戦姫絶唱シンフォギアGB   作:ちばばばん♪

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第6話 装者達の黄昏

皆神山での戦闘から二週間、響達装者5人と緒川は横浜に集まっていた。

道路を挟んで海の見える2階建てのレストラン、その2階のバルコニー席で夜風に当たりながらディナーを口にしていた。

「しっかしこんな場所に呼び出すなんて、一体どんな魂胆なんだ?」

クリスはパスタを頬張りながら疑問を口にする。

無論今日は遊びに来たわけではない。伴達と行動を共にする未来から響に一通のメールが来たのだ。

「さあ。未来からのメールには、ここのお店を予約してるからこの時間にこの6人で来てとしか」

両手にパスタを持った響が返事をする。

いなくなった当初こそ響は落ち込んでいたが、響は未来を信じることにした。

「ちょっと、二人とも、お行儀が悪いわよ!」

マリアはクリスの口元についた食べ物をナプキンで拭きながら諌める。

「マリア、…お母さんみたい」

「いいないいな、羨ましいデス。私の頬っぺたも拭いてほしいデス!」

逆に切歌までもがはしたない食べ方をして、調にチョップされる。

「痛いデース、しかしこんなところに呼び出して、どういうつもりなんデスかね?」

ここでようやく話が元に戻る。

「さあ、一体どういうつもりなのかしらね」

マリアは海に目をやる。未来のことも気になるが、愛すべき親友の翼のことも気になる。

皆神山で現れたガングニールを纏った翼は確かに翼だったと確信をしていた。

しかし先の戦闘の間、翼の体はS.O.N.G.の医務室にあり、特に異常はなかったと言う。

すると、道路に一台のトラックが現れた。物品運搬用のトラックとは少し違う気がする。

停止したトラックの荷台部分が突如開き、そして、音が流れ始めた。

 

バルコニーから身を乗り出した響はすぐ気づく。

「この歌、翼さんの『FLIGHT FEATHERS』です!」

全員がバルコニーから身を乗り出し、トラック上のステージを見やる。

天使の羽のようにフサフサとした長い髪を二つに結った長身の少女と、毛先のはねた短い髪の目つきの悪い少女、奏と伴。

そしてもう一人、肩までバッサリ短くした髪にパーマをかけ、一見しただけでは誰だか分からないその人物は、翼だ。

三人は圧倒的な歌唱力で『FLIGHT FEATHERS』を歌い上げ、たちまちトラックの周りに人だかりができた。

「すごーい、ヒンメル・アンド・ヘルよ!」

「最近あちこちでトラックライブしてるって、ホントだったんだ」

「新しくメンバーになったTさん、かっこいいよね~」

あたりからはそのような声が聞こえてくる。

「来たわね」

「よっしゃー、いっちょワルモノ会談といきますか」

マリアとクリスはバルコニーから飛び降りて、トラックに近づこうとするが…。

「待ってください!」

後ろから聞こえたのは響の大切な親友、未来の声だった。

「そうだ、待つんだゾー。じゃないと…」

そしてオートスコアラーのミカもその後ろから現れる。慌てて未来が、「ダメだよ」とミカも諌める。

「ライブが終わったら、ここで皆さんとお話しすると、伴さんが言っていました」

改めて見る未来は、決して操られたり脅されたりしているようには見えない。

「分かった。今すぐ聞きたいことはいっぱいあるけど、翼さん、奏さんと一緒に歌えて楽しそう」

かつて奏と翼はツヴァイウィングというアーティストユニットだった。きっといっぱい歌いたいに違いない。

「お代はワタシ持ちだ、もっとゆっくり楽しんで行ってくれ」

さらに奥からもう一体、オートスコアラーが現れる。

「さすがはトータルバランスに優れたレイアだゾ、トラックの運転もちゃんとレイアが免許を取ってやってるんだゾー」

ミカが口元に手を持っていき、おかしそうに笑う。

「ちっ、しかたねーなー」

クリスは頭をかきながら席に座り、トラックライブに向き直る。

マリアは警戒の意味でミカ達の周りを見渡して、そしてその後方に何かを見つけ、誰にも気づかれず、吸い込まれるように、そこへと向かった。

 

