ファンタジーな魔法って言わなかったっけ?   作:いつのせキノン

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黒い炎に祈りを捧げましょう

 

 

 

 

 まず、津波があった。

 

 

 

 黒く濁った破壊の象徴。

 

 

 

 街を、木々を、車を。

 

 

 

 ありとあらゆる全てを押し流した。

 

 

 

 

 突如として、海鳴市の上空に現れた黒い大怪球は、白い炎の飛沫を上げたかと思えば破裂し、泥を大地へと撒き散らしたのだ。

 

 

 

 

 

 かつてそこには海鳴市の街並みが広がっていたが。

 

 今は黒い津波によって瓦礫の丘が並ぶ焦土に変わり果て。

 

 

 

 

【―――――――uuuuuuuuuuuooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!!!!!!!!!!!】

 

 

 

 その中心に座す六脚の化物が咆哮を上げた。

 

(もだ)(いか)るナハトヴァール』

 

 大きな上顎(アギト)の首元には女性の影が。

 痛みに耐えるかのように身を捩らせ、悲鳴を上げる。

 顔を滴る血の涙。全身の隙間という隙間から吹き出す黒い炎。

 

 ナハトヴァールの足元には、黒い汚泥が流れる。

 ソレはゆっくりと大地に広がり、浸食していく。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つい数分前まで、あのような光景はなかった。

 

「夜天の書? ()()が?」

 

 クロノは裏返りそうな声音で、モニター越しのユーノに問う。

 

『…………正直、もうボクの手元で確認できる情報の物とはかけ離れてるけどね』

 

 ユーノも同じ光景を目にしたのだろう。

 しばし間があって、言葉を絞り出した。

 

『色合いは違うけど、過去のメモらしい手帳に書かれた特徴とはかねがね一致する。間違いなくナハトヴァールと呼称される闇の書の所以……蒐集プログラムの暴走体だよ』

「対処法は……流石に書かれていないか」

『流石にね……。これも蒐集が上手く行かなかった例だと思う。最終的にどうなったのかまで書かれていないし、多分この手帳の持ち主も……、』

 

 そこから先は何も言わなかった。言わずとも、結末は安易に予想できたから。

 

『通達、環境観測データが急激に変化……!! そんな、これって……、』

「どうした、エイミィ」

『クロノ、普通じゃありえない速度で()()()()()()()()の!! 酸素濃度30%超え、地熱も急激に上昇してるし、陸があった場所の隆起、海底までの深度も浅くなってきてる!!』

「なんだと!?」

 

 計器の故障、ではないと直感的に判断。

 エイミィからリアルタイムで転送されてくる海鳴市の環境データとナハトヴァールの映るモニターを見比べる。

 

「あの泥か……っ!!」

 

 街を押し流した泥の濁流、その広がり方とマッピングエリアの形は完全に一致している。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とはいえ、明らかに異常。地球環境を大規模に変革させているとしか言えない。

 泥は海に到達した箇所もあり、そこは一部が既に隆起を始め、拡大するとひび割れた隙間から真っ赤な溶岩が顔をのぞかせていた。

 

「ここに海底火山なんてなかっただろう……!?」

『恐らく()()()()()()()んだと思う。大気中の魔力濃度の変化がメチャクチャだ……メグルの使ってた【魔法】が発動した時と似てる波形だ』

「じゃあナハトヴァールは輪廻の【魔法】を使用できるのか!? 死者を蘇らせるような、あの規格外れな……」

『結界内部に引っ張られて、結界外が地震を起こしてるよ!? これヤバいんじゃないッ!?』

『結界魔法はあくまで一時的、支配権は結界の外、つまりは現実の方が上のはず。けれど、これは順序が逆……結界側の強度を上げて、無理矢理環境を書き換えつつある……テラフォーミング……? そんな記述は残ってなかったけど……』

「輪廻の【魔法】を蒐集して、コピーしたというのか……ッ!?」

 

 最悪だ、とクロノは吐き出したくなる。

 ミッドチルダ式であれば良い、ベルカ式も様々な情報が揃っている。

 しかし輪廻メグルの【魔法】は論外だ。アレはどんな理想をも実現しかねない危険なモノ。

 あの暴走体がところかまわず、死者蘇生に匹敵する神秘を使えば……それがもし破壊へ導くものであれば、手を付けられるかどうか。

 

 拳を握りしめる。

 輪廻メグルがいたならば、解決策が浮かんだのかもしれない。

 

 しかし、彼はもう既に、この世を去ってしまった。

 

 手遅れ、なのだろうか?

