BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい   作:白白明け

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ダクソ3のDLC第二弾が出たぜ!とか思っていたら、気が付けば一カ月が過ぎていました
いや~堪能しましたね(^^)/





伝説との出会い

---尸魂界に弓を引いた大罪人藍染惣右介等の掃討に向けて組織される第百次遠征部隊。

その出立の時期に目途が立った。

頼りない俺に代わり第百次遠征部隊の副隊長を務める事となった市丸ギンの采配により準備は滞りなく終わり、俺達は来月には『虚圏(ウェコムンド)』へと向かう。

果てに得るべき首は三つだと、山本元柳斎重國はそう言った。

 

藍染惣右介。

東仙要。

雛森桃。

 

護廷十三隊の隊長格でありながら、尸魂界に弓を引いた者達。

彼らの顔を思いうかべる度に、俺は思う。---彼らの罪科を問う権利など、俺にはないのだと。

 

---否。俺だけではない。尸魂界史上最悪の大罪人と呼ばれた卯ノ花烈や血も涙もない冷血漢であった山本元柳斎重國。果ては苛烈なまでの忠義を持った烈士である長次郎にも、彼らを裁く権利などないのだ。

無論、それは人を裁く権利は誰にもないだとか、そんなつまらない倫理を捏ね繰り回した曰く正論などではなく、ただ単純に俺の身勝手な感情の問題。

 

多くの者を傷つけた。

多くの命を奪ってやった。

誰かが大切にしていたものを踏みにじり、自分の価値観を押し付けてやった。

 

藍染惣右介が行ったこと。そんなことは、俺達だってやってきた。

千年前。そうしなければ勝てない戦いがあった。

千年前。そうしなければ生きられない時代があった。

 

時代が違うと言えばそれまでだ。だが、時代が人殺しを英雄に変えるとするのなら、俺にはやはり藍染惣右介達を心底憎む気になどなれない。

故に俺は---嗚呼(ああ)と笑う。

 

俺は救いたいのだ。彼らの事を。愛したいのだ。掛け値も無しに。

痴れた音色を聞かせて欲しい。

だからこそ---俺は剣を握る。

 

斬魄刀『鴻鈞道人』。それが齎す結末こそが、誰も涙を零すことなどない終わり方だと信じるが故に。

 

---大団円(ハッピーエンド)が俺は大好きなんだ。

 

 

 

酒場の席で大真面目にそんなことを言ってのける風守風穴を前にして、護廷十三隊二番隊隊長に復職した砕蜂は息を飲んだ。

杯に注がれた清酒を飲み干しながら、内心に浮かんだ「この馬鹿はなにをいっているのだ」という言葉を飲み込んで、呆れたようにため息をつく。言うまでもないことだが、藍染惣右介達が行ったことは許されることじゃない。

死神の虚化という禁忌の為に流魂街にて死神として守るべきモノである魂魄を材料に実験を繰り返し、はては同胞である死神すらも手に掛けた。

百年前には九名もの隊長格の死神という大きすぎる犠牲を出し、その罪科を浦原喜助や握菱(つかびし)鉄裁(てっさい)、そして砕蜂が何よりも敬愛する四楓院夜一に被せた。

許される行いではないし、許してはいけないと砕蜂は思っている。

そして、それは護廷十三隊の総意でもある。

 

藍染惣右介一派を討つべし。

 

それに異を唱えるものなどいない。ただ二人、雛森桃の離反は藍染惣右介の策略だという意見を崩さなかった日番谷冬獅郎と友であった東仙要が裏切ったと知り、話を聞きたいと言っていた狛村左陣は藍染惣右介以外の二人を討伐ではなく捕縛すべきと訴えたが、その訴えも山本元柳斎重國の鶴の一声により掻き消えた

 

誰しもが藍染惣右介を断罪されて然るべき悪だと言う。

 

「………だというのに、なぜ貴様は藍染を救いたいなどと言う」

 

