BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい   作:白白明け

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万仙陣の終わり方②

 

斬魄刀『鴻鈞道人(こうきんどうじん)』。

 

その斬魄刀が最悪の二つ名と共に語られ始めたのは炎熱系最強と名高い山本元柳斎重國の斬魄刀『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』と対峙した時からだった。

担い手ある限り阿片の毒を生成し続けるいう最悪の能力を持ったその斬魄刀は常に阿片窟を守る番人と共の名と共にあった。

あるいは、その斬魄刀を持っていたのが稀代の凶人である風守風穴であって良かったと漏らしたのは驚くべきことに山本元柳斎重國自身であった。

そして、それは正鵠(せいこく)()ていた。

風守風穴は確かに狂人だ。だが同時に自分以上に他者の幸福を願う行いは間違いなく人間愛に満ちた博愛精神の現れだ。

狂人ではあるが悪人ではなく。善人ではないが風守風穴は愛を知っていた。

風守風穴という死神は愛に満ちた狂人だった。

 

そして、愛を知るが故にその斬魄刀もまた愛に満ち満ちていた。

 

卍解『四凶混沌(しきょうこんとん)鴻鈞道人(こうきんどうじん)』。

 

世界を滅ぼす力を持っていると言われた尸魂界史上最悪の卍解が封印を解かれ完全な形で解放される。始解と同じく、刀身の変化は乏しい。いや、乏しいどころでは無くその姿は始解と何一つ変化してはいなかった。

ただ違うのは切っ先に空いた四連の穴から漏れ出していた阿片の毒が刀身(とうしん)(つば)(つか)(かたな)全体から溢れ出し始めたこと。

そして、生成する阿片の毒の濃度が上がっている。常人であれば一呼吸の内に痴れて果てるだろう---()()()()()()

阿片に対して絶対的な耐性を持つ風守風穴ですら、卍解の瞬間に正気を失う程の毒性を膨大な勢いで生み出し続けている。

 

「ああ…ウルキオラ」

 

そう零す風守風穴の瞳に理性の色はもう欠片も宿ってはいなかった。

万人を阿片(ゆめ)へと(おと)す斬魄刀『鴻鈞道人』は卍解に至り遂に誰よりも阿片(ゆめ)に焦がれた男を堕落(おと)すに至る。卍解『四凶混沌(しきょうこんとん)鴻鈞道人(こうきんどうじん)』の刀身が(きし)みを上げて歓喜した。

斬魄刀には心が在る。そんなことは死神であれば誰だろうと知っている。ならば、風守風穴という一人の死神の苦悩と苦痛と羨望を誰よりも見続けてきたのは誰であったのか、それを語る必要はないだろう。

 

()()---誰よりも風守風穴を知っている。

 

---阿片(ゆめ)()痴れる(みたい)

 

ただそれだけを願った少年が、しかし、その夢を叶えることが出来ないまま大人になり、ならばせめて中毒者(かぞく)阿片(ゆめ)は守るのだと幼心に決意して斬魄刀(じぶん)を握ったことを、()()知っている。

悔しかった。目があれば涙した。声が出せれば嗚咽を漏らした。万人を阿片に沈める事が出来る最悪の斬魄刀?何を馬鹿なと()()吐き捨てた。

---誰よりも阿片(ゆめ)()痴れる(みたい)と願う担い手の願いすらも叶えられない斬魄刀(じぶん)如きがどうして最悪などと名乗れようか。

 

---お前の幸せを心の底から願っている。

 

 

()()言葉に偽りはない。

 

故に()()風守風穴に己のチカラを与え続けてきた。年月と共に積み重なっていくチカラの譲渡は風守風穴の風貌を()()具象化した姿へと近づけていく。

 

そうして、斬魄刀から死神への千年を掛けた愛の果てに卍解は変化した。千年前は始解と比べて生み出せる阿片の煙の量が膨大になるだけの増強型の卍解でしかなかった『四凶混沌・鴻鈞道人』は、遂に本懐(ほんかい)()げる。

 

卍解『四凶混沌(しきょうこんとん)鴻鈞道人(こうきんどうじん)』は風守風穴でさえも正気を失う濃度の阿片の毒を膨大に生成させる能力へと昇華した。

 

