かくして彼は、たどり着く   作:リディクル

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この作品の神様転生者は『胡蝶が飛んでいく先』の二人目とは何の関係もありません。

また、今回の話は急な移動に伴い、スマホで編集しているので、本文中におかしな点があるかもしれませんが、ご了承ください。

それではどうぞ。





手折られて、陽は落ちる

 

 

 その男の運命は数奇なものだった。トラックに轢かれて死んだかと思えば、気がついたら白い空間で老人と相対をしていた。その老人は、どうやら神様であり、書類の不備で間違って死なせてしまった。お詫びに特典をつけて好きな世界に転生させてやると言ってきた。最初は信じられなかった男だが、老人が神である証拠を見せられ、その考えを改めた。

 そこからは、彼の頭の中はバラ色に染まっていた。彼が転生先に選んだ世界は、自分が生きていた世界で、ライトノベルとして出版されていた『インフィニット・ストラトス』という物語の世界。選んだ理由としては、その物語に出てくるヒロインが魅力的で、好きだったからだ。間違っても、その物語のストーリーが好きなわけではない。むしろ、ストーリーなどほとんどうろ覚えだ。その物語を知ったのも、男がよく閲覧していた二次創作小説投稿サイトがきっかけだ。

 彼が選んだ特典も、そのサイトの、いわゆるオリ主と呼ばれている登場人物がよく使っていたものから、自分の好みのものを選んだ。

 一つ目の特典は、肉体と頭脳の強化。肉体は織斑千冬、頭脳は篠ノ之束にそれぞれ準拠するように願った。

 二つ目の特典は、自分の使用するISを、ガンダムのダブルオーライザーにすること。もちろん、イノベイターではない自分でもその力を十全に発揮できるというご都合主義も同時に願った。

 三つ目の特典は、自分のその世界での将来の安泰。一生困らない財産、確固たる地位にいる両親を願った。

 四つ目の特典は、自分がヒロイン達に決して嫌われなくなる魅力というものだ。彼の言うヒロインとは、篠ノ之箒、凰鈴音、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒの五名だ。彼女たちに嫌われてしまえば、自分が転生した意味がないと考えたからこそ、そう願ったのだ。

 以上の願いは、全て滞りなく受理され、晴れて彼は自分が読んでいた二次創作の主役たちと同じ立ち位置に立ったと考え、興奮した。そして、その興奮が冷めやらぬまま、彼は二度目の人生をスタートさせた。

 

 男が第二の人生をスタートさせてから、実に15年の歳月が経っていた。現在の彼は15歳となり、IS学園で最初のホームルームの時間を過ごしていた。彼はインフィニット・ストラトスの主人公である織斑一夏の後に見つかった、所謂二人目の男性操縦者として、この学園に来たのだ。

 今生での彼の名前は、天原春輝(あまはらはるき)。この世界では有数のIS開発企業である天原重工の一人息子である。この世界に転生してからは、父にも母にも恵まれ、順風満帆な生活を送っている。というよりも、ここまでは全て彼の思い描いた通りにことが進んでいるのだ。怖いくらいだ。

 しかし、油断はしない。まだ自分はスタート地点に立ったばかりなのだ。そう考えたときに、自己紹介の番が回ってきた。席を立ち、その場で当たり障りのない趣味や好きなものを言い、最後に人の良さそうな笑顔で締めくくる。

その直後に、教室内の生徒の黄色い悲鳴が響く。うるさく思いながらも、素早く目を配らせ、二人の少女がいることを確認する。篠ノ之箒と、セシリア・オルコットだ。ちゃんといることを確認した彼は、内心で安堵のため息をつき、席に座る。よかった、ちゃんと()()()()だ。そんなことを思いながら、続いて彼は織斑一夏の方へと目をやる。

 原作主人公である彼の対処は、既に春輝の頭の中で決まっている。後は時を待ち、劇的なシチュエーションで、彼をこの物語から引きずり落とすのだ。その時には、()()()()たちにも協力してもらおう。そう考え、自身の置かれた状況に現実逃避をしている一夏を見ながら、春輝は内心ほくそ笑んでいた。

 

 その後は、全てのイベントが原作通りの時期に発生した。ただ一つ原作と違うところは、一夏が解決するべき問題を、全て春輝が解決したということぐらいだ。だが、そのおかげか、原作で一夏に惹かれるヒロイン達は全員がその好意を春輝に向けている。そして今日、臨海学校の二日目に起こった『銀の福音事件』において、篠ノ之箒を守り、見事彼女を落とすことに成功した。ここまでくれば、もう一夏はいてもいなくても変わりはない。だが、念には念を入れて、最後の仕上げをすることにした。

