BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい   作:白白明け

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雷の速度は光速の三分の一らしい。
音速の五百倍とどっちが速いのだろうか?


蜂と花の出会い③

 

 

 

 

穿(うが)て『厳霊丸(ごんりょうまる)』」

 

懐かしい声を聴きながら(ほとばし)稲光(いなびかり)に息をのむ。護廷十三隊一番隊副隊長、長次郎の斬魄刀は現存する数の極めて少ない(いかずち)系の斬魄刀。

刀を振るうまでもなく霊圧によって生み出されている斬魄刀を包む電流が長次郎の強さを如実に物語っていた。

 

戦わない副隊長。いつの日からか長次郎がそう呼ばれていたことは知っていた。

戦闘に参加せず山本元柳斎重國と護廷十三隊全体のサポートに廻る長次郎を見て、侮る隊士がいたことも知っている。

だが、それはあまりに愚かなことだ。戦わぬから弱いのか?

二千年間。二十世紀を山本元柳斎重國の隣で戦い続けた男が弱いのか?

---否。そんな筈がない。故に--俺は---

 

「痴れた音色を聞かせてくれよ--

 

始解を終える前に脇腹に風穴(かざあな)を開けられていた。

長次郎の『厳霊丸』の刃が右の脇腹に突き刺さり漏れ出す紫電(しでん)が肉と臓腑を焦がす。

 

---がぁっ!?っっ、『鴻鈞道人(こうきんどうじん)』」

 

俺は零れる苦痛を噛み殺しながら何とか『鴻鈞道人』の始解を終える。漏れ出す阿片の煙が辺りを包むが、長次郎は阿片に飲まれる前に距離を取った。

それでもなお纏わりつく阿片の煙を『厳霊丸』に帯電する電気で焼き消しながら黒目の無い鋭い眼光で俺を睨む。

 

「…風守。後悔はしているか?」

 

「…しているさ。お前と戦うとわかっていながら、最初から始解していなかった自分の愚かしさを後悔している。長次郎。俺はお前が好きだが、やはりお前の斬魄刀は嫌いだ」

 

雷は嫌いだ。あれは力の塊だから。

雷鳴は空気の壁を越えた証。その速さは桁外れ。雷の速度は150km/s。狙撃銃の150倍は速い。衝撃波と共に落ちる光は巨岩を砕く威力を持つ。加え防いだ所で防いだ箇所から流れてくる電流が次の防御への反応を鈍らせる。

古来の人間達はその自然現象を恐れ称え祀り上げ。

---神鳴(かみなり)と呼んだ。

 

「知っているか、長次郎。最近の現世ではお前の様な力を持つ者のことをチート野郎と呼んで嫌うんだ」

 

「ちーと?そうか。初めて聞いた。私の斬魄刀(チカラ)を人間達は嫌うのか。ならば、人間達を前にした時は全力で戦わないことにしよう。死神とは生と死の境界を守る者。無暗矢鱈と嫌われる訳にはいかない」

 

相変わらず生真面目だと呆れながら俺は長次郎へと『鴻鈞道人』の切っ先を向ける。右脇腹の傷は深い。皮を焼き肉を削ぎ骨を削り貫通している。だが、出血はない。刃と共に貫通した雷が傷の断面を焼き止血をしてくれた。

不幸中の幸いだと嗤い『鴻鈞道人』に霊力を込める。

 

長次郎。雀部長次郎は強い。俺の知る限り今の護廷十三隊で卯ノ花と正面から戦える死神は山本元柳斎重國を除けば長次郎だけだ。雷系という強力な斬魄刀。そしてニ千年以上の時を掛けて研ぎ澄まされた戦闘技術。帯電した刃を振るう長次郎を接近戦で破るのは難しい。

本来なら、『厳霊丸』の解放が完全なモノになる前に不意を突き一撃で決めていなければならなかった。しかし、それが出来ず、どころか始解の不意を突かれる形で傷を負った今の状況は言うまでもなく最悪だ。

故に次に俺が打つ一手は起死回生の一手でなければならない。

不意は付けなかった。付け入る隙が長次郎には無い。

ならば、俺が取る手段は一つ。

 

奇を(てら)うな。王道でいい。王道がいい。

 

「『鴻鈞道人』。俺はお前に、助けられてばかりだな」

 