「俺は…お前の幸せを」

 

風守風穴の言葉と共に、卍解した時から生成し続けてきた桃色の煙は徐々に纏まり始める。

 

桃色の煙は纏まり巨大な一体の獣となる。それには目鼻耳口。七竅(しちきょう)は無く、翼を持ち、常に己の尾を追いかける白痴の魔獣。その身体には阿片の香を纏い、幾億という触手で編まれた偶像。仙道における正統ではない二次創作、架空の存在でありながら信仰を集めた在り得べからざる異形の神格。

 

己の頭上に魔獣を従えるこの姿こそが卍解『四凶混沌(しきょうこんとん)鴻鈞道人(こうきんどうじん)』の真の姿で在るのだと理解しながら、風守風穴は目の前の救うべき者達に目を向ける。

 

「…願っている」

 

欠片の理性も持たぬまま。遂に風守風穴は阿片に痴れながら本音を漏らす。零れた言葉は常に変わらず彼が説き続けたもの。阿片に狂いながら、終ぞ変わることの無かったその言葉は風守風穴という死神が心の底から願う願いが聖人のソレと変わらないという事の証明に他ならず、そして、だからこそ狂いきっていた。

阿片狂いの導師が至る境地に立ちながら、風守風穴は心の底から世界の平和と皆の幸せを願っている。

 

「…故に」

 

だからこそ。

 

「…痴れた音色を聞かせてくれよ」

 

最悪の善意を以て風守風穴は動き出した。

 

「ふざけるな!」

 

声を荒げたのはウルキオラ・シファーだった。目の前で行われた卍解。そして、満ち満ちてきた阿片の猛毒に晒されながら、それでも言語中枢に致命的な被害を受けなかったのは彼が風守風穴から受け継いだ驚異的な阿片への耐性と強靭な肉体があったおかげ。

しかし、それでもウルキオラ・シファーは自分の身体が刻一刻と狂い始めていくのを感じていた。

後数秒で己の理性が死ぬと悟りながら、ウルキオラ・シファーは両の足に力を込めた。

---戦うな。戦うな!戦うな‼。そう叫び理性に逆らう身体を無理やりに動かし、ブチブチと音を立てる四肢の痛みを無視しながら、ウルキオラ・シファーは両の手に握った”雷霆の槍(ランサ・デル・レランバーゴ)”を風守風穴へと向ける。

 

「二三発、”雷霆の槍(ランサ・デル・レランバーゴ)”を叩き込めば、終わる!『虚圏』が阿片に沈む…最悪の結末だけは…避けねばならない‼」

 

ウルキオラ・シファーにとって己一人を置き去りにした世界などに未練は無かった。あるいは終わってしまっても構わないと考えてさえいる。だが、しかし、たとえ己と同じ虚無となり世界が終わるとしても、その結末だけは防がねばならないという感情が”雷霆の槍(ランサ・デル・レランバーゴ)”を握る手を支配した。

 

「たとえ、このくだらない世界が終わるとしても…お前などに与えられる結末を俺は認めない‼」

 

許せない。認めたくない。拒否という感情。虚無として生を受けた男が抱いたその感情は、きっとウルキオラ・シファーがずっと探し続けていたモノの欠片の一部で、しかし、ウルキオラ・シファーはそれに気が付かないまま風守風穴に向かって行く。

そんなウルキオラ・シファーの姿を見ながら、風守風穴は心からの笑みを浮かべる。

 

「愛い愛い、反抗期か。親のやる(こと)()(こと)にとにかく反発したくなるというアレだろう?俺は母が大好きだったから、共感は出来ないが理解はしよう。そして、古今東西そういう態度の息子に対する父の答えは決まっていると卯ノ花に読まされた教育本に書いてあったぞ。---ウルキオラ。殴るから、殴り返せよ。ああ、勘違いするなよ。俺は殴るのが好きな訳でもお前が嫌いな訳でもない。ただそうしなければ通じないと信じるが故に殴るんだ」

 

「---っ!?ふざけたことを‼」

 

