ファンタジーな魔法って言わなかったっけ?   作:いつのせキノン

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それから

 

 アースラから解放されて2週間。

 結局、輪廻メグルが再び招集される事態というものは起きなかった。

 一つ気になったことを上げるとすれば、なのはとフェイトが一騎討ちをするという何やら不安な情報が舞い込んできたことくらいか。勝った方に手持ちのジュエルシードを全て譲るとか何とか。阿呆か何かだろうかと口に出してしまったのは記憶に新しい。

 

 さて、と気持ちを切り替える。

 現在彼は海辺に展開された結界内に居座り、岩場に腰を下ろして上空を見上げていた。周囲には認識阻害用の呪符を入念に配置し、ローブと帽子は着用済み。杖も急遽予備用の短杖(ワンド)を用意し、100%とはならずとも万全を期している。

 言ってしまえば最終保険という奴だ。ジュエルシードがプレシアの手に渡ってしまえば、彼にとっても不都合が生じる。最後の最後、取り返しのつかないことが起きるならば、全力でもって対処をする。呪符も魔導書(グリモワール)も総動員し、全てを賭けるしかない。

 

 因みに、彼自身がここにいるという情報は誰にも告げてはいない。表立って動くと余計な手間が生まれる。特に、プレシアに居場所が知られるのはよろしくなかった。

 

 遠く、沖合。小さく2つの点が空中に漂っている。

 白と黒、対称的な影。なのはとフェイトである。

 

 どちらが勝つか。なのはが勝てば万々歳、フェイトが勝てば仕事が増える。出来れば前者がいいなぁ、と一人思う。

 察するに、なのははついこの前魔法に触れたばかりの素人。逆にフェイトはこれまで訓練を積んできた魔導師。いくらなのはに才能があるとユーノに聞かされたところで、やはりフェイトが一枚上手だろう。オッズはフェイトの方が高いのは間違いない。

 

「……(やっこ)さんも、かな……」

 

 探知網に引っかかる視線は2つ。管理局組とプレシアのものだろう。

 管理局はなのはの勝利を望むだろうが、プレシアはフェイトに賭けざるを得ない。負ければ彼女の計画は全て水の泡になるのだから。

 

 つまり、なのはが勝てば彼女が重い腰を上げるのは確定。その乱入を防いでフェイトを拘束さえすれば交渉に持ち込めるか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 考えているうちに2人の戦闘はとっくに始まっていた。

 桃色と黄色の2色が派手に飛び交い、時に海飛沫を舞い上げる。見た目は確かに目を引くし、なるほど、綺麗かもしれない。

 

 が、やはり彼から見て彼女らの魔法というものは汎用性に欠けると結論付けた。あれではまるで敵対者に対応するために作られた魔法ではないか、と。戦闘に特化しすぎた魔法なんぞ、彼にとって然したる価値はないのだ。

 

 ともかくとして。

 

「……見世物としては良いのかもしれない」

 

 それだけは、認めよう。スポーツ観戦のようなものだ。

 

 そうやって、なのはの勝利を何となく望みながら、時間は過ぎて行く。

 

 

 

 やがて、決着はついた。

 あわやなのはが落とされるかと思ったところ、シールドによりフェイトの攻撃を完全に受けきり、カウンター気味のバインドと収束砲。桃色の極太の光が少女を飲み込む光景に、彼は若干引いた。

 

 力なく海へと落下したフェイトだが、すぐさまなのはが助け出し、瓦礫の積み上がった僅かな海上に引き上げた。

 遠目に、何やら話し合っている様子。その雰囲気は穏やかに見えた。

 なるほど、二人の中で何か、通じ合うものができたのかもしれない。

 

 そんな二人を眺めつつ、彼は重くなりかけた腰を上げ、帽子を被り直しながら空を見上げる。

 

 刹那、ゴロゴロと重々しい音を立てて、積乱雲が立ち上り始める。

 自然現象では起こり得ない、外部からの干渉。意図的な魔力の奔流に彼は顔をしかめた。

 あれはマズい。純粋にヤバい。経験が告げる未来予測は、桁違いの稲妻だ。出鱈目にも程がある。こちとらそんな大規模魔法、準備なしにできるわけがないというのに!!