砕蜂の至極真っ当な質問に、風守風穴はニヘラと笑って答えた。

 

「無論、護廷が為だ。惣右介は次の総隊長になれる器であると、俺はそう思っている」

 

「ふざけるな。裏切者が総隊長に相応しいだと?それは我ら護廷十三隊全体に対する侮辱と言っていい。戯言を抜かすにしても、もう少し考えて物を言え」

 

「愛い愛い。お前は怒っている顔も可愛らしいな」

 

「ふざけるなと言っている!大体貴様は、なぜ怒らない!貴様があれだけ大切にしてきた護廷十三隊と言う組織を愚弄されたのだぞ‼」

 

語尾を荒げる砕蜂だが、風守風穴はヘラヘラとした笑みを絶やすことなく言葉を紡ぐ。

混濁した眼で人間賛歌を謡いながら、それでも尚と説いていく。

 

「確かに惣右介は許されないことをした。護廷十三隊を、俺が唯一夢見ることの出来たモノを傷つけた。それは大罪だ。惣右介は許されざる者なのだろう。だが、こうも思う。それだけのことを遣って退けた者をただ斬るのは惜しいと、な」

 

---要は俺の我が儘なんだ。そう言って笑う風守風穴に砕蜂は付き合いきれないと吐き捨てる。

 

「貴様は…いつもそうだ。私には理解出来ないことをいう」

 

「愛い愛い。そんなにお前は俺を理解したいのか?お前は心底、俺のことが好きなのだな」

 

「………ふん」

 

相も変わらずふざけた男だと吐き捨てながら、それでも砕蜂は風守風穴から目を反らすことだけはしなかった。

 

---わかっていたことだ。この男がこういう奴だということは。

 

友誼に熱く。情に絆され易い。しかし、理解し難い倫理を持ち常に愛を語る。阿片という曰く仙丹の妙薬を振りまくことで万人が幸せになれると心の底から信じている阿呆。

誰に言われるまでもなく理解などするべきではない生粋の狂人。

 

---そんなことは、わかっている。私は理解してなお、それでもこの男を。

 

---この男の背に英雄(ユメ)を見たのだ。

 

砕蜂が風守風穴と共に現世で過ごしていた時に呼んだ書物の一説にこんな文章があった。

---英雄足らんと志した時、その者はもう英雄ではないのだと。

砕蜂は全く持ってその通りだと思った。隠密機動という護廷十三隊の中でも暗部を司る組織の長であればこそ、その言葉の意味を深く理解できた気になった。

 

英雄とは傲慢であってはならない。英雄とは欲深くあってはならない。

---そんなことは、勿論ない。

傲慢であってこその英雄がいる。欲深きこそ英雄へと至れる。

流されるまま偉業を成し英雄へと至る者が居たとしても、砕蜂はそれを屑と断じよう。

少なくとも砕蜂が一番英雄的であると思う男は、千年前に護廷十三隊を築き上げた男は、傲慢であったし欲深き男であった。

世界を守ろうと傲慢であり、人々の安寧を欲深く願った。

世界を炎熱地獄へと(おと)しながらも秩序という灼熱の楔を世界に打ち込んだ。

---そして男は生涯、自らを英雄的であるなどと思うことは無いのだろう。

自ら望んで英雄になる者などいない。英雄とは望まれるが故に英雄足りえるのだと砕蜂は思う。

 

---ならば、この男は、この男こそがきっと英雄なのだ。

 

たとえそれが阿片に狂い正気を失った者達だったとしても。苦しみ嘆き傷つき怖れ悲嘆の底に沈んた者達を風守風穴は救った。

地獄のような苦しい世界を桃源郷へと変えてみせた。

たとえそれが夢幻(ゆめまぼろし)であったとしても、たとえそれが偽りであったとしても。

確かに風守風穴は人々の心を救った。

 

