ファンタジーな魔法って言わなかったっけ?   作:いつのせキノン

2 / 24
少年少女、魔法使いにつき

 

 月村すずかちゃんの家に遊びに来ていた私、高町なのはは、実は魔法少女をしています。

 異世界からやってきたフェレットの魔法使いユーノくんと一緒に、ジュエルシードと呼ばれるロストロギアを集めるのが、私の目的。今日は本当にたまたま、友達の家に遊びに来ていて、その庭でジュエルシードの暴走がありました。

 すぐにユーノくんが結界を張ってくれて、レイジング・ハートでバリアジャケットを着て現場に行きました。

 そこで見たのは大きくなった子猫と……それに杖を向けて浮いた竹箒に乗る、お伽噺に出てくる魔女のような恰好をした、見知った顔。間違いなく、それは私と同じ小学校に通う、同学年の男の子でした。

 

「やっぱり……あの、輪廻メグルくん……ですよね?」

 

 向こうも、私を知っている。私もメグルくんを知っている。間違いない、彼は、輪廻メグルくんだ。

 

「……何故、君が……」

 

 困惑した表情のメグルくんが、杖をこちらに向けたまま言いました。その表情に私は酷く驚いたのです。

 

 輪廻メグルくんは、私達の通う学校でも有名です。大人びた雰囲気は先生顔負け、頭の良さは学校一番って言われるくらいで、学年成績は1年生の時から1番でした。友達のアリサ・バニングスちゃんがいつもその後に続く2番でぷりぷりと拗ねていた印象があります。

 メグルくんは普段から物静かで、殆どの時間は授業中でも1人黙々と自分の席で紙に何か不思議な暗号を描いていて、放課後はいつも図書室でとっても難しい本を読み進めています。ちょっと、近寄りづらいな、なんて思ったことが何度か。

 

「メグルくんも、魔法使い、なの?」

 

 私は思い切って不思議な格好の彼に尋ねました。彼の持つ杖や紙の束には魔力が籠っていて、それにメグルくん自身からも強い魔力の波動を感じます。そして何より、メグルくんは箒を使ってるんだけど空を飛んでいる。お伽噺みたいな、魔法使い。そう、彼はきっと、魔法使いなんだと、私は思いました。

 

「……高町は、魔法の存在を信じて……いや、まさか、その恰好も魔法……?」

 

 意味が分からん。メグルくんは言いました。

 

「えっと、その、事情は色々あって、私、魔法使いになったんだけど……メグルくんも魔法使いなら、ちょっと手伝ってもらえないかな……?」

「……魔法使い……確かに僕は【魔法使い】だけど……。……高町。1つ聞きたいんだけど、率直に、高町は青い宝石を集めてるのか?」

「青い宝石……ジュエルシードなら、集めてるよ。ユーノくんが集めてるのをお手伝いしてて」

「ユーノ?」

 

 私の言葉に、メグルくんの視線が鋭くなりました。ちょっと、怖いです……。

 

「……青い宝石を知っているの? そのユーノとやらは」

「え、う、うん。いっぱい魔力を秘めていて、ロストロギアって言われてるんだけど……」

「……ああ、魔力……魔力を秘めてるのはわかるけど……、ロストロギア? あの宝石の名前がか……?」

 

 気付けば杖を降ろして、こめかみを揉んでいるメグルくん。ますます混乱してるみたいなの……。

 

 けれどそれも少しの間。メグルくんは1つ深呼吸をして「取り敢えず」と口を開いて、下でごろごろしている大きな子猫の方を見ました。……大きな子猫……? 何か変な感じ。

 

「……詳しい話は後で聴く。今はアレをどうにかして元に戻そう」

「あ、うんっ。手伝ってくれるんだねっ」

「……手伝うも何も、僕もあれが起こす厄介事の処理を独自にやってたんだ。ボランティアだけど」

 

 そう言ってメグルくんがまた杖を構えました。私がユーノくんから聴いた魔法とは随分と違うみたいだけど……。それについても多分後で話が聞けるのかな。ちょっと、楽しみかも。

 

「“隆起する泥”」

 

 小さくメグルくんが呟いた直後に、地面に浸透した魔力が地面の土を押し上げて子猫の周りに大きな壁を作り上げました。すごい、あんな量の土を一瞬で操るなんて……。

 