 

「……どこまでワガママでいれば気が済むんだ……」

 

 自分のことは棚に上げてそう毒づき、防御用の強力な護符を取り出して辺りにばら撒いた。

 直後、渦巻いていた鉛色の雲から紫電が迸り、轟音と光を伴って真下へ着弾した。

 

「……あの大出力を、たった一人に向けて、か……」

 

 落ちたのは、まさになのはとフェイトのいたところ。

 そして、かすかに聞こえていた悲鳴は、フェイトのものだった。

 舞い上がる波飛沫の隙間から垣間見れば、雷が着弾した場所には瓦礫も何も一切なかった。

 近くの宙ではなのはが忙しなく飛び回っており、フェイトの名前を何度も何度も叫んでいた。間一髪逃れられたのか……おそらくは、フェイトが咄嗟に突き飛ばしたか、何かしらあったのだろう。

 

「……本当に、報われない」

 

 衝撃波を打ち消した護符の紙片が海に疎らに沈みゆく中、彼は短杖(ワンド)を取り出して杖の先を海に触れさせる。

 そのままじっと目を閉じて、荒れる波打ち際で待ち続け、数秒。海中から漂う微かな生命反応を察知し、唱える。

 

「“ウミガメ”」

 

 一言そっと唱えれば、杖を浸けた先の水がまるで生き物のように蠢き……やがてその波間に浮かび上がる影が見え始める。

 水が掻き分けられて姿を現す少女――気絶してぐったりとしたフェイトを見て、彼はすぐさま彼女を引き上げた。

 すぐさま水を吐かせ呼吸の確認と傷を見るが……意外や意外、重傷と言えるほどの怪我を負っている様子はなかった。丸焦げにされててもおかしくはないとすら思っていたのに、予想外の結果であった。

 軽傷は負っているものの、命に別状はない。それが結論となった。

 

 ふと、彼女が握る手の中から零れ落ちかけた杖を見た。デバイス、と呼ばれる、魔法を使うための杖。

 フェイトが使っていたであろうソレは、半ばから折れてヒビだらけ。時折、かすかに水晶部分が火花を散らすように明滅を繰り返すだけだった。

 

「……デバイスが、防いだのか」

 

 なのはのレイジングハートもAI補助が使えた。間一髪の防御がフェイトを救ったと見て良いだろう。

 

「……見ていて何もかも痛々しいよ、全くもって……」

 

 やがて彼は懐から小瓶を取り出し、眠っている彼女の胸元に握らせ、静かに箒で飛び去っていった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 また、紫色の雷を見ました。

 そして、その雷に撃たれ、悲鳴を上げるフェイトちゃんも……。

 突然、フェイトちゃんに突き飛ばされたかと思えば、次の瞬間には……。

 

 視界も、耳も、しばらく使い物にならなくて。

 ようやく元に戻ったところで、フェイトちゃんがどこにもいないことに焦りました。

 たぶん、海に落ちたのだと思っていたけれど、魔法の雷による一撃は想像以上で、本当に見つけられるのかと、嫌な予感がよぎりました。

 

 不幸中の幸い、とレイジングハートに教えてもらったのは、フェイトちゃんのバルディッシュが直前にシールドでかなり相殺していたということ。フェイトちゃん自身にそこまでの怪我はないだろうと言われました。

 ただし、バルディッシュの反応はロスト。恐らく、魔法に耐えきれずに壊れてしまった可能性が高いと。

 

 何度も何度も叫んで、泣きそうになりながらもフェイトちゃんを捜し、レイジングハートの助けを借りて、瓦礫の浅瀬に気絶するフェイトちゃんを発見しました。

 