斬魄刀から伝わる鼓動。俺は脳裏に桃園の煙に沈んだ玉座で微睡ながら嗤う白痴の男の姿を見た。

 

「盤上不敗の一手と行こう」

 

―-『鴻鈞道人』阿片強度最大。阿片生成範囲拡大。--

 

人皆(ひとみな)七竅(しちきょう)()りて、()って視聴食息(しちょうそくしょく)す。()(ひと)()ること()し」

 

--広がれ万仙の陣--

 

『鴻鈞道人』から生成される阿片の濃度が天井知らずに上がっていく。周囲を瞬時に充満させるほどの量の阿片の煙は長次郎が俺に近づくことを妨げる鉄壁の守りとなった。

いくら『厳霊丸』によって生み出される電撃で阿片の煙を焼き消せるとしても、焼き消せる煙の量は炎熱系斬魄刀には遠く及ばない。精々自分の周囲に漂う煙を消せる程度。

 

「その程度なら、ああ、物量で押し切ろう」

 

『鴻鈞道人』から阿片の煙が溢れ出す。霞み始めた視界の中で距離を取り俺を睨みつける長次郎に対して、俺は微笑みを携えたまま問いかける。

 

「長次郎、後悔しているか?俺を前に一人で立ったことを」

 

「…」

 

喋る間にも『鴻鈞道人』から生成される阿片の煙は止まることは無い。

時期に瀞霊廷の一角が阿片に沈むだろう。

 

「確かに長次郎の狙いは正しい。俺の斬魄刀『鴻鈞道人』の弱点は鬼道系の斬魄刀だ。阿片の煙は炎で焼き消され、雷で焼き切られ、風に流され、氷で凍らさせ、水に溶かされる。故に『鴻鈞道人』は鬼道系の斬魄刀を前にした時、真価を発揮することは出来ないだろう」

 

逆に直接攻撃系の斬魄刀が相手なら、相手は『鴻鈞道人』を前に近づくことも出来ないだろう。

『鴻鈞道人』は最強の斬魄刀ではない。故に得手不得手は存在する。

 

「だが、伊達に『鴻鈞道人』が最悪などと呼ばれてはいないことを、長次郎なら知っているだろう」

 

最悪と呼ばれる由縁。

『鴻鈞道人』の能力は阿片という常人からすれば凶悪な猛毒(すくい)を生成すること。そして、最悪(・・)なのは解放してしまえば、その猛毒(すくい)が俺の意思と関係なく生成され続けるということ。

濃度の調整は出来る。生成量の増減も可能。だが、止めることは俺にもできない。

 

「焼き消されるのなら。焼き切られるのなら。流されるのなら。凍らされるのなら。溶かされるのなら。それを上回るだけの阿片(ユメ)を見ればいいだけだろう‼」

 

「濡らせ『厳霊丸』‼」

 

長次郎の解号と共に『厳霊丸』の雷撃を強化する雨雲が長次郎の周囲に生成された。

 

「無駄だ‼いくら『厳霊丸』と言えど『鴻鈞道人』の生成速度には及ばない。桃園の阿片(ユメ)に沈んでしまえよ‼雀部(ささきべ)長次郎(ちょうじろう)忠息(ただおき)‼お前への幸福を願わせてくれ‼」

 

『鴻鈞道人』に霊力を込める。既に万仙陣は回っている。遍く全てを包む優しさが世界を包み、優しい世界が完成する。

『厳霊丸』が阿片の煙を焼き切れるとしても、もはやどうしようもない量の阿片が充満する。

 

「質量が違えば相性などに意味はない。焼け石に垂らす水が大海であるなら、石は沈むだろう。これで終わりだ。長次郎。ここは通してもらう」

 

勝った。

 

「----卍解----」

 

勝った。----その核心は長次郎の一言で消し飛んだ。

 

「なん…だと…」

 

長次郎の口から零れた言葉に俺は耳を疑った。馬鹿なという思いが止まらない。

冗談だろうと長次郎に目を向けるが、長次郎の鋭い眼光が本気だと告げていた。

あの長次郎がこんな瀞霊廷の真ん中で卍解なんてする筈がないと俺は考えていた。長次郎の卍解は強力だ。そのあまりの強さ故に長次郎は自ら己の卍解を封じてきた。

二千年という気の遠くなる時間、封じてきた筈だ。そんなものを瀞霊廷で解放するなんて。

 