『な、なのは!? 何か急に土の壁が目の前に出て来たんだけど!?』

「大丈夫だよ、ユーノくん。私の知り合いの子が協力してくれてる奴だから。話は後でするね」

『りょ、了解……仲間、なんだね。でも、なのは以外に魔法使いが……?』

 

 念話で地上のユーノくんがぶつぶつと呟いてるけど、まずは封印が先ってね。

 

「行くよ、レイジン――――」

《Protection》

「きゃぁ!?」

 

 封印しようとした、その直後でした。背後からの突然の奇襲。突然の衝撃が私の背中を叩いたのです。

 ビックリして振り向こうとした時、稲妻を纏った黄色い弾が私とメグルくんを追い越して子猫に当たりました。痛そうな悲鳴があがり、子猫が横倒しになって土壁の器の中に横たわりました。

 

「……次から次へと……何なのさ一体……」

 

 暴風のような衝撃を、バランスの悪い箒の上で器用に流したメグルくんは既に私の後ろを見ていて、釣られて私もそっと振り向きました。

 そこにいたのは、黒いマントを羽織って、体にぴったりと張り付くような服――バリアジャケットを着て黒い斧のようなデバイスを持った、金髪の女の子。彼女はデバイスをこちらに向けて、静かに睨んできました。

 

「……高町。知り合い?」

「う、うぅん……初めまして、のはずだけど……」

 

 私の記憶には、覚えがないんだけど……。

 

「あのっ、あなたもジュエルシードを集めてるんですかっ?」

 

 思い切った私の問いかけには、無言が返ってきました。ただ、伝わってくるとげとげした雰囲気だけは、さっきより強くなったような気がします。

 

「……あんまり機嫌がよろしくないみたいだねぇ……無益な争いは勘弁して欲しいなぁ。早く処理したいし」

 

 頬を引き攣らせて隣で苦笑するメグルくん。杖は油断なく構えていて、持っている紙の量もいつの間にか増えてます。手品かな……?

 

「……そのロストロギアは、こちらで回収する。2人は、手を出さないで」

「え、でも……ジュエルシードは、ユーノくん達が原因で海鳴市に散らばっちゃったから、回収をするって……」

「貴方達には関係ない」

 

 彼女の言葉と同時に斧が変形して、黄色い刃が出てきました。それは鎌のような、死神の鎌を彷彿とさせる形をしています。彼女の表情は、とても暗くて、辛そうで。

 

「何か……何か理由があるんじゃないんですか!? ジュエルシードはとっても危険なんです!! それを集めるのは――――」

「どいて」

 

 私の言葉を遮るように、彼女は突然消えるように飛んできました。その鎌を大きく振るって。私が反応するより早く、レイジング・ハートが反応してプロテクションで防いでくれたけれど。

 彼女は何度も何度も鎌を振って私を斬り付けようとしてきて、レイジング・ハートが防いでくれていたけど、どんどんとプロテクションが薄れてゆく。

 

「……ちょっと、いきなり襲うのは何でも早とちりなんじゃ……」

「め、メグルくんっ、説得より助けて……!?」

「あなたも、ジュエルシードを?」

 

 不意に手を止めた彼女が、今度はメグルくんに切っ先を向けました。その隙に後退してレイジング・ハートを構え直し、今度は後手に回らないように警戒します。

 メグルくんは静かに両手を上げて降参のポーズで口を開きました。

 

「……質問に答えよう。だが僕からの話も聞いて欲しい。僕は君達の言うその青い宝石……ジュエルシードを集めてる。何故ならこの街で被害が出ているからだ。死者は出ていないけど、既に怪我人も続出している。僕はその被害を留める為に回収をしてる。解答としてはこれでどうかな?」

「回収したジュエルシードは、何に使う?」

「……特に予定はないかな。かなり綺麗な物だから、インテリアにはなりそうだよね」

「使わないのなら、譲ってほしい。タダで、とは言わない。対価は何かしら用意する」

「……等価交換、ね……なるほど。じゃあ君は何故そこまでしてこのジュエルシードとやらを欲しがるの?」

「…………黙秘する」

「……そうかい。ところで、そのジュエルシードはこちらの……高町(彼女)も何やら事情があって集めているらしいんだ。彼女にも話を聞いてみたいとは思わない? 僕は聞きたいよ、理由次第ではどちらかにジュエルシードを譲るかもしれない」

 

