BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい   作:白白明け

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最強の死神は山本総隊長。異論は認めます。
けれど、最強の死神は山本総隊長です。
大切なことなので二度言いました。

暇つぶしにでもなれば幸いです( 一一)


風守風穴編
最強との出会い①


現世でいう所謂『天国』という所は、残念ながら存在しない。

罪人が落ちる『地獄』はあれど、徳人が逝くべき『天国』はない。

罪なき魂が落ちるは『尸魂界』。

『天国』などと呼ぶことは出来ない、あまりに雑多な場所でしかない。

ならば、人は何を夢見て死ねばいい。

苦難も苦痛もない『天国』がないのなら何を目指して逝けばいい。

 

答えは此処。此処に来い。現世を終えた魂魄たち。

どうか安心してほしい。

『尸魂界』に天国はないけれど、桃源郷は存在する。

 

尸魂界の外れも外れ西流魂街80地区「口縄(くちなわ)」のさらに果ての洞窟に、苦しみも、悲しみも、何もかもを忘れさせてくれる。そんな夢のような場所

 

阿片窟(とうげんきょう)はそこにある。

 

 

 

 

 

桃色の靄に霞む阿片窟。物心が付いた時から俺は其処に居た。地の底から阿片の毒が自然発生する摩訶不思議な洞窟。言葉を覚えたその時から、俺は此処が端的に地獄と称して良い場所であることには気がついていた。

蠅に対して弁舌を振るい、糞尿を不老不死の薬と思い込み食するような中毒者が、この阿片窟(とうげんきょう)にはそれこそ無数にいたのだ。

俺を産み育てた母もまた同類だった。時に人形や死骸を俺と勘違いしていた。

しかし、そのことに何の不満もなかった。

母は息子(おれ)に溢れんばかりの愛を注いでくれていた。その事実は客観的に見るからこそ、確固たる真実として俺の心を温めてくれる。

阿片窟(とうげんきょう)の住人たちは痴れてはいるが、皆穏やかで良い人ばかりだった。

ならばこそ、俺がするべきことは明確だった。

 

俺の身体は特別だった。桃色に霞む阿片の煙を吸い続けても痴れることのない頭。衰えることのない身体。母は時にそんな俺を可哀想だと嘆いたが、俺からすれば有り難いことだった。

狂わず衰えることがないから、俺は地上と阿片を繋ぐ唯一の場所。阿片の煙が風に飛ばされ散っていく洞窟の入口に門番として立っていられる。

心弱き者が最後に縋る阿片窟(とうげんきょう)。此処を守るのは俺しかいない。

 

未だ俺が童で有った頃、幼心に刃を抱いて母と友人たちの前で誓いを立てた。

俺は此処を守ると、誓いを立てた。此処は来る者は拒まず。去る者は追わず。害する者は俺が許さない。

 

そうして剣を振るう俺のことを何時からか人は「風守(かざもり)」と呼び始めた。

俺には別のちゃんとした名があるのだが、まあ、地上と阿片窟(とうげんきょう)を繋ぐ風穴を守るものとして「風守(かざもり)」という名は悪くない。

 

悪くはないので捨て置いた。

そうして俺が風守となってから、数百年の時が過ぎた頃、あの男がやってきた。

それは長らく続いた、阿片窟(とうげんきょう)の終わりだった。

 

 

山本(やまもと)元柳斎(げんりゅうさい)重國(しげくに)

そう名乗った男の名を俺は知っていた。ここ最近、尸魂界の中心である瀞霊廷で話題の死神の名前だ。

『死神』。現世で死んだ魂魄を尸魂界へと繋ぐ役割を持った黒衣の剣士達。そして、現世と尸魂界に時折現れる(ホロウ)と呼ばれる魂魄を喰らう化け物を狩る者たち。

そんな者たちの中でも山本元柳斎重國という男はあまりに特異だと伝え聞く。

曰く天を焼くほどに有り余る力ゆえ全力で戦えない最強の死神。

曰く悪を狩る為に悪を利用することに躊躇などない正義の死神。

そんな男が俺の前に、ひいては阿片窟(とうげんきょう)の前に現れたことにまず感じたのは驚きだ。

 

「驚いた。心弱き者が最後に縋る阿片窟(とうげんきょう)。そんな所に、おそらく現在(いま)の尸魂界で最も此処に似つかわしくないお前の様な男が何の用だ?道にでも迷ったか?だとしたら、俺は力になれんぞ。俺は引きこもりでな。ここ数百年、阿片窟(とうげんきょう)の周りから出たことがないんだ」