「あ、これ……」

 

 命に別状はないバイタルなのを確認、呼吸もあり。

 けれど、それ以上に、フェイトちゃんの手に握られたモノに目が行きました。

 

 装飾が施された、水銀の満ちた小瓶。

 

 間違いありません。これは、

 

「……メグルくん、助けてくれてたんだ……っ」

 

 思わず、目頭が熱くなりました。

 フェイトちゃんも無事で、何だかんだでメグルくんも見ていてくれて、助けてくれていたなんて……。

 良かった、本当に良かった。

 フェイトちゃんの手を握って、何度も何度も呟きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、見たことのない、けれど、どこか既視感を覚える天井だった。

 

「ぅ、……」

 

 照明が眩しくて、寝返りをしながら布団で顔を隠した。

 ぼんやりしてて、思考が纏まらない。

 ここしばらくの記憶が飛んでて、あまりに不明瞭。

 

「確か……」

 

 そう、確か、高町なのはと名乗る魔導師と決闘になって……。

 

 

 

 嗚呼、そうだ。

 

 

 

 ――――わたしは、負けた。

 

 

 

「――フェイトっ!!」

「……アルフ……、」

 

 不意に声がして横を見れば、泣きそうな顔をしたアルフがいて、抱きついて来た。

 苦しいよ、と思わず返して、それから少し緩んだ力で、それでも力強く、離そうとはしてくれなかった。

 

 

 

 

 

 管理局は、わたしを拘束することとした。

 同時に、『時の庭園』にいる母さんの逮捕も……。既に部隊が編成されて現地に送り込まれていた。

 

 途中、次元航行船が拾った通信で、母さんは様々なことを話した……話して、くれた……。

 

 魔法実験での事故から、()()()()・テスタロッサの死。わたしはそのクローンであること。

 

 

 

 ああ、そっか、と。

 

 

 

 わかりたくなかったのに。

 それを、現実と認めたくなかったのに。

 

 

 

 目の前が真っ暗になった気がした。

 

 

 

 わたしの生きる希望って、何だろう?

 

 わたしは、母さんのために産まれてきたと、そう思っていた。母さんのために、戦って、ジュエルシードを集めて……それで……、

 

 

 

 

 

 それで――、褒めて、ほしかった。

 

 

 

 

 

 ただ、一回だけでいいから。

 あなたの娘でいたかったから。

 

 

 

 

 

 ぼんやりと、視界の中で時間だけが進んでいく。

 

 大きな投影モニターの中では、高町なのはたちが全力で戦っている。

 

 ずっと、ずっと、わたしに語りかけてきてくれた子。

 

 話をしようと、言ってくれた、あの子が。

 

 

 

 嗚呼、眩しいよ。

 

 

 

 そこで、わたしは、何を思ったのだろう。

 未だに、この時を思い出すとき、わたしは自分が何を感じたのか、言葉に表すことはできなかった。

 でも、この時わたしに宿った意志は、とてもあたたかいものだったと、そう思う。

 

 

 

 だから、立ち上がる他に、わたしが選ぶ選択肢はあり得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルディッシュを修復してもらう最中に、わたしは自身のベッドの枕元に置かれた小瓶に気付いた。

 銀色の液体……水銀で満たされた、装飾の施された頑丈な小瓶だ。

 

「それはね、フェイト。高町なのは(アイツ)が言ってたんだけど、友達がフェイトを治すために使ってくれたんだってさ」

「……あの子の、友達……?」

 

 アルフの言葉でわたしが思い浮かべたのは、黒い帽子とローブを羽織った、あの男の子。

 ストン、と、その言葉が胸におさまった、気がする。

 

 おもむろに、わたしはその小瓶を手にとって、懐に入れた。

 

 

 

 

 

 

「……全部、終わらせよう。新しいわたしを、始めるために」

 

 

 

 

 

 

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