「ジン坊っちゃーん!新しい方を連れて来ましたよー!」
そう言って手をぶんぶん振りながら大きな門の下に居る深くローブを被った子供に向かって大声で叫ぶ。それに気づいた子供は黒ウサギの元へ走ってくる。
「お帰り、黒ウサギ。そちらの三人が?」
「はいな、こちらの皆様方がーー」
こちらを振り返りカチリと固まる黒ウサギ。
「……え、あれ?もう一人居ませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり好戦的に話しかけてきて、全身から俺問題児!ってオーラを放っている殿方が。」
まぁ十六夜のことを言っているのだろう。俺は親指を立てて歩いてきた方向に向かって指し、
「あっちの方に行ったぞ。」
と一言。
すると黒ウサギはウサ耳を逆立てて俺に対して問いただす。
「なんで止めてくれなかったのですか!?」
「別に行こうが行くまいが個人の自由だ。止めるのも無粋なものだろ。」
「それは……そうなのですが。しかしです!世界の果てにはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が居るのです!」
幻獣?スペーディオみたいな奴の事か?彼奴の話を聞いた限りでは幻獣は穏やかな奴らだと聞いたが……。
「と、とにかく!早く連れ返さなければ大変な事になりかねません!申し訳ありませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?私は少々問題児様を捕まえに参ります。」
黒ウサギから怒りのオーラが噴出したかと思うと、艶のある黒い髪が淡い緋色へと染まる。そして外門目掛けて空中高く跳び上がった黒ウサギは脇にあった彫像を駆使して次々と駆け上がり、外門の柱に張り付くと、
「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」
全力で跳躍したのだろう。弾丸のようなスピードで飛び去る。その証拠に外門の門柱に亀裂が入っていた。
「箱庭の兎は随分早く跳べるのね。素直に感心するわ。」
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々な強力なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせています。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが……。」
その言葉に飛鳥は空返事を返す。そして心配そうにしている子供へと向き直り、
「黒ウサギも堪能してくださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がして下さるのかしら?」
「え?あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。ところで三人の名前は?」
「私が久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが春日部耀さん。そしてそこの男性がジョーカー君よ。」
「分かりました。それでは箱庭に入るとしましょう。」
そう言ってジンが外門を潜るために回れ右をして歩き出す。それに飛鳥と耀も着いていくが、俺は未だに黒ウサギが跳んでいった方角を見つめていた。
「どうしたのジョーカー君?」
飛鳥が聞いてくる。俺は飛鳥へと振り返り詫びを入れて物を言う。
「悪いな。俺もあっちが気になってきたから行ってみる。」
そう言ってリアクターに手を添える。せると目の前に透明な電光掲示板の様なものが出てくる。それを迷うことなく操作を行い、一匹の怪鳥ジャミラスをこの場に現れる。それに驚きを見せる飛鳥と耀、ジンを無視してジャミラスの背中へと飛び乗ると三人に一瞥をくれることもなくその場を飛び去る。
「この世界でもモンスターを呼ぶことも出来たしライドも出来るのか。これはあってよかった。」
というよりも無ければこの場にジョーカーは呼ばれていない。それは自身が最も知っている。
「っと……高速で動く生体反応あり。これは恐らく黒ウサギか。」
まぁバレたら何かドヤされるだろうから今は上空から着いていくだけにしようと決めて黒ウサギの後を追う。
それから半刻ほどの時間が過ぎた時突如巨大な水柱が幾つも立ち上がった。遠目から見ても分かる強大さに加え一つ一つが災害級の力を持った物。俺は黒ウサギよりも早く現場へと駆けつける為に黒ウサギを追い抜いて水柱が立った場所へと急いで向かう。現場には十六夜が立っていた。すると十六夜は気配を感じたのだろうか上空に居る俺の姿を捉え、手を振ってくる。それに応えるように俺はジャミラスに降下するよう伝え、下へと降りる。
「よぉジョーカー、それに黒ウサギも。というかどうしたんだその髪の色。」
降り立った俺の後には先程追い抜いた黒ウサギが立っていた。
「十六夜さん!一体何処まで来てるんですか!?それにジョーカーさんも!先に箱庭を楽しんでおいてくださいと伝えたばかりじゃないですか!」
「世界の果てまで来てるんですよ、っと。まぁそんなに怒るなよ。」
十六夜は小憎たらしい笑みを浮かべながら黒ウサギを落ち着かせようとする。
「それにしてもジョーカーお前面白そうなことしてんじゃねえか。俺にもやらせろよ。」
「俺は良いが、此奴が頷かない限りは乗せては貰えないだろう。」
此奴はプライドが高いから自分の認めたやつ以外は基本的に乗せようとはしない。俺も認めさせるまでに1ヶ月は掛かった。
「しかしいい脚だな。遊んでいたとはいえこんな短時間で俺に追いつけるとは思わなかったぞ。」
話題を変えるように十六夜が黒ウサギを褒める。しかし黒ウサギは馬鹿にされたと感じたのだろう。むっとした態度を取る。しかしその後黒ウサギは首を傾げる。
(黒ウサギが半刻以上もの時間、追いつけなかった……?)