だからこそ、理解などされるべきではない英雄(クズ)をそれでも砕蜂は理解したいと思うのだ。

 

砕蜂の右手が酒場のテーブルをはさんで反対側に座る風守風穴の頬に伸びる。

唐突な砕蜂の行動を動じる事も無く受け入れる風守風穴に砕蜂は嬉しさと同時に危機管理意識の低さへの心配が浮かぶ。

 

---あの時、対峙した時、卯ノ花烈は私に言った。受け入れるだけの白痴の狂人に、理解できぬという感情を教えた自分はこの男にとっての唯一であるのだと。それは…認めなければならないことだ。

 

先駆者には(ほまれ)がある。後続には得られない栄達と言っていい。

しかし、だからと言って、二番煎じであるということなどは断じてない。

 

「風守。私は…隠密機動として、様々な暗部を見てきたつもりだ。貴様が齎す麻薬の類の害も益も理解している。だから私は、きっと貴様を理解できる筈なのだ」

 

「どうした?砕蜂?話が見えんぞ。麻薬だなんだと危ないことを言う。そんなモノより妙薬だろう。用立てて欲しいのなら、遠慮などせずに---

 

「私は待てと言っている」

 

---何を?」

 

「私が貴様を理解するまで、貴様は私を待て。千年など掛ける積りはない。きっとすぐに私は貴様を理解しよう。貴様を心の底から、愛してやる」

 

誰にも文句など言わせない程に砕蜂は風守風穴を理解する。そうすればきっと砕蜂もまた至れる筈なのだ。弱者(かぞく)の為に戦いなど嫌いなのに戦い続けた理解するべきではない人殺し(おとこ)を愛した、戦う為だけに戦い続けた人殺し(おんな)の様に、千年前に英雄と呼ばれた人殺し(かれら)の様に、風守風穴という狂人を受け入れられる狂人(おんな)に成れる筈なのだ。

 

手で自分の頬に触れる砕蜂を真っ直ぐと見つめる風守風穴は、砕蜂の瞳の底が淀んでいくのを見た。それは風守風穴が恋い焦がれた少女が穢れていく様に他ならなかった。

---なぜこんなことになっているのか?

そんな疑問を持つ者は風守風穴だけ。他の者は原因を理解している。

風守(かれ)』が悪い。動乱の中で風守風穴が諸悪の根源であると言った藍染惣右介の言葉には欠片の虚偽もない。

触れ合えば触れ合うだけ無自覚に、否、善意を以て汚してくからこそなお一等に性質が悪い。

阿片という毒を纏う死神は、ただそこに居るだけで諸人のあり方を歪めていく。

それを知るからこそ山本元柳斎重國がその性質を組織の力として利用することを選び、卯ノ花烈は自らを歪めうる存在に喚起し、兵主部一兵衛は彼を監視下に置きたいと思い、『霊王』は存在に興味を持った。

 

そして、自分に穢れていく少女を見ながら風守風穴は嗤う。

 

確かにこのままでは風守風穴が恋をした砕蜂という少女は変わっていくだろう。変わり果ててしまうかもしれない。

しかし、それでも風守風穴は言うだろう。お前がそれを望むのならば、善哉善哉。好きにしろ。在るがままを生きるがいい。そんなお前を風守風穴は愛してやれるのだと。

 

「砕蜂。俺はお前を、既に愛している」

 

例え砕蜂が変わり果てようとも風守風穴の恋が終わることは無い。

言葉に偽りを挟む余地も無いほどに凄惨に彼は確かに、恋をしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

空を見上げれば夜の帳しかない場所。そこに(そび)える白亜の宮殿。

虚圏(ウェコムンド)』に在る虚夜城(ラス・ノーチェス)と呼ばれる城に雛森桃は佇んでいた。ごくりと雛森桃の喉が唾を飲み込む。その様子を見れば誰もが彼女が陥っている危機と緊張を感じ取ることができるだろう。

