BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい   作:白白明け

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取りあえず原作の最初の方の巻を読み返しました。
なんだかんだ、やっぱりブリーチは面白い漫画です。


人間との出会い方①

 

 

『風守さんには暫くの間、静観をお願いしたいと思っているんスけど、良いでしょうか?』

 

浦原商店で出された麦茶を啜りながらした浦原喜助との約束を破る気など俺には無かった。

浦原喜助の神算鬼謀は本物だ。頭脳という一点で見るのなら、最強と称してもいいと思えるほどに浦原喜助の計画性と先見性には目を見張るものがあると俺は思う。

その男が立てた計画の邪魔をする気など俺には無く、故に空座町の各地で起き始めている霊圧の異常と(ホロウ)の出現を前に動かずにいた。

そのことに対して不満を漏らす砕蜂を宥めながら過ごす日々が一カ月ほど過ぎた頃、浦原喜助との約束を破る気など更々(さらさら)ない俺にして事への介入を考える事態が起きた。

 

異常を感じたのはある日の昼下がり。憎らしくも懐かしい匂いが空座町の空に漂った。

 

「…この匂い。滅却師(クインシー)の対(ホロウ)用の撒き餌か」

 

滅却師(クインシー)。人間で有りながら死神の理とか違うやり方で(ホロウ)と戦う力を身に着けた者達。

虚と戦うことのできる稀有な人間達。

そして、その力故に俺達死神が千年前に滅ぼした種族。

あと百年も待たずに根絶するだろうという数まで種を減らされた滅却師の生き残りがこの空座町に居ることは知っていた。

時折、滅却師のチカラを使い虚を滅却(ころ)していたことも知っていた。

それでもそれを放置していたのは、ある日に遠目から見た若い滅却師の姿が理知的で合理的な判断ができる様に見えたから。

現にその若い滅却師は今日まで死神が介入しない頻度と程度でチカラを使っていた。

 

そんな彼が周囲の魂魄と人間に被害を及ぼす影響があるかもしれない滅却師の対虚用の撒き餌を使用した。

 

はて、どうしたかと考えて、俺は一人納得した。

 

「ああ、そうかそうか。若い滅却師。お前も黒崎一護に()てられたのだな。善哉善哉。責めはしないさ」

 

黒崎一護は俺にして特別だと言わざる得ない人間だ。

若い滅却師が彼と関わり変わってしまったとしても責めようがない。

 

「風守‼」

 

移動骨董品店『風鈴』。荷車を引きながら商売をする俺の店の手伝いで客の呼び込みに出ていた砕蜂が慌てた様子で戻ってきた。

 

「ああ、分かっている。流石にこれは静観できんよ。浦原喜助には悪いが、少し動こう。いいな、砕蜂」

 

「ふん、当然だ。元より私はあんな男の指示に従うなど嫌だったのだ。夜一様と貴様がどうしてもと言うから従っていたに過ぎん」

 

「ああ、分かっているとも。お前の気持ちを俺はより良く理解している。…(ホロウ)の反応が強いのは西と北か。確か商店街と高等学校とかいう学び舎がある場所だな。人の集まる場所だ。万一があるかもしれない。二手に分かれよう。砕蜂は商店街の方を頼む」

 

「ああ、わかった」

 

「無茶はするなよ」

 

「ふん、私が撒き餌に釣られる虚如きに後れを取ると思っているのか」

 

俺の心配に不服そうな表情を浮かべる砕蜂。

俺はそうじゃないと首を振る。

 

「深い介入はするなという意味だ。浦原喜助は俺達を黒崎一護と関わらせることを嫌っていた。おそらくこの事態、黒崎一護も動いているのだろう。鉢合わせした時は、無茶するなという意味だ」

 

俺の言葉に砕蜂は更に表情を歪め嫌悪感を(あらわ)にした。

 

「ふん、この状況でもまだあの男の言葉を気に掛けるか。貴様は随分と浦原喜助が好きなのだな」

 

そう言い捨てて踵を返し去っていく砕蜂。俺はなぜあんなに不機嫌になっているのだろうと首を傾げるが、頭に答えは浮かんでこなかった。

 

それなら仕方がないと俺は朝から砕蜂に言おうと思っていたことを伝えるために砕蜂の背に声を掛けた。

 

「それと砕蜂」

 