 事件がひと段落したあと、春輝は一夏を浜辺へと呼び出した。

 一夏が彼になんの用かと聞いてくる。それに対し、春輝は待ってましたと心の中で笑いながら、もったいぶるようにゆっくりと口を開きながら、言葉を紡ぐ。

 

 そこから、春輝による一夏の()()が始まった。

 

 最初はなんてことはない世間話から始まり、徐々に会話をコントロールしていき、一夏が心の拠り所とする話題――即ち、誰かを守りたい云々というものを引き出した。そこに、春輝はメスを入れた。ただ一言、お前は何も守れてはいない。そう言ったのだ。

 当然、一夏は反論してくる。そんなことない、と。しかし、春輝はその反論を押さえ込む材料があった。それは、自分が行ってきた、本来原作で一夏が行うはずであった活躍、そして、ヒロイン達の目を自分に向けるために行ってきた動きの数々だ。

 セシリア・オルコットとの決闘に勝ち、男に対しての価値観を大きく変えたこと。

 凰鈴音との試合と、その後の話し合いで、約束よりも大切なことがあると教えたこと。

 シャルロット・デュノアに手を差し伸べるだけでなく、具体的な解決策を提示したこと。

 ラウラ・ボーデヴィッヒとの戦いで、力の正しいあり方を示したこと。

 そして、篠ノ之箒とともに銀の福音を撃墜し、自分の存在を大きく示したこと。

 ただ、それだけのことしかしていない。だが、彼女たちからしてみれば、天原春輝という存在は、かけがえのない存在として見えたのだ。

 ――それこそ、織斑一夏という光が霞んで見えるほどの極光としてだ。そうなってしまえば、必然的に彼女たちは自分の方を向く。

 自身がヒロイン達にしたことをいい終えたあとに、春輝は一夏に問う。お前は何をしたのか、と。それに対して、一夏は答えられない。否、答えることができない。何故ならば、彼は何もすることができなかったからだ。

 それでも、と苦し紛れに声を上げた一夏に対し、春輝はそう言われることが予測できていたのか、自身の後方を向き、どう思うと言った。その行動を訝しむ一夏だったが、岩陰から出てきた五人の少女たちの姿を見て、驚愕の表情に変わった。

 

 ――ここからは、言葉にすることもはばかられるほどの私刑であったとだけ言っておこう。

 

 かいつまんで話すのであれば、織斑一夏は五人の少女たちにその志を否定された上で、天原春輝に止めを刺され、心を折られてしまったのだ。

 やれ、誰がお前に守ってほしいと言った。

 やれ、守る力もないのに出しゃばるな。

 やれ、何も為していないのに誰かを守るなどと笑止千万。

 言葉の差異はあれども、そのようなことを言われたのだ。今まで、守りたいと思っていた、他でもない彼女たちから。

 その言葉を受けた一夏は、砂浜に膝をつき、そして蹲って動かなくなってしまった。

それを確認した春輝は、満足気な笑みを浮かべ、五人の少女を連れてその場を離れていった。一夏について何も思うことはない。彼は自分にとって邪魔な存在だったのだ。それを排除して何か悪いことでもあるのだろうか? まあ、なんにせよ目の上のたんこぶであった織斑一夏を再起不能にし、名実ともにヒロイン達を獲得した春輝は、これからその五人とともに過ごすだろう、長い夏の日々へと早くも思いを馳せていた。

 

 織斑一夏の存在は、既に頭からは消えていた。

 

 

 

 ――天原春輝の栄光を話すことは、ここまででいいだろう。彼の人生の安泰は既に神によって約束されており、ここまでの活躍も、これからの活躍も全て成功と勝利が定められているからだ。それもひとえに()()()()()()()()だったからこそ成し遂げられた、もしくは成し遂げることができるのだ。

 

 この物語は、そんな人間を望んでいないのだ。

 

 この物語に必要なのは、そんな天上人ではなく、地に足付いた人間であるのだ。

 

 当たり前のような挫折もあるだろう。

 鼻で笑いたくなるような泥臭さもあるだろう。

 だが、その先にこそ、その世界に生きる人間の輝きがあるのだ。

 

 さあ、彼の物語を語ろう。

 

 

 

 

 

                     ◇

 

 

 

 

 

 臨海学校が終わってからの織斑一夏は、必要な時以外は寮の自室にこもるようになっていた。同室であったシャルロット・デュノアは、臨海学校のすぐ後に別の部屋へと引っ越していった。そのため、今は同室になっている人間はいない。ただ、今の一夏にとってはありがたかった。何故なら、今は誰とも関わり合いたくないと考えているからだ。そう考えるようになったのは、今もなお頭の中で反響している天原春輝に言われた言葉が原因だ。