そもそもが此処は『虚圏(ウェコムンド)』。(ホロウ)達の住まう世界。死神である彼女が此処に居れば、そこに居るからという理由だけで殺されても文句は言えない。

そんな場所で、雛森桃は---

 

「どうしよう…迷っちゃった…」

 

絶賛、迷子になっていた。

 

「どうしよう。藍染隊長に頼まれていた書類を早く届けなきゃいけないのに…うう、こんなことならさっき会った東仙隊長のお言葉に甘えて案内してもらえばよかったな」

 

手に持った書類を胸に抱き、道に迷うという子供の様な失態を犯してしまった自分の不甲斐なさに涙目になりながら、ウロウロと歩き回る雛森桃の姿はその小柄な体躯も合わさって子供の様だった。

瀞霊廷内であったなら、さぞ庇護欲を誘っただろう光景は、しかし、虚達の住まう世界である『虚圏』の虚夜城(ラス・ノーチェス)という場所では別の感情を喚起させる。

 

「おいおい、こんな所でペットが迷子になってやがる」

 

雛森桃の前に現れたのは左目に眼帯を付けた黒髪長髪の男。いや、性別こそ()であり人の形を保ってはいるが、その男は人間でも死神でもない。その男は(ホロウ)だった。それもただの(ホロウ)ではない。只の虚であったなら、仮にも雛森桃は副隊長格の死神だ。臆しこそすれ恐怖はしない。その男は中級大虚(アジューカス)。虚の中でも力を持った大虚(メノス)と呼ばれる者達の中でも最高位の下に位置するチカラを持った者。その戦闘能力は副隊長格の死神を圧倒すると言われている大虚は、しかし、本来なら此処まで人の形をした化け物ではなかった。人と見間違うほど人の形を保っていられる大虚は中級大虚(アジューカス)の更に上。大虚に置ける最高位。最上級大虚(ヴァストローデ)のみ。

ならば何故、この長身の男。ノイトラ・ジルガが人の形をしているのか。

その理由(わけ)は全て藍染惣右介という一人の天才にあった。

虚の被る仮面を砕き死神に類するチカラを与えるという外法。死神の虚化という藍染惣右介が研究してきた技術を逆のベクトルに応用することによって藍染惣右介は大虚達を破面(アランカル)と呼ばれる存在に昇華させた。

その技術力と元来持つ力によって藍染惣右介は死神の身でありながら虚達の住まう世界である『虚圏』を支配下に置いた。

多くの虚達は自らにチカラと自我を保つ術を与えてくれる藍染惣右介の存在に歓喜し忠誠を誓ったが、全ての者がそうで在る訳では勿論ない。藍染惣右介は(まつ)ろうべき神などでは断じてなく、一部の者達に忌々しい支配者でしかない。

 

そして、ノイトラ・ジルガにとって藍染惣右介はチカラをくれたことに感謝こそすれ、絶対の忠誠を誓うべきモノでなく。雄としての本能がいずれ越えろと叫ぶ強敵(かべ)でしかない。

 

そして、ノイトラ・ジルガにとっての雛森桃はそんな藍染惣右介の後をついて回るだけの愛玩動物(ペット)であるという認識でしかない。

だからこそ、それこそ子犬を蹴り飛ばす様な気軽さでノイトラ・ジルガは雛森桃に悪意を向ける。

 

「ノ、ノイトラ…さん…」

 

「おいおい、女。何時から、俺の名前を呼べるほどに偉くなったんだ?戦いもしねぇ、ペットの分際で」

 

「…っ」

 

雛森桃を見下ろすノイトラ・ジルガは愉快気に口元を歪ませる。小柄な雛森桃からすれば2mを超す長身のノイトラ・ジルガと向き合うだけで威圧を感じるだろう。見下ろされるという根源的な恐怖と彼が持つ凶暴な獣の様な感性を知るからこそ、雛森桃は恐怖する。

 

