ファンタジーな魔法って言わなかったっけ?   作:いつのせキノン

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隠蔽工作

 

 

 

「メグルって、誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…………………………………………っ?」

 

 思考が、止まった。

 

 

 

「な、に……を……?」

 

 何を、言っているのか。

 なのはにはわからなかった。

 

 そして、アリシアとフェイトも。

 アリサが口にした言葉に、絶句した。

 

「あれ? ねぇすずか、メグルって知ってる?」

「んー? ……多分、わたしも知らない子だと思うけど……」

 

 すずかも、知らないと言う。

 

「あ、アリサちゃん……? どう、して、」

「どうって、何がよ。知らないものは知らないし……誰かと勘違いしてるんじゃないの? ねぇ、すずか」

「うん……なのはちゃんの、お友達の子?」

「っ、」

 

 ひゅっ、と。か細い息が喉を鳴らした。

 首を絞められたように、苦しくなって、頭痛がする。

 ぐるぐると、世界が回っていた。

 

「ねぇ、フェイト、アリシア。もしかして、そっちはそのメグルって子と知り合いだったりするのかしら?」

 

 アリサの視線はフェイトとアリシアへと移った。

 そして二人は、アリサと目が合って、彼女が冗談を口にしている訳ではないと確信する。

 

 ()()()()()()()()

 

 まるで、見ている世界が異なるような。

 

「……うん、そうだよ。メグルとは友達なんだ。ちょっと訳あって離れ離れになっちゃってねー。なのははそれがショックなの」

 

 咄嗟に、アリシアは流れるように言葉をつむぎきった。

 嘘はなく、事実を述べた。ただ、現実との齟齬を洗い出すような表現で。

 

「なのはったらよくメグルの話をするからさ。わたしもてっきりアリサやすずかと友達だと思ってたんだけど」

「あー、なるほど、そういうことね。残念だけど、その子の話は聞いてないのよ」

「ほほぅ」

 

 その言葉に、アリシアは半ば確信を得たように頷いた。同時に、フェイトはアリシアの考えを理解し(共有して読み取り)、小さく息を飲んだ。

 

「っ、そ、そうだ、ねぇ、アリサ、すずか……そろそろ、学校行かないと……」

「あ、そうだね。ちょっと話しすぎたかも」

 

 フェイトは吃りながらも何とか言葉をつむいで、すずかが腕時計を見て頷く。

 ともかく、ここで燻っていても始まらないと、アリシアは判断した。確認したいことができたからだ。

 

 加えて、これ以上なのはにギャップを見せつけるのは避けるべきと感じた。

 

 メグルの死亡に加えて、親友たちがそのことを完全に忘れている現実は、動揺しているなのはにはあまりに酷過ぎた。アリサやすずかが「知らない」と言う度になのはの表情が曇ってゆくのは、見ていられなかった。

 

 

 

 

 

 フェイトとアリシアのクラスは、なのはたちと同じ。

 案の定、その見た目の可憐さに質問攻めとなって時間は過ぎて行った。

 

 だが、相変わらずなのはの顔は優れなかった。

 彼女自身、いつまでも引きずっていられないと頭の片隅ではわかっているが、それで切り替えられるかと問われれば否だった。

 輪廻メグルのことを、誰も覚えていないのだ。

 アリサやすずかだけではない。クラスメイトも他クラスの子も、学校の先生さえも。

 彼のことを覚えていたのは、なのはとフェイトとアリシアの三人のみ。まるで自分たちが突然異世界に放り込まれたような……そんな感覚に陥りそうになる。

 

 

 

「――――これ、魔法だよ」

 

 放課後。

 人混みから解放された三人は、帰路につきながらアリシアの言葉に耳を傾けていた。

 

「ちょっと空き時間に、メグルがいた教室に行ったんだけど、出席簿のメグルの欄が黒く塗りつぶされてたの。先生に聞いたら、誤植だって言ってたんだけど」

 

 アリシアは一人、学校中を挨拶と称して回っていた。

 メグルのいたクラスでは机が一つ空いており、出席簿も黒塗りの箇所が一つ。ロッカーも一つが封鎖されていて、明らかに輪廻メグルという人間が存在した痕跡が残されていた。

 