 メグルくんは静かに私の方を見てきました。多分、事情を説明しろってことだと思います。

 そこから私は少しずつ、ユーノくんから聴いた話を説明しました。発掘品だったジュエルシードを輸送中に、輸送船のトラブルによってジュエルシードが海鳴市に散らばった事。それをユーノくんは集めていて、たまたま居合わせた私が手伝っている事。回収したジュエルシードはきちんと封印して厳重に保管する事を。

 

「……高町の事情は理解した。このままなら、僕は恐らく彼女に回収したジュエルシードを渡すだろうね。話の信憑性が裏付けられるならの話だけど。そして、君には渡さないだろう。あれは危険なモノだ。被害が出るとなれば放っておけない」

 

 話を終えてからメグルくんの言った言葉に、私はホッと胸を撫で下ろしました。彼もジュエルシードが危険なモノとわかっていて、それが引き起こす被害の可能性をよく理解しているみたいです。

 

 けど、

 

「……渡してくれないなら、奪うまで……!!」

 

 彼女は止まりませんでした。周囲に魔力バレットを形成して私に放ってきたのです。

 私が防いでいる間に彼女はメグルくんへ近付いて鎌を振り上げました。

 メグルくんはすぐに箒の上から真後ろに飛び降りて彼女の攻撃を避けました。そのまま重力に引かれて落ちて行って、すぐさまその下に箒が滑り込んできて器用に着地しました。飛行魔法も使ってないのに、こんな高い場所でアクロバティックな動きをするなんて……。

 

「……いきなり襲って来る様じゃ、ますます渡す気にはなれないねぇ、ジャンキーっ!!」

「黙れっ!!」

 

 追いすがる女の子に、メグルくんは箒に乗ったまま逃げます。とても速いのに、片手だけで掴まって、もう片方の手には紙の束。それを追ってくる彼女の目の前に1枚投げました。

 

「“発動(ブレイク)”」

 

 直後、紙が弾けたかと思うと強い閃光が。思わず腕で目を覆ってしまう程の光が視界を塞ぎました。すごく、眩しいです……。

 あまりに眩しすぎて、また慣れるまでかなり時間がかかってしまいました。ようやくまた目が開けるようになった頃、メグルくんはいつの間にいなくて、空中で顔に手を当てて動けないでいる彼女がいました。かなり近くであの光を見ちゃったのかも……。

 

「あの、大丈夫ですかっ!?」

 

 声をかけると、彼女がこちらを見てきました。その眼はまだ完全に開ききってなくて焦点も定まっていないみたいです。メグルくんも結構容赦ないの……。取り敢えず、失明した訳ではなさそうだし、良かったの。

 

「……高町」

「うひゃ!? め、メグルくん……」

 

 肩を叩かれて、思わず飛び上がる私。気付けばメグルくんが真後ろにいて、子猫を抱えてました。この子は、確か、大きくなってた子……。

 

「……宝石は封印した。話を聞けない様子だし、一度ここを離れよう」

「え、でも、あの子、目が……」

「……咄嗟に防いでたし、流石に目を焼くほどの出力はないよ。さ、早く」

「う、うん……」

 

 メグルくんに手を引かれてその場を離れて行く。あの子は相変わらず周囲を警戒してるみたいだけど……。

 

 結局その後は森に隠れて結界を解除し、彼女が去るのを待ちます。目が見えるようになった彼女はしばらく周辺を見て回り、それから飛び去って行きました。

 

「……はぁぁ……まさか襲われるとはね……」

「メグルくん、大丈夫?」

「……ちょっと帽子が斬られたくらいで怪我はないよ。……嗚呼、結構お気に入りだったのに……」

 

 木陰で隣り合わせになって座り、メグルくんは残念そうに帽子のつばをなぞっています。そこには、最初に見た時はなかった一片の斬れ込みがありました。多分、最初に近付かれた時に斬られたんだと思います。

 

「……そっちは?」

「私は大丈夫。レイジング・ハートが頑張ってくれたから……ありがとう、レイジング・ハート」

《All right. No problem》

「……喋った……AI?」

 

 私がレイジング・ハートに話しかけると、メグルくんはまた驚いた顔をしました。普段の落ち着いた彼を見ていた私からすると、ちょっと新鮮です。

 

「うん、補助用のAI。魔法を使う為のインテリジェント・デバイスなんだ」

《Nice to meet you, Mr.RINNE》

「……あ、ああ、どうも……」

「ふふっ……メグルくん、混乱してるね」

「……そりゃそうだ。僕の知ってる事とあまりに違いがあり過ぎてね……」

 

 帽子を脱いだメグルくんは、大きく息を吐いて木に寄り掛かりました。慣れないことはするもんじゃない、と酷く疲れた様子です。私も、あまり戦ってないとは言え結構精神的に疲れちゃいました……。メグルくんと同じように木に背を預けてはふぅと大きく深呼吸。緊張で強張っていた身体が、ようやく解れていきました。

 

「なのはーっ」

「あ、ユーノくん」

 

 忘れてたの。

 

「……イタチ?」

 

 走って来るユーノくんを見てメグルくんはそう言いました。イタチじゃなくてフェレットじゃないかな?

