BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい   作:白白明け

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残したものとの出会い方

 

 

 

 

 

虫の囁きすらも聞こえない静寂の中。誰もが寝静まる丑三つ時に俺は夜空を見上げながら回顧する。思えば随分と時間がたったものだ。

『特別派遣遠外圏制圧部隊』通称-特派遠征部隊の隊長として様々な遠征任務を熟してきた俺でもただ一つの目的の為にこんなにも長い時間を消費することは今までなかった。

第五十五次特派遠征の際に初代死神代行と共同戦線を張った時や第九十八次特派遠征の際に『虚圏』の神を名乗る最上級大虚(ヴァストローデ)と戦った時は命の危機を感じこそすれ時間だけはあまり掛けてはこなかった。

掛けたとしてたった数十年の時間。

 

「それと比べ百余年か。それだけで惣右介の化物具合が解ると言うものだ」

 

「それを同じ化物である風守隊長が言うん?」

 

ポツリと零した独り言に反応したのは今回の遠征で副隊長を務めることと成った市丸ギン。

市丸ギンは俺の隣に立ちながら口元に描いた孤を緩めることなく涼しい顔で言う。

 

「藍染隊長。ああ、今は藍染元隊長やね。僕から言わせれば、二人とも同じ化物やないですか。まさか、怖気づいた訳でもないでしょうに」

 

俺と藍染惣右介を同じ化物だという市丸ギンの言葉。その言葉に返す否定の言葉は無い。

そして、その事実こそが藍染惣右介という男の才能の高さを如実に表していた。

 

「ギン。だからこそ、俺は怖い。お前が俺と同列視する惣右介という男は、今だ数百年しか生きていない。そんな男が、俺と並び立とうとしている」

 

俺が千年を掛けて積んできた研鑚と千年を掛けて身につけてきた戦闘技術に藍染惣右介という男は才能のみで追いすがろうとしている。

それに恐怖を覚える程に俺は真面ではなかったが、警戒をしない程に馬鹿ではないつもりだ。

 

「負けるつもりは毛頭ない。だが、惣右介は警戒に値するだけの男だよ」

 

「わかってます。あの人を一番近くで見続けてきたのは僕や。いくら風守隊長が居るから言うて、舐めて掛かる積りはありません。ただ少し風守隊長が弱気なのが心配になっただけです」

 

そうかそれは悪かったとギンに謝って俺は今回の遠征に連れ立っていく第百次遠征遠征部隊の面々に目を向ける。其処には今まで何度か遠征任務を共にした古参と言うべき面々の他に吉良イズルら新たに配属された死神達の姿もある。

言うまでもなく新人と言え彼らは『虚圏』という敵地に赴くに向けて選ばれた精鋭達であり、訓練も十分に受けている。

故に心配など何も要らぬとわかっている俺は気楽に行こうと言葉を紡ぐ。

 

「遠くに行く。敵を制圧する。特派遠征などと大仰な四文字を掲げてはいるが、俺達が成すべき事など馬鹿でもわかる簡単な仕事だ。無為に気負う必要も矢鱈と声高に頑張りましょうなどと叫ぶ必要はない」

 

口調は世間話でもするかの様な抑揚で平時と同じ声色で言葉を続ける。

果たしてこれが危険の伴う遠征に向けて語ると言葉として正しいのかは俺にはわからない。

だが、何時だって俺はこういう思いで遠征任務を熟してきた。今更、それを変える気も無く俺は新参の死神達が困惑する様を見て古参の面々が苦笑するのを見ながら、笑みを浮かべる。

 

「ああ、何も適当にやろうなどと言うつもりはないぞ。俺は只理解してほしいだけだ。俺達は、戦いに行くのではない。---勝ちに行くのだという事を」

 

新参の死神達から困惑の表情が消えた。

 

「俺達が悩むべきはどう勝つかに他ならない。どういう結末をもってすれば、護廷の二文字に恥じずに済むのか。各々が考え行動すればそれで良い。故に、刻むべく言葉も一つだ」

