BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい   作:白白明け

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―逃げても良いぞ―
―直ぐに捕えて殺すがな―

山本総隊長が格好良すぎた。


最強との出会い②

燃えて逝く。皆、燃えて逝く。

 

「万象一切灰燼と化せ『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』」

 

『流刃若火』。炎熱系最強の斬魄刀。その名を俺は知っていた。80地区『口縄』なんて言う場所にさえ轟いていた『元流開祖』山本元柳斎重國という男と同じように、その刀の()は隠すには強大にすぎた。

刀を振るわれるまでもない。山本元柳斎重國から溢れ出る霊圧が熱を帯びている。圧倒的な熱量だ。山本元柳重國の視線一つで俺の身体は乾いていく。

血が。肉が。骨すらもが、水分を求めている。

 

――これが最強――

 

あまりに陳腐な二文字がこれほど重く圧し掛かる者は、きっと今後千年、現れることはないだろう。

 

「ああ、だから、こそ」

 

だからこそ、俺は笑わねばならないのだろう。感謝しなければならないのだろう。

こうして俺如きが最強に対峙できたことに、ではない。阿片に酔えぬ俺の身体は、戦いに酔える程に真面な作りはしていない。

俺が感謝すべき相手はこの手に握る刀。

 

俺の斬魄刀。『鴻鈞道人(こうきんどうじん)』。

 

「お前でよかった。俺が握るこの剣が、お前でなければ俺は此処で倒れていただろう」

 

かつて夢世の狭間で対峙した白髪痩身の男に感謝しながら、俺は山本元柳斎重國と対峙する。嬉々として立っている。

血が。肉が。骨すらもが悲鳴を上げている。乾いていくという単純な痛みは生命の悲鳴だ。

眼前の男を前に俺の身体は「刀を収めろ」「首を垂れろ」と悲鳴を上げて忠告してくる。

それは正しい物の見方で、その意見こそが俺の味方なのだろう。

太陽に勝てる者はいない。山本元柳斎重國の強さはそうして簡潔に言葉に出来る。

そして、言葉にしてしまえば、あまりに絶望的な力の差だ。

太陽を斬れる刀はない。太陽に届く刀もない。

そして、太陽に対峙できる者もまたいない。

故に「逃げろ」と叫ぶ俺の身体は、例えるなら俺を案じる母の愛の様に疑わず受け入れるべき忠告で、その忠告を、生命の危機という無視できるはずもない危険信号を掻き消す何かがなければ、山本元柳斎重國と対峙することも出来ない。

死を恐れぬ感情。それは、あるいは勇気で、また怒気で、もしくは祈りだ。

それがなければ戦えない。しかし、俺はそれ全てを持たずに山本元柳斎重國と対峙する。

死への恐怖を忘れさせてくれるほど上等な感情を、俺は此処に至ってもまだ持ちえない。

 

物心ついた時から阿片窟(ここ)に居た。端的に屑と言っていい生まれ。泥水を啜り、死肉を喰らい、真っ当な人間なら三日と耐えられない環境で生きてきた。皆が阿片に狂っているからこそ生きていられる環境で、数百年の時を数えてきた。

そんな俺は狂ってはいないが、どこか壊れているのだろう。

自覚出来ない自我の自壊に悩み苦しみもした幼き頃の俺は、この刀に出会った。

阿片窟(とうげんきょう)の存在を許せぬと語った曰く正義の死神が、阿片に溺れた末に死して残していった斬魄刀。

それを握った瞬間、俺は『鴻鈞道人』と出会った

白髪を適当に束ねた黒衣を纏う痩身の男は笑うように言った。

 

――救ってやろう。おまえのすべてを。ああ、おれは皆が幸せになればいいと願っている――

 

瞬間、俺はきっと救われたのだろう。壊れた自我への苦しみは消え、ただ存在を許されたのだという心地良さだけが俺の四肢を蝕んだ。

 

「痴れた音色を聞かせてくれ『鴻鈞道人(こうきんどうじん)』」

 

斬魄刀の力の解放・始解と共に現れる俺の『鴻鈞道人』の変化は少ない。斬魄刀の見た目の変化は乏しく、切っ先に四連の小さな穴が開くだけ。故に今まで『鴻鈞道人』の始解を見た誰もが、驚き、あるいは落胆の表情を浮かべていた。こんなものが始解で有る筈もないと罵声を浴びせる者もいた。

