ファンタジーな魔法って言わなかったっけ? 作:いつのせキノン
まだ筆は折れておりませんので……。せめてA's編は書ききります。
2021年も引き続きよろしくお願いいたします。
放課後。
なのはは、一人で。
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………?」
夕暮れが眩しくて、手をかざす。
「……屋、上……?」
学校の屋上。
誰の気配もなく、無音。
辺りを見渡して、けれども、動く影はない。
「なんで、ここに……?」
頭の奥が、もやもやと。何かが、引っ掛かって、思い出せない。
ほんの直前まで、何かをしていた。思い出せない。
両の掌を見下ろし、握って、開いて。
「っ?」
不意に。
何か気配を感じて後ろを振り返る。
そこには、炎。
黒く燃え上がる炎が、空間を揺らいでいた。
普段の彼女であれば、ひっくり返って驚いていた。変な声を上げて、足を絡めて、転んで。
けれど。
なのはは。
その黒い炎に、恐怖ではなく、寂しさを感じた。
熱さもなく、炎の勢いは弱まるばかり。きっといずれ、その火は消えてしまうと、わかってしまうほどに、弱々しくて……。
「――――なのはッ!!」
その時だった。
真上から、彼女のよく知る声が――フェイトの声が聞こえたのは。
瞬間、黒い炎が揺らめいて、遠退いて。
なのはとの間に割り込んで降ってきたフェイトが、バルディッシュを振り抜いた。
雷が空間を薙いで、軋むような音を上げる。
「えっ、えっ? フェイトちゃん……っ?」
「なのは、下がってっ」
炎はすんでのところでフェイトの攻撃を避けて、屋上の端へと移動。しばし止まって、静寂。
フェイトの表情は実に深刻そうで。なのははなぜ彼女がそんな表情をしているのかわからず困惑するばかり。
そんななのはに、フェイトは彼女を庇うように前に出て、炎を睨み付けながら聞いた。
「なのは、何もされてない?」
「え……? うん、特には、何も……」
「ん、良かった……。とにかく、
視線の先には、相変わらず黒い炎が。
フェイトがなぜあの炎に敵意を向けているのか。
それが、わからない。
「ね、ねぇ、フェイトちゃん、あれは何なの……?」
「わからない。けど、放っておくと良くないってクロノが――――あっ」
言葉の途中で、炎は屋上の柵を飛び越え、落下――――したかに思えた瞬間、空へと舞い上がった。
逃げるように遠ざかってゆく炎に、何か既視感を抱いた。
その間にもフェイトは、なのはの思考を置き去りにして、すぐさま飛び上がって追いかける。
「なのは、手伝ってもらってもいいっ?」
「え、あ、うん、わかったのっ!!」
胸元に、レイジングハートがあることを確認。
何か、忘れているような。
「レイジングハート――――!!」
セットアップ。
魔力を回して、バリアジャケットを、
「…………え……?」
静寂。
レイジングハートは、何一つ、反応を返さない。
何も、起こらなかった。
「な、なんでっ……!?」
動揺。
手を握りしめ、しかし、いつもの感覚はない。
「ねぇ、レイジングハートッ!! どうしちゃったの!? 何で何も言ってくれないの……!?」
手の中のレイジングハートは光もせず、何かを発することもなく。ただのペンダントのように、無機質な光を反射する。
頭の奥。もやもやと。
何かを、忘れている。
空では、フェイトが炎を追いかけ続けていて。
時折、炎から火の粉が吹き出して、霧散。
違和感。
何だろう、と考えるたびに、頭を締め付けられるような痛みがした。
「なのは、どうしたのっ!?」
「わ、わかんないっ……変身できなくて、でもっ、なにか忘れている気がして……っ!!」
「レイジングハートが……? ――――っ、
「!?」
突然、フェイトの声音が変わる。
なのはの方を振り向いて、その顔に浮かび上がる、黒い痣。
違う。
違う。
違う!!
あの人は、フェイトちゃんじゃない……!!
