ファンタジーな魔法って言わなかったっけ?   作:いつのせキノン

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Last Summray +

 

 八神はやての入院は、ヴォルケンリッターにとっては悲しく、そして嬉しい誤算であった。

 

 闇の書の完成まであと僅か。

 同時に、はやてを蝕む病の侵攻も目に見えて早くなっている。

 しかし、はやてが入院するとなれば、わざわざ彼らが家に戻る必要はなくなる。

 プログラムなのだから、多少の無理は可能。夜通し蒐集を続けようが、はやてに見られないのだから問題ない。出撃のペースを上げるのは必然であった。

 

 

 

 そして、当然ながらその動きは管理局に捕捉されることとなる。

 

 

 

 アースラは、管理外世界にて原生生物の魔力を蒐集するヴォルケンリッターを捉え、すぐさま魔導師を派遣。そこにはフェイトと、全快ではなくとも充分に回復したなのはの姿もあった。

 部隊を引き連れるのはクロノ。4人を相手に過剰な程の戦力とも言われるかもしれない、そんな集団だった。

 

 

 

 しかし、結果は違った。

 

 ヴォルケンリッターはまず始めにフェイトを徹底的に狙った。

 シグナムとシャマルの連携、ヴィータによるなのはとの一騎討ち、ザフィーラの遅滞戦闘。

 

 その息の合った連携に、今度はフェイトが魔力を蒐集された。

 

 その時点で、形勢は一気に逆転する。

 

 戦力の要を一つ潰され、シグナム一人にアースラ隊員たちが蹴散らされる。

 クロノの指揮は充分に優れていたが、それでも群で個を破るには足りなかった。

 フェイトが落ちたことでなのはの動きも精彩を欠いた。ヴィータを相手によく立ち回ったものの、コンディション不十分な彼女には荷が重すぎたのだ。

 

 

 

 結果として、ヴォルケンリッターは大きなダメージを貰いながらも五体満足でその場を離脱。

 逆にアースラ組はフェイトの戦線離脱という手痛い敗北を味わう羽目となってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「友達の入院見舞がしたいって?」

 

 学校からの帰り道、アリサの言葉にすずかは俯きながら頷いて、なのはは首を傾げた。

 そこにフェイトとアリシアの姿はない。フェイトは先日の戦闘でリンカーコアから魔力を蒐集され、安静をとって休みに。アリシアもフェイトと同じだけのダメージを共有しているため大事を取る運びとなった。本人は行ける行けると豪語していたが、そこはリンディが無理矢理部屋に閉じ込めたらしい。

 

「はやてちゃんって言うんだけど……もともと足が悪くて学校にも行けてなくて。それで図書館によくいるから、そこで会って友達になったんだよ」

「へー。もしかして、車椅子で外国の人とよくいる子?」

「うん、よく知ってるね、アリサちゃん」

「そりゃあ、たまに車椅子に乗ってる同年代の子とか道路で見かけたりしてたし、あれだけ綺麗な人といたら目立つわよ」

 

 心当たりがあるらしいアリサと違って、なのはは全く誰なのか見当もつかない。

 しかし、すずかが心を痛めているのはよくわかった。心優しい彼女の友達が病気というのは、確かに心配だ。赤の他人であろうと、なのははそう思った。

 

「で、いつ行くのよ?」

「クリスマスもあるし、それでプレゼントも一緒に渡そうかなって」

「なるほど、サンタクロースってわけね」

「うん。なのはちゃんやアリサちゃんの話もよくしてたから、皆で行ければなぁって」

「……わたしも?」

「うん、なのはちゃんも。はやてちゃんも、一回会ってみたいって前言ってたし、この機会にでもと思って」

 

 どうかな? というすずかの提案に、二人は断る理由を持たなかった。あれよあれよと話は進み、フェイトやアリシアも連れて行くことでその件はまとまり、さて次は何をプレゼントしようかとアリサとすずかは話を弾ませた。

 

「お見舞い、か……。フェイトちゃんとアリシアちゃんのも買わないと……」

 

 ぽつりと、なのは呟いた。

 テスタロッサ姉妹は今頃リンディが借りたマンションにて待機しているだろう。

 フェイトは、なのはが寝込んだときにずっとそばにいてくれた。何かしら、お礼はしたい。

 アリシアは……暇で退屈してるだろうから、何か気を紛らわせる物でも。フェイトが寝込む横であれだけ元気だったのだから、過剰な心配には及ばないだろう。

 

「そうよ、フェイトとアリシアも体調不良って言ってたわね。今日あたり雑貨屋でも行って下見ついでに二人のお見舞い品とかどうかしら」

「あ、いいかも。フェイトちゃんたちの体調が良くなったら、色々相談して決めないとだし」

「被りってのも良くないものね。よし、そうと決まれば……行くわよ二人とも」

「はーい」

「あ、うんっ」

 

 先を行くアリサの背を追って、すずかとなのはが歩き出す。

 

 空は、曇り空。

 鉛色の雲が、影を落とした。

 

 気分は、晴れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれよあれよと時は経つ。

 

 相変わらず、気分は良くなかった。

 だが、輪廻メグルがいないという現実に、少しずつ馴染み始めたような……。受け入れ難いその事実を飲み込めるようにはなってしまった。

 

 確かに、人前でふさぎ込むことはなくなった。

 

 しかし、時折夢に見るのだ。

 

