かくして彼は、たどり着く   作:リディクル

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遅くなって申し訳ありません。
難産だったことと、モチベーションが上がらなかった事が重なってしまい、なかなか文章が書けませんでした。言い訳のしようがないですが、ここで謝罪させていただきます。

今回の話では、色々と原作にはない設定があったり、相変わらず一期ヒロインたちの影がほとんどありませんが、そこはご了承ください。

それでは、よろしくお願いします。





立ち止まって、地平線を見る

 

 

 

 夕方、IS学園学生寮一階談話室にて、三人の生徒が顔を合わせていた。

 相川清香、夜竹(やたけ)さゆか、そして布仏本音。普段醸し出している雰囲気も違えば、中学時代からの友人というわけではない彼女らであるが、一つだけ共通点がある。しかし、その共通点こそが、現在彼女らの表情を曇らせている原因となっているのだ。

「どう、織斑君の笑顔は見れた?」

「ううん、私は見れてない」

「私もー、おりむーがずっとむすってしてるとこしか見てないよー」

 彼女らの共通点――それは、織斑一夏と同じ一年一組に所属しているという点だ。しかも、彼女らは4月の上旬から彼にアプローチをかけている。一応自己紹介もしており、クラスの中では、専用機持ちを除けば、彼と一番接触していると言っても過言ではない。そうであるから、一夏とは度々世間話をしており、彼の趣味趣向もなんとなくではあるが理解していると思っている。それと同時に、彼の性格もそうした会話の中から読み取れるところは読み取っているつもりであった。

 しかし、現在の一夏は、そんな自分たちの理解をあざ笑うかのように、変わってしまったのだ。

「じゃあ、この分じゃ他のみんなも駄目みたいだね」

「うん、ここに来るまでに鷹月さんにも聞いてみたんだけど、やっぱり一度もみられなかったみたい」

「う~、しずしずも見てないんだったら、みんな駄目だよぉ」

 今にも泣き出しそうな声色で言った本音の言葉を合図とするかのように、清香とさゆかはため息をついた。そう、今彼女らの頭を悩ませているのは、たった二人の男性操縦者の片割れの急激な変化であった。また、そうした変化に困惑しているのは彼女らだけではない、一年一組の一般生徒全員が、そうした彼の変貌に困惑しながらも、それと同じくらい彼の身を案じていた。

 何せ、ある日突然みんなの憧れの象徴であった一夏が、全く笑わなくなってしまったのだ。それどころか、泣いたり怒ったりといった、所謂感情の起伏が乏しくなってしまったのだ。また、彼の人付き合いが悪くなったのも、そうした感情の起伏が少なくなってきた時期とほとんど同じ時からだ。

「やっぱり、臨海学校で何かあったのかなぁ……」

 今にも消え入りそうな声で、さゆかは呟いた。彼女が言った通り、彼がおかしくなった様々な要因をたどっていくと、臨海学校直後のふさぎ込んでいた時期に行き当たる。臨海学校の前も最中も、特に変わった様子はなかった。しかし、最終日のバスの中では、既に何かにショックを受けていたような雰囲気を出していた。それが意味するところは、自分たちが全く関与できなかった時――即ち、二日目に()()()()()()()()()()()()()()()に、彼がショックを受けるような出来事に直面したのだろう。例えば、自分の価値観の全てを否定するような、そんな出来事に、一夏は巻き込まれたのだ。

 その出来事がきっかけで、一夏は何かに対して思い悩みふさぎ込んだ。そして、それを克服したと思えば、今度は血のにじむという言葉を超えているような特訓をし続けているのだ。何故、そうまでして自分を追い込み続けるのか。何故、彼はそのような努力をするという選択に至ったのか。その理由を知りたいと思っても、彼は頑なに話そうとしないのだ。それどころか、学業に関しての話題以外では、全く会話に発展しないのだ。

 人付き合いが悪くなったと言ってしまえばそれでおしまいであるが、彼の場合は、自分のことで精一杯であることと、無意識的に自分の内にだれかの存在を入れないようにしていることが、傍から見れば丸分かりなのだ。彼はそれを隠せていると思っているだろう。否、無意識的に行っているから、隠してすらいないのかもしれない。しかし、そうであったとしても、彼が他者とのつながりを極力避けていることには変わりがなく、彼のことを心配している自分たちからしてみれば、八方塞がりと言えるような状態だ。

 