害意を隠すことも無いノイトラ・ジルガを普段であれば止めようとする彼の従属官(フラシオン)の姿は今は無い。無論、ノイトラ・ジルガとて本気で雛森桃を害そうなんて考えてはいない。そんなことをすれば流石に藍染惣右介が黙っているとは思えない。

僅かな期間だが藍染惣右介と接したノイトラ・ジルガには解る。藍染惣右介は少なくとも自分に好意を持つと言う理由だけで『虚圏』に女を連れてくるような男ではない。

ならばきっと雛森桃にもまた藍染惣右介なりの利用価値があるのだろう。

だから、殺そうとは思わない。しかし、手足の二本や三本なら、別に無くてもいいんだろう?とそんな安直な感想の元に女子供を殴れるほどには、ノイトラ・ジルガは人間的思考から言えば屑であり、そして真っ当な獣性を持った男だった。

 

だから、伸びた手を彼の従属官(フラシオン)の代わりに止めたのは鈴の様な涼し気な声だった。

 

「やめなさい。ノイトラ」

 

ノイトラ・ジルガの手がピタリと止まる。ノイトラ・ジルガは声のした方向を向いた後、忌々し気に相手の名を呼ぶ。

 

「…ネル」

 

山羊の頭蓋骨の様な仮面を頭に被る緑髪の美しい女性を前にノイトラ・ジルガの興味が雛森桃から完全に外れる。

ネルと呼ばれた者の名はネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク。ノイトラ・ジルガと同じく破面であり、()()()()()と藍染惣右介に格付けされた破面だった。

 

「はっ。良い所で現れるなぁ。同じ雌同士匂いで解るものなのか?」

 

「雄だ雌だと、相変わらず、どうでもいいことにご執心なのね」

 

「気に喰わねぇか?なら掛かって来いよ。俺に勝てると思うのならな」

 

「…呆れるわ。十刃(エスパーダ)に成っても子供なのね。それに、考えて物を喋りなさい。ノイトラ。第3十刃(わたし)第5十刃(あなた)よりも上よ。それに、あなたが傷つけようとしているのは雛森()()()()よ」

 

ネリエルの言葉にノイトラ・ジルガの意識が再び雛森桃の方を向く。自分に恐怖する雛森桃の姿を視界に収めた後、忌々し気に舌打ちをしながらノイトラ・ジルガはネリエルに食って掛かる。

 

「気に喰わねぇな。ああ、俺は気に喰わねぇ。ネル。テメェやティア・ハリベルみてぇな雌が(おれ)の上にいることも、戦いもしねぇペットが俺の上司であることも、気に喰わねぇ」

 

「文句ばかりを言う口ね。本当に、我が儘ばかり子供のようよ」

 

「気に喰わねぇものを飲み込まなきゃならねぇのが、テメェの言う大人なら、俺はテメェの言う子供で良いぜ」

 

そう笑いながら、ノイトラ・ジルガはいったん矛を収めることに決めた。ノイトラ・ジルガとて分かっている。今、この場でネリエルと戦えば、負けるのは自分であることは幾度もネリエルと争ってきたノイトラ・ジルガが一番理解している。それでも止まらぬ本能の赴くままに争うと決めたのがノイトラ・ジルガ。

しかし、(かつ)て出会った()()()()()の様に、本能を御して本能の赴くままに自己を完結させることの出来る力を身につけると決めたのもまたノイトラ・ジルガ。

 

戦い敗けるのは良いだろう。耐えがたい屈辱だが耐えてみせよう。戦いの最中に息絶えるのも構わない。だが、今の様に手を抜かる位なら、強くなって自分の力でぶち殺す。

真正面から粉砕するとノイトラ・ジルガは決めている。

---だから、嬉嬉として屈辱に塗れながらノイトラ・ジルガは矛を引いた。

 

 

立ち去ってくノイトラ・ジルガの背にため息を漏らしながら、ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク。ネリエルはノイトラに怯えていた雛森桃に声を掛ける。