 

 

---隊士(たいし)(すべか)らく護廷(ごてい)()すべし。護廷(ごてい)(がい)すれば(みず)()すべし。

 

 

「山本重國。俺達の総隊長の言葉だ」

 

 

「「「「はっ‼」」」」

 

 

一糸乱れぬ返答に俺は良い部下を持ったものだと笑みを浮かべる。それと同時に今回の遠征ではきっとこの中の誰かが生きては戻れないだろうと悲観的な想像が浮かぶ。

俺の言葉に嘘はない。藍染惣右介は脅威だ。そして、それが率いているであろう破面(アランカル)もまた脅威的だろうと思う。

かつて出会った伝説の最上級大虚(ヴァストローデ)バラガン・ルイゼンバーンに届きうる者はそうは居ないだろうが、たとえ中級大虚(アジューカス)であろうと藍染惣右介によって死神のチカラを手に入れている以上、脅威であることに変わりはない。

戦いの最中に死人が出るのは当然だ。

彼も人なり我も人なり。故に対等。基本であるその真理は死神と虚の間にも成立する。

誰も死なず誰も苦しまない。そんな結末をきっと誰もが望んで居るが、それが叶わないから人は桃源郷という夢を見る。俺が目指す。

 

至上の幸福(ゆめ)に抱かれながら、ならばせめて苦しまずに逝って欲しい。

 

俺の思いに応える様に腰に差した斬魄刀『鴻鈞道人』から、霊圧がほんの少し零れた。

 

 

第百次遠征が始まった。

 

 

 

 

 

流魂街の外れで斬魄刀『鴻鈞道人』を抜く。平時であれば”戦時特例以外の瀞霊廷及び流魂街での斬魄刀の始解及び卍解の使用を固く禁ずるものとする”という山本重国の命により解放を許されていない斬魄刀『鴻鈞道人』の銘を呼び、能力を解放する。

 

「痴れた音色を聞かせてくれよ『鴻鈞道人』」

 

斬魄刀の切っ先に四連の小さな穴が開く。其処から漏れ出す阿片の煙が周囲に漂い始めた頃、流魂街の空に亀裂が走る。亀裂は徐々に大きく広がり始め、そして、歯形の様な文様で流魂街の空が割れた。

そこから出てくる者に市丸ギン以外の隊士達の警戒が高まる。刺す様な緊張感が流れる空気の中で俺は割れた空からやって来た者の霊圧を感知してまたお前かと笑みを零す。

 

「愛い愛い。お前は本当に俺のことが好きなのだな」

 

『虚圏』から黒腔(ガルガンタ)を開きやって来た者は俺の言葉に鼻を鳴らして答えた後、何時もの台詞を口にする。

 

「ふん。私が貴様に会いたかっただと?…自惚れるなよ。だが、質問には答えておこう。イーバーンだ」

 

空に空いた歯形の様な文様『虚圏』と尸魂界、そして現世を繋ぐ唯一の道である黒腔(ガルガンタ)を開いてやって来たイーバーンの姿を見た時、俺は驚いた。

それは彼の姿が変わっていたからだ。俺が浦原喜助らの居場所を探す為に現世を彷徨っていた第九十九次特派遠征の際にイーバーンにあった時には彼はただの中級大虚(アジューカス)だった。

だと言うのに今のイーバーンは最上級大虚(ヴァストローデ)と同じ完全な人型だった。

霊圧は同じだから、人違いという事はあり得ない。それの意味するところは、藍染惣右介の手による破面(アランカル)化。

 

隊士達の間に緊張がはしった。

 

ただでさえ今回の特派遠征は特異なものだ。向かう場所が通常の手段では入ることも出来ない現世と尸魂界の狭間にある『虚圏』という虚達の世界。其処に踏み入る為に俺は以前の特派遠征と同じように斬魄刀『鴻鈞道人』の能力により痴れさせた虚に道案内を頼むことにした。