 

「ほう?この儂を前にしてそんな冗談を言う丹。結構結構、噂通りの逸材ではある様でなにより。どうやら無駄足とならずに済みそうじゃわい」

 

黒々とした髭を揺らし山本元柳斎重國は獰猛に笑った。

 

「して、何の用かと問うたな?うむ、貴様の言う通り、儂は阿片窟などという場所に用はない。まだまだ現役、夢に溺れる暇などないからのう。儂が用があるのは、貴様じゃよ。阿片窟の門番。極楽への風穴を守るもの。”風守”の男よ」

 

「…阿片ではなく、この俺に用か?あまり楽しそうな話じゃないな。が、まあ、いい。一先ずその言葉さえ聞ければ、なお安心だ」

 

「安心?何が安心なのじゃ?」

 

「山本重國。お前程の男が態々出向いてきたんだ。阿片窟(ここ)を焼き討ちしようとか、そんな凡庸な用事じゃないだろうことはわかっていた。お前は俺と違って諸人に慕われていると聞く。そんな凡庸な用事なら、お前自身が手を煩わす必要はないもんな。その上で俺に用だといったんだ。阿片窟(とうげんきょう)に危険はないのだろうと、安心したのさ」

 

一先ずはこの男に敵意はないと見た俺は、腰に差した刀に伸びていた手を引く。

警戒は解かないが無用に相手を刺激する趣味はない。山本元柳斎重國ほどの男であるのなら、なおさらに。

 

「で?俺に何の用だ?さっきいった通り俺は引きこもりで、その上人見知りだから、あまり親しくない奴と話し過ぎると声が震え出すんだ。用事があるならさっさといってくれ」

 

「結構。儂も先程申した通り、暇じゃない。貴様がそういうのなら、変な前置きは必要ないの。簡潔に言おう。風守よ、儂と共に来い」

 

曰く最強の死神が。曰く正義の死神が。阿片窟(とうげんきょう)の門番なんていう端的に言って屑の様な役割を担い生きる俺に何の用なのか、ある程度の興味はあった。

しかし、俺は俺に用があるといった男のその言葉を反芻し、吟味した後、鼻で笑う。

 

「”共に来い”だと?」

 

「ああ、そうじゃ。ふん、そう笑いを堪えた顔をするな。貴様は儂のことを知っているようじゃが、儂が何をしようとしているかは知らんじゃろう。知りもしないものを笑うのはあまりに愚かな行為じゃろうが」

 

「確かに、俺は引きこもりで人見知りの上に口下手だからな、お前の名前くらいは噂で聞いたことはあるが、そこまでだ。瀞霊廷なんて都会の話は全く耳に入ってこないよ?で?なんで俺を引き入れようとするんだ?」

 

「”護廷十三隊”。それを築く為、貴様にも協力してほしいのじゃよ」

 

「”護廷十三隊”?」

 

「瀞霊廷に新しく出来る組織の名前じゃ。長次郎、儂の右腕が名付けた。良き名じゃろう。古来より良き名は体を表すもの。文字通り、瀞霊廷を守る十三の部隊じゃよ」

 

「なあ、山本重國。あんたは確か、『元流』の開祖として『元字塾』とか言う洒落にならないくらい規模の私塾を開いていただろ。それなのに新たな組織?十三の部隊?なんでそんな面倒なことする。瀞霊廷を牛耳りたいなら、その元から持ってる組織を使えばいいだろ」

 

――いや、それ以前に山本元柳斎重國。この男なら、あるいはただ一人で尸魂界すら支配できるのはないか――

 

噂に聞くだけじゃなく、こうして対峙することで俺の脳裏にそんな冗談にも聞こえる考えが脳裏によぎる。ただただ恐ろしいと感じる。刀を交えることもなく、そんな考えをこの俺に感じさせる、この男を、ただ恐ろしいと感じてしまう。

そして溢れる疑問は留まることを知らない。

何故、そんな男が俺如きの力を借りたいという?