 

「大丈夫?雛森副統括官さん」

 

「は、はい。ありがとうございました。ネリエルさん」

 

「いえ、いいのよ。それよりノイトラがごめんなさいね。彼はその、男尊女卑の人だから、あまり近寄らない方がいいわ。藍染様や東仙統括官にはあんな露骨な態度はとらないし、貴女が男だったら、もう少し風当りも優しかったと思うのだけれど…」

 

ネリエルの言葉に雛森桃はそれはどうしようもない仕方ないことですからと笑いを返す。

 

「それにノイトラさんの言っていることも間違いじゃありません。私は東仙隊長と違って藍染隊長のお役にあまり立てていませんから…そんな私が副統括官なんて不満を持つ方が出ても仕方のないことです」

 

雛森桃はそう言いながら、書類を握る手に力を込める。書類に皺が寄るのを見て、ネリエルの手は気が付けば雛森桃の頭へと伸びていた。

頭を撫でられながら、雛森桃は困惑の声を漏らす。

 

「ね、ネリエルさん?」

 

「ああ、ごめんなさいね。つい」

 

「ついって…私は子供じゃないんですよ」

 

「わかっているわ。少なくとも、貴女はノイトラよりずっと大人よ」

 

ネリエルはそう言って笑う。からかわれたと思った雛森桃は不機嫌そうに頬を膨らませる。狙ってやっているのではと思わずにはいられないその様子にネリエルの笑い声は一層大きくなる。

 

ネリエルは雛森桃を評価している。其処に嘘も偽りも無い。確かに雛森桃という死神は藍染惣右介や東仙要と言った死神と比べれば戦闘能力は格段に下だろう。ネリエルやノイトラと言った十刃(エスパーダ)に位置する実力者は元よりただの破面を相手にするだけで手一杯になるだろう。戦闘能力のみに関していえば、確かに雛森桃は非力だ。

 

だか、しかし、ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクは雛森が『虚圏』にやって来て果たした偉業を知っている。

 

「雛森副統括官さん。私は貴女が好きよ」

 

「好きって、どうして?」

 

「だって、貴女は『虚圏』に淀み沈殿していた唾棄すべき過去の遺物を斬魄刀の炎で焼き払ってくれたわ。たとえそれが僅かに残っていたものだとしても、感謝しているわ」

 

「過去の遺物…」

 

「ええ、()()()()が遺した最悪の残滓を…ね」

 

ネリエルは空を見上げながら回想する。それは藍染惣右介が『虚圏』にやってくるより以前の物語。白き死神と黒き虚の戦争譚。

 

 

 

 

 

 

 

 

---数百年前。

『虚圏』の空に亀裂を刻み現れたその白き死神は驚くべきことに大虚を従えていた。元来、死神が踏み入ることの出来ない『虚圏』の世界に虚を仲介役に回すことで足を踏み入れた。理性を狂わす毒素をまき散らしながら、死神は餓鬼(こども)の様に笑いながら悪魔の様に言った。

 

---俺は戦いに来たのでは無いと。

 

唐突に現れた死神の一団を前に『虚圏』で生きる虚達が殺気立たない訳が無い。戦いに来たのではないなんて訳の分からないことを言っているが相手は死神。なら殺せ。直ぐに殺せと沸き立つ声を止める者は無く虚達は死神達に群がった。

その時に見た光景をネリエルは生涯忘れる事は無いだろう。ただの中級大虚(アジューカス)だった頃のネリエルはその時に初めて死神に恐怖を覚えた。

 

桃色の煙が『虚圏』の砂と石しかない夜の世界に広がっていく。---そして、極楽浄土が築かれた。

青い空に輝く太陽。清流が流れ木々が青く茂っている。遠くに見える雪を被った高い山脈。

ネリエルはそんな光景を初めて見た。初めて見た筈だったのに、なぜだか懐かしくて涙を零した。

それが(ホロウ)になる前の人間だったころの記憶。

()()()()()だと気がついて、ネリエルは発狂しかけた。咄嗟に頭を岩に叩き付けて自らの額を割り、痛みによって正気を取り戻さなければ、ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクの自我は死んでいただろう。