「ライブ、楽しんでもらえたかしら?」

ライブが終わり、一通り観客の相手をした伴・奏・翼が、響達の元に現れる。

「どうしてあたしらをこの場所に呼んだんだ?」

真っ先にクリスが食いつく。伴は含み笑顔で答える。

「交渉よ、私達、手を組みましょう?」

「何をいまさら!あんだけぶっかけといて!」

ライブ会場で翼を撃たれ、皆神山でガングニールで撃たれたことをクリスは忘れていない。激昂する。

「待ってクリスちゃん!全て、話してくれるんですね?」

そんなクリスを響が諌める。せっかくお話しできるんだ、分かり合える機会をみすみす逃したくはない。

「それがあんた達の条件ってことでいいのかしら?」

響は無言で頷いた。

「いいわ、全て話すわ。長くなるから、覚悟なさい?」

 

「私の名前は地羽伴(ちばばん)、リディアンの生徒だったわ。

 私と、私の友達の、海根重(うねかさね)はね、学年トップレベルの歌唱力の持ち主だったわ。

 ある日ね、私と重は、校門で怪しい男とすれ違ったの。そいつの持ってたアタッシュケースから、私達は何かを感じた。

 重がね、「どうしても中身が見たい、何かに呼ばれてる気がする」って、その男に言ったのよ。

 男は驚いてたわ、何せ中身は聖遺物だったんですもの。共鳴した私達は、つまりは適合者。それが二人いっぺんに現れたんだからね。

 その聖遺物はガングニールの欠片よ。立花響、あんたの体から摘出された、天羽奏のガングニールの欠片」

 

そこで伴はいったん区切り、水を口にする。その顔は、憂いを帯びていた。

 

「その男は中国軍のスパイよ。軍の目的は聖遺物の軍事利用。私達は即座に誘拐され、中国にある研究施設に送られたわ。

 そして重は…重はガングニールを培養するための素体として欠片を植え付けられた…。

 一方の私は、培養された物質から作られたシンフォギアの起動実験の被験体にされたわ。

 ギアを作る理論は、陰陽師の王(ワン)ってクソヤローが完成させてやがった。 

 起動さえ終われば二人で日本に帰れるって信じてた私は、進んで起動実験に参加した。そして成功させたわ。

 でも待ってたのは違った現実。用済みになって処分されそうになった。そして私は絶唱を口にして、天羽奏と出会った。

 いくつかのデータを奪い、王を殺して陰陽術の力を奪い、残りはぶっ壊したわ。

 でも重は…すでにどこかに連れて行かれていたわ…」

 

響が自分にも伴の人生を狂わせた一端があるのではないかと思い、不安になるが、偶然目があった奏は首を横に振った。

 

「得た情報の中に、私の処分が決定した理由があったわ。私はエクスドライブモードになれない、凡庸な装者だったからよ。

 軍が目指したのは最強のシンフォギア部隊。そのためには自力でのエクスドライブは必須。

 そして過去それができたのが、セレナ・カデンツァヴナ・イヴただ一人。

 だから、アメリカにいた軍のスパイが入手したセレナのDNAサンプルを使って、別の施設でクローン化計画が行われていたのよ。

 当初は量産した最強の装者達に、同じく量産したギアを持たせる予定だった。

 だがギアの研究生産施設と責任者を私が潰したから、クローンが本当に最強の装者たり得るかを実証する術を軍は失ったわ。

 だって肝心のギアがないんですもの。

 そこで軍はあんたらからギアの半分を奪って、もう半分と戦わせるという作戦に出た。

 それが、軍がライブ会場での襲撃と、皆神山での襲撃を行った理由。

 重への手がかりをつかみたい私にとっての、たった二回だけのチャンスだった。

 クローンにガングニールをぶち込んでエインヘリャル化すればきっと手がかりがつかめると思ったけど、結果はこのザマよ。

 成果と言えば、仮死状態にあった風鳴翼をエインヘリャル化して手駒が増やせたってことくらいかしら。

 まあ、私が解除するか死ぬか、肉体がきれいさっぱり回復すれば、翼は元の体に戻るわよ」

 