徹頭徹尾、ウルキオラ・シファーからすれば己を馬鹿した態度をとる風守風穴に怒りを覚えながらも、ウルキオラ・シファーは最後まで冷静に戦いぬいた。

己の理性の限界を計算しながら、正気を保って立ち続けられる限界まで、ウルキオラ・シファーは風守風穴からの溢れ出る阿片(あいじょう)の支配にあらがい続けた。

 

そして、ウルキオラ・シファーは幸福な夢へと(たお)れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卍解『四凶混沌(しきょうこんとん)鴻鈞道人(こうきんどうじん)

 

上空で風守風穴が卍解したのを見上げながら、市丸ギンはポカンと口を開けたまま思ったままの感情を口にする。

 

「もう、アカンわ」

 

周りに散らばる破面達が生きていたのなら何を戦闘中に呑気なことを言っているのだと言われただろう市丸ギンの戦闘を放棄したような行いは、しかし、正しい感想だった。

 

卍解を終えた風守風穴の斬魄刀から大量の桃色の煙が生成され始めている。(いづ)れ『虚圏』の世界全土が桃色の煙の底に沈むことは確定的だ。

戦闘など今更無意味なことを続ける積りは無いと市丸ギンは懐から試験管の中に入った薬剤を取り出すと針の付いたそれを己の肉体に突き刺す。それは血清(けっせい)。今回の遠征任務に向けて技術開発局が二本だけ用意したその血清は風守風穴の生み出す阿片の毒への耐性を高めるもの。

無効化とまではいかないまでも、阿片の煙に巻き込まれて戦闘に置いて無樣を晒す羽目になることだけは無いと太鼓判を押されたそれは、しかし、その効力に見合うだけの労力と時間、そして希少な材料を必要としている為に市丸ギンに二本のみしか与えられることのなかったものだ。

市丸ギンは残りのもう一本を傍で倒れていた吉良イズルに突き立てる。

 

「痛い!?なんですか、いきなり」

 

「痛いやないよ。周りをよく見てみい、イズル」

 

「周りですか…」

 

血清により覚醒し周りを見渡した吉良イズルの眼に飛び込んできた光景は痴れて倒れ伏す破面達と死神達の姿。市丸ギンと吉良イズル以外に立っている者はいない。

 

「これは…」

 

「見ての通りや。風守隊長が卍解した」

 

「なら、この『虚圏』はもう…」

 

「そう。全部お終い。僕らが立てた作戦も瀞霊廷から下されていた指令も、もう全部意味はない。最悪()うんはそう言う事や。一度抜き放てばもう風守隊長自身でさえ抑える事ができん」

 

「そんな…」

 

吉良イズルは上空で滞空する風守風穴を隈の濃い眼で絶望しながら見上げていた。

そんな吉良イズルに市丸ギンは何時もと変わらない声色で続ける。

 

「ついでに僕らもお終いや。今は血清で正気を保ってられるけど、それも長くは続かんよ。卍解で阿片の毒が強化されとる。血清の効果は()って一二時間。それを過ぎたら、僕らもあたりに倒れてる隊士や破面と同じように永遠の夢の中へと堕ちる」

 

「一二時間しか持たないんですか!?」

 

「うん?イズル。それは違うで。ここは常人なら一瞬で狂う濃度の阿片の毒への耐性を引き上げて、一二時間も動けるようにした技術開発局を誉めるべきや。言うたやろ。風守隊長の卍解は最悪や。さしずめ、この血清は最悪に対する希望やね」

 

己の命があと数時間で尽きるという状況にありながら、それでも普段と変わらない蛇の様な笑みを消すことがない市丸ギンに対して吉良イズルは恐怖とそれに勝る安心感を得る。

 

「じゃ、風守隊長を連れて虚夜宮(ラス・ノーチェス)に行こうか。時間もあんまりないし、少し急がなあかんなぁ」

 

市丸ギンはそれこそ散歩にでも行くような軽い足取りで風守風穴に近づくと、一言二言の言葉を交し、二人は足並みをそろえて虚夜宮(ラス・ノーチェス)への道を歩いていく。

吉良イズルはそんな二人の後姿を見ながら、自分の死が近いことを理解しながらも、思わず言わずにはいられなかった。

 