 

「良かった、知らない人がいっぱい来て光ったと思ったら皆いなくなってたから……」

「あはは、そうだよね。私も混乱してたし」

「あ、それでこの人が知り合いの?」

「うん、輪廻メグルくん。同級生なの」

 

 話したのはさっきが初めてだけど。

 

「……その小動物が、ユーノとやら?」

「そうだよ。私の魔法の先生」

 

 足元のユーノくんを抱き上げてメグルくんに渡す。メグルくんは恐る恐ると言った感じで、優しくユーノくんを抱いて脚の上に乗せました。扱いなれていないみたいで、何だか可愛いです。

 

「初めまして、ユーノ・スクライアです。格好はこんなですけど、人間です」

「……どうも。輪廻メグルです。えと、幻術か幻覚でその姿に?」

「いえ、変身魔法です。魔力の消費を抑えて回復に専念するためにこの格好で……」

 

 また知らない魔法だ、とメグルくん。これは色々と説明することがあるのかも。

 

 と、その時、遠くから私とユーノくんを呼ぶ声が……ってそうだった!! 今はすずかちゃんちにいたんだった!!

 

「なのは、すぐにバリアジャケットをッ」

「う、うん。あ、メグルくんどうしよう!?」

「……僕の事は気にしないでいい。勝手に帰るさ。ここにはいなかったことにして」

 

 バリアジャケットを解除して元の服に戻る私。メグルくんは立ち上がってユーノくんを私に渡してきて、ローブについた土を払いました。

 

「あ、なのは!! 遅いからどうしたのかと思ったじゃない!!」

「なのはちゃん、良かったぁ……怪我とかしてない?」

 

 ガサガサと茂みをかき分けて来たのは、友達のアリサ・バニングスちゃんと月村すずかちゃん。ジュエルシードのことですっかり頭から抜け落ちてたんだけど、そう言えば走り出したユーノくんを捜して抜け出して来たんだった……。

 

「うぅん、大丈夫。ちょっと走り回って疲れちゃっただけだよ」

「もう……ユーノは勝手にいなくなっちゃダメじゃないっ。皆心配してるんだから!!」

 

 きゃうぅ、とユーノくんは私の腕の中でか細く鳴きました。アリサちゃんはちょっと怒ってるけど、これも私達を心配してくれてるからこその裏返し。申し訳ないなぁ、と苦笑しちゃいます。

 

 ……あれ、そう言えばまだメグルくんが隣にいた筈なんだけど……アリサちゃんとすずかちゃんは気付いてないみたい。

 視線だけを横にずらしてみると、そこには数歩離れた場所で「静かに」と口に人差し指を当ててジェスチャーをするメグルくんが。アリサちゃんやすずかちゃんの視界に入ってるはずなのに、気付かれていないみたい……?

 そのままメグルくんはゆっくりと離れて行った後、懐からどうやってしまっていたのか不明な竹箒を出してそれに跨り、飛び去って行きました。

 

「なのは?」

「にゃ!? な、なにっ?」

「何って、アンタ急にどっか見てるんだもの。鳥でもいたの?」

「あ、あぁ、うん。カラスだなぁって。えへへ……」

 

 誤魔化すように苦笑して、アリサちゃんには「しっかりしなさいよ~」とほっぺたをぐにぐにされちゃいました。くすぐったかったです。

 

「もう夕方だもんね……そろそろ迎えの来る時間じゃないかな?」

「げっ、もう? 仕方ない、今日はおひらきね」

「ご、ごめんね、私の所為で……」

「そうね。次からはちゃんと躾けておきなさいよ。ペットの過失は飼い主の責任なんだから」

 

 ユーノくんはペットじゃないんだけどなぁ、とは言えず。仕方なく返事をする私なのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2016/5/12 加筆修正

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。