それだけの猛毒だった。この『虚圏』という世界にはあってはならない禁忌だった。

 

---〈(みな)の幸せを俺は願っている。〉

 

死神は、嗚呼(ああ)、確かに心の底からネリエル達の幸せを願っているのだろう。辛く苦しい(ホロウ)という化け物であるなどと言う現実を忘れて人間であった頃の幸せな記憶(ユメ)の中で生きろとそう言ってくる。

それは確かに幸せだ。涙が零れる位に幸福だ。

だが、しかし

 

---それはあまりに最悪だった。現実(いま)を忘れて過去(ゆめ)に生きることを果たして生きていると言えるのか?

 

ネリエルにはそうは思えなかった。だがら、痴れて沈みゆく同胞達を叩き起こしながら、その場に居た同調した僅かな同胞たちと共に死神の一団に牙を剥く。

 

---〈隊長の阿片の毒を受けてもまだ正気なんて、別格って奴っすね〉。

 

しかし、その牙も白き死神を守る様に立つ死神達に止められる。後にノイトラ・ジルガという名だと知ることになる蟷螂の特徴を持った中級大虚(アジューカス)は数名の死神に囲まれていた。ネリエル自身は炎を操る剣を振るう少年死神に圧されていく。

その間にじわじわと桃色の煙が身体を蝕んでいく。

 

---〈戦わなくていい。争わなくていい。俺はその為に来たのだから。この仙丹の煙が『虚圏』を満たした時、死神と虚の争いは終わる。此処に『阿片窟(とうげんきょう)』が成るのだから。〉

 

混濁した眼で薄ら笑いを浮かべながら、そんなことを恐ろしいことを宣う男を殺さんと吼えるネリエルだが同調した同胞たちも次々に阿片(ユメ)に沈んで行く。抗いがたい猛毒の煙。ネリエルを含め此処に居る全員が虚と成った身。地獄の冷たさには抗えよう。だが、しかし、次第に脳裏に浮かぶ生前(さいあく)の記憶。この温もりには抗えない。

 

ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクという虚は其処で死んだ。人間であった頃を思い出して、夢見の狭間に果てていく。その筈だった----。

 

その結末を覆したのは一体の虚。

 

ネリエルは発狂しかける自我の中で一人の黒き王の後姿を見た。

 

その虚の名をネリエルは知っていた。『虚圏』で暮らす大虚以上の虚達でその虚の名を知らない者なんていなかった。その虚の名はバラガン・ルイゼンバーン。

大虚における最高位、最上級大虚(ヴァストローデ)にまで至った伝説だった。

 

バラガン・ルイゼンバーンの身体から噴き出す黒い煙が白き死神の斬魄刀から漏れ出す桃色の煙とぶつかる。臭い立つ異臭は阿片の毒素が腐り落ちるが故の臭い。

白き死神と黒き虚が対峙する。

 

白き死神は笑いながら、バラガン・ルイゼンバーンは怒りに燃えていた。

 

---〈蟻風情が、我が世界を汚すか。〉

 

---〈お前は誰だ?〉

 

---〈我こそは”大帝”バラガン・ルイゼンバーン‼虚圏の神だ‼‼〉

 

---〈そうか。神か。お前がそう思うなら、そうなのだろう。お前の中ではな。〉

 

---〈抜かせよ。儂の世界を汚した事、後悔するがいい。身の程を知れ。〉

 

そこから先は戦いではなく戦争だった。バラガン・ルイゼンバーンが率いる虚の軍勢が死神達に殺到する。万軍を越える敵を前にして尚、白き死神は笑顔を絶やすことなく愛を救いをと叫び続けた。