「少なくとも、わたしたちが何か異世界に迷い込んだとか、そういうのじゃないと思う。むしろ、メグルに関わった人たち……特に、魔法に関係してこなかった人たちが、メグルがいたことを忘れてる」

「……じゃあ、メグルくんが、何かしようとして……?」

「わかんない……でも、メグルが何もしないでただ命を落とすなんて、考えられない。絶対に対策はする性格だし、これもきっと意図があってのこと……………………だと、思う」

 

 確信までは持てない。しかしアリシアは、彼が用意周到な人間であることは理解していた。この数ヶ月、画面越しとはいえ何度も話を重ねてきた経験は、間違いないと告げている。

 

「確証もないし、希望論が混ざってるのは承知だけど……。でも、メグルが何か手掛かりを残してるとするなら、わたしはそれを見つけ出したい」

 

 アリシアはなのはの目を見て言った。諦める気はないと、その瞳は語っている。ならば、なのははどうするのだと。

 視線が泳ぐ。どうすればいいのか、考えてみても、なのはの思考はまともに回らない。

 フェイトは隣で心配そうになのはを見た。

 

「なのは……悲しいかもだけど、わたしたちは立ち止まっていられない。何が原因でこんなことになったか、突き止めなくちゃいけないんだ」

「……うん……そう、だよね……」

 

 じゃあ、どうすれば?

 メグルが何をしようとしているのかを探るのか。

 しかし、どうやって?

 なのははこれまで片時もメグルの魔法のことは学んでこなかった。何から取っ付き始めればいいのか、見当もつかない。

 

「……とりあえず、わたしはメグルのいた家に行く。何か手掛かりがあるかもしれない」

 

 アリシアの方針は、とにかく足を使うこと。考えても仕方ないと、わからなかったときはその時だと割り切って考えている。

 

「だから、なのはも行こう。わたしだけじゃわかんないかもだし」

「……う、ん。わかったの」

 

 考えるのは後にしよう。アリシアの言葉に、なのはは頷いた。

 せめて、前に進まなければならないと、自分に言い聞かせながら。

 

 

 

 

 

 三人はその足でメグルが住んでいた家まで足を運んだ。

 見た目は普通の一軒家。親子一世帯が暮らすには十分な、平均的な家屋だ。

 

 が、しかし。

 

「やっぱり……」

 

 アリシアは家の前の表札を見て呟いた。フェイトとなのはは不思議そうに彼女の肩越しからアリシアの視線の先を眺め、はっと息を呑む。

 

「アリシア、これって……、」

「うん、ここでも()()()()()()()()()()()()

 

 表札は黒塗りに潰され、その下の名前を読み取ることはできない。門も施錠されており、家中のカーテンも締め切っている。そこに生活感は無かった。

 

 だからアリシアは、容赦なくインターホンを押し込んだ。

 

「えぇっ!?」

「あ、アリシアちゃん……?」

「いいのいいの」

 

 驚くフェイトとなのはを余所に、アリシアは返事を待った。

 しばらくし、しかし返事は帰って来ない。

 もう一度押しても結果は同じだ。

 

「メグルはご両親がいるはず……でも出こない、と」

「お、お仕事は……?」

「自分の息子が音信不通なのに、呑気にお仕事行くとは思えないけどね。ママもわたしが一回死んだ時はそうだったし」

 

 まぁ仕事先で事故ったからどの道出れなかったんだけどねー、とアリシア。少なくとも、普通の親ならば自分の子が行方不明で心が休まるはずがないと考えていた。

 

「……メグルのご両親は、【魔法】のことは知らないんだよね」

「そう。つまり、メグルがいなくなってることに気付かない方が自然。だとしたら、ここで表札が全て塗り潰されてるのはおかしいんだよ」

 

 アリシアの考えは、メグルだけがいなくなっているというのならば、彼の両親はここでまだ生活しているはず、というものだ。そう考える方が自然ゆえに。

 しかし、表札は完全に塗り潰され、家に人の気配は一切なし。無人ということになる。

 

