BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい   作:白白明け

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知らない間に原作が終了したらしい・・・(´・ω・`)
自分はまだ日番谷君が日番谷さんに成った辺りまでしか読んでないんだが…
コミックを買いに行かなければ‼(; ・`д・´)


雀は出会う

 

 

 

 

ある日の昼。四畳半の畳の上に座布団を枕に寝転ぶ俺に掛けられたのは、砕蜂のこんな言葉だった。

 

「髪を切れ」

 

「はあ」

 

「はあ。ではない。私は貴様の髪が視界に入るのが鬱陶しいと言っている」

 

寝転ぶ俺を見下ろす形で腕を組む砕蜂。何故だか砕蜂の眼光は剣呑だった。

 

砕蜂を見上げる俺の眼に掛かる前髪。視界を狭める長さのそれは、確かに砕蜂の言う通り(いささ)か伸びすぎている。

切れと言われれば切ることに抵抗はない。元々、俺は髪などには無頓着。卯ノ花烈の様に髪型に拘りがある訳でもない。ただ在るがままに伸ばしていただけだ。

 

「わかった。切ろう。だが、自分で切るには自信がない。頼めるか、砕蜂」

 

「ああ。鏡台の前に座れ」

 

砕蜂がままに鏡台の前に座布団を運びそこに座る。

砕蜂はテキパキと髪を切る準備を始めていた。

俺は髪を切る。

 

「取りあえず私とお前が出会った頃位の長さにするぞ。それでも大分長いが…良いな」

 

「良い良い。お前に任せよう」

 

砕蜂の手と鋏が俺の髪に触れる。砕蜂は微塵の迷いも無く髪に鋏を入れると無遠慮ともいえる潔さで鋏を入れ始めた。

 

「馴れているな。誰ぞの髪でも切った経験があるのか?」

 

「無い。初めてだ」

 

「そうか。それにしては潔い手際だ」

 

「所詮は貴様如きの髪。失敗しても私は困らん」

 

口角を一ミリも上げることなくそう言い切る砕蜂に俺は善哉善哉と笑ってみせる。

 

「そうかそうか。万事をお前に任せよう」

 

俺の言葉に砕蜂が舌打ちするのを聞きながら、俺は視線を鏡台の鏡へと映した。

そこには黒髪短髪の少女と白髪痩身の男が映っていた。

言うまでもなくそれは砕蜂と俺。鏡越しに目が合った砕蜂の「何だ」との問いかけに何でもないと答え、俺は鏡に映る俺に視線を向けた。

 

似てきているなと、そんな言葉が脳裏に浮かぶ。

そして、久しぶりに会いに行ってみるかなんて考えが浮かんだ。

 

「…砕蜂。少し寝るがいいか?」

 

「ああ、構わん。終わったら起こしてやる」

 

砕蜂の優しさに甘えながら、俺は思考の海へと埋没していく。

 

 

刃禅(じんぜん)』と呼ばれる形がある。

斬魄刀を膝に置いて座禅を組むその形は斬魄刀と対話をする為に尸魂界の開闢(かいびゃく)から何千年という時間を掛けて編み出された形。

斬魄刀を扱うものなら誰でも知っている基礎と言っていい形での修練によって大概の死神は斬魄刀との対話に至る。

どれだけ才能がない死神であろうと『刃禅』を何十年と続けていれば斬魄刀との対話に至り始解までなら扱えるようになるだろうと昔に山本元柳斎重國が言っていた。

かの男がそういう以上はそうなのだろう。そしてそれは言うまでもなく素晴らしいこと。

故に俺には『刃禅』という修練に対する嫌な感情は欠片もない。

在るのは只、なぜ面倒な形で斬魄刀の思考へと埋没していかなければならないのだろうかという疑問だけ。

 

『刃禅』など組まずとも斬魄刀との対話に至る門は開かれているではないかと疑問を投げかけた俺に対して在りし日の山本元柳斎重國は黒々とした髭を撫でながら、呆れたようにいった。

 

---貴様は、否、貴様の斬魄刀は特別じゃ。と。

 

後に長次郎との酒の席に会話によって俺は山本元柳斎重國の言葉の意味を知った。

長次郎が斬魄刀との対話に至り始解を収めた修練の道。そして卍解を修得するまでの苦難の道程を聞けばなるほど、俺は、否、俺の持つ斬魄刀は特別に過ぎた。

あるいは別種と呼んでもいいのかもしれない。

 

何故なら俺は阿片窟(とうげんきょう)に生まれて数年。曰く正義の死神が阿片(ゆめ)に溺れて残した斬魄刀を幼心に決意を抱き持った日の夜に斬魄刀の名を知り始解どころか卍解にまで至っていたのだから。

 

 

斬魄刀の思考に埋没していく。

 

赤。緑。青。原色を基調とした古風な宮殿に俺はいた。

人一人の個性など容易く埋没するだろう色彩と広さを誇る宮殿に存在するのは二人の男。

佇む俺と、玉座に腰を掛ける黒衣を纏った白髪痩身の男。

 