《Excellent. It must be so.》
「レイジングハート……っ!!」
確信と共に、相棒の声が聴こえてくる。
そう、夢なのだ。
これは、夢。
《Calm down please, Master. I'm able to talk now because I receive support. Please follow my instructions. Standby,
ready?》
「うん!!」
「ッ、待て……ッ!!」
制止する声を振り切って、魔力を回す。
頭に引っ掛かっていた違和感が溶けてゆく。
レイジングハートが反応しなかったのは、彼女が然るべきタイミングを見計らっていたということ。
つまるところ、彼女が自分自身の力で気付くこと。
レイジングハートを空高く掲げて、叫ぶ。
「レイジングハート、――――セットアップッ!!」
桃色の光を纏う。
崩れ落ちるフェイトの影から放たれる赤いナイフも、衝撃で弾き飛ばす。
「この――――何ッ!?」
いよいよもって、フェイトだったものはその姿を変えていた。
髪は鈍い銀の色に。頬に入れ墨のような、黒い線が刻まれ。バリアジャケットも黒い羽をあしらったコートへと。
だが、なのはは迷う事なくバインドを発動。その人影の四肢を捕らえて、レイジングハート・エクセリオンの切っ先を向けた。
「――――教えてください。今ここがどこで、貴方が誰なのか」
「っ――――、」
沈黙は時間稼ぎか。
だが、関係はない。
既に砲撃魔法のチャージは開始され、トリガーさえ引いてしまえば放てる準備はできている。
「――――、……ふむ……」
「…………………………………………」
「想定外だが、まぁいい。結局のところ、お前は鳥籠の中だ」
「っ!?」
背の高い女性が手をかざした、その瞬間。
屋上の床を突き破って赤い光が立ち上る。
その数、無数。なのはを取り囲むように、空を貫いた。
僅かな隙間はあるが、到底なのはが通れるほどの幅はなく。
肌で感じるほどに痛々しい魔力の波動を受け、硬直する。
「覚えていようがいまいが、封じてしまえばお前の負けだ。――――捕えろ」
既に女性はバインドを力尽くで壊しており自由の身に。一瞬で形勢は逆転した。
合図と共に、赤い光がうねって頭上からなのはを目掛け落ちてくる。
回避するほどのスペースはなし。
捕縛用の魔法であるならば、シールドは意味がないと悟る。
絶体絶命……?
ふと、心に影が差した。
『……』『否定』『動き』『を』『止め』『るな』
刹那。
その一瞬で、音が耳へと届いた。
そして、突如襲う浮遊感。
咄嗟に足下を見れば、床が抜けていた。
重力に引かれ、下へ、下へと落ちてゆく。
視界端から、見慣れた教室たちが見えてくる。
穴の向こう側には迫りくる赤い光たちが。このままならば、いずれ捕まる。
『“停滞する管”』
穴が空いた床を通り、更に下へ。
けれど、なのはが通過した途端に、その穴はありとあらゆる物によって塞がれてゆく。
《Flier Fin》
一階まで突き抜けて、床へ叩きつけられる――――直前に、レイジングハート・エクセリオンが飛行魔法を発動。ふわりと減速し、姿勢を直して着地する。
「あっ……、」
『……』
そして、人影と向き合った。
黒く、冷たく燃え揺れる少年。
大きな帽子と、揺らめくローブ。
その像は、蝋燭のように不安定に結ばれていて。
「……メグルくん……っ」
けれども。その顔にはよく見覚えがあった。
『……』『高町』『早急に』『伝えたい』『こと』『がある』
「っ」
思わず、駆寄ろうとして。
けれど。
そのあまりに
まるで、つぎはぎのように。
かつて輪廻メグルがしていた言動を切り取って貼り付けて繋げ直したような。
言葉の端で突然声音が跳ねたりだとか、視線の向きや身体の揺れも。
『……』『この』『体は』『過去』『に』『実行』『された』『僕を』『繋ぎ合わせた』『ものを』『再生している』『聞き取り』『づらい』『かもしれない』『が』『よく聞いて』『くれ』