「――おや、お嬢さんたち、どうしたんだい?」

「あ、どうも、こんにちは」

 

 考え込んでいると、不意に隣の家から出てきた老婆が声をかけてきた。

 

「こんにちは。この家に用事かい?」

「あ、はい。友達のお見舞いといいますか……、」

「お友達? ここの家は10年前から空き家だよ」

「え、そうなんですか?」

 

 受け答えをしながら、アリシアは思考を回す。

 つまり、この家は自身らの記憶から隔離される形で人が寄り付かないようになっている。メグルの両親もいなくなっている理由も、きっとこの家にあると、確信した。

 

「すみません、地理に疎いもので……ありがとうございますっ」

「いいよいいよ。気をつけてねぇ」

 

 ペコリと頭を下げて、なのはとフェイトを引き連れ一時家の前を離れる。

 

「よし、じゃあフェイト。中に入ろっか」

「うん…………………………えぇっ!?」

「いや、何驚いてんのさー。わかるでしょ?」

 

 以心伝心なのは言うまでもない。

 が、アリシアと思考を共有するフェイトは、彼女の判断が躊躇なさすぎることに頬を痙攣させた。

 

「ほら、はやくはやく。今なら誰も見てないし」

「うぇ…………うぅ、わかった……。バルディッシュ」

 

《Yes, sir》

 

 キョロキョロと、付近を見渡して誰も見ていないことを確認し、変身。バリアジャケットを纏い、なのはとアリシアを抱えて塀を飛び越え、空き家へと入った。

 

「…………前科二犯…………」

「しゃーなししゃーなし」

 

 罪状は不法侵入罪と言ったところか。落ち込むフェイトにアリシアは肩を叩いて首を横に振った。彼女も共犯だが、全く気にしていない。

 

 三人はしばし家の周りを見て回るが、窓は全て施錠されカーテンも締め切られている。玄関も言わずもがな。

 

「フェイト、二階の部屋もちょっと見てくれる?」

 

 アリシアの指示にフェイトは「わかった」と頷き、宙に浮いて慎重に窓の一つ一つを確かめた。

 その窓のうちの一つが開いていることに気づく。

 

「ビンゴ、そこがメグルの部屋だよ。フェイト、運んでっ」

「は、入るの? ホントに不法侵入……」

「大丈夫大丈夫、バレなきゃいいの」

「えぇ……」

 

 納得行かなそうなフェイトだが、しかしアリシアの考えも理解はできる。仕方なくアリシアとなのはを抱え、その窓が開いていた部屋へと運び込んだ。

 

「……メグルくんち、初めてかも……」

 

 靴を脱いで部屋に乗り込み、ぼんやりとなのはは呟いた。

 自分の部屋に彼を連れてきたことはあったが、彼は自身を誘ったことは一度もなかったと思い返す。

 全然、彼のことを知らないんだな、と。改めてなのはは思い直した。

 

 暗い部屋の中、机とベッドと本棚以外に大きな家具は見当たらない。物も整然と並べられ、手入れが行き届いており非常に綺麗だ。無駄なものが一切ない。

 

「電気はつかない……扉も施錠されてる……」

 

 なのはとフェイトが部屋を見回してる間に、アリシアはどんどんと躊躇いなく物色していた。机との引き出し、壁の収納、ベッドの下などなど。

 部屋の唯一の扉は施錠されており、鍵を回そうとしても堅く固定され動く気配はなかった。まるでそこだけ時間が止まっているかのように。

 

「アリシア……」

「言わんとしてることはよーくわかるけどね、フェイト。これは必要なことよ」

 

 空き巣ばりの手際にフェイトは若干引いてるが、アリシアは気にしない。

 そうやっていろいろと探し回るが、なのはとフェイトには何がなんだかさっぱり。魔法に使いそうな魔導書が並ぶ本棚が気になるが、迂闊には触れなかった。

 

「うーん、ない。やっぱり魔導書かな」

「勝手に開いたら発動とかしちゃわないの……?」

「そう簡単には行かないって。メグルも色々と手順踏んでたし。…………ま、その時はその時ってことで」

「ちょっ」

 