「なんだ?まだ私に用があるのか」

 

「朝から思っていたんだが…頭の黄色い三角頭巾と、その黒いエプロン。店の手伝いの為に用意してくれたのだろう?似合っているぞ。普段と違う装いの砕蜂は、やはり愛いな」

 

「っ‼………ふん」

 

振り返った顔を赤くして何も言わずに去っていった砕蜂を愛い愛いと見送って俺もまた高等学校とやらへ急ぎ向かって行く。

 

 

 

 

 

 

駆ける中で遠目から見えた光景は何も珍しいものじゃ無かった。

 

『空座第一高等学校』。そんな看板の掲げられた建物の窓硝子が割れていた。

広い校庭には崩れ落ちる大勢の人間たちの姿と(タコ)のような外見をした一匹の虚の姿。

珍しい光景じゃなかった。チカラを持たない人間が虚に蹂躙される。弱肉強食とでもいうべき光景は珍しいものではない。

顔から正気を無くした人間たちが一人の少女に襲い掛かる。おそらく人間を操ることが蛸のような外見の虚の能力なのだろう。

襲われる少女を守る為に戦っている少女がいた。「織姫は私が守る」と吠える姿は珍しいものじゃなかった。

力ある者が力のないものを守る。慣れ親しんだ光景は俺の胸を打つことは無く、鼓動は平常。

故に駆ける足の速度は変わらず後数十秒で『空座第一高等学校』の校庭に到着する事実に変わりはない。辿り着いたら蛸のような外見の虚をその場に居る人間たちの目にも止まらぬ速さで斬り、その場を後にしようという決心は揺るがない。

 

特別なものなど何もない光景。特別な者など誰もいない場面はだからこそ、()()()()

当たり前なことだった。

 

---しかし、次の瞬間に当たり前はいとも容易く霧散した。

 

少女を守っていた少女が倒れた。

少女の為に戦っていた少女の身体に虚の種子の様なモノが撃ち込まれる。

おそらくあれが虚の能力を行使する為の手段。

それはつまり、少女の為に戦っていた少女の身体の支配権が虚に移ったということだった。

 

少女を守る為に振るわれていた少女の拳が蹴りが、少女に振るわれる。

 

屈辱だった筈だ。後悔だった筈だ。侮辱であり辱めであった筈だ。苦しみであり悲しみだった。

ああ、と俺はその見慣れた光景に泣きそうになる。操られた少女の目から零れた涙につられて憐憫(れんびん)の情があふれ出す

 

---苦しみ嘆く可哀想な人間達。そんなに苦しいのなら。そんなに悲しいのなら。俺が、救ってやろう。俺にお前たちの幸せを、心の底から願わせてくれ。

 

一匹の雑魚虚などに始解をする気など俺には勿論なかった。

しかし、少女たちを救うために『鴻鈞道人』を解放しようと口が銘を呼びかける。

『鴻鈞道人』の刃は一太刀の元に虚を斬り、そして『鴻鈞道人』から漏れ出す阿片の煙は一呼吸の内に少女たちを桃源郷の夢へと誘うだろう。

少女が守り。少女は守られる。少女たちは悲しかった妄想(げんじつ)も苦しかった妄想(げんじつ)も忘れて、変わることのない甘く優しい現実(ユメ)の中で閉じて逝ける。

 

---それを救いと呼ばずに何と呼ぶのか。

---なあ、少女。いや、久しぶりだ。織姫。

---あの時と同じように、お前は俺に救われたいのだろう。

 

「痴れた音色を聞かせてくれよ『鴻鈞---」

 

救いたかった。守ってやりたかった。弱い人間を。可哀想な人間を。

しかし、その願いは叶うことなく。紡ごうとした斬魄刀の解放は俺の意思で停止する。

 

 

---ありがとう。たつきちゃん。ありがとう。ありがとう。

---だから、泣かないで。泣かないで。

 

   「こんどはわたしがたつきちゃんを守るから」

 

 

 

「---」

 

井上織姫の言葉に言葉を失う。守られていた筈の井上織姫の手は守る為に守ってくていた少女の顔へと伸ばされていた。

 

「なん…だと…」

 

衝撃は大きく俺の憐憫(れんびん)の情など容易く飛び越え顔に笑みが浮かぶ。

緩む口元を抑えることなど出来なかった。

この光景を前に「言うだけだ」「何もできない」などとは言わせない。

事実、井上織姫は守ってくれていた少女の心と誇りを守り救っている。

 