 唯一、一夏の変化の根本的な原因を知っていそうなのは、学校中の一般生徒から宇宙人と揶揄されている、もう一人の男性操縦者だ。何故なら、彼が一夏を見ている瞳の中に、時折歪んだ優越感が写っているのを、度々目撃しているからだ。また、彼と一夏は臨海学校の時に、一度二人で会っている姿を他のクラスの生徒が見たと言っていた。そうした様子から、二人目が彼に対して何かを言った、もしくは何かをやったのかもしれないというのが、彼らの様子をつぶさに観察していた自分たちの見解だ。

 だが、その見解はあくまで予想であり、真実は全く違うという可能性もあるのだ。手っ取り早いのが、二人目に事の次第を聞くことだが、周りを固める専用機持ちの目をかいくぐり、彼と会話するのは困難だ。そして、もし二人目の彼と話せたとしても、彼の今までの言動から、会話になるかどうか怪しい。何故なら、彼は自分たちのことをものとして見ているからだ。確かに自分たちと世間話することはあるが、その言葉には心がこもっていない上に、端々からこちらを見下しているような雰囲気が感じられるのだ。

 そんな人間と、誰が好き好んでコミュニケーションを取るだろうか。いや、専用機持ちなどの()()()()()()()()()を持った人間は、彼に惹かれるのだろう。強くて、容姿が整っていて、甘い言葉を口にする。確かに男としてこれほどの優良物件は存在しないだろう。だが、自分たちからしてみれば、その全てが嘘っぱちに感じてしまうのだ。

「――やっぱり、織斑君に聞こうよ」

 そして、そうであるならば、自分たちが取るべき手はもうそれしか残されてはいない。それがわかっているからこそ、清香はその言葉を口にしたのだ。

「でも、今の織斑君が話してくれるかなぁ……」

 そう不安げな顔で言ったさゆかに対して、清香は大丈夫と言い、口を開いた。

 

「私に考えがあるから」

 

 

 

 午前6時、IS学園食堂。まだ起きてきている生徒が少ない中で、一夏は朝食を摂っていた。今は夏休みであり、学園内に残っている生徒は少なくなっている。ISという特殊なパワードスーツ()()を使っているこの学園でも、余程の事情がない限り、生徒が実家へと帰省するのは普通の寮制の学校と変わらない。何せ、生徒の出身国は日本人が割合では多いものの、それでも世界各地から集まってきているのだ、この長期休暇を利用して自分の国に帰りたいと思う生徒も出てくるだろう。

 だが、そんなこと自分には関係ないと一夏は考えた。おそらく、今日も変わらない。朝から訓練をして、夜になったらご飯を食べて、風呂に入って、勉強をして、眠る。決意してから変わらない日程になるだろう。そう、思っていた。

「おはよう、織斑君」

 聞き慣れた、自分を呼ぶ声が一夏の耳に届く。その声がした方へと一夏は目を向けると、そこには彼のよく知る人物が立っていた。

「相川さん」

 自身のクラスメイトの、相川清香だ。彼女だとわかった一夏は、すぐにおはよう、と挨拶を返した。一夏の挨拶を聞いた彼女は、満面の笑みを浮かべて、口を開く。

「ちょっといいかな?」

 その言葉に、断る理由はない一夏は、すぐに了承の意を示すように頷く。その仕草を見た清香は、ありがとね、と言葉を返し、一夏の向かい側に座る。一夏の視界の端には、少し離れたところに座っている夜竹さゆかと布仏本音の二人が、心配そうな表情でこちらを見ている姿が映ったが、特に関係はないと考え、目の前に座る清香に集中することにした。

「いきなりごめんね、食事中だったのに」

 申し訳なさそうに清香は謝罪の言葉を口にする。そんな彼女に、一夏は別にいいよ、と言った。

「ただ自分が好き好んで一人で食ってるだけだから、相川さんが気にすることじゃないさ」

 そう言って、一夏は箸を置いた。まだ料理は残っているが、清香の話を聞くことに集中するためだ。そうした一夏の様子を確認した清香は、表情を真剣なものへと変え、ゆっくりと口を開く。

「あのさ、今日って特別な用事ってあるかな?」

「用事?」

 清香の言葉に、一夏は一度考える。確か、今日は織斑先生の手伝いや、倉持技研からの依頼はなかったはずだ。そう考えたあと、念のため清香に少し待っててと断りを入れた後に、携帯端末を取り出してスケジュールを確認すると、自分の考えたとおり今日の予定は何も入っていないことが確認できた。そしてその事実を、正直に清香へと伝えた。