死神と虚は敵同士だ。魂魄を喰らう虚を狩る為に死神は存在している。

それなのに虚の力を借りようとする俺を非難する声は大きい。此処に居る特派遠征部隊の隊士達はそれを飲み込まねばならない必要悪と考え曰く正義と声高に叫ぶ輩とは違うが、それでも不安はあるし警戒もしよう。

『虚圏』に向かう為に虚に黒腔を開かせるという外法は相手が俺の斬魄刀の能力に寄り与しているからこそ、許されるものだ。そうでなければ流石に山本元柳斎重國は納得しないだろう。

 

しかし、今のイーバーンの姿を見ればそれが破面(アランカル)化という藍染惣右介の研究によって齎されたものだと解る。

案内役の虚が藍染惣右介の手に落ちている。そう考えた隊士たちの斬魄刀が抜かれるのを俺は手で制した。

 

「彼、大丈夫なんかな?」

 

「彼ではない。イーバーンだ」

 

隣に居た市丸ギンが俺に漏らした呟きをイーバーンは待っていましたと言わんばかりに食い気味で拾うと所謂ドヤ顔で自分の名前を言う。

市丸ギンはそんなイーバーンを見る。

イーバーンの言葉は止まらない?

 

「なに?フルネームが知りたいか?アズギアロ・イーバーンだ。他に質問は?」

 

「君は敵なんかな?」

 

「失礼。もう一度言ってもらえるかな?よく聞き取れなかった?」

 

「君が僕らの敵なんかどうか、答えてくれ」

 

「断る!」

 

死神に囲まれている状況下で大仰に両腕を広げとてもムカつく表情でそう言ってのけるイーバーンの度胸に俺は素直に感心するが、市丸ギン達は勿論イーバーンの答えに斬魄刀を抜くことで答えた。

 

十数本の斬魄刀が己に向けられる状況に目に見えて焦り始めたイーバーンは助けを求める様に俺を見た。

 

「い、いきなり剣を抜くとは貴様の部下は随分と短気なんじゃないのか…!?」

 

瀞霊廷を守る為に懸命な愛い奴らだろうとイーバーンに笑みを向け、さてと呟きながら俺はわざとらしく大仰な素振りで片手で握っていた斬魄刀を両手で握り直す。

 

「ま、まて!なぜ貴様まで私に剣を向けようとする!?」

 

「何故とは、当然だろう?俺はお前が心底好きだが、好きだからだと言う理由で敵を斬らない程に俺は真面じゃない。安心しろ。お前が大好きな仙丹をたっぷりとくれてやる」

 

「そ、そんなことを言いながら貴様は私が必要なのだろう?ならば…わ、わかった。分かったから切っ先を私に向けるな白き死神!私は確かに破面だが、藍染惣右介の手の者ではない!」

 

イーバーンの言葉に俺は斬魄刀を下げる。俺に倣うように隊士たちもまた斬魄刀を納めた。

命の危機を脱したイーバーンは冗談の通じない奴らだと吐き捨てながら説明を始めた。

 

「奴…藍染惣右介は、チカラを欲している。おそらく貴様が追ってくるまでの時間で戦力を整えようとしているのだろう。目ぼしい中級大虚(アジューカス)以上の大虚を破面化させているのだ。私はその中に紛れてチカラを手に入れた。それだけだ」

 

「…風守隊長。確かに筋は通ってると思います。せやけど、一度でも藍染惣右介に会っているコイツは『鏡花水月』の始解を見せられている思うんよ。裏で藍染惣右介と通じとるかもしれません」

 

「それを言うなら俺やギンを含めた全員に言えることだろう」

 

現状の瀞霊廷に置いて力を持つ死神の中で藍染惣右介の斬魄刀『鏡花水月』の始解を見ていない死神はいない。それはつまり斬魄刀『鏡花水月』の能力である完全催眠から完全に逃れている者は誰もいないという事だ。

藍染惣右介と会ったことがあると言うだけでイーバーンを斬る理由にはならない。

 

「まあ、確かにそやね」

 