自嘲気味の笑みを伴は浮かべる。その手には、いつの間にか小さなメモリーチップのようなものを持っていた。

 

「重への手がかりは、もうない。でもまだ、希望はあるわ。件の施設から奪った情報をこの媒体に入れてるわ。

 これを使って、国連の立場から中国を揺さぶってくれないかしら。

 そうすれば、もしかしたら何かの動きがあるかもしれない。そこから重への手がかりが見つかるかもしれない。

 私はそちらの交渉条件通り全部話したんだから、やってくれるわよね?」

 

ニコリと不気味な笑みを浮かべながら、伴がチップを渡してきた。

 

「その交渉を、S.O.N.G.内にいるかもしれない中国のスパイに知られずに行うために、アイツを使ったのか?」

アイツとは未来のことだ。もしそうならば、もう未来は伴達には必要ないはず。

「悪いけどまだ彼女の役目は終わってないわ。彼女には神獣鏡の装者としての役割を果たしてもらう」

中国軍がアメリカのF.I.S.から盗んだのはセレナのDNA情報だけではない。

聖遺物の機械制御の技術もまた盗まれており、中国で数多出土した神獣鏡から作ったギアで、研究施設に「ウィザードリィステルス」を張っていた。

伴はそのギアもまた施設破壊の際に回収していた。

「潜伏するにしても奇襲するにしても、神獣鏡の力は便利だわ。

 ま、でも、未来への負荷は最小限に留めているわ。未来とミカ、二人の名前、似てるでしょ?

 この親和性を用いて陰陽術で、未来のわずかな力をミカが共有し、ミカの中で増幅・発動するようにしている。

 ミカはオートスコアラーの中で最大容量を誇るオートスコアラーでもあるから最適だわ。

 今も実は、この近辺に神獣鏡で魔除けの結界を張っているけど、未来はギアを纏っていないのはそういうことよ」

「だから心配しないで、響」

未来が響の手をぎゅっと握る。その目はまっすぐ響を見つめる。

「私から話すことは以上よ。奏や翼とも話したいことがあれば、お好きにどうぞ」

そう言い残し、伴はバルコニーから立ち去った。

 

 

「奏さん…」

海辺に移動した響は、奏と二人きりでいる。

「ごめんなさい、私を助けたばかりに奏さんは…ずっと謝りたかったんです!」

4年前、件のライブ会場で響は奏に命を救われた。力を使い果たした奏は灰となり消え散った。

「…私は防人、いつか死んでいたさ。

 もしかしたらそれは翼を助けるためだったかもしれないし、違う誰かを助けるためだったかもしれない。

 それがたまたまあの日だっただけ。だから、気にやまないでほしい。

 それに、私は家族に先立たれたから、もしかしたらあっちに行けば会えるかも、なんて思っている自分もいた。

 生きるのを諦めるなってセリフ、ほんとは自分の為だったんだぜ。

 防人の使命を忘れて、ぽっきり折れちゃわないように、ね。

 こんなこと、翼に聞かれたら、今の翼になら、怒られるだろうなぁ。翼だけが、ずっと心残りだった」

ふふふっと、奏は笑う。

「翼から色々と聞いたよ。新しい友達も、相棒もできた。私は嬉しい。ありがとう」

奏は響の頭を優しく撫でる。

「奏さんもこの戦いが終わったら、私達と一緒に…」

「…考えておくよ」

 

「先輩!!」

「久しいな、雪音!」

片やクリスは、トラックの傍で翼に話しかけていた。

「髪、切ったんすか?」

「この身は人であり、聖遺物である。髪の長さの調整なんて造作もないことだ。変装を兼ねて短くしてみたが…変だろうか?」

「に、似合ってるんじゃねーか?あたしゃおしゃれとかよくわかんねーけどよ」

クリスは翼に見とれ、ドギマギしてしまう。

「マリアとは上手く行ってるか?あまり話しているところを見たことがなくて、心配してるんだぞ?