「――特にないかな」

 その言葉を聞いた清香は、再度表情を嬉しそうなものへと変えた。そして、その表情のまま口を開く。

「それだったらさ、今日一緒に遊ばない?」

 清香の邪気のないその言葉に、一夏はすぐに回答することを躊躇した。彼女は、自分がIS学園に入学した当初からの付き合いだ。正直に言ってしまえば、彼女の誘いを断るのは気が引ける。

 ――だが、自分はまだ強くならなくてはならない。そのためにも、使える時間は全てそれに注ぎ込まなくてはならないのだ。それが例え、誰かとのつながりを断ち切るものだとしても。だから一夏は、彼女の誘いを断るために、口を開こうとした。

 

「ここにいたか、織斑」

 

 しかし、耳に届いたその声に、一夏は寸前まででかかった言葉を飲み込んだ。そして、声がした方へと顔を向けると、そこには自分の姉であり、クラスの担任でもある織斑千冬が立っていた。

「織斑先生、何か用ですか」

「ちょっとした連絡だ、すぐに済む」

 そう言った千冬はチラリと清香の方を一瞥したが、すぐに一夏へと視線を戻し、言葉を続ける。

「非常に申し訳ないが、アリーナの緊急メンテナンスをすることになってな。今日一日はアリーナを使うことができなくなってしまった」

 千冬の言葉を聞き、一夏は思わず声を上げてしまった。その言葉が意味することは、単純に予定していた訓練ができなくなってしまうということである。しかし、一夏はそんなことが起こるなど、全く予想もしていなかった。否、そこまで気が回らなかったという方が正しい。しかしそれは、自分のことに精一杯で、周囲のことまで気が回らないとも言える。だからこそ、彼は驚いたのだ。そしてその感情は、そのまま困惑に変わる。

 そうして、いきなりやろうと思っていたことができなくなってしまい困惑している一夏に、さらに千冬は畳み掛けるように口を開く。

「さて、訓練ができなくなってしまったお前にはこれをプレゼントしよう」

 その言葉とともに、千冬は一夏に一枚の紙を差し出す。それは、外出届の書類だった。教師である千冬が、生徒である一夏に対してそれを渡すということが示す意味は、言外に今日は休めと言っているようなものだ。彼女が何故そのような行動に出たか、その意味はよくわかる。おそらく、自分を心配しているからだろう。山田先生から自分の訓練時の様子を聞き、今日の緊急メンテナンスをこれ幸いと考え、このような手を打ってきたのだ。ご丁寧に、あらかじめ一夏の名を記入し、すぐにでも申請ができるような状態でだ。

 正直に言ってしまえば、そうした思いやりは、素直に嬉しいと思えた。彼女が今の一夏の状況を理解し、それを考えてこうした行動をとったことも、彼の心と体を案じてのことであることは、言葉にしなくてもわかる。だが、そうであったとしても、自分は()()()()()()()()()()()()のだ。

「あの、織斑先生」

「――織斑」

 そうした決意を胸に、千冬の配慮を断ろうとした一夏の言葉を、彼女は言葉で遮った。

 

「少しは、周りを見てみることをおすすめする」

 

 有無を言わせないような雰囲気でそう言った千冬は、一夏が座るテーブルの上に外出届を置き、そのまま食堂の入口の方へと歩いて行ってしまった。そんな彼女を一夏は引きとめようとしたが、そうしようとした時に、清香と目があった。彼女はどこか真剣さを感じられる表情で、じっと一夏の方を見つめていた。そんな彼女の雰囲気に少し圧されながら、一夏は少し考えた後、小さくため息を吐きながら、口を開いた。

「……そういうわけだから、今日はよろしく頼む」

 その一夏の言葉に、清香は満面の笑みを浮かべて頷いた。

 

 

 

「良かったんですか、織斑先生」

 食堂の出入り口から出てきた千冬に、廊下で待っていた山田先生が声を掛ける。彼女の言葉に対して、千冬は何の話でしょうかと答えた。

「私は何も悪いことはしていないつもりですが?」

 そう言った千冬に、それはわかっていますが、と山田先生は言い、そのまま次の言葉を紡ぐ。

「今日はアリーナのメンテナンスは入っていないはずですよ。それなのに、なんで一夏君にはメンテナンスだと言ったんですか?」

 山田先生の言葉のとおり、千冬が一夏に伝えたアリーナのメンテナンスについての連絡は、()()()()なのだ。しかし、千冬は今回の嘘をつく為に各所に根回しをして、全アリーナを閉鎖し、本当にそうであるかのように見せかけているのだ。ある教員には、やりすぎではないかという疑問を口にされたが、それに対して千冬は念には念を入れたいと言って、納得してもらった。