「ああ、そうか」

 

漏れる言葉は一息の内に。四肢に漲る霊力は秒と掛からず俺の身体を『空座第一高等学校』の校庭へと運んでいた。

 

「井上織姫」

 

「え…は、はい」

 

人間の視界で捕えることなど出来ない俺の歩法。井上織姫には俺が突如として現れたように見えたのだろう。驚き呆然とする井上織姫に俺は笑いかけるように言う。

 

「今のお前に、俺の救いは要らぬのだな。善哉善哉。俺は悲しいが、それはきっと良きことなのだろう」

 

井上織姫の姿。五年ほど前に出会った少女の姿は少し成長を遂げていた。

井上織姫は俺の事を忘れてしまっているのだろう。初対面の者を見る眼で俺を捕えていた。それにあの時とは違い義骸ではなく死神装束を俺は纏っている。覚えているとして結び付けられないことに無理はない。

思い出せないならそれでいいと、俺は静かに笑い要件を済ませようと蛸のような外見の虚の方を向く。

 

「あんた…死神かい」

 

「ああ、死神だ」

 

「そうかい。そうなのかい。………ク、ク、ク」

 

苦しむように声を漏らす虚。死神に出会い斬られることを恐れたのかとも思ったが、虚の漏らす声が徐々に嗜虐性を強めていった。

 

「ク、ク、ク、クキャ、キャハハハ‼ワタシはついてるね‼死神が現れた‼けどね、ワタシにはこんなにも肉壁があるんだよ‼」

 

そう言って虚は周りに倒れていた操っている人間たちを立ち上がらせると盾にでもするように自分の前に配置する。

その中には井上織姫を守る為に戦っていた少女の身体もあった。

 

「たつきちゃん‼」

 

「キャハハハ‼人間を虚から守るのが死神の役目だろう‼こうすれば、あんたは手も足も出せない‼さあ!見せてちょうだい!ワタシも見るのは初めてだよ‼死神が成す術もなく人間に殺される姿をさ‼」

 

「…縛道の九”(げき)”」

 

詠唱を破棄し放たれた鬼道の赤い光が操られていた人間達の身体を縛り動きを封じる。

 

「なア!?」

 

人間達の支配権を失い慌てふためく虚に俺が興味を向けることはもう無い。

俺は虚の言葉を無視しながら井上織姫を守っていた少女の顔に手を伸ばす。

左の額に埋め込まれた虚の種子。傷を作り流す血で手が汚れるのを気にせず傷口を見る。

 

「む、無駄だよ。死神‼その種子はその女の神経にまで達している‼無理に引き抜こうとすれば--

 

「大した傷じゃないな」

 

霊力で額に打ち込まれていた種子を焼き消し傷口を回道(かいどう)で癒していく。

 

「安心しろ。井上織姫。この少女も、周りの人間も俺が傷跡も残さず癒してやろう。なに、安心しろ。俺は昔、医療機関の長だったこともある。治療なら、まあ、現役には及ばないだろうが、それなりに出来る」

 

---だから、もう周りは気にしなくていい。

 

「井上織姫」

 

「は、はい」

 

「この少女は、お前が守り救うのだろう?」

 

「…はい‼」

 

「なら、任せた。お前たちに」

 

「私達?」

 

「…気づいていないのか?お前の周りに飛んでいる者達のことだ」

 

井上織姫が少女を守る為に立ち上がった時から、井上織姫を守る等に飛んでいた彼らの存在を伝えれば、井上織姫は不思議そうに首を傾げた。

 

「…?なにこれ?」

 

「…本当に気づいていなかったのか?」

 

呆れた俺に言葉を返してきたのは井上織姫ではなく井上織姫が見出したチカラ達だった。

 

『いや、気づいているよ。気づいていた筈だよ。キミは僕達の存在に』

 

「…しゃべってる…………?」

 

『だって、ぼくたちはいつも、キミの一番近くにいたんだから。よろしく織姫さん。ぼくらは”盾舜六花(しゅんしゅんりっか)”。キミを「守る」ために生まれたんだ。キミの能力(チカラ)さ‼』

 

 

俺はこの日、人間の可能性を見た。

 

 

 


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