 あの死の間際、散ってゆく命と、降り注ぐ血を。

 うなされ、飛び起きて、嗚咽。何度か吐き戻したりもした。

 

 前を向こうと、何度も自分に言い聞かせた。

 アリシアだって、フェイトだって。皆が皆、その現実を受け入れて、前へ進もうとしている。自分だけが立ち止まっているわけにはいかないのだと。

 

 闇の書の守護騎士たち、ヴォルケンリッターとの鼬ごっこが続いて、しばらくが経ったときのことだった。

 

 クリスマスムードが街を包む中、なのはたちは海鳴市の大きな病院に足を運んでいた。すずかを先頭に、アリサ、なのは、フェイト、アリシアの5人組。各々の手には花束とプレゼントが。表情は穏やかで、これから始まるサプライズに、胸を躍らせていた。

 はやては喜んでくれるだろうか、だとか。いい友達になれるだろうか、だとか。

 

 

 

 だから、考えつくはずもないのだ。

 いや、その回答に辿り着くほうがおかしかった。

 

 

 

 なぜ、はやての周りにヴォルケンリッターがいるのかなんて、思考が止まるには充分過ぎたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……スクライア」

「? 珍しいね、君から声をかけてくるなんて」

 

 その声に驚きを交えながら振り返った。

 アースラの中、僕に話しかけてきたのは、輪廻メグル。なのはの幼馴染で、僕らとはまた違った【魔法】を使う人。

 彼が纏う雰囲気は見た目以上に大人びていて、正直なことを告げるならば、近寄りがたさを感じる。

 

 僕とそう変わらない子供の見た目ながら、異様なオーラを滲み出しているようなちぐはぐさ。

 

 今まで出会ったことのない、無意識に警戒心を抱いてしまう少年。

 

 それが僕にとっての、輪廻メグルという人物だった。

 

「……無限書庫、というものを小耳に挟んだ。何でも、あらゆる世界の書物が未整理のまま納められていると。そして、君がそこの司書資格を取ったということも」

 

 だから、初めてまともに目を見て会話をしたような気がした。

 思わず目を見開いて、まじまじと見つめ返してしまった。

 

「……何か?」

「あ、いや、……ちょっと驚いただけだよ。なのはから聞いたんだ?」

「……本人の了承を得なかったのは申し訳ないと思う。が、口を滑らせたのは高町だ」

 

 だと思った。なのはがお喋りさんなのはよく知ってるし、彼も彼でよく愚痴っていたのを覚えている。

 

「そうだよ。ちょっと前にね。ジュエルシードだの何だの、あまり下調べをしないで探索に行くのもどうかと痛感したからね」

 

 肩を竦める動作に、彼は「……そうか」と浅く目を逸らした。僕の話にあまり関心はないらしい。ちょっと、苦笑い。

 

「……聞きたいのは、その司書資格がどういったものか、だ。概要を聞かせてほしい。無限書庫の出入りが可能になるんだろう?」

「そうだね。未整理区画の立入制限がかかってるとこ以外は大体行けるかな。もっと上級の資格なら制限もなくなるんだけど、司書としての勤続年数が必要だからひとっ飛びには行かないけどね」

「……ふむ。因みに、僕でも資格は取れると思う?」

「君が? うーん……多分、取れなくはないんじゃないかな。個人情報とかその他諸々、地球でいう戸籍みたいなのを取得できれば問題なかったと思う」

「……そうか、良いことを聞いた。アースラの誰かしらに言えば申請できるかもしれないな……」

 

 小さく呟いて思案顔になるメグル。

 ……何と言うべきか、今の彼を見ていると、いつもとは違う人間味のようなものを感じ取れた。生き急いでいるような印象とは真逆の、瞳に熱がこもるような……。

 

「僕で良ければ推薦させてもらうよ。紹介制度があって、いくつかの試験をパスできるんだ。と言っても、君にとっては片手間程度の難度だから関係ないかもだけど……」

「……願ってもないことだよ。お願いしても?」

「うん、もちろん。人手は多いほど良いって司書長も言ってたし」

 

 僕が頷くと、メグルは「……ありがとう」と薄く笑みを浮かべた……ような気がした。

 

 それはたぶんきっと、僕が見た初めての表情だったはずだ。

 出会ってから、機械のようだ、なんて失礼な印象を抱いていた彼の、人間らしい表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ、ん……しまった、寝てた……」

 

 意識が浮上する。

 

 無限書庫の中。

 周囲に散乱する書物に囲まれていた。

 

「……夢、か……」

 

 ぼんやりと、僕の脳裏には微かに夢で見た光景ご残っている。

 けれど、あれは夢の中だけのものだっただろうか。現実で、僕はあの表情を見たことがあっただろうか。

 

 思い込みかもしれない。妄想かもしれない。

 

 でも、たしかに、彼は僕と話した。

 

 司書のこと、無限書庫のこと。

 遺跡がどうだとか、遺産だとか……。

 

 ちょっと、話が弾んだのは、確かだった。

 ウマの合う話題に、僕が一方的に話て、メグルは相槌を打つだけだったのかもしれないけど。

 

「……いけない」

 

 悲観に暮れ過ぎている。

 目頭を揉んで、気合いを入れ直す。

 

 とにかく、闇の書のこと……いや、“夜天の書”のことについて、もっと調べなくては。

 

 クロノの父や、メグルを奪った、あの本の、本当の姿を暴かなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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