見据える俺に、男は愛しむような混濁した視線を浮かべながら善哉善哉と笑ってみせる。

 

『お前は、救われたいのだろう』

 

斬魄刀『鴻鈞道人』。

俺が腰に差す愛刀が具象化した姿は俺と瓜二つだった。

似ている。いや、似ているのではない。俺が似てきたというだけの事。

俺がまだ童であった頃。阿片窟(とうげんきょう)で初めてであったその時から、『鴻鈞道人』は変わらずこの姿であった。

故に似てきたのは俺の方。成長と共に俺が『鴻鈞道人』に近づいている。

そして、それが示す意味は明確だ。

いずれ俺は---

 

 

「終わったぞ」

 

砕蜂の言葉で俺の思考は現実へと引き戻される。

鏡に映るのは髪を切られ、『鴻鈞道人』の姿から少し遠退いた白髪痩身の男。

 

「…」

 

「…なんだ。どうした。私が切った髪の仕上がりに文句でもあるのか?あるなら言ってみろ。聞いてはやらんがな」

 

「…いや、ないよ。砕蜂、ありがとう」

 

「ふん。なんだ貴様。嫌に素直で気色悪いな」

 

 

 

 

 

 

ある日の夜。四畳半一間の部屋。卓袱台に置かれた夕食のメザシと白米を平らげながら、砕蜂はテレビの画面に映る内容に鋭い眼差しを向けていた。

 

「………新商品のキャットフードか…」

 

時折漏れる呟きに反応することはせずに俺は沢庵(たくあん)を齧る。

平々凡々と続く日々。俺はほうじ茶を啜りながら流れる雲を見上げるだけの時間に安寧を感じていた

しかし、それが長くは続かないことはわかっていた。

昨日、ある出会いがあった。

取り止めもない出来事にも思えるそれは、しかし、かつてただの『風守』であった頃に起こった大きな二つの出会いに勝るとも劣らない結果を齎すことを俺は知っている。

俺がそう思うのだ。俺の中ではそうなのだ。

 

安寧は終わり。時間は進む。時計の針は頂点に達した。

 

そして、一人の青年の物語が始まる。

 

---霊圧の変動。産声の様な揺らぎは、現世において起こる筈もないもの。

 

「…っ!?」

 

砕蜂が立ち上がる。俺でも知覚することの出来たそれを刑軍統括軍団長であった砕蜂が感じ取れない訳がなかった。

今にも部屋を飛び出そうと立ち上がる砕蜂の肩を掴み、俺は砕蜂を制す。

 

「待て、砕蜂」

 

「待てだと?貴様、いま何が起きたか分からぬ訳ではあるまい!霊圧の変革。あれは、人の霊圧が死神の霊圧に変わったのだぞ!それはつまり」

 

「”死神の力を人間に渡すことは重罪だ”。お前の言いたいことはわかるよ。だが、俺たちはもうそれを取り締まれる立場にいないだろう」

 

「だからと言って、野放しにする気か。見損なったぞ。死神の力が人間に渡ったということは、力を失った死神がいるということだぞ!」

 

他が為に。誰かもわからない死神の危機に憤慨する砕蜂を見て、俺の心が熱くならない訳が無かった。

やはり俺の目に曇りはなく。砕蜂は俺の護廷十三隊(このユメ)を大切に思ってくれている優しい奴だった。

 

「愛い奴だ」

 

漏れた言葉に偽りはなく。

 

「お前は、そんなに俺が好きなのだな」

 

心からの愛情をもって俺は砕蜂を抱きしめていた。

細い腰に腕を回し、反対の手で砕蜂の頭を自分の胸に押し付ける。

 

唐突な接触にフリーズする砕蜂。動き出したのは少し後のことだった。

 

「な、なにを!?このような時に‼いや、離せ馬鹿者‼」

 

「愛い愛い。照れるな」

 

「照れてなどいない‼不快だから、離れろと言っているのだ‼」

 

「俺がお前の嫌がることをする訳がないだろう。何時(いつ)如何(いか)なる時も、俺はお前の幸せを願っているのだぞ?」

 

「貴様は何を言って--「案ずるな。お前の願いは、ようやく叶う」--貴様、何か知っているのか?」

 

腕の中で暴れていた砕蜂の動きが止まる。

俺は砕蜂の首筋に顔を埋めながら囁くように笑った。

 

「”おそらくこうなる”と、聞いていた。浦原喜助の神算鬼謀。千の先を読む目の神髄を見た気分だ。百十年前、浦原喜助ら魂魄消失事件の犯人に仕立て上げ、俺たちを『尸魂界(ソウルソサイティ)』から追いやった黒幕を暴く為に、一人の人間が成るべくして死神になった」

 

「…ふん。またあの男の計略か。気に喰わんな。貴様は何時も、私の知らない所であの男と通じている」

 

拗ねたようにそう言う砕蜂に返す言葉が俺には無い。

砕蜂の知らない所で俺は浦原喜助と密談を重ねている。

指摘された問題点は事実で言い訳のしようもない。

だから、せめてと俺は言葉をつづける。

 