そのつぎはぎだらけの音に、なのはは唇を噛んだ。
黒い炎が見せる幻影は、かつての記録を再生し、音を発するのみ。
『……』『あまり』『よろし』『く』『ない』『ことが』『予測』『される』『だから』『僕の』『遺体』『を見つけて』
「えっ……?」
『……』『正直』『な』『話』『これは』『君』『の』『ような』『子』『に』『頼む』『こと』『ではない』『けど』『時間がない』
まくし立てるような言葉の濁流と共に、炎の影が手を差し出した。
『……』『本来』『ならば』『ここ』『に』『君は』『閉じ込め』『られる』『はず』『だった』『けど』『その』『順序』『を』『省略』『する』
唖然とするなのはへと差し出された掌の上には、ビー玉サイズの濁った黒い水晶が1つ。その中では黒い靄が煙のように漂っていた。
『……』『この』『再現』『された』『世界』『に』『も』『限界』『は』『ある』『高く』『飛』『ん』『だ』『
影はなのはの手を取り、そっとその水晶を握らせる。
体温は感じなかった。
冷たくもなく、暖かくもなく。
影の手の感触は、ただただ無機質であった。
『……』『行って』『くれ』『早く』『あまり』『長居』『を』『させる』『余裕』『は』『ない』
影は手を離し、音もなく下がった。
ズンッ、と。足元を揺らす轟音が響く。
外側から振動が伝わり、それが学校の校舎を破壊する音だと、なのはは頭の片隅で理解する。
『……』『道』『は』『僕が』『切り』『開く』『あとは』『自分で』『飛んで』
「っ――――――――待って……っ!!」
『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』
静止。
ピタリと、映像を止めた時のように、影は固まった。
「待って、ください……。教えて、ほしくて……」
『……』『何を』
「……わたし、わからなくて……。なにも……メグルくんのことも、魔法も……今だって、何が起こってて、わたし、なにしたらいいのか……っ」
声が震えていた。
ぐちゃぐちゃなのだ。
自身の感情がまぜこぜになって、何をしたらいいのか、何をしたいのか、わからない。
輪廻メグルを目の前で喪った。
彼に何も伝えられなかった。
彼は死者を蘇生できた。
それならば、自身を蘇らせることだってできるのではという淡い期待もあった。
ヴォルケンリッターたちは目の前で輪廻メグルの命を奪った。
本当に彼女たちのせいなのだろうか。
八神はやては病によって歩けずにいた。
ヴォルケンリッターたちの主は八神はやてであった。
そんなはずがないと信じたかった。
どうして彼を殺してしまったのだ。
誰も輪廻メグルを覚えていなかった。
ただただ悲しかった。
無力である現実を突きつけられた。
「……わたし……、」
だから、願望を口にするしかなかった。
「……メグルくんは、生き返らないんですか……?」
影を見た。
黒い炎は静かに揺れる。
徐々に、その火の手は大きく膨れ上がった。
やがて火は、なのはが見上げる程に立ち上り、輪廻メグルだった輪郭を崩す。
『生き返るかどうかはキミ次第だ』
「っ!?」
影の声音が変わった。
柔らかい、大人びた女性の、落ち着いた声だった。
『意地悪な回答でごめんよ。ただ残念なことに
肩を竦めて苦笑する、長い黒髪の女性。輪廻メグルと同じ帽子とローブを身に着け、しゃがみ込んだ彼女はなのはと目を合わせた。
「あ、の……あなたは……?」
『んー、今キミに言っても混乱するだけだし、これを開示するのは彼も望ましく思っていない。その質問には黙秘させてもらうよ。ただまぁ、これは
彼女は両手を伸ばし、そっとなのはの両頬を包んだ。
親指でそっと目元を撫でれば、涙の雫が拭われた。
『ずっと見てたんだ、キミのことを。優しくて、可愛らしくて、おっちょこちょいで……愛おしいキミを。キミは幼くも立派な心を持っていて、誰にだって平等に接することができる女の子。本当に良くできた子だよ……だから、お礼を言いたくなった』