 

「…………………………………………、」

 

 思考する。

 仮にアレを今ある手札で止めるとしたら。

 ナハトヴァールは元々がプログラム、本体はやはり魔法術式の刻まれたデバイスが該当する。

 元は夜天の書。であるならば、やはり魔導書を破壊するのが最も適切だろう。

 

 暴走体の体内からは異常な魔力反応を検知できる。

 そこが魔力炉で、魔導書もそこに存在するはずだ。

 

 アクセスするには外殻を無理矢理剥がす他に手立てはない。

 やり方は単純、各々の『ブレイカー』に該当する魔法を、最大出力で発する。高町なのは、フェイト・テスタロッサ両名がいれば、確実ではないが最低限の火力は確保できよう。

 

 では、魔法射出までの時間を誰が稼ぐか。

 アースラの隊員全てを回したとして、イチかバチか。

 

「博打にも程がある……」

 

 クロノは論理的思考の持ち主、ゆえに失敗率の高さを予測し、NOと結論づけてしまう。

 かつて次元空間航行艦船2番艦エスティア一つとクライド・ハラオウンを犠牲にし、アルカンシェルを使用して何とか事態を食い止めた記録が残る。

 暴走体とはそれだけ強大な破壊の力を持っており、対処は難しい。難しいどころか、ほぼ不可能に近い。

 

 そもそも、なのはもフェイトも、あの大怪球に飲まれて以降音信不通。唯一の頼みの綱すら手札を切れない。

 

 

 

 どうする。

 

 どうすればいい。

 

 何が、今を乗り越える最善策なんだ。

 

 

 

『結界展開エリアが拡大、隣接する市町村に到達!!』

 

 丘が飲み込まれてゆく。

 黒い泥が、喰らい尽くす。

 

 

 

 止めなければ、やがて日本全域を。下手をすれば海を超えて、大陸も、地球全土すら……。

 

 容易に想像ができる。

 

 

 

 そうなった場合、もうこの星を捨てる他に策は浮かばない。

 星を相手に戦うなど、戦争なんて生易しい表現では済ませられないのだ。

 

 逃げて、状況を管理局に伝えて……。

 

 

 

 

 

『っ、海鳴市北方、高台方面から強力な魔力反応のアリ!! この波形は……ッ!!』

 

 

 

 

 

 ふと、エイミィの声音が少し上ずったのを聞き取る。

 

 次はなんだ。何が起きたんだ。

 

 観測データに映像ワイプが割り込んでくる。

 映されたのは、海鳴市で海沿いから離れている、小高い山を切り拓いた高台の一角。

 すわ山火事かと、そう勘違いしかねる程に、山の木々は白い炎に包まれていた。

 

 何と膨大な魔力反応なのだろう。

 

 本来魔力とは無色透明で物理的に触れることは不可能。

 しかしアレは、可視化・物質化を果たした大量の魔力であり、その全てが純粋な、何物にも染まらぬ純粋魔力である。

 

 映像が乱れる。

 途方も無い魔力濃度にズーム・ピント調整機能が不調をきたす。

 

 しかし。

 

『…………ああ、そうか……【魔法】は、誰にだって使える……そう言ってた……』

 

 クロノは。

 ユーノは。

 エイミィは。

 

 誰も、その中心にいる人物を見間違えなどしなかった。

 

 

 

 

 

「高町なのは……君も、なのか……?」

 

 

 

 

 

 そこに少女は独り、両膝を地に着け、胸の前で両の手を包み、祈りを捧げていた。

 

 舞い上がる風が髪を揺らす。

 白い火花と、桃色の粒子。

 

 それはまるで敬虔な信徒のようで。

 

 これから起こるであろう神秘を彷彿とさせる予感に、誰もが押し黙った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一つ、欠片を拾う。

 黒くて歪な、鉱石のような小石。

 それをしかと握りしめ、また一歩進む。

 

 足元をよく見て、同じ小石を見つける。

 それをまた拾う。

 