俺が斬魄刀を引き、俺に次ぐ霊圧を持つ市丸ギンも斬魄刀を納めたことに安堵した様子でイーバーンは溜息を洩らした。

 

「まったく、折角私が来てやったというのに、なぜ私が危機に瀕しなければならないんだ。…お前達は馬鹿なのか?」

 

「まあ、そう言うな。冗談を言ったお前も悪いだろう。水に流せよ。お詫びに上物を用立ててやる」

 

そう言って俺は懐から(うぐいす)色の小袋を取り出してイーバーンに渡す。

イーバーンは目に見えて上機嫌になりながら、

 

「ゆるしてやろう」

 

と尊大な態度で言うと『虚圏』に向かうのだろう早くしろと黒腔の中へと入っていく。

 

俺は隊士達を引き連れてその後に続くのだった。

 

そうして、俺達は『虚圏』へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

夜の帳しかない場所。太陽の昇らない時間で時を止めてしまった寂しすぎる世界。

『虚圏』に足を踏み入れた俺が感じた感情は、第九十八次遠征の時と何も変わらない。

寂しすぎるこの場所に救いを齎してやりたかった。退化の恐怖から逃れる為に同族を喰らわねばならないという鬼畜の諸行から、彼らを救い出してやりたかった。

死した命。死後に尚、苦しむ意味など有る筈がない。生前の咎は死によって清算されている。

死後に犯した咎を罰する地獄という世界があるにはある。だが、そこに堕ち苦しみ続ける諸行など俺は押し付けたくなどなかった

魂魄を守る為に虚を斬ることに迷いはない。しかし、虚に救いが無いことに苦しむ心を持たぬ程に俺は冷血漢ではないつもりだ。

救えるのならば救ってやりたい。そう思って己の手を見れば、そこには()()が握られている。

 

---(みな)()れてしまえばそれで()い。

---快楽の夢に溺れてしまえよ。痴れた音色を聞かせてくれ。俺はお前たちの幸福を心の底から願っている。

 

そう思い、かつて俺は『虚圏』へと足を踏み入れた。

 

その思いは今となっても変わらない。伝説の最上級大虚(ヴァストローデ)、バラガン・ルイゼンバーンの存在を知り俺が齎す救いの阿片(ユメ)がこの世界には必要のないものだと理解はしたが、それは理性ではなく感情の問題。

思いは変わらず。故に俺は寂し気に顔を曇らせながら、砂と石しかない世界の土を踏む。

 

俺達の目の前には朽ち果てた白い石造りの遺跡が広がっていた。

此処は何処だと首を傾げれば、イーバーンは得意げな顔で言う。

 

「此処はネガル遺跡だ。藍染惣右介の居る虚夜宮(ラス・ノーチェス)から大分離れた場所にある。いきなり虚夜宮(ラス・ノーチェス)の近くに出ても良かったが、正面突破など愚策だろう?」

 

「そうかそうか。お前の気遣い、俺は嬉しいぞ」

 

「このイーバーンにかかれば造作もないことだ」

 

イーバーンの気遣いを有り難く受け取りながら、俺達は此処に第百次特派遠征の為の拠点を構えることにする。

そう決めてからの動きは早い。市丸ギンを筆頭に戦闘能力の高い古参の死神達を編成しネガル遺跡周辺の調査及び危険因子の排除を始める。

俺は吉良イズルらの新人を引き連れて拠点の設営に取り掛かる。

幸いなことにネガル遺跡には砂嵐を防ぐことの出来る壁と屋根がある建物が点在した。所々が罅割れて朽ちては居るが、拠点としては申し分も無い。

時折、現れる虚達を狩りながら、隊員全員が身体を休められるだけの場所を確保する。

後にイーバーンの協力を受けて瀞霊廷との連絡手段の構築を試みるが、肝心のイーバーンはそこまで死神に手を貸すのは御免だと姿を消してしまった。まあ、数分考えた後に仙丹の妙薬で香を焚けばどこからともなく姿を現したので本当に瀞霊廷との連絡が必要と成った時にはきっと協力してくれるだろう。

