ファンタジーな魔法って言わなかったっけ?   作:いつのせキノン

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覆らない現実

 

「ぅ……………………、」

 

 なのはは眩しさに目を覚ました。

 

「あ、れ……」

 

 見慣れない、無機質な天井だった。

 

 どこだろう、と。

 起き上がろうとして、右手を握られている感触に気付いた。

 

「フェイト、ちゃん……?」

 

 視線をやれば、そこにはなのはの手を握って寝息をたてるフェイトがいた。私服のまま、椅子に座り、ベッドに突っ伏して。

 

「……アースラの、中……?」

 

 覚醒したばかりの脳が徐々に回転してくる。

 そして、思い出してくる。

 

 寝る前の、気絶する直前までの記憶を。

 

 結界をレイジングハートが感知して、駆けつけてみれば既にメグルはボロボロだった。

 理性は何とかしなければ、と。

 けれども、本能は、マグマのように煮え返っていて。

 

 そして、負けて。

 

 メグルは、

 

 

 

 

 

「……なのは、起きた?」

 

 その声に、なのははハッと我に返った。

 視線の先、フェイトが泣きそうな顔で、なのはを見つめていた。

 

「あぁ、良かった……っ」

「う、ん……」

「……なのは……?」

「………………………………………………………………、」

 

 何と言っていいのか、なのはは言葉が出てこなかった。

 頭の中がぐちゃぐちゃだった。

 半年ぶりに会えた友達。またいつか、と約束をして、やっと、会えたのに。

 

 ――――足りない。

 

 足りないものが、多すぎた。

 

 本当だったら、地球で、あの公園で。

 なのはと、フェイトにアリシア。

 アリサやすずかも加えて。

 

 

 

 

 

 そして、メグルも、皆で一緒に。

 

 

 

 

 

「フェイトちゃん……」

 

 視界が歪んだ。病気でもないのに、胸の奥が痛かった。

 

「……わたし、メグルくんを、……まもれなかった……」

 

 それは、後悔の言葉。自分を攻め立てる、自傷の刃。

 

「わたしのせいで、メグルくんが……ッ!!」

「違う。違うよ、なのは。なのはのせいじゃない」

「わたしがッ、わたしがもっとっ、強かったらッ!! ちゃんと、お話ししようって、説得できてたら……ッ!!」

 

 慟哭は止まらなかった。

 せきを切って溢れる涙は、なのはの手を握ったフェイトの手の甲を濡らした。

 

「……なのはは悪くないよ。大丈夫だから、大丈夫……」

 

 泣き崩れ、嗚咽も漏らすなのはを、フェイトはただただ強く抱き締める。大丈夫、大丈夫と、胸元に抱き寄せて、慰める。

 なのはの言葉はもう形をなしていない。後悔だけが、呪いのように込められて、それを吐き出し続けていた。

 

 フェイトはそれを、受け止めることしかできず。

 彼女も泣きそうなほどに、顔を顰めるしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポツリ、と誰かが言った。

 

「……酷すぎる」

 

 それは、皆の心を代弁する言葉だった。

 

 

 

 アースラ乗務員の全員が視線を向けるのは、管制室の巨大モニター。その中で何度も再生される、無残な光景だ。

 

 結界の中へ突入するところから始まり、三人と一匹の古代ベルカ式の魔法を扱う者たちとの対峙。

 その中心で倒れ伏す重傷の少年。

 魔導書――――闇の書と呼ばれる聖遺物による魔力の蒐集。

 

 そして、

 

 

 

「――――アリシア」

「ん、なぁに?」

 

 クロノは、椅子の一つに腰をかけた少女に声を掛けた。

 その少女――アリシアは、けろっとした表情で、椅子ごとクロノへ振り返った。

 

「……無理をするものじゃない」

「……そう見える?」

「見える。顔に出さなくても、僕にはわかる。もう、休んだ方がいい」

 

 それは、彼女の身を案じての言葉だ。

 かれこれ数時間、現場検証のために、レイジングハートがオーバーヒートする直前まで録画していた映像を見続けている。

 

 クロノからすれば、幼い子供が何度も眺めるような映像ではない。

 ましてや、アリシアには見せたくないと、そう思うほどに、(むご)すぎる。

 

「……………………ごめん、休むなんて、できないよ」

 

 だが、アリシアは首を横に振った。

 

「……わたしを救ってくれた子が……、まだ何も恩返しもできてないのに、死んじゃったんだよ……」

 

 頭からこびりついて離れない。彼の死が、彼がもういないということが。

 俯いて、力なく、首を振る。

 無力感。自分には何もしてあげれないという、何もかもが遅すぎた結果の末路が、これだ。

 

「……助けたかったよ……」

 

 叶わぬ願いを口にして、アリシアは沈黙した。これ以上何かを言ったところで、メグルが戻ってくるわけではないのだ。死者蘇生なんて【魔法】を使えるのは、輪廻メグルしかいなかったのだから。

 

「…………なのはが、目を覚ましたみたい。フェイトが連れてきてくれるって」

「……そうか」

「……………………映像、見せるの?」

「……いや、やめておこう。これは、彼女には、荷が重すぎる」

 

 モニターが閉じられ、クロノは自分のあてがわれた場所へ戻ってゆく。

 アリシアはその背を見送り、背もたれに寄りかかって、意味もなく天井を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が開けて、フェイトとアリシアの私立聖祥大付属小学校への転入が決まったことが告げられた。

 それはきっと、喜ばしいニュースのはずだった。

 もし、状況が変わっていたならば、なのはは両手を上げて喜んだことだろう。

 しかし、メグルが欠けたという状況は、なのはの心に重くのしかかっていた。

 