「さて、なんのことだか。私は嘘など言った覚えはありませんが?」

 そうした積み重ねがあるからこそ、千冬は堂々とその言葉が言えるのだ。

「……もういいです」

 そんな千冬に、山田先生は追求することを諦めた。

 

 

 

 午前9時頃、IS学園校門前。一夏は朝食を食べ終えた後、一度清香に別れを告げてから職員室に寄り、外出届を提出した。その時の教員のどこかほっとしたような表情に引っかかりを覚えつつも、自室に戻って数が少ない私服に着替え、備え付けのノートPCで少し調べごとをした後に、待ち合わせ場所である校門へと急いだ。

 そうしたこともあり、待ち合わせに予定していた時刻よりも早く校門の前に着いたが、まだ清香は来ていないようだった。その事実に、一夏は当然だろうな、と心の中で考えた。男性よりも女性の方が準備に時間がかかるというのは、よくある話だ。姉を持っている身としては、それがよくわかる。

 何にしても、待っていればそのうち来るだろう。そう結論づけた一夏は、早々にその考えを打ち切り、別のことを考えることにした。

 それは、何故今回彼女が自分を誘ったのか、ということだった。通常、女子が遊びに行くといったときは、自分の彼氏か自分が所属しているグループの友人とだろう。IS学園という特殊な環境であれば、特に後者がほとんどのはずだ。いくら自分と、もう一人というイレギュラーがいたとしても、そうした基本的な行動は変わらないはずなのだ。

 しかし、彼女は自分を誘うという選択をした。その行動から考えられる動機は、二つ。一つは、彼女が自分のことを友人として誘ったというもの。こちらはよくある話だ。しかし、そうした場合、二人きりということはありえない。大抵が、女子の方が多いか、ほかの男子もいるパターンだ。よくある、男友達と女友達という関係の付き合いだろう。もう一つは、彼女が自分に恋愛感情を持っているから誘ったというもの。こちらは絶対にありえないだろう。何故なら、食堂で声をかけてきた時の雰囲気からは、そうしたものを読み取れなかったからだ。もしかしたら隠しているだけかもしれないが、彼女の性格から、そんなことはありえないだろうと考えた。

 だが、もしも彼女がその考えで自分を誘ったのだとしたら――

「一夏くーん!」

 そう考えているときに、清香の声が耳に届く。その声を聞いた一夏は、自分が考えていたことを一度頭の隅に追いやり、声がした方へと顔を向けた。そちらには、清香の他にも二人の女子がいて、清香とともにこちらへと向かってきていた。夜竹さゆか、そして布仏本音。その二人の女子は、どちらも一夏のクラスメイトであり、一夏とは何度か面識がある人物だった。特に、布仏本音に関しては、あだ名で呼び合うほど仲がいい、と思いたいが、それだけの信頼関係は築けているとは考えている。

 ――のほほんさんとおりむーという、なんとも気の抜けた呼び名ではあるが。

「ごめんね、待った?」

「いや、俺も今来たところだよ」

 三人の先頭にいた清香と、なんともお約束めいたやり取りをする。自然と出てきた言葉に驚きながらも、一夏は彼女の後ろにいる二人にも声を掛ける。

「のほほんさんも、夜竹さんも、今日はよろしくな」

「うん、よろしくね」

「よろしくね~」

 一夏の言葉に、嬉しそうに二人の少女は言葉を返す。そんな三人の様子に、清香はうんうんと頷きながら、口を開いた。

「じゃあ、早速いこっか」

「お~」

「おー」

 清香の言葉に律儀に返答する二人の様子を見ながら、一夏は自然と表情を柔らかくしていた。

 

 

 

                    ◇

 

 

 

 正午、某ファミリーレストラン。一夏たちは料理が運ばれてくるのを待ちながら、自分たちのクラスのことで会話を弾ませていた。しかし、会話をしているのはもっぱら女子たちだけで、一夏はあまり口を挟まずに、聞くことに徹していた。

「でね、その時鷹月さんがね――」

「そうそう、そう言ったんだっけ」

「意外だったよね~」

 彼女たちの話は、一夏からしてみれば自分の知らない世界のことであり、とても新鮮なものだった。そして、そんな知らない世界が、自分のすぐそばにあったという事実に、正直なところ驚くとともに、自分がどれだけ周りを見ていなかったことを思い知らされていた。ただ、それを女子たちに知られるようなヘマはしてはならないという思いから、自分が抱いているその感情を、なるべく表情に出さないように努めた。