 むんず、と。アリシアは迷いなく魔導書を一冊棚から引っ張り出して開いた。

 

 

 

 ……………………特に、何も起こらない。

 

 

 

「……ほらね」

「内心ホッとしてるのバレバレだから……」

「うっ、うるせーやい!!」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「……ダメね、損傷が激し過ぎるわ」

「……そうか」

 

 ふるふると、シャマルは力なく首を横に振った。その表情は、力及ばぬ自身を責め立てるように、奥歯を食いしばっていた。

 そんなシャマルの様子を見守っていたシグナムは、膝を突いてしゃがみ込み、黙祷する。

 

 

 

 シャマルとシグナムの目の前には、胸に布がかけられている少年の遺体が、仰向けに置かれていた。

 

 

 

 ここは管理外世界のどこか無人惑星の一つ。

 土と岩だけが、平坦な台地と共に点在する、荒れ果てた荒野の星だ。

 

「……せめて、なんて誓ったのにね……」

「ああ……騎士として、未熟が過ぎた。一生の罪だ」

 

 血が染み渡ってしまった布を、シャマルは遺体の顔にまでかけた。

 不殺の誓いだけは、破りたくなかった。それはせめてもの主への報い。ヴォルケンリッターたちにあたたかい居場所を作ってくれた、主のための誓いだった。

 

「……やはり、魔導師とは違うのだな」

「そうね……。リンカーコアがなく、それでも魔力を使って魔法を行使してる。私たちとは全く異なる術式だけど」

「これまでの相手は、そもそも闇の書がリンカーコアを認識していなかった。しかし、この少年は……、」

「……わからないわ。何か、引っ掛かったのかも……」

 

 専門ではないシャマルに、この少年が命を落とした理由はわからなかった。ただ、魔導師ではない魔法使いたちはリンカーコアの反応がなく、蒐集さえできなかったという事実はある。何かしらの特異な現象があったのだろう。

 

「闇の書は停止しているな?」

「ええ。ただ、血が付着した頁からほぼ最後の頁まで、()()が蒐集されてるみたいなの」

 

 エラーを吐き出して動いていた闇の書だが、今はうんともすんとも言わない。

 シャマルはその闇の書の頁を開いて見せた。色濃く赤黒い染みの目立つその本は、途中から解読不明な()()が書かれ続けていた。文字というよりは、記号か、それが塗り潰されたような。

 

「何を蒐集したのか、全くわからないわ。ただ、魔力として蓄えられたのは確かよ」

「……完成も近い、ということだな。あまりわからないことを考えても、先には進めん」

 

 だから、ただ一つの例外。そう処理することに決めた。

 

「そういえばシグナム。ヴィータは?」

「ヴィータなら……あそこだ」

 

 治療に専念していて見ていなかったシャマルがたずねると、シグナムが指を指したのは台地の上。目を凝らすと、崖の縁にこしかける赤い少女――ヴィータが見えた。その傍らには狼姿のザフィーラも見える。

 

「……落ち込んでた?」

「気丈に振る舞ってはいるが、虚勢だ。アイツが一番、気にしているだろう」

 

 蒐集を開始したのは、ヴィータだ。

 つまり、ヴィータの責任で、この少年は死んでしまった。それをヴィータ自身が最も自覚していた。

 

「……主には、言えんな」

「ええ……はやてちゃんには、背負わせちゃダメ。これは、私たちだけが背負うもの」

「ああ……」

 

 緑の風が遺体を包み込む。魔力で保護し、劣化しないように。

 せめてもの償いは、この少年の遺体を地球に戻すことだ。自分らが必要悪であっても、その矜持だけは守らねばならない。主のためということを忘れてはならないと。

 

「……………………ダメみたいだな」

「ヴィータちゃん……」

 

 やがて、ヴィータがザフィーラと共に崖上から飛んで降りてくる。視線は遺体に固定され、奥歯を強く噛んでいた。

 

「……行くんだろ?」

「ええ……。ひとまずは、誰もいないところに、この子を」

「……わかった」

「ザフィーラは周辺警戒をお願いね」

「請け負った」

「……では、行くとしよう」

 

 

 

 

 

 

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