「あ、――――――――、」
『ありがとう、なのはさん。孤独な彼を、こんなにも思ってくれて』
そう言って、女性はそっとなのはを抱き締めた。
あたたかい、と。初めてなのはは感じた。あれだけ温もりも冷たさもなかった火が、今、ようやく熱を帯び始める。
『彼は普通の子なんだ。何度も何度も挫折して、絶望して、発狂して、逃亡して、そうやって生きてきた。今だってずっとそう。そんな彼をね、なのはさん、あなたは大事な友達だって慕ってくれてる。
ぎゅっと、なのはは彼女の首元へ顔を埋めた。
『……だから、これからも。変わらず彼のそばにいてほしい。ワガママなお願いでごめんね。でもね、キミならきっと彼のそばにいられると思うんだ。きっと怪訝そうな顔をして、文句の一つでも言うかもしれない。けれど、突き放しはしないから』
抱擁を解いた彼女となのはの目が合う。
輪廻メグルとは違って、あたたかい感情の宿る黒い瞳だった。
「……わたしが頑張れば、メグルくんは戻ってくるんですよね……」
『ああ、そうだね。彼ならば戻れるとも』
女性は断言する。
ふと、なのはは脳裏に輪廻メグルの顔を思い浮かべた。無表情で、無感動で、無愛想で、大人びて大人しく、同い年の子とは思えない男の子。
けれど、時折ふと見せる人間らしさと、他人を見捨て切れない優しさを持つ彼。
きっと。
別に、彼にとって、
けれど彼はしてみせた。“あのまま終わってしまうのが納得行かないから”と。
なのはを切り捨てて、独りでやることだってできたはずだ。彼程の頭脳ならば問題なく遂行できたはずだ。
でも、
「――――わかりました。わたし、やります」
バリアジャケットの袖で、なのはは涙を拭った。
そうして、彼女の心は決めた。そこに、これまでの弱々しい高町なのははいなかった。意思を宿し、決意を胸に奮起する者がいた。
『……うん、いい目だ。もったいないくらい。――――応援してるよ、
ぼうっ、と。彼女を中心に黒と白の火が燃え上がる。火はやがてあらゆるモノへと燃え移り、天井までもを焼き払い始めた。
ソレは輪を描いていた。
白炎の多重円環は際限なく拡がり続ける。
「なんだ、これは……!?」
校舎の外。
燃え朽ちて行く世界を見回しながら、その銀髪の女性――――管制人格は狼狽する。
校舎を中心に、その白い炎の円環は幾重に拡大した。
校舎を中心に、その黒い炎は延焼し続けた。
少しずつ、自身の所有する領域が黒い炎に焼き払われつつある。同時に、あの白い炎の意図を理解する。
空も、地面も、建物も。
その場に存在する、世界を構成するありとあらゆるモノが焼失してゆく。
「奴を脱出させる気か……っ!!」
そうはさせまいと、管制人格は空へ掌を掲げた。
瞬間、紫紺のエネルギーが集束し、巨大な球を形成する。
擬似・元素魔法。高町なのはを吸収し、その固有スキルを模倣。更には輪廻メグルの記録より星の概念が持つ
「ッ゛!?」
頭痛が、酷い。
演算回路が悲鳴を上げた。
いくら自身の理想を再現する固有世界内とは言え、元よりなかった機能を見よう見まねで出力するのはあまりに無理があった。
だが、これが一番早い。デバイスのスペックを無視する『魔力集束』と、無尽蔵のエネルギー源。ただまとめて放出するだけなら、これ以上の手はない。
「捕らえられぬなら、せめて痛みなく消し去ってくれる……ッッッッ!!!!」
『待てよわからずや』
「な、ァッ――――!?」
唖然。驚愕。困惑。
紫紺の球は真っ二つに斬り裂かれた。瞬間、エネルギーは霧散し、風となってばら撒かれる。
「貴様ァ……ッ!?」
『なんだ、怒りを持ってんのか。随分とまぁ溜め込みやがる』
管制人格は憤怒の表情で振り返った。
風に煽られる中、確かに空中に女が立っていた。
穴と傷だらけの赤いローブにその下は皮と鉄の軽鎧。黒髪のポニーテールにつり上がった紅の瞳と小麦色に焼けた肌の少女。
何より目を引くのは、彼女が右肩に担いだ両刃の
「なぜ、なぜだ!? ウイルス如きがなぜここまでの力を……!!」
『はァ?