 

そうして虚夜宮(ラス・ノーチェス)への侵攻に必要な準備を進め情報を集めて数日が立った頃、一人の破面(アランカル)が俺達の元へと現れた。

 

その破面(アランカル)は胸に№4の数字を刻んでいた。

 

 

 

 

ネガル遺跡の前に広がる荒野に№4の数字を左胸に刻んだ破面が十数人の破面を従えて立っていた。突如として現れた彼らに対して、見張りをしていた隊士たちに騒めきが広がる。

血気に盛り出陣しようとした彼らを止めたのは、特派遠征に数回参加したことがある古参の死神の内の一人だった。

彼はすぐさま奥で休んでいる隊長たちを呼んで来いと新人達に命令を下す。

それが、彼の最後の言葉となった。

 

 

 

 

地鳴りと共に響いた破壊の音は俺達に敵の襲来を告げる。すぐさまに駆け付ければそこでは見張台として利用していた遺跡の一部が倒壊しており、それを行ったであろう破面の一人が右手を突き出している様子が見て取れた。

死者は多数。古参と呼ぶべき死神の霊圧が複数消えているのを感じとりながら、俺は悔し気に歯を食いしばる。

危険を伴う任務である以上、死者の存在は初めから覚悟していた。だが、こうもあっさりと消えていく命に何も感じない訳も無く俺は睨みつけるように破面達を見る。

彼らは一人を除き一様に敵意をむき出しにしていたが、その勢いのままに攻めてくるような真似はしてこなかった。

それは見張台にしていた遺跡の一部を倒壊させた一人の破面の命令を待っているからだろうことを、俺は感じとりながら同様に後ろに従えた隊士達が切り込むのを片手で制することで止める。

言葉は無い。俺が数歩前に踏み出せば一人の破面もまた数歩踏み出す。

互いに部下たちを従えながら前に立ち対峙する形の成った俺達は、互いにその姿を目に収める。

胸に刻まれた№4の文字。それはイーバーンから事前に聞いていた藍染惣右介に選ばれた破面。十刃(エスパーダ)と呼ばれる地位に目の前の破面がいることを意味していた。

序列は第四位。舐めて掛かるべき相手ではないのだろう。

そう考えていると目の前の破面は意外なことに口を開いた。

 

第4十刃(クワトロ・エスパーダ)ウルキオラ・シファー」

 

感情の起伏を感じさせない瞳。喋りながらもそれに必要な筋肉以外は一筋も動かすことのない表情。まるで石像か機械でも前にしているかのような無機質さを感じさせる男が邂逅一番で自己紹介をしてくるという意外な行動に俺が驚いていると、ウルキオラは無表情のままに言葉を続ける。

 

「お前の名を聞かせろ。白き死神」

 

()()()()。俺を知る『虚圏』に居る虚達の一部が俺をそう呼んでいることは知っていた。イーバーンもまた俺をそう呼んだ。

ならば、ウルキオラと名乗る男もまた俺の事を知っているという事だ。

『虚圏』に阿片という猛毒(すくい)をばら撒いた俺の行いを知っているのか、あるいは伝説と呼ばれた最上級大虚(ヴァストローデ)バラガン・ルイゼンバーンを討ったことを知っているのか。はたまた会ったことがあっただろうかと考える俺だったが、答えは出ない。

なら、何時ものように答えるだけだ

 

「姓は風守(かぜもり)。名は風穴(ふうけつ)。どちらも母から貰った名ではない。風守は周りがそう呼ぶからそう名乗り、名は語呂が良いように自分でつけた」

 

「風守、風穴か…そうか、それが俺の()の名か」

 

「なん…だと…?」

 

ウルキオラが事も無さげに放った一言に周囲の空気が凍る。隊士達の視線が背中に突き刺り、ウルキオラが従える破面達の視線に晒されながら、なぜだか俺の脳裏には卯ノ花烈のとても美しいのに恐怖を感じさせる笑顔が浮かんだ。

