人生もあった。

 

 しかし自分が【魔法使い】になるのは初めてだった。これが楽しくない筈がない。未知の力をイチから見出だし自分のモノにしていく、この過程が良いのだ。だからこそ、無駄に時間がかかるような魔法を、彼は愛していた。

 

 

 

 彼の家は極普通の一軒家。父と母がいて一人っ子、極々普通の核家族だ。

 両親は彼が【魔法使い】だと言うことは知らない一般人で、普段から【魔法使い】のことを彼は全員に秘匿している。面倒事を起こしたくないからだ。何で【魔法使い】なのか、そんなのは転生して力を得たからだ、なんてあまりに言い訳として情けなさ過ぎる。それに魔法は趣味だ。他人に余計な詮索はされたくなかった。

 

 そんな【魔法使い】が趣味な彼の生活は、至って普通だ。

 今は夜の20時。夕飯を終えて後は風呂に入って寝るだけ。宿題はとっくに終わらせた時間。

 彼は自分の部屋にこもって魔法の準備をしていた。

 部屋の広さは8畳、壁2面に窓があり、南側に机、東側にベッド。北側はドアとその横にクローゼットがあり、西側は本棚いっぱいの本があった。

 本棚の殆どは小学3年生が見るモノではない。全てがオカルト、全てが異常。真新しそうな物から、風化して破れそうな物まで、一体どれ程の神秘がこの本棚に収まっているのだろうか。有名な複製やレアな原本もある。

 

 彼はその内の一冊を取り出して机の上に広げ、手元のメモ帳ほどの紙に解読不明の文字列や模様を書きこんでいた。

 現在行っているのは簡易呪符の作製だ。本来なら呪符とはこんなチラシの裏だとかコピー用紙だとかで作るモノではないのだが、今の世の中呪符用の紙を買う事なんてできない。

 簡易呪符は単一の決まった効果を発揮する一回きりの使い捨ての道具。呪符は使用する素材によって効果の良し悪しも変わって来るが、現代ではその辺の紙とペンが精いっぱいだ。効果は煙を発生させたり、一瞬だけ発光したりと実に薄そうなものしかない。

 これを彼が作っているのは、普段からそう言った身を守ったり錯乱したりが必要なことをしているから。

 最近、数日前から可笑しな事がここ海鳴市で頻繁に起きているのだ。その原因はわかっている。今日回収してきた青い宝石だ。今は電球に入れて窓際に飾ってあり、その数は4つ。綺麗だ。

 彼はその回収作業に当たっているのだが、この宝石は何やらよからぬ事を引き起こす。最初は神社で飼い犬を変化させ、人間を襲わせた。襲われた人は軽傷で気絶したけど大事には至らなかったから良し。2つ目は貯水施設内の水を使っての無差別破壊。まるでスライムのように蠢いて怪物と化した。これは周りの建物がいくらか半壊、全壊したりと酷い事になった。死者は出なかったが重軽傷者が数人と決して良くはない結果だ。3つ目と4つ目は幸いなことに人気のない場所だったので特に何事も無く封印できたから良かった。

 

 とまぁ青い宝石のおかげで色々と大変なことになっているのだ。

 一般人から見れば異常な出来事であり、その原因はたった1つの宝石が引き起こしたオカルトな事件。物理や科学では証明できない出来事であるからこそ、海鳴市のニュースは日夜オカルトを暴かんとする話題で持ちきりだった。最近では変な団体が街中をうろついていたり、報道陣も頻繁に見かけるようになり学校からは外出を控えるよう通達が出る程だ。全く迷惑極まりないものである。

 

 彼が今準備をしているのは、その宝石を回収して回るため。触媒は多ければ多い程応用も利くし臨機応変に対応が可能なため、必然的に空き時間はこうした細々とした作業に没頭するのが日課だ。他にも使える魔法の幅を増やす為に魔導書(グリモワール)を解読したりと余念がない。

 