 

しかし、山本元柳斎重國は今までの誰とも違い、ただの一瞬も視線を『鴻鈞道人』から外すことがなかった。

 

「…油断も隙も無しか。遣り難いな。相手が舐めて掛かってくる、それもこの『鴻鈞道人』の能力の一つともいえる利点なんだけどな」

 

「言ったろうが、知りもしないものを笑うのはあまりに愚かな行為じゃと。それに貴様は今、儂の『流刃若火』の前にそうして平然として立っておる。それだけで貴様の力量が並外れていること位、解っとるわい」

 

「平然となんて、買い被りもいい処だ。『鴻鈞道人』がなきゃ、俺は今頃、倒れている。血が焼ける痛みを。肉が乾く痛みを。骨が溶ける痛みを感じながら戦える程、俺は強くない。引きこもりで人見知りで口下手な俺が最強の死神であるお前と対等に渡り合えるとか、売れない小説みたいな設定、あるわけないだろ」

 

「ふむ。ならばなぜ、貴様は『流刃若火』の熱量を前に立っておられる。その汗を見る限り、痛みを感じぬという訳でもなかろう」

 

「ああ、痛いよ。痛くて泣きそうだ。けれど、俺の『鴻鈞道人』はそんな痛みも、忘れさせる」

 

『鴻鈞道人』の切っ先から空いた穴から、桃色の煙が噴き出す。それを吸い込む度、俺の身体から痛みが消えていく。恐怖が薄れていく。

 

「その桃色の煙、阿片の毒か?なるほどのう。貴様の斬魄刀は阿片の毒を作り出す能力があるのか。阿片窟の門番として、似合いの能力という訳か」

 

「違う」

 

「ほう、違うのか?」

 

「違う。ああ、言ってなかったな。俺には阿片の毒への耐性があるんだ。だから、『鴻鈞道人』が生みだす此れがただの阿片の毒なら、俺には何の効果もない」

 

「ならば、その切っ先から立ち上る煙はなんじゃ?」

 

「さあ、自分で確かめてみたらどうだ?山本重國!」

 

叫びで鼓舞し、俺は太陽に挑んだ。

山本元柳斎重國。お前がいかに最強であろうと、『鴻鈞道人』の切っ先を少しでもその身体に埋めれば終わる。それが『鴻鈞道人』の能力。

この煙は阿片の毒ではないといったな。あれは嘘だ。

お前の言う通り、『鴻鈞道人』が作り出すのは阿片の毒だ。ただしその濃度は阿片窟(とうげんきょう)から立ち上る物の比じゃない。阿片毒への耐性を持つ俺の身体すらをも酔わせて痛みを忘れさせるほどのもの。それをただの死神が喰らえば、容易く正気を失い絶頂の内に果てるだろう。

 

「さあ!どうする山本重國!!お前の『流刃若火』の熱量は俺の『鴻鈞道人』が凌駕した!お前はこの『鴻鈞道人』の煙をいったいどうやって――」

 

刹那、一振り。

 

立ち上る炎の悉くを切り捨て、無視しながら太陽に挑んだ俺を山本重國は一振りで阻む。

『鴻鈞道人』から立ち上る阿片の煙はただその一振りで焼き果てた。

 

「―――なん、だと?」

 

阿片の煙は焼き尽くされ風に運ばれて空に溶けていく。

あまりにも呆気ないそれを目で追いながら、天を見上げた俺の阿呆の様な顔に対して山本元柳斎重國はそれを笑うことなく『流刃若火』の切っ先を俺の喉に付きつけた。

 

「その煙がなんであるかはわからんが、太陽に焼けぬものはない。貴様の負けじゃ。”風守”」

 

眼の前にある太陽に目が焼ける。噴き出す汗は俺の命を削っているように感じた。

『鴻鈞道人』の能力の悉くを『流刃若火』は凌駕していた。明確過ぎる敗北だった。

眼の前に付きつけられた敗北に刀を置くことに否はない。元から、敵わないということはわかっていた。

 

―しかし―

 

「だから、なんだというのか」

 