 

「お前は何を言っている?俺に虚の子などいない」

 

「認知しないか。それもいいさ」

 

「いや、マジで意味わからん」

 

思わず崩れる口調は俺の混乱を表していて、ウルキオラは何を考えているか分からない無表情で俺を見ている。

 

「元来、俺は人見知りで引っ込み思案で口下手だから言葉の裏を読むという芸当が得意じゃないんだ。伝えたいことがあるのなら、わかる様に言ってくれよ」

 

ウルキオラは俺の言葉に応える様に刀を抜き切っ先を俺に向ける。明確な敵対行為に空気と共に凍っていた隊士達が動きだし斬魄刀を抜く。それに対する様にウルキオラが従える破面達も刀を抜いた。

俺は斬魄刀を抜くことをせずにウルキオラの言葉を待った。

 

「…俺はとある洞窟の底で産まれた。いや、産まれたという表現は虚としては正しくは無いのだろうが、少なくとも俺の意識はそこで目覚めた」

 

大虚(メノス)と呼ばれる存在。その中で瀞霊廷の教本に載せられているタイプである最下級大虚(ギリアン)()は無い。明確な自我は持たずに知能は獣並。極稀に最下級大虚(ギリアン)が生まれる共食いの過程の中に特に力や自我が強い者がいた場合に限りその最下級大虚(ギリアン)は通常と違う仮面を持つ。その異形の最下級大虚(ギリアン)が同じ最下級大虚(ギリアン)を喰らい共食いを繰り返すことで中級大虚(アジューカス)へと進化する。

大虚(メノス)は其処で初めて確固たる自我を手に入れることができる。

ウルキオラが言う産まれたという事がそういう事であることを俺は理解した。

 

ウルキオラは洞窟の底で最下級大虚(ギリアン)から中級大虚(アジューカス)へと進化した。

 

「その洞窟には桃色の煙が沈殿していた」

 

その言葉を聞いた時、俺はウルキオラの言葉の意味を理解する。

 

()()()()()()。俺以外の中級大虚(アジューカス)がその煙を吸い込めば、一様に幸せそうな夢を見始めた。…俺はソレを喰らい続けた」

 

中級大虚(アジューカス)と成った大虚に安寧はない。常に退化と自我の消失の恐怖に怯えながら、同族である中級大虚(アジューカス)を喰らい続けなければならない。

 

「その洞窟は俺にとって暮らしやすい場所だった。何もせずとも餌が洞窟に迷い込む。俺はソレを喰らい続ければ生きていける。…そう信じていた」

 

---あの時までは。

 

無表情で語るウルキオラの言葉の裏に隠された意味を俺は次は読み取ることが出来た。いや、出来ない筈が無かった。それは千年前の俺がずっと感じ続けていた感情だ。

 

---()()()()()()

---それにただ(ひと)(のこ)されていくという恐怖(きょうふ)

 

阿片窟(とうげんきょう)に在りながら阿片(ユメ)に酔えないというあまりに残酷な事実。

進化論は虚であっても適応されよう。阿片の煙が充満する洞窟の中で中級大虚(アジューカス)へと進化したからこそ、ウルキオラ・シファーは阿片の毒への耐性を手に入れたのだろう。

その悲劇に俺の心は悲鳴を上げる。

 

---そう、ある日突然に気が付くのだ。

 

「俺は、他者とは違うのか。…答えを求め、俺は洞窟を出た。そして、知った。あの洞窟に沈殿していた桃色の煙が、お前とバラガン・ルイゼンバーンの戦いによって生み出されたものである事と、お前の存在と、お前が吐いた言葉を知った」

 

---(みな)()れてしまえば(それ)()い。

---安心しろ。死神も人間も虚も斬魄刀も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ならば俺に心は無いのか‼応えろ!虚無(おれ)を産んだ---我が父よ‼‼」

 

斬りかかってくるウルキオラを前に俺の頬を涙が伝った。

 

 

 

 

 

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