「ば、馬鹿か!長次郎‼こんな所で卍解を解放すれば辺り一面壊滅するぞ‼お前‼瀞霊廷を壊す気か!?」

 

「瀞霊廷を阿片漬けにしたお前が言うな‼」

 

「うぐっ」

 

言葉に詰まる。正論だった。

 

「元柳斎殿が動けない以上、最早周囲の阿片を消し去るにはこれしかないのだ‼私とて取りたい手段ではない。だが、せねばなるまい」

 

「ま、待て長次郎‼『鴻鈞道人』を解除するから考え直せ‼流石にお前の卍解は俺でも拙いぞ!?」

 

「もう遅い‼」

 

長次郎は斬魄刀の切っ先を天に向けて吠えた。

 

「卍解-―『黄煌厳霊離宮(こうこうごんりょうりきゅう)』」

 

長次郎の卍解と共に曇天の空が来る。雷鳴を轟かせる積乱雲が天を覆う。

天候を支配するほどのチカラ、天相従臨(てんそうじゅうりん)が発動した。

天に向けられた切っ先から放たれた雷撃が上空で霊子の塊を形成。紫電を纏った巨大な霊子の塊は上部に一条のアンテナを伸ばし空を覆う積乱雲から雷のエネルギーを吸収し始める。そして吸収したエネルギーを解放するため下部に十一条の雷の帯が伸びてくる。

これで雷系最強の斬魄刀『黄煌厳霊離宮(こうこうごんりょうりきゅう)』が完成する。

あとはもう長次郎の手掌(しゅしょう)の動きに合わせて落雷が降り注ぐ。

 

「風守、終わりだ。牢に入り元柳斎殿からの沙汰を待て」

 

そして、雷鳴が轟いた。落雷は周囲に充満していた阿片の毒を消し去りながら俺の身を包んだ。

 

「がぁあああああ!?」

 

「…やはり一撃で落ちぬか。恨むなよ、風守。恨むなら己が身体の精強さを恨め‼」

 

二撃。三撃。長次郎が手掌を振る度に爆音と共に天から(いかずち)が落ちてくる。

一撃が既に必殺の威力。並の死神が受けたなら骨も残さず砕かれるだろう。それが連続して俺の身体を襲う。

 

「ぐぁあがぁあぁ!?」

 

避けようともがくがそれも叶わない。攻撃を喰らう度に身体に付与される麻痺で四肢が動かなくなる。いや、たとえ動いたとしても『黄煌厳霊離宮(こうこうごんりょうりきゅう)』の雷撃速度は光速の三分の一。避け切れる速度ではない。

 

四撃。膝が折れ両手を大地に着く。四つん這いという無様な有様の俺に五撃目の落雷が直撃する。

 

「あぁあがぁあぁ!?」

 

六撃目。皮膚が焼かれ肉が絶たれた。

七撃目。骨が砕かれ炭化する。

そして、最早死に体の俺に留めの一撃が降ってくる。

 

「終わりだ。風守。--

 

最後の落雷。八撃目のソレは千の落雷を束ねた極太の(いかずち)

 

-―『厳霊離宮(ごんりょうりきゅう)八命陣(はちみょうじん)』」

 

(イクサ)の幕引きは千の(イノリ)となって顕現した。

 

「----ぁぁ」

 

「…やはりお前は強いな。『八命陣』を受けて尚、死なぬのか」

 

死に体の俺に掛けられる長次郎の言葉は勝利への余韻と言った嬉しさを一切感じさせることは無い声色でどこか悲し気ですらあった。

 

「風守。お前の裏切りに対して、元柳斎殿はお怒りだ。元柳斎殿は私にお前を生きたまま連れてこいと命じられた。そして、それは勿論、元柳斎殿が自らの手でお前を処刑する為だ」

 

長次郎の言葉に宿る長次郎なりの優しさを俺が感じ取れない訳が無い。

長次郎は最初から俺を殺す気で戦っていた。山本元柳斎重國に俺を殺させない為に。

 

「炎熱地獄の苦しみを知るお前にそれはあまりに酷だ。だから私の卍解を持ってせめて痛みを感じる暇もなく殺してやろうとも思ったのだが、私ではお前を殺しきることが出来なかった。すまないな、風守」