「ほざけェッ!!!!」
管制人格は今、確かに怒りに震えていた。
目を釣り上げ、歯を剥き出し、鬼の形相が如く、剣士の女を睨み付けていた。
堪らず怒りに任せて横凪に腕を振るえば、瞬間、空間を切断する半月状の紫紺の斬撃が女剣士目掛けて飛来する。
亜音速並みの攻撃を、しかし女剣士は
「落ちろォッ!!」
『ぐゥっ!?』
速くもしかし直線的な動きを、管制人格はしかと捕えた。
両手を握り込みエネルギーを込めた両の拳を振りかざし、迫る女剣士へ向けて叩き下ろす。
女剣士の反応も早かった。素早く剣を振り払って拳にぶつける。
しかしてパワーの違いに大きく弾かれた。
女剣士の顔が歪んだ。
管制人格は口角を釣り上げた。
『やっべ――――、ゴ、ばァッ!?』
ごちゅ、と。
がら空きの胴体へ正拳突きが突き刺さった。
防御ゼロ、衝撃波が腹を貫通。堪らず女剣士は多量の血を吐き出しながら地面へ墜落する。ロクな受け身も取れず、焼け落ちつつある住宅街の家々をいくつも轢き壊しながら。
やがて女剣士は転がり続け、大きな洋館のエントランスへ突っ込み、正面に聳える階段へと背中からめり込んで止まった。
『……ごぶっ、こほっ……ぉ、げぇ……』
瓦礫の上に血反吐が零れ落ちる。
たかが一撃。されどその一撃で、既に女剣士は虫の息だった。
痛みに顔を酷く顰めながら這い出て、剣を杖に立ち上がろうとするも、全身に力が入らない。完全に内臓をやられた。足元に全身から流れ出す黒い血が溜まり、絨毯を染めてゆく。
「啖呵を切ってこの体たらくか」
大きく穴の空いたエントランスへ管制人格がゆっくりと歩み寄ってくる。
女剣士を見下す憎悪と憤怒に染まった瞳。
紫紺の眼力は女剣士を取るに足らぬ敵と貫くが、
『カ、は、はは……。オイオイ……そんなに
「――――ア……?」
女剣士に立ち上がる力は残されていなかった。
痙攣は止まらず、血が広がる程に瞳から生気が喪われてゆく。遠からず、この女は消滅する。
だが、だが。
『テメェが溜め込んでて正解だった……クソ弱ぇ
パンッ、と。
女剣士の頭が、消えた。
一瞬で、真っ赤な血が花弁の如くエントランスへ撒き散らされる。
遅れて残った身体がぐらりと傾いて、仰向けに血溜まりへと倒れ込んだ。
管制人格は、無言のまま掌を女剣士へと突き出していた。
紫紺のベルカ式魔法陣が示すのは単純な魔力弾丸の射出魔法。死に体の女剣士の頭を吹き飛ばすにはそれで十分だった。
「ゥ、」
間をおかずして、血溜まりはたちまち黒い炎となって燃え上がり始めた。
「ウ、ゥ、」
世界を犯す、あの炎と同じ。冷たく無機質な、破壊の炎だ。
「ウゥ、ウ、」
ここもやがて焼失する。ゆっくりと、展開領域を壊してゆく。
「ウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥァァァァァァァァァアアアアアアアアッッッッ、――――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!!!!!!!!!!」
怒りが叫ぶ。
憎しみが叫ぶ。
そこに、言の葉は表れず。
かつて
体中を蠢く黒い蛇の紋様。
瞳はとうの昔に白も黒も消え失せて紫紺へと完全に染まりきり。
真っ赤な血涙を滴らせる表情は最早人の成りにあらず。
『
ついぞ、演算回路は“感情”を取得するに至った。
破壊衝動が突き動かす暴力の化身が。
高く、重く、吼えた。
そして、
遠く、遠く。
空へ一筋の閃光が。
白き炎を帯びて、桃色の一閃が