箱庭の世界、創始者の眷属である黒ウサギは駆ければ疾風より速く、生半可な修羅神仏では到底手が出せない。その黒ウサギに気づかれることなく姿を消し、更に追いつけなかった事も、思い返してみると人間とは掛け離れた身体能力だった。黒ウサギは冷や汗を流す。
「ま、まあ、それはともかく!十六夜さんが無事なのは良かったデス。水神のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ。さ!ジョーカーさんも何故ここにいるのかが気になるところですが早く帰りましょう。飛鳥さんたちが待ってますから。」
「水神?ーーああ、あれのことか?」
十六夜の言葉と共に川面から身の丈三〇尺強はある巨躯の大蛇だった。恐らくはこの一帯を仕切る水神の眷属だ。
「なんか偉そうに試練を選べとかなんとか、上から目線で素敵なことを抜かしてくれたからよ。俺を試せるかどうか試させてもらったのさ。結果はまあ、残念だったが。」
『貴様……付け上がるな人間!我がこの程度の事で倒れるか!!』
蛇神の甲高い方向が響き、牙と瞳を光らせる。巻き上がる風が水柱を上げて立ち昇る。周囲を見れば戦いの傷跡と見て取れる捻じきれた木々が散乱していた。あの水流には人間の胴体を引き裂くのは容易に想像できる。
『今から放つ一撃を凌げば貴様の勝利を認めてやろう』
蛇神の上から目線の言葉に売り言葉に買い言葉。十六夜も挑発する。
『フンーーその戯言が貴様の最期だ!』
嵐のように川の水が巻上がり竜巻のように渦を巻く。そうして出来た竜巻は蛇神の丈を優に超え、何百トンもの水を吸い上げる。巨大な竜巻が十六夜へと迫りその激流が十六夜を呑み込む!すると十六夜はニヤリと笑みを浮かべ、右拳を振り上げ、
「しゃらくせえ!!」
一声と共に自身の腕を一振りする。その行為のみで先ほどの凶暴な竜巻を薙ぎ払った。
『馬鹿な!?』
これには蛇神も想定外なのか驚愕の声を漏らす。自身が持つ最大級の全身全霊の一撃を拳一つになぎ払われ放心状態となる。そんな隙を十六夜は見逃すわけもなく、獰猛な笑みを浮かべ
「ま、なかなかだったぜオマエ」
大地を踏み砕き、蛇神の胸元へと飛び込み蹴りを放つ。蛇神の巨躯は空中高く打ち上げられて川へと落下した。その衝撃で川が氾濫し、水が森で浸水する。
「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代は出るんだよな黒ウサギ」
冗談めかしに十六夜は言うが、黒ウサギには届かない。
(人間が……神格を倒した!?それも腕力のみで!?そんなデタラメがーー!)
そこで黒ウサギは思い出す。彼らを召喚するギフトを与えた
「彼らは間違いなくーー人類最高クラスのギフト保持者よ、黒ウサギ」
真には信じていなかっただけに衝撃だった。相手は見知った相手であり、信用できる相手だったが、やはりリップサービスか何かだと、主催者の言葉を眉唾に思っていた。
(やはり今回の皆様方が本当に最高クラスのギフトを所持しているのならーー!)
「ーー私たちのコミュニティ再建も、夢じゃないかもしれない」
興奮を抑えきれずコミュニティの夢を口にした。
なんか誤字とかあれば報告お願いします