数的有利で言えばバラガン・ルイゼンバーンの軍勢は圧倒的に優位。しかし、白き死神の振るう斬魄刀は大軍を相手にした時にこそ真価を発揮すると良いって言い能力だった。

バラガン・ルイゼンバーンの能力である黒い煙-死の伊吹(レスピラ)-は確かに阿片の毒を含んだ桃色の煙を腐らせ無効化することは出来たが、同時にあらゆるモノを老いさせ腐らせた。

それはバラガン・ルイゼンバーンの軍勢も例外ではなく、その所為でバラガン・ルイゼンバーンは桃色の煙を消し去ることは出来ても消し続けることは出来なかった。

対して死神達の一団は桃色の煙の中に突っ込みながらも攻めてくる。阿片に耐性を持たせた身体で強行軍を繰り返す。

戦場は拮抗する。しかし――その拮抗も長くは続かなかった。

戦いが進むに連れて次第に虚達の中に死神達に与する者達が現れ始めたのだ。

 

前世の記憶。人間(しあわせ)だった頃の幻想(ユメ)の中で生きたいと声高に叫ぶ虚達。ネリエルからすれば狂っているとしか思えない彼らは、今思えば確かに阿片に狂ってしまっていたのだろう。虚達の中に白き死神の阿片中毒者(しんぽうしゃ)達が生まれ戦況が変わる。

ネリエルの様に。ノイトラ・ジルガの様に。バラガン・ルイゼンバーンの部下でなくても共通の敵を前に団結していた虚達の連携が崩れていく。

そして、遂にバラガン・ルイゼンバーンが率いる軍勢の中にも裏切り者が生まれてしまった。

 

 

”大帝”バラガン・ルイゼンバーン。

虚夜城(ラス・ノーチェス)の王であり虚圏(ウェコムンド)の神を名乗った伝説は白き死神との一対一の戦いの最中に背後から放たれた部下からの凶刃によって倒れた。

 

 

---〈許さん許さん許さん許さんぞ。蟻共(ありども)蟻共(ありども)蟻共(ありども)蟻共(ありども)が。(あり)(ども)…が…よくも…我が臣を…〉

 

 

 

死する最中、最後に放ったバラガン・ルイゼンバーンの一撃は白き死神に届いた。

 

自分の身体に突き刺さるバラガン・ルイゼンバーンの武器が砕けた欠片と消えていくバラガン・ルイゼンバーン。そして、バラガン・ルイゼンバーンが消える事に嘆く軍勢達。

ネリエル含めた多くの大虚の涙をみた白き死神は驚きの表情を浮かべた後、小さく呟いた。

 

---〈そうか。(ホロウ)達にもお前という救いがあったのか。虚達が焦がれるべき最上級大虚(ヴァストローデ)という夢が。見事(みごと)だ。バラガン・ルイゼンバーン。虚圏の神よ。お前は俺など及びも付かぬ救いで在ったのだな。ならばこの地にも、俺は要らぬのか。〉

 

そう言って白き死神達は引いていった。最上級大虚《ヴァストローデ》バラガン・ルイゼンバーンという伝説の死を以て虚圏(せかい)の平和は守られた。

勿論、バラガン・ルイゼンバーンが心から世界を守りたいと思っていた訳ではないことをネリエルはわかっている。バラガン・ルイゼンバーンはただ己が築き上げた王国に仇名す敵を討とうとしたに過ぎない。

だが、

 

---儂は王。

---儂は神。

---永久に死なぬ。永劫に君臨し続ける。

---我が名は”大帝”バラガン・ルイゼンバーン‼‼

 

そう叫んだ伝説の最後が確かに英雄的であったことをネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクは決して忘れない。

 

 

 

 




バラカン陛下の御力って普通に考えて十刃の中じゃ最強で在らせられますよね?
触れたら死ぬ。触れなくても死ぬって、どう考えても№1‼‼
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