 ――お前は、一生誰かを守ることなんてできやしない。それこそが、臨海学校のあの日に春輝が自分に言った最後の言葉である。彼が何故、自分にそのような言葉を吐いたのか、一夏にはわからなかった。ただ、その言葉が自身の心に刺として刺さり、今もなお抜けずに痛みを発し続ける原因となっていることは理解できた。

その痛みをどうにか克服するために、一夏は春輝が言った言葉がどのような意味を持っているのか考える。

 

 彼が言ったのは、間違いなく自分を否定するための言葉だ。そうでなければ、あの時にわざわざ自分と話すことはない。というよりも、彼は基本的に自分と関わりを持とうとしていなかった。そこにどのような理由があるかは定かではない。ただ、何か大きなことがあった時には、まるで漁夫の利を狙うかのように積極的に関わってきたことは覚えている。そして、自分や他の人間を出し抜き、見事に活躍するわけだ。

 そう考えると、自分ではなく、彼がみんなを守っていたように聞こえるし、それが事実であることも、誠に遺憾であるが、認めざるを得ない。だが、そういったことを抜きにしても、何故同じような志を持っているであろう自分を彼は蔑ろにし、あろう事か排除しようとしたのだろうか。よくわからない。

 何故、自分を否定したのか。何故、自分が彼女たちを守ることがいけないのか。考えれば考えるほど、嫌な方へと考えていってしまう。そう考え始めている自分が嫌になり、気持ちが沈む。沈んだ気持ちで考え事をするから、物事を悪い方へと考えてしまう――

 今の一夏は、そういった負のスパイラルに囚われていた。

 

「……俺の想いって、間違ってたのかなぁ」

 その螺旋の中で考え抜いた末に、一夏は自室の壁をぼんやりと見ながら、小さくそう呟いた。彼が呟いたその言葉を肯定する存在が、正しく自分が必死になって守ろうとしていた、あの時春輝とともにいた五人の少女たちだ。彼女らは、一夏に守ってもらう必要などないと言ってきたのだ。その中には、自身の幼馴染の姿もあった。

 正直に言ってしまえば、ショックだった。一夏にとって今回のことは、自分は守りたいと思っていたのに、守るべき対象からお前には守って欲しくないと言われたようなものなのだ。それは即ち、自分が彼女らに必要とされていないということがわかった瞬間でもあった。裏切られたわけでもない。おそらく、最初からそう思っていたのだろう。それを、自分に対して言わなかっただけだ。しかし、実際に面と向かって言われると、精神的に辛いものがあった。

 そこまで考えて、ふとあることが頭をよぎった。それは、自分が彼女たちを守ろうとした理由はなんであったということだった。何故、今更になってそんなことが頭をよぎったのかはわからない。彼女らのことに関して言えば、春輝が守っていたから、自分が守る必要はなかったはずだ。しかし、自分は彼女らを守ろうとした。その理由を、今一度考えてみてもいいかも知れないと思った一夏はゆっくりとその理由について考えてみた。

 だが、理由をいくら考えても、()()()()()()()()()()ということ以外に、理由を思いつかなかった。彼からしたら、あんなに大切に思っていた彼女らの事のはずなのに、いざ考えを巡らせてみれば、その程度だったということなのだ。即ち、自分にとって、彼女らはその程度の存在だったということなのだ。

 

 そこまで考えて、一夏はあることを悟った。それは即ち、()()()()()()()()()()()()()()()()ということと、()()()()()()()()()()()()()()ということなのだ。

 その考えに至った一夏は、今まで悩んでいた自分のことが馬鹿らしく感じてしまった。彼女らのことなど、どうでもよかったのだ。例え異常者と呼ばれようと、空っぽな人間と呼ばれようとも、自分のやりたいことを貫き通す事の方が大切なのだ。即ち、織斑一夏という人間にとっては、()()()()()()()()()()()よりも、()()()()()()()()()()()()の方が大切だったということだ。

 しかし、その感情を貫き通すためには、力が必要だ。ISという存在は、ただその力を表すツールに過ぎない。自分に必要なのは、そのツールで表すべき()()()()なのだ。力というものは、様々な形で存在する。ただ、守る力というものは存在しない。そんなものは、所詮本質を隠すための建前に過ぎないのだ。

 そして、一夏が求めている力は、その守る力を形作っている本質にあるものである。

 

 即ち、誰かを守るために敵を排する力――暴力である。

 