 

「----ぁ」

 

長次郎の言葉に言葉を返す力がでない。既に死に体。身体の半分以上が炭化している。意識を保っているのが不思議なくらいの重傷だ。もし最後の落雷の直前、『鴻鈞道人』の阿片で身体を痴れさせ痛みを感じない様にしていなければ、激痛でショック死していただろう。

 

いや、もうそんな思考すら無意味だ。俺は長次郎に敗北した。卍解を前に手も足も出ずに負けたのだ。

不甲斐ない限りの結果を前に最早微笑むことすら出来はしない。すまないと謝ることすら恥ずかしくて出来ないほどの無様さ。涙を流す生気が残っていれば俺は泣きじゃくっていただろう。

 

---ここで終わりか。

 

俺に朽木ルキアは救えなかった。

 

 

 

 

 

 

「諦めるのですか」

 

 

 

 

 

 

「---っ」

 

聞こえてきた声に最早鼓動するのも億劫だと動きを止めかけていた俺の心臓が跳ねた。

 

「諦めてしまうのですか」

 

花の様に甘い香りと共に聞こえてきたその声は俺の心臓を跳ねさせる。まるで初心な生娘にでもなったかのような感覚。聞こえてくる声にドキドキとしている。

嗚呼(ああ)、これは不味い。俺をこんなにもドキドキさせる彼女を前に晒す無様程に心臓を抉ることがあるだろうか。

立ち上がれるか?否、立たなければならない。

 

「---ぐぅ」

 

四肢に力を込める。

 

「---がぁ!?」

 

「っ!?よせ‼無理に動けばいくらお前でも本当に死ぬぞ‼」

 

四肢から漏れる黒く固まった血が漏れることに構うこともなく俺は立ち上がる。

動く。動く。動く。もとより痛みは無かった。折れかけていた心は彼女の声でよみがえった。なら、立ち上がれぬ筈がない。傷とは気構(きがま)えに負うもの。俺が立ち上がれると思うのならば立てるだろう。他ならない俺がそう思うのなら俺の中ではそうなのだ。

 

「---ふ、はは」

 

そして、立ち上がれば、やはり目の前には卯ノ花が立っていた。

 

数年ぶりにみる卯ノ花は何も変わっていなかった。黒く艶のある髪を胸の前で束ね、凛々しい顔で俺を見る。

そして、優し気に微笑みながら俺に声を掛ける。

 

「久しぶりですね。風守さん」

 

「…ああ…卯ノ花…どうして…此処に?」

 

「雀部副隊長に貴方の居場所を伝えたのは私ですから」

 

「俺の…居場所が…わかるのか…?」

 

「ええ、随分前に貴方の腹を開き『技術開発局』製の発信機を埋め込みました。ですので貴方の様子は私に筒抜けなのですよ」

 

「…発信機?」

 

「はい」

 

花の咲くような笑顔でそう言う卯ノ花は美しかった。卯ノ花の後ろで何やら長次郎が引き攣った顔をしているが、どうしたのだろうか疑問が浮かぶ。

いや、今はそんな疑問はどうでもいい。俺の身体に発信機を埋め込んだという卯ノ花に俺は言葉を返さなきゃならない。精一杯の笑みを浮かべて。

 

「そうか。お前はそんなに俺が好きなのだな。愛い愛い。俺は嬉しいぞ」

 

「ええ、私は貴方を愛しています」

 

「俺もだ卯ノ花。お前を前にするとこんなにも胸がドキドキする」

 

息が出来ないほど激しい動悸の中で俺は半ば炭化した手で卯ノ花の頬に触れる。

卯ノ花はそれを受け入れる。そして、数秒の後に俺の頭を抱きかかえるように胸に押し当てた。

 

「風守さん。お疲れ様でした。少し休んでいてください」

 

「………ああ」

 

こうして俺は捕らわれた。

 

 

 

 

「………風守、お前は吊り橋効果という言葉を知っているか?」

 

気を失う寸前、長次郎のそんな声を聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 





( ゚Д゚)優しい世界の完成だ!
(^◇^)イラッ―-卍解--
(´・ω・`)


---さて、雀部副隊長を大活躍させるぜ!って書いてたら、大変なことになったぞ。
  どうするか…



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