「意外と言えばさ、一夏君がアクセサリーに詳しいのも意外だったよね」

 そうした中、さゆかは一夏の方に目を向けながら、話を一夏の意外な一面のことに変えた。彼女がいきなり話を自分のことへと変えたことに驚きながらも、一夏はそうでもないよ、と答え、頬をかいた。

「ちょっとその方面に興味を持ってた時期があってさ、その時の知識だよ」

 さゆかが一夏に話を振ったきっかけは簡単なものだ。午前中にアクセサリーショップに入る機会があり、その時に一夏が、彼女たちが見ていたアクセサリーについての話をしただけだ。その時のことが、さゆかにとっては印象的だったのだ。何故なら、彼女たちにアクセサリーの知識を話す一夏の表情が、とても生き生きとしたものだったからだ。臨海学校から帰ってきたあとの彼とは違う、しかしその前の彼のものとは違う。おそらく、一番彼の本質に近いものだと思ったのだ。ただ、それを今ここで言うほどデリカシーがないわけではない彼女は、その事実を今は自身の胸に秘めておくことにした。

 

 そんな彼女の思いなど露知らず、一夏はさらに言葉を続ける。

「はっきり言って、今のトレンドなんて俺にはわからないし」

 恥ずかしそうにそう言った一夏に、清香がそんなことないよ、と言う。

「そういうことを知ってる男子ってあまりいないからね」

「そうそう、だから織斑君って結構すごいんだよ!」

 清香の言葉に、さゆかが追随するように言葉を紡ぐ。そう言われた一夏は、気恥ずかしくなりながらも、内心満更ではなかった。何せ、IS学園に入学してから今日まで、教師など年の離れた人間からしか褒められたことがなかったからだ。こうして同年代の人間に褒められたりするのは、もう一人の男性操縦者の方が圧倒的に多いからだ。

「――そんなに褒めても何にも出ないぞ」

 だから、一夏は謙遜してしまう。褒められ慣れていないことと、今まで自分は何も為していないという無力感が、彼にそうした言動を取らせてしまうのだ。それをわからない彼女たちではない、だが、()()()()彼の心に踏み込むべきではないということも、理解していた。

しかしその反面、徐々に一夏の心が開いてきていることもわかってきた。こうして自分たちの話題に乗って会話に入ってきていることも、そうした変化によるものだろう。そのことを実感した三人は、一夏にはわからないようにアイコンタクトを交わす。たった一瞬、それだけで自分たちの心を一つにした彼女たちは、すぐに一夏の方へと向き直り、新たな話題を振る。

「ねえ、一夏君――」

 そうして、様々な感情で固まった彼の心を解きほぐしていく。こうすることしかできないし、ほかに方法を知らない。でも、こうすることが、今の自分たちにできることなのだと疑わなかった。

「午後はどうしよっか?」

 清香のその言葉に、一夏はしばし考えを巡らせた後に、自分の考えを言う。それに便乗するように本音が自分の行きたい場所を口にし、それをさゆかが冗談交じりでたしなめ、そこでまた笑いが生まれる。その輪の中で、一夏もまた自分では気がついていないが、彼女たちと同じように笑うことができるようになっていた。

 

 こうして、料理が来るまでの間、一夏は三人のクラスメイトとの会話に花を咲かせた。

 

 

 

 

 




一年一組で、一般生徒で、一夏とある程度接触がある人物は誰だと考えた末に、彼女たち三人が選ばれました。
本音は言わずもがな、相川さんも結構原作・アニメともに出演回数が多かったりします。ただ、夜竹さゆかさんの立ち位置には、最初鷹月静寐さんを入れようと思っていましたが、彼女は箒のルームメイトなことと、wiki等で性格を確認した結果、一人勝ちする可能性が出たので、本音の「しずしず」呼びでの出演とさせていただきました。

一夏のアクセサリーの知識については、今作のオリジナルです。作中で彼が言っているとおり、一時期興味を持っていたので、少しそちらの知識がある程度です。

そして、今回の話が予想よりも長くなってしまったので、あらかじめ決めていた完結までの話数が、予定していたものより一話多くなることが決定しました。読者の皆様はそちらのほうが嬉しいかもしれませんが、もしそうでない方は、ご了承ください。

それでは、ここまで読んで下さり、どうもありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。




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