 マリアはしっかり者だがどこか抜けてるからな、次いで年長の雪音が支えてやってくれ。

 そういえば、マリアはどうしたんだ?一緒に来ているものだとばかり思っていたのだが?」

「…そういえばどこに行ったんだ、アイツ」

 

 

「はじめまして、マリア、姉さん?」

レストランから少し離れた高層ビルの屋上の展望スペース、そこにマリアともう一人がいた。

「セレナ…なの?」

「私はセレナ1、と呼ばれています。セレナ・カデンツァヴナ・イヴのクローンの一人です」

レストランでセレナの姿を見たマリアは思わず後を追いかけ、そして今、二人しかいないこの場所で、語り合っている。

セレナ1は嬉しそうだ。

「夜景ってこんなに綺麗なんですね。風ってこんなに気持ちいいんですね。誰かと話すってこんなにワクワクするんですね。

 オリジナル・セレナもそうだったのかな?それともまた違った感じ方をしていたのかな?」

両手を広げ、ひらひらと舞うセレナ1。その姿に敵意は感じられない。

「私達の対装者実験は成功に終わりました。だからもう、貴女と戦う理由はありません。安心してください」

「ならどうして、貴女はここに来たの?」

「姉さんとお話ししてみたかったんです。それに聞きたかったんです、オリジナルがどんな人だったかを」

笑顔で見つめられ、マリアはすっかり毒気を抜かれてしまった。

「それは、なぜ?」

「私は、最初のクローン個体、姉だから、妹達を守りたいんです」

セレナは物憂いげに胸のペンダントをいじる。

「後は、だからこそ、たまには甘えてみたかった、のかな」

マリアが手を伸ばせば、もしかしたらアガートラームのギアは取り返せるかもしれない。

でもマリアは胸元ではなく、背中に手を回し、そして優しく抱擁する。

「私達はオリジナルの肉体を完全に再現しています。しかし、誰一人として自力ではエクスドライブできませんでした。

 李将軍、この計画の主導者にして研究の第一人者は、魂の情報が違うから、と言っていました。

 私達は愛国心と軍人としての知識の他に、オリジナルに近い魂の情報を知るために、様々な性格や偽りの記憶を植えつけられました。

 ただ、それらは一度植えつけられると完全に消すことは難しくて、きっと求める魂が作られた時、私達は不要になってしまう。処分されちゃう。

 だから私は、オリジナルを知って、努力して、頑張って、近づいて、妹達を守りたいんです!」

気づいたらセレナ1は泣いていた。

「…セレナはね、優しい子だったわ。

 私とセレナ、調と切歌は、フィーネと言う先史文明期の巫女の憑代として集められたレセプターチルドレンだった。

 そしてセレナはただ一人、シンフォギアの正規適合者でもあった。

 セレナは苦悩していたわ。次のフィーネの器はほぼセレナで確定だったもの。

 もしセレナが器になった場合、もしかしたら私と調と切歌は処分されてしまうかもしれない。

 だから偶然暴走した完全聖遺物を止めると決めた時、一瞬とても嬉しそうだったわ。

 今ならわかる。自分が死ねば誰かが救われるって、そう思ったんだわ」

セレナ1を抱くマリアの手に力がこもる。

「暴走に乗じて全員で脱出するという手はなかったんですか?ベクトルの力、使いようによっては最強の剣にも盾にもなったはずです」

「セレナは、人を傷つけられるような子じゃなかったわ」

「「セレナ・カデンツァヴナ・イヴは果たして人殺しができるよな人間なのかしら」か…呪いね…」

「どうしたの?」

「私達はいずれ、対軍人・対兵器戦実験を迎えます。その時、人を殺せないという制約ができてしまった私達には、破滅しかありません」

「…どうすれば、貴女達は救われるの?」

「分かりません」

「きっと、きっと何かあるはず…一万と一つ目の手立てはきっと…」

「…ありがとう、マリア姉さん」

セレナ1はすっと、マリアの元から離れた。

「これを」

そう言い、セレナ1はポケットから別のギアを取り出した。

「これは?」

「今日のお礼です。昔頓挫したギア増産計画の名残だと聞いています」

そう言い残し、セレナ1はその場を後にした。

「自分らしく生きて…それが貴女の強さになるわ…」

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