 

「儂が十三の部隊での新組織を立ち上げるのは、儂に足りぬものを補う為じゃ」

 

「お前に足りないもの?そんなもの、あるのか?」

 

「有り余るほどにはのう。儂は十三の部隊にそれぞれ隊花を掲げ特色を持たせようと考えておる」

 

掲げる隊花はその部隊のあり方と山本元柳斎重國が必要だと思う思考の差異を表す。

 

一番隊には菊―真実と潔白を重んじる心を―。

二番隊には翁草―何も求めぬ殉教を―。

三番隊には金盞花―絶望を忘れぬ強さを―。

四番隊には竜胆―悲しむ彼方を愛しむ抱擁を―。

五番隊には馬酔木―犠牲を恐れぬ清純な愛を―。

六番隊には椿―高潔な理性を―。

七番隊には菖蒲―簡潔な勇気を―。

八番隊には極楽鳥花―全てを手に入れるという意思を―。

九番隊には白罌粟―只管な忘却を―。

十番隊には水仙―神秘とエゴイズムを―。

十一番隊には鋸草―戦いを―。

十二番隊には薊―厳格な復讐と独立を―。

十三番隊には待雪草―希望を―。

 

相反する理想を孕んだ十三の隊花。確かにその全てが組織において必要だというのなら、山本元柳斎重國というただ一人の男では全然足りない。

しかし、それは本当にすべてが必要だというのなら、だ。

 

「くっ、ははっ、はっはっは!」

 

俺はもう溢れる声を抑えることは出来なかった。山本元柳斎重國の口から語られたモノのなんと荒唐無稽なことかと俺は笑う。

 

「山本重國。お前はあれだ、馬鹿だろう?なあ、おい。そうなのだろう!潔白と真実を掲げながら神秘とエゴイズムを持ち?何も求めない殉教を抱きながら全てを手に入れるという意思を確固に?絶望を忘れぬ強さと只管な忘却を忘れず?悲しむ彼方を抱擁した腕で戦いを望み?清純な愛と厳格な復讐を両立させ?理性と勇気を持った希望を抱く者になる?そんなものは夢物語だと、誰もお前には言ってくれなかったのか?」

 

腹を抱えて大笑する俺に山本重國は面喰った様子もなく、どころか合わせくっくっと重く笑った。

 

「然り。夢よ。儂はこの年になり、ようやく夢見ることが出来るほどになれた。そして、そんな夢物語が現実のものとなるからこそ、儂が築かんとする”護廷十三隊”は今までにないほどの強大な力を持って強固な秩序を瀞霊廷に布こう。千年先ですら絶えること亡き死神が組織し死神を運用する最大最強最古の組織。それが、”護廷十三隊”」

 

「―――」

 

その瞬間の俺の感情の揺れ幅は惚れたという言葉が適切だったが、そうは言わない。俺は引きこもりで人見知りで口下手だが、髭面の爺さんに惚れるような変態じゃないからだ。

だから、これが酔いなのだと俺は思った。阿片の毒ですら酔い痴れることのできない俺はこの瞬間、生まれて初めて酔った。

”護廷十三隊”。なんと甘美な毒だ。その毒素の大きさに俺の頭蓋は腐敗し中身は蕩けてしまうことだろう。

 

「………なるほどな、母よ。同郷の者たちよ。これが、阿片(ゆめ)か。確かに、あまりにひどい。人にあらがえるものじゃない。阿片窟(すべて)を忘れ溺れたくなる。が、しかし、しかしだ。山本重國!」

 

俺は刀を抜き、切っ先を山本元柳斎重國に向ける。怒りはない。無論、侮蔑もない。あるいは羨望すら抱いている。手に収まる刀が示すのはきっと俺の矜持で悲鳴の様な感情だった。

 

「俺は”風守”。阿片窟(とうげんきょう)の門番だ。その役割を捨てて。おいそれとお前に続くことは出来ない。故、本気で俺の力が欲しいのなら、奪い取れよ」

 

「儂が貴様に勝てば、貴様は”護廷十三隊”の為に生きると?」

 

「無論だ。敗者に理屈はなく勝者にも理屈はいらない。それが80地区。無法な『口縄(ここ)』の只唯一の法」

 

「ならば、よかろう。征くぞ、小童」

 

刀を構えろ。切っ先を交えろ。刀を握ったその時からこの結末のみが真実だ。

相容れぬ故に斬ろう。相容れるが故に斬ろう。何時の世も我を通すのは勝者のみ。

相手に不足はなく。だからこそ最初から全力で斬ろう。

 

――証明してみろ。山本元柳斎重國。お前の振りまくその阿片(ゆめ)が、風に吹かれて消えるものでないことを――

 

「万象一切灰燼と化せ『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』」

 

「痴れた音色を聞かせてくれ『鴻鈞道人(こうきんどうじん)』」

 


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