 予想では、まだあの宝石はいくつか市内にある。平和な日常を守るため……というのは建前で、【魔法使い】として魔法を使う為、今日も彼は1人孤独に魔法を磨くのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方の17時は輪廻メグルにとって特別な時間だ。

 海鳴市の霊脈は毎日17時ピッタリに最も励起する。普段ならそれまでなのだが、今回は事情が違う。

 霊脈の励起により自然発生する特殊な波動が青い宝石に作用し、例のオカルト事件が発生する仕組みなのだ。彼が毎日17時まで学校の図書館にこもり時間を潰すのにはそういう訳があった。

 

 今日も今日とて図書館で書物をあさり、時間になると本を戻してカウンターの子にまた会釈して、それが返されたのを横目で確認して外に出る。

 

 虚空から出る襟の高いローブを羽織り、帽子を取り出して被ればまた竹箒が飛んで来る。水晶を取り出しながら方角を見定めた彼は、青白い光が立ち上る方角へと今日も飛んで行くのだ。

 

 

 

 杖を持って箒に乗り飛翔し、とあるお屋敷の庭から光が発せられているのを目視で確認した。

 その刹那、灰色の空間が周辺を覆った。

 

 結界?

 

 恐らくは、そうなのだろう。しかし規模が異常だ。彼の知る魔法でこれだけの結界を用意するのは非常に骨が折れる。見計らったように結界を張った張本人は、まさか宝石をばら撒いた奴か、もしくはそのグル?

 いや、それは後でいいかと思考を中断、懐からいつもの大きな杖を取り出した。同時に、今日は呪符も取り出す。チラシの裏を使った簡易物だが、一瞬の目くらまし程度には使える物だ。暴走する宝石だけでなく、もしそれを操るような敵がいれば……一筋縄ではいかないだろうと冷や汗を流す。この結界は恐らく関係者以外を現実世界に残し、必要な人員だけを内部に閉じ込めるもの。自分以外に街を歩いていた人々の生命反応が感じられないのがその証拠だ。人的被害が最小限に抑えられるだけまだマシと思うべきだろう。

 それにもし対峙するとなれば相手の方が格上の可能性が高く、また相手の結界内故に圧倒的に不利だ。工房まで作られていては下手したら一方的にやられる。向こうは宝石暴走の首謀者、こちらは宝石を鎮め回収するのが目的。和解は難しいかもしれない。

 

 警戒を最大限にし、屋敷の上へ。庭を見渡すと、木の生い茂る方向から何やら重々しい音が聞こえた。目を凝らせば、森の中を動く巨大な影が見える。恐らく4足歩行、尻尾が立っている。猫が巨大化したのか?

 取り敢えず宝石が原因によるものに違いない。使う魔法をあらかじめ頭の中で確認しておき、呪符を構えながら箒に乗り飛び出す。

 近付けば近付くほど、それが猫だと言うことがわかる。しかも子猫だ。

 だが、無差別に破壊を振り撒くものではないらしく、のそのそと猫らしく動いては止まったりとただの猫だ。

 

 何故だ、と思う前にさっさと封印しようと杖をかざした、その直後。

 

「あのぅ……」

 

 背後から聞こえた突然の女の子の声に振り向き、咄嗟に杖と呪符をかざした。

 

「ひゃっ!?」

 

 白いドレスのような、近未来的デザインの服。白いブーツにはピンク色の羽がついていて、手には白の柄の先端に金色のフレームとその中心に大きな赤い水晶が着いた杖。その女の子の顔に、酷く見覚えがあった。

 

「え……あなた、は……」

 

 恐らくこっちも酷く驚いた顔をしていたのだろう。彼女も驚愕に表情を染めていた。

 

「……あ、あのっ、学校の……人……ですよね……?」

 

 茶髪のツインテールと、その顔立ち。名前は、確か……。

 

「……高町、なのは……?」

 

 予想していなかった彼女の登場に、思わずそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オリジナル設定に関しては後々作中で説明が出ます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。