 守るべき者に害を為す存在を排してしまえば、守るべき者は守られる。そこに、綺麗事や感情など必要ない。結果さえついてくれば、それでいいのだ。

 そこまで考えた一夏が、ゆっくりと顔を上げる。その顔には生気が戻っていた。

「やってやる」

 小さく、しかし力強く呟いたその言葉の通り、一夏は考える。これから自分はどうすべきか、どう立ち回り、誰を頼って力を手に入れるべきかを、真剣に考える。悠長に構えている時期はもうとっくに過ぎ去った。これからは、自分から率先して動かなければ、一生惨めなままなのだ。だからこそ、焦らずに、しかし速やかに行動しなければならない。

 そうして考えて、一夏はある結論に至った。それは、今ある力を伸ばしていくというものだ。守るためには、暴力が必要であり、自分はそれを手に入れるためにお誂え向きなツールを持っている。ただ、そのツールを十全に機能させるためには、今まで自身がしてきた、ただ漠然と時が経つのを待つような訓練ではなく、純粋に力を求めるような修練をしなければならない。その修練ができるような人物は、この学園の中でもほんのひと握りしかいないだろう。

 ならば、自身が頼るべきは――

 

 

 

 

 

「それが、お前が私の元を訪ねてきた理由か」

「はい」

 IS学園一年生寮の寮長室。つまりは、自分の姉であり、元世界最強の称号を持つ織斑千冬の前に、一夏は座っていた。自分のもとを訪ねた理由を聞いた千冬は、睨むように一夏を見据える。しかし、彼女の睨みを一身に受けても、一夏は怯まずに視線を返していた。

 そんな彼の様子を見ながら、千冬は考える。一夏が言ったことは、紛れもなく彼の本心からのものであり、彼の瞳の中に見え隠れする悲しみと決意も、理解することができた。全ては、自分の想い貫き通すため。そして、そのためにも力が欲しい。なんとも男の子らしい理由だ。それを()()()()が言い切ったのだ。おそらく、土下座してでも頼み込むつもりできたのだろう。滅多に頼みごとを言わない弟が、自分のプライドをかなぐり捨ててまで頼みに来たのだ。自分も、できるのであれば手を差し伸べたい。というよりも、できるのならば手助けをしてやりたい。

「――悪いが、私は無理だ」

 だが、悲しいかな、自分では手助けすることができない。本当は手助けしたい。だが、そうしたくても自身が持つ称号と、目の前の生徒との関係が邪魔をする。もし、ここで彼に手を貸してしまえば、この先一生彼は自分の影から逃れられなくなってしまう。親、というよりも姉の七光りとでも言えばいいのか、そうした悪影響を彼に残すことは避けなければいけない。

 だからこそ、自分は協力することができない。ただ――

「だが、一人だけ紹介できる人物が居る。その人物に特訓を頼むといいだろう」

 そう、代替案は存在するのだ。

「――それは、誰ですか」

 そう言って、一夏は食いついてくる。彼も、自分に断られることは想定の範囲内だったのだろう。そして断られたあとは、一人で相手を探すつもりであったに違いない。

 だからこそ、千冬は一夏の特訓相手として、大事な弟のことを任せるに足る人物として、ある人物のことを推した。

 

「お前がよく知っている人だよ」

 

 

 




守るためには、暴力が必要である。
これは、最初の三作で語ったことであり、その三作の一夏が目指さなかったものでもあります。
しかし、この作品の一夏は守るということをしっかりと考えているため、敢えて暴力を手に入れる道へと進みます。
今回は、あの三作の時に書けなかった守るということについてしっかりと書きたいです。

関係ない話ですが、この作品で一番手こずったのが、転生者の神様特典を決めるところでした。
今回の転生者のコンセプトとしては、戦闘では一夏は絶対に勝てないということが念頭にあったので、あれこれと悩んだ末に、このような特典やキャラ付けになりました。
ぶっちゃけ、この作品の終着点は転生者に勝つことではないのですから、もっと適当でも良かったかもしれないと今になって後悔しています。

さらに関係のない話ですが、転生者アンチで一番効くと思うことは、彼らの活躍をほとんど描写しなかったり、さらりと流してしまうことだと思いました。つまり、活躍したということは知っているが、それって生きていく上で全然関係がないよねってしてしまう方が、下手に殴ったりするよりも効くんじゃないかなって思いました。

今回の作品は、だいたい3~4話くらいの長さを予定しています。
また、次話投稿後に区分を短編小説に変更します。
ゆっくりと投稿していこうと思っていますので、広い心を持ってお待ち頂けると幸いです。

それでは、最後になりましたが、ここまで読んで下さり、どうもありがとうございました。


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