「待たせて悪かった。一緒に汚名を(そそ)ごう。砕蜂、お前は優しい奴だ。俺の護廷十三隊(大切なユメ)の為に語尾を荒げて怒ってくれた。俺と共に時を待ち過ごしてくれた。故に次は俺がお前の為に動こう。砕蜂、俺はお前の為に何をすればいい」

 

砕蜂の信頼への裏切りを言葉で返そうなどとは思わない。

だから、

 

「お前の望みを聞かせてくれよ」

 

俺の問いかけに対する砕蜂の言葉はまさしく彼女らしい凛々しく強さに満ちた言葉だった。

 

「…貴様は、強い。私はそれを認めている。だから、戦え」

 

続く言葉に俺の胸は熱くなる。その熱さは愛情ではない。

歳の離れた少女へと向ける親心の様な愛情ではない。

 

「どういう形であれ、私たちが再び『尸魂界(ソウルソサイティ)』に戻る時は必ず戦いになるだろう。私たちの前に立ちはだかるのは護廷十三隊の隊長だ。総隊長殿すら敵として立つのだろう。私とて、他の隊長格に後れを取るつもりはない。だが、総隊長殿だけは別だ。あの御方だけは、格が違う。あの御方が最強だ。だから、だから、風穴。貴様が戦え」

 

---私の為ではない。

 

「護廷が為に貴様が戦え」

 

「---」

 

抱きしめた砕蜂の身体から滲み出す様な温もりは”愛情”ではなかった。

無論、卯ノ花烈にのみ向けるべき”愛”でもなかった。

俺はこの時、歳の離れた眼の前の小さな少女に”恋”をしたのだろうと、そう思った。

 

 

 

 

 

 

始まりは復讐が理由だった。

 

『追放罪・浦原喜助の逃亡幇助(ほうじょ)及び、その露見を恐れての失踪。それにより隠密機動総司令官職及び刑軍統括軍団長職から四楓院夜一を永久除籍する』

 

神の如くに敬愛した主君に裏切られたのだと思っていた頃の砕蜂が風守風穴に近づいたのは復讐の為だった。

護廷十三隊特機・『特別派遣遠外圏制圧部隊隊長』。護廷十三隊に属しながら数字を持たず、遠征に続く遠征を繰り返し、『尸魂界』は元より現世でに遠征任務、果ては『虚園(ウェコムンド)』までに赴き任務を遂行し続けた実績は間違えのないもの。

遠征に置いてなら他の追随を許さない実力を考えれば、浦原喜助と共に現世に逃げたと思われる四楓院夜一の行方をいち早く見つけるかもしれないのは、隠密機動を率いる砕蜂自身を抜けば、風守風穴だった。

 

だから、砕蜂は風守風穴に近づいた。

友好的な関係を築き有事の際には融通の利く相手にしたかった。

だから、ある日の瀞霊廷で、あまり高くないコミュニケーション能力を用いて砕蜂は風守風穴に声を掛けた。

 

『おい。貴様。ちょっと面を貸せ』

 

『ん。良いぞ。善哉善哉』

 

そうして誘った茶屋から砕蜂と風守風穴の関係は始まった。

 

始まりは復讐だった。

作り上げた関係も全て復讐の為のもの。交わす会話も全て復讐の為のものでしかない。

だというのに--

 

『じゃあ、これで話は終わりだな。どうだ砕蜂。久しぶりに呑みに行かないか?』

 

『俺は今回の件にお前を巻き込んで悪かったと思っている。だが同時に、お前でよかったとも思っている』

 

風守風穴は笑うのだ。常に浮かべているヘラヘラとした薄ら笑いをより深いモノにして楽しそうに笑う。

 

その笑みを見る度に---

 

「私は!私はどうすればいいのでしょうか!夜一様‼」

 

そう叫びながら酒の入っていたジョッキをテーブルに叩き付ける砕蜂。

唐突な大声に目立ってしまったかと周りを気にする四楓院夜一だったが、しかし、此処は現世の大衆酒場。砕蜂の様に取り乱す者は珍しくないのだろう。周りの人々は一度、何事かと目を向けたが、直ぐに視線を元の場所に戻していた。

 

「はぁぁあ。砕蜂。おぬし、ちょっと呑み過ぎじゃぞ」

 

「最初は復讐だったのです。最後まで復讐だった筈なのです。なのに、なのに夜一様は夜一様で復讐なんて意味がないなら私のこの感情は一体どういうことなのですか!どうして私が夜一様には似てもいないあんな白くて大きな男に‼」

 

「わかった。わかったからもう飲むな。酒を置け。まったく、どうしてなどと儂に聞かれてものぅ。喜助は何かとあの男と通じておる様じゃが、儂はあの男が好かん。じゃから、儂から言えることなんてあまりない。が、まあ、一つだけ言っておこうかのぅ。砕蜂。よく聞け」

 

「はい。夜一様‼」

 

「あの男は既婚者じゃから止めておけ」

 

 

 

 

 


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