「この戦い。僕らの勝利だ」

 

吉良イズルは嬉しそうに二人の後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『虚圏』に聳え立つ虚夜宮(ラス・ノーチェス)の一角にある会議室。長い長方形テーブルに十二の椅子が備え付けられたその場所に藍染惣右介は居た。

藍染惣右介は椅子に座り目を閉じていた。彼の右隣には東仙要。そして東仙要の後ろには捕えられ現世から連れてこられた井上織姫が所なさげにたっている。左隣には雛森桃。

そして、それ以外に五人の人影。

五人はそれぞれ備え付けられた椅子に座っている。『虚圏』の支配者たる藍染惣右介と席を同じくすることを許された彼らこそ藍染惣右介自らが選びだした精鋭。百数体いる破面の中で選ばれた頂点に立つ十人の破面。

 

十刃(エスパーダ)”。

 

一人一人が隊長格の死神を複数人相手にしても戦えるだけの戦闘能力を持った彼らは、しかし、その顔に緊張感を張り付けたまま指先一つ動かせずにいた。その原因は他ならない藍染惣右介自身だった。普段であれば集まった彼らに向けて一言二言声を掛けた後、紅茶でも飲みながら聞いてくれとミーティングをする程の余裕を見せる彼だが、今は普段と様子が違っていた。

何も言葉を発せないまま暫く時間が過ぎている。十刃(エスパーダ)達は始めの内は十人全員が揃うのを待っているのかとも思ったが、どうもそうでは無いらしい事に気が付き始める。

というより、『虚圏』の支配者である藍染惣右介からの招集という普段であれば何においても優先される命令が統括官である東仙要の『天挺空羅(てんていくうら)』によって周知されてから、だいぶ時間が経ったというのに今だ十刃は()()しか集まっていない。そのことに異常を感じない程、彼らは馬鹿ではない。

 

 

「…藍染様、おそらくこれ以上は…」

 

「そうだな」

 

隣に立っていた東仙要に促され、藍染惣右介は閉じていた眼を開く。十刃達は息を飲んだ。しかし、彼らの緊張を気にする様子もなく藍染惣右介は普段通りの余裕に満ちた声色で誰もが感じ取りつつあった事実を告げる。

 

「諸君。すまないが紅茶は少し待ってほしい。先に告げ無ければならないことがあるんだ。君達十刃(エスパーダ)の半数が、()()()()()()

 

召集に五人しか集まらない十刃(エスパーダ)。告げられた事実は誰もが予想できた事。しかし、予想できうる最悪の事態に第2十刃(セグンダ・エスパーダ)ティア・ハリベルは声を上げた。

 

「藍染様。落ちたとは、一体どういう?」

 

ティア・ハリベルは朝方、此処にはいない十刃の何人かとすれ違っている。少なくとも数十分前までは虚夜宮(ラス・ノーチェス)には何の異常も無かったはずだ。

まさか、たった数十分の間に五人の十刃がやられたとでもいうのですかと問いかけるティア・ハリベルに藍染惣右介は肯定を返す。

 

「私も思いもしなかったよ。苦労して集めた君達十刃(エスパーダ)の力が、まさか戦わずして半分も削がれるとは。どうやら君達の力では、彼と戦うにはたりないらしい」

 

優しい口調から零れる辛辣な言葉にティア・ハリベルの表情が苦し気に歪む。だが、しかし、短時間の内に半数が討ち取られたという事実とそれに気が付かなかった自身の過失から反論する言葉など出てくるはずも無く、ティア・ハリベルは申し訳ありませんとただ首を垂れる。

藍染惣右介はそんなティア・ハリベルに頭を上げてくれと微笑みで返すと、別に責めてはいないと言葉を続ける。

 

「真実を告げる事は時に攻撃的だと思われることがある。ティア、私は別に君達を責める積りはないよ。事実を言ったに過ぎない。そして、それは半分わかっていたことだ。何しろ相手は---かつて『虚圏』を滅ぼしかけた男だ」

 

