至らぬ所もあるでしょうが、暖かい眼で見守って下さい。
第50階層の街のはずれ。夜の帳は落ち、月の光が地を照らす。
そのプレイヤーはそこに居た。
整った顔立ち、腰まで長く伸びた白い髪に紅い右目と蒼い左目、色白で華奢な体つきに巫女装束のような色合いの袴。
だが異常なのは帯刀する刀である。刀は自らの体躯と同じぐらいの長さがある。
これは『血濡れた白夜叉』と呼ばれるとあるプレイヤーの物語である。
▼▽▼▽▼
「お腹……空いたぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
あまりの空腹に『白夜叉』は叫ぶ。
武器の整備と防具の修復、その他もろもろで一文無しなのだ。
「うぅ…最低の手段だが、誰かに奢って貰うしか……」
空腹に悩まされながらも街へと入ることにした。
入ったは良いものの、知り合いが一人も見当たらない。それに、美味しそうな食べ物の匂いが空腹をさらに刺激する。
街の広場の端で一人体育座りしている。
通りゆく人々がこちらを見るが、誰一人声を掛けてこない。
ふと、誰かが前に立つ。
「大丈夫か? 女の子が一人でこんな所に居たら危ないぜ?」
声を掛けてきたのは黒い装備に身を包んだ少年。
この人でいいか。
正座へと直り、両手をハの字に頭を地に着ける。
これこそ奥義・土下座。
「御願いします。食べ物を恵んで下さい」
「えっ、ちょっ…頭を上げてくれ!」
「頼む!ここ数日間食べ物を口にしていないのだ!」
「御飯奢るから土下座しないでくれ!」
少年に連れてこられたのは酒場。
定食を頼むと数分で出てくる。
「はぐ……はぐ……」
「喉を詰まらせないように気をつけろよ」
口いっぱいに頬張るなんて久しぶりの感覚だ。
「ごくん……ふぅ…ごちそうさま。奢って貰って助かったよ」
「いいよ、気にしないでくれ」
「いや、この御恩はいつか必ず返そう。名前を聞かせてくれないか? 名前がわからないと恩が返せないからな」
「あ、ああ、俺はキリトだ。よろしく頼む」
「キリ…ト……? キリト……」
『白夜叉』はこの名を知っている。
「『黒の剣士』さまですか!?」
「えっ、まぁ、うん」
『黒の剣士』キリト……SAOでも珍しいソロプレイヤーで、盾無しの片手剣使い。まさかこんな有名な人物名に奢って貰えるとは……。
"ククク……こりゃ都合がいいなぁ……"
ふと自分の中のもう一人の自分が話しかけてくる。
「ありがとうございました。私はこれから野宿する場所を探さなければいけないので失礼します」
「野宿!?流石にそれは危険だ。宿は取らないのか?」
「武器や防具の修理と調整で一文無しなのだ」
「部屋でも貸してやりたいが……女の子を泊めるとなるとなぁ」
「大丈夫です。私は男性ですから」
キリトは目をキョトンとさせる。
自慢ではないが私はよく女性と間違えられる。
「そうなのか?」
「ハラスメント警告出るか確かめてみます?」
胸を張って、少しいたずらに聞いてみる。
「い、いや、いいよ!」
「そうですか。では行きましょう」
「狭い部屋だが気にしないでくれよ……えっと…名前は?」
「まだ名乗っていませんでしたね。私はツイタチと言います」
名を名乗り、右手を着き出す。
「ああ、よろしく頼む」
キリトは手を握り返す。
これが『黒の剣士』と『血濡れた白夜叉』の出逢い。
『白夜叉』自身の運命を変える出逢いだった。
感想、改善点等あれば御願いします。