 ふと、自分の指を見た。

 白い炎が、全身を包んでいる。

 

 火傷のような痛みはない。

 ただ感じるのは、生命の温もり。

 それは心に安らぎを与える炎。

 

 辺りは真っ暗だ。

 何も見えやしない。

 自分から立ち昇る炎が足元を照らすばかり。

 光の一切届かない空間は寒々しく、できることなら早くここを立ち去りたいと、高町なのはは思った。

 

 だが、それはできない。

 凍えそうな身体を擦りながら、それでもと前に踏み出す。

 

 

 

 

 

 記憶は朧気だった。

 暗闇を飛び出して、気付けば海鳴市の高台に立っていた。

 

 寒空の下、海鳴市の中央には闇の書の気配がする。

 大地が黒く変色し、徐々に飲み込まれてゆく。

 

 身が凍えるような寒気が、背筋を駆け上がった。

 

 バリアジャケット越しに腕をさすろうとして、ふと気付く。

 見覚えのある、白い炎。それは自分の身体中から火の手を上げていた。

 

 掌を見る。

 そこにも、炎があった。

 

 しかし、火傷をするような熱さは感じない。

 

 

 

 記憶に引っかかる。

 

 ある光景がなのはの脳裏を過ぎった。

 

 

 

 あの日、奇跡を目の当たりにしたとき。

 

 彼の背中越しに燃える、白い炎を垣間見た。

 

 彼はあの時、何と言っていたか?

 

 

 

「……私は……」

 

 

 

 ゆっくりと記憶をさぐる。

 彼の神秘を間近で目撃した、神話のような思い出を。

 

 

 

「…………“私は使者。私は御使い。門の番人よ、貴方に私は見えますまい”」

 

 

 

 ――――熱が、燃え広がる。

 自らが纏った白い炎が、あたり一面へと。土も、木も、草も、何もかも。

 

 そうやって、世界が燃えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――――――」

 

「えっ?」

 

 ふと、声がした。

 石を一つまた拾って、掌から溢れそうになった頃。

 

 その先は闇だ。

 だけど、何かが聞こえてくる。

 

 輪郭のないぼんやりした幻だろうか。

 

 

 

 手招きをしている。

 

 

 

 一歩、前に踏み出す。

 

 声が少し、大きくなった。

 

 

 

 

「こっち」

 

 

 

 

 呼んでいる。

 

 誰かが呼んでいる。

 

 

 

「おいで」

 

 

 

 段々と、輪郭がハッキリと像を結び始める。

 

 

 

 ヒトだ。

 

 

 

「こっち、おいで」

 

 

 

 彼が、呼んでいる。

 

 ゆっくりと手が差し出される。

 

 だから、それに答えるように、手を伸ばし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そっちじゃない。こっちだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぼうっ、と。

 

「っ!?」

 

 その輪郭は黒い炎に炙られ、暗闇の中へと消え去った。

 からん、からん、と。持っていた小石が散らばって砕け、闇に溶けて消える。

 あの輪郭と、同じように。

 

 

 

「……こんなとこに来て何をしてるんだ、高町。ここは君が来るような場所じゃないはずだ。自殺でもしに来たのか?」

 

 

 

 鼓膜を叩く少年の声音。

 

「あっ……」

 

 いつ以来なのだろう。その声を聞いたのは。

 

 平坦で、感情の起伏があまり感じられない声。

 けれど、少し不機嫌そうな、でもそれを極力抑えようとする子供の声。

 

 

 

 その声のする方を、迷わず振り向いた。

 

 

 

 そこに、とある少年が立っていた。

 なのはと同じくらいの背丈で、絵本でみるようなとんがり帽子をかぶり、長いローブを羽織った男の子。

 

 

 

 彼は、少し困惑していそうな、そんな表情を浮かべていた。

 

 

 

「……なんだ、自殺願望者かと思ったけどそうじゃないんだね。簡潔に理由を聞いても?」

 

 

 

 間違いない。

 その態度、その表情、その口ぶり。

 

 

 

「…………えっと、何でそんな泣きそうなのさ……」

 

 

 

 ずっと。

 

 ずっと。

 

 

 

 ずっと、待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メグルくん……っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 輪廻メグル。

 

 あの時、消えてしまった、【魔法使い】。

 

 彼が、確かに、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

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