藍染惣右介の言葉に十刃達は個々に差はあれがそれぞれ反応を示す。一番大きく反応したのは第3十刃(トレス・エスパーダ)ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクだった。

ネリエルは思わず席から立ち上がると狼狽しながら藍染惣右介に問いかける。

 

「まさか、白い死神が!?」

 

「ああ、そうだ。先日、ネガル遺跡に現れた死神の集団と(おぼ)しき霊圧の報告は受けているね?私は調査の為の先遣隊としてウルキオラをネガル遺跡に派遣した。そして、戦いが起き観測された霊圧から間違いはない。君達(ホロウ)が白い死神と呼ぶ男。風守風穴がやってきている」

 

「そんな…」

 

絶句するネリエルの隣に座っていた第1十刃(プリメーラ・エスパーダ)コヨーテ・スタークは面倒くさい事態になったとため息を付きながらも核心へと迫る言葉を投げる。

 

「藍染様。あの死神が現れたことはわかった。けどよ、少し早すぎやしないか?戦った第4(クワトロ)、ウルキオラがやられたのはわかる。だが、残りの四人はなんでやられた?」

 

いくら風守風穴という死神が強いとしても目の前に居たなら兎も角、バラバラに過ごしていたであろう残り四人の十刃達をどうやって短時間で倒したのか?そんな疑問に藍染惣右介は()()()と言いながら、信じがたい事実を告げる。

 

「厳密に言えば、風守風穴が(たお)したのは五人の十刃(エスパーダ)達だけではない。彼は虚夜宮(ラス・ノーチェス)内に居なかった全ての(ホロウ)破面(アランカル)達を斃している」

 

「なん…だと…?」

 

それはかつて”大帝”と呼ばれた伝説の最上級大虚(ヴァストローデ)。バラガン・ルイゼンバーンが命を賭けて阻止した最悪の事態。

 

---『虚圏』が阿片に沈んでいることを意味していた。

 

「私が何故、『虚圏』に虚夜宮(ラス・ノーチェス)という巨城を立てたか疑問に思ったことはないかな?全てはこうなる事態を予見しての保険だった。たとえ『虚圏』が阿片に沈むとしても虚夜宮(ラス・ノーチェス)内に居る限りの安全は保障される。そんな方舟(はこぶね)としての役割の為に虚夜宮(ラス・ノーチェス)は創られた」

 

藍染惣右介の先見性に十刃達の幾人かは驚きに表情を浮かべる。そして、ただ権力を誇示する為だけに虚夜宮(ラス・ノーチェス)が創られたのではない事を知り尊敬の視線を数人の十刃が藍染惣右介へと送る。

 

「だが、それを周知していなかったのは私の失策だ。おかげで偶々外に出ていた十刃(エスパーダ)達は風守風穴の卍解に巻き込まれてしまったようだ」

 

数秒で数億の命を狂わせる量の阿片の毒を生成する卍解は『虚圏』の世界で解放され、今なお桃色の煙を生成し続けている。そして、既にネガル遺跡という虚夜宮(ラス・ノーチェス)から離れた場所で解放されたにも関わらず虚夜宮(ラス・ノーチェス)の周囲は阿片の煙が立ち込めている。

 

それにより半数の十刃が戦わずに脱落していた。

 

第8十刃(オクターバ・エスパーダ)ザエルアポロ・グランツはウルキオラ・シファーが戦闘すると聞き霊圧観測の研究の為に虚夜宮(ラス・ノーチェス)の外に出ていた所為で卍解に巻き込まれた。

日光を苦手とする第9十刃(ヌベーノ・エスパーダ)アーロニーロ・アルルエリは藍染惣右介が作り出した現世の太陽に似せたモノの光から逃れて一息つく為に虚夜宮(ラス・ノーチェス)を出た時に運悪く卍解に巻き込まれた。

第10十刃(ディエス・エスパーダ)ヤミー・リヤルゴは日課である子犬型の破面の散歩の最中に卍解に巻き込まれた。

 

第7十刃(セプティマ・エスパーダ)の彼とは現在、連絡が付かない状態だ。恐らく何処かでやられてしまったのだろう」

 

藍染惣右介の話を聞いたネリエルの顔色が悪くなる。それもその筈