「なのはさん、今は魔法が使えないのよね?」

「はい……」

 

 今は状況確認の真っ最中。リンカーコアから魔力を抜かれ、なのはは魔法の使用ができなくなっていた。

 リンディの表情は険しい。なのははこの数カ月で立派な一人前の魔導師と言っても過言ではないほどに実力をつけてきたスーパールーキーだ。

 そんな強さも魔法があってこそのもの。そんななのはが負けて、なおかつ魔法も使えない現状。もう一度襲撃されてしまえば、なす術はない。

 

 ただし、回復の見込みがあるのがまだ唯一の救いだ。

 再度使えるようになるには一週間弱はかかるだろうが、それでも希望があるだけマシというもの。

 

「……フェイトさん」

「はい。なのはは、わたしが守ります」

 

 故に、万が一の戦闘になった場合は、フェイトがなのはの代わりとなる。フェイトもまた魔導師として高い実力を持つ。現状戦えるのが彼女一人だけという不安はあるが、贅沢は言ってられない。アリシアは魔法資質を持っていないからだ。

 

「私もアルフと一緒に地上に降りてるから、万が一のことがあったらすぐに連絡をすること。いい?」

「あたしのことも頼ってよ、フェイト」

「はい、リンディさん。アルフも、お願いね」

 

 地上へ転送される傍ら、フェイトはリンディやアルフと言葉を交わす。そして、なのはとアリシアも。

 

「アリシアさんも、一応気を付けて。リンカーコアも【魔法】もないから狙われる心配はないでしょうけど。危なかったら逃げるのよ」

「はい、気を付けます」

「最後に、なのはさん」

「は、はい……」

「……少し、厳しいことを言います。リンネさんのことは悲しいけれど、いつまでも引きずる訳にはいかないわ。彼のためにも、どうしてこんな事件が起こっているのか、解明するのが私たちの使命なの。いい?」

「はい……ちゃんと、切り替えます」

 

 相変わらず、なのはに覇気は戻らない。横にいるアリシアは、それを悲しげに見つめた。

 ……アリシア自身、自分はまだなのはほど思い詰めてはいないと客観視していた。情報で聞かされただけの自分とは違って、なのはは目の前でメグルを死なせてしまった。優しい彼女はそれを誰かの所為だと押し付けるようなことはしないだろう。だからこそ、今も苦しみ続けている。

 悪いとは思いながらも、アリシアはなのはよりはマシだと、そう思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日は、そのまま学校へと向かうことになった。

 三人の間に、会話らしい会話は、何も起きなかった。

 

 やがて、いつもなのはが通る公園へと差し掛かった。

 その入口には、いつも顔を合わせる二人――アリサとすずかが、待っていた。

 

「ごきげんよう、なのは」

「ごきげんよう、なのはちゃん」

「あ、うん……おはよう、アリサちゃん、すずかちゃん」

「何よ、二人が来るってのに、元気なさすぎじゃない?」

 

 アンタが一番喜んでると思ったのに、と。アリサはテンションの低いなのはに首を傾げた。

 

「ごきげんよう、アリシアちゃん、フェイトちゃん。月村すずかです」

「これはご丁寧にどうも。アリシア・テスタロッサです」

「フェイト・テスタロッサ、です」

「直接会えて光栄だわ。よろしくね、二人とも」

 

 アリサとすずかはそれぞれ握手。

 アリシアは、笑顔で。フェイトも、笑顔を取り繕った。

 

 アリサはそんな二人にも、なのはと同じような違和感を覚えた。

 

「かったいわね。ま、時間に任せて慣れましょ。……で、なのは?」

「…………?」

「そんなキョトンとしてんじゃないわよ!! 目に見えて落ち込んでるし、何かあったんじゃないの?」

「…………………………………………うん……………………、」

 

 なのはの小さい頷きに、アリサは「やっぱり」と肩を竦めた。友人のわかりやすすぎる態度にあきれたらしい態度だった。

 

「なのはちゃん、相談とか、全然してくれていいんだよ。そんなに暗い雰囲気だと、こっちまで悲しくなっちゃう」

「そうよ。そのくらいちゃっちゃと吐き出した方が楽だわ」

 

 言ってみなさいよ、と。そんな雰囲気でなのはの顔を覗き込むアリサとすずか。

 目頭が熱くなる、気がした。なんて出来た友人なのだろう、と。彼女らの人を思いやる気持ちに、なのはは感謝するしかなかった。

 

「……その……、」

 

 ……でも、言っていいのか、わからなかった。

 魔法だとか、そういうのは、隠すとして。

 

 

 

 輪廻メグルが亡くなった、だなんて。

 

 

 

 それじゃあまるで、この現実を認めてしまっているような。

 

 

 

「……あのね……、」

「うん」

「……メグルくんが……、いなく、なっちゃって……」

 

 でも、絞り出すしか、なかった。

 嘘だけは、言えない。

 嘘であってほしくとも。

 

 それでも、親友であるアリサやすずかに嘘をつくのだけは、裏切りであると。

 

 せめて、彼の死は、自分が言うべきだと。

 無意識に、それが使命である、なのはは感じていた。

 

 

 

 なのはの言葉を聞いて、アリサとすずかは不思議そうに顔を合わせた。

 

 

 

「ねぇ、なのは」

 

 

 

 やがて、アリサは、

 

 

 

「ちょっと聞きたいんだけど」

 

 

 

 こんなことを、言い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――メグルって、誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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