喉元に付きつけられた『流刃若火』の切っ先を『鴻鈞道人』で払い距離を取る。

一息の内に取った十畳の距離に何の意味もないことは、理解していた。

『流刃若火』の炎はこの距離を一瞬で詰めることができるだろう。

俺の命はいまだ、山本元柳斎重國の領域の中にある。敗北の恐怖を拭う事は出来ず、熱はまだ喉元を過ぎてはいないから忘れることは出来ない。

 

―それでもなお―

 

「痴れろよ『鴻鈞道人』」

 

俺の声と共に『鴻鈞道人』から立ち上る桃色は俺の幸せの色だ。溢れる阿片の毒素は残酷すぎる程に平等に辺り一面の全ての者を桃源郷の夢へと誘う。

並の相手で有ればこの煙を一息吸っただけで終わるだろう。

並の相手で、あったなら。相手が、山本元柳斎重國という男でなかったなら。

 

―俺は信じているんだ―

 

「無駄じゃよ。幾らその煙を振りまいたところで、儂の『流刃若火』の炎はその悉くを焼き払う。儂に煙が届くことはない」

 

「わかっている。山本重國。夢に縋らぬ強いお前に、桃源郷の夢は通じない。しかし、それでもなお、俺は確かに信じているんだ」

 

 

 

理屈はない。

 

 

『流刃若火』に対して距離を取ることにきっと意味はない。刀を振るった軌道から生み出される炎は一里先の敵すら焼くだろう。その威力は脅威だ。

しかし、『流刃若火』の最も恐ろしい点は言うまでもなくその刀身に秘められた熱量。

近づくだけで血が乾き、肉が焼け、骨が解けるほどの熱量に他ならないだろう。

だからこそ、接近戦こそが死地。太陽の外園を回ることはそれこそ惑星級の強度がなければできない。

 

 

 

故に理屈ではない。

 

 

 

俺は一息の内に取った距離を一拍の内に詰めて山本元柳斎重國に突っ込んだ。

『鴻鈞道人』の切っ先を相手の丹田に向けながら、桃色の煙を振りまきながらの狂気じみた特攻を前に、山本元柳斎重國の表情が戦いの中で初めて驚愕に彩られた。

 

「狂ったか、”風守”」

 

俺の特攻に対し山本元柳斎重國がとった構えは上段の構え。天の構えとも称されるそれは剣道において最も攻撃的な構えとされる防御無視、後手必殺の戦型。

特攻に対する必殺。ぶつかり合うのみの殴り合いなら、あとは互いの攻撃力が勝負を決める。

そうなれば俺に勝機がないことは明らか。炎熱系最強の斬魄刀である『流刃若火』は同時に最強の攻撃力を持つ斬魄刀でもある。対し、俺の『鴻鈞道人』は阿片の毒を生み出すという凶悪な能力を持ってはいるが死神たちの定義に当てはめるなら鬼道系に定義されるだろう斬魄刀。刃の強度こそ『流刃若火』と打ち合わせても問題ないほどの堅さを誇るが、総合的な攻撃力で言えば『流刃若火』の足元にも及ばない。

敗北は必至。それをもって俺を狂ったと断じる山本元柳斎重國に対して俺はただ、口元を釣り上げ嗤った。

 

「狂ってなど、いない。俺はただ信じているんだ」

 

「信じておる?何を」

 

振り下ろされる『流刃若火』の速度は眼で追えるギリギリの速さ。故に邂逅は一瞬。

その一瞬の間の会話で互いが互いの言っている言葉の意味を理解できたのは、たぶん、偶然だった。

 

「俺も、お前も!誰もが!平等に!阿片(ゆめ)を見る権利があるのだと!そして、諦めなければ阿片(ゆめ)は必ず届くのだと!」

 

――『鴻鈞道人』阿片強度最大――

 

人皆(ひとみな)七竅(しちきょう)()りて、()って視聴食息(しちょうしょくしょう)す。()(ひと)()ること()し」

 

――広がれ万仙の陣――

 

辺りに噴き出す阿片の毒の強度は天井知らずに上がっていく。

そして、一瞬の邂逅は終わった。

俺の特攻と山本元柳斎重國の必殺の交差は互いに切っ先が外れるという形で終わる。

その結果に驚愕したのは山本元柳斎重國。

 

「なん…じゃと…」

 

『元流開祖』の男の剣が外れる。防がれたのなら、納得できた。避けられたのなら、まだわかる。しかし、”外れた”。それが意味することは山本元柳斎重國の身体に異変が起きたということだ。

事実は一つ。

阿片の毒が山本元柳斎重國の身体を狂わせた。

 

『鴻鈞道人』の桃色の煙は『流刃若火』を凌駕した。

 

そして、勝敗は決した。

互いに満身創痍と言っていい。山本元柳斎重國は阿片に毒され自由に動かない身体を何とか動かすがバランスを崩して膝を付いていた。そして、俺は髪を焦がし皮膚を焼き全身を煤だらけにしながら地面に大の字に倒れていた。

最大出力の『鴻鈞道人』の阿片の毒といえど、『流刃若火』が相手では近づかなければ山本元柳斎重國を毒することが出来なかった。そして、『流刃若火』に近づきすぎた俺は全身に火傷を負った。

勝敗は一目でわかる形で決着する。

勝者である山本元柳斎重國は勝ったというのに苦々し気に口を開く。

 

「………”風守”よ。なにが、貴様を此処までにした。貴様が語る夢とはなんじゃ?儂の『流刃若火』を越えるほどの、夢とはなんなのじゃ」

 

「くっ、はは、ユメとはなにか?それがわかれば、俺も苦労はしないさ。こうして捨て身でお前に挑むなんて真似も、しなくてすんだんだ」

 

「どういう意味じゃ?」

 

「山本重國。俺は、俺はずっと、阿片(ゆめ)を見たかった。阿片窟(とうげんきょう)にありながら、阿片(ゆめ)に狂えぬ俺は、ずっとそう願っていた。阿片に酔わぬこの身体。母がくれたこの強靭な身体には、心から感謝している。しかし、それとは別に俺は心底、母や同郷の者たちが持つ阿片(ゆめ)に狂える身体に焦がれていた。いや、なに、そう難しいことじゃない。言葉にしてしまえば簡単だ」

 

 

 

「俺はただ、皆と同じがよかった」

 

 

 

「仲間外れは嫌だった。特別、などと言葉を付けて仲間外れになんて、して欲しくなかったというだけなんだろうよ。しかし、しかしだ。山本重國。『元流開祖』。曰く正義の死神。曰く最強の死神。お前なら、わかるだろう。どれだけ言葉で否定した所で、どれだけ俺が嫌がった所で、世に特別な人間というものは存在する」

 

俺がそうであるように。お前がそうであるように。

 

「俺でなければ阿片窟(とうげんきょう)を数百年間守り続けるなんて真似は出来なかっただろう。阿片という毒が自然発生するこの洞窟を狙う奴らはそれこそ星の数ほどいて、諍いは日常茶飯事。二束三文の安さで起こっていた。あるいはお前でなければ尸魂界を守る為に瀞霊廷に”護廷十三隊”なんて言う組織を作ろうなどと、俺の様な”悪”までその為に利用しようなどとは、考えもしなかっただろう」

 

俺は特別だった。お前も特別だった。

 

「だから、ただ俺は確かめてみたかった。知りたかった。なあ、山本重國。俺はお前と共に歩めば、夢を見られるのだろうか。(おまえ)と同じで在れるのだろうか」

 

――俺の特別過ぎるこのチカラを俺は恐れず眠れるのだろうか――

 

「……………ふん、世間知らずの小童が。何を言うかと思えば、下らぬ」

 

俺の言葉にそう返して山本元柳斎重國は立ち上がった。阿片の毒から解放されるのが早すぎると驚愕する俺に背を向けて山本元柳斎重國は嘲笑うように言う。

 

「確か、貴様は引きこもりじゃったな。だから、世間の広さを知らんのじゃ。戯けが。貴様如きが特別じゃと?冗談にしても笑えぬ。貴様程度の者なら、儂はあと十一人は知っておる」

 

「………十一人」

 

「そうじゃ。そして、儂と貴様を合わせれば、十三人もおるではないか」

 

 

”護廷十三隊”。

 

 

生まれてから数百年。

俺は、生まれて初めて夢を見た。

 

 




「なん…だと…」。
これほどまで万能性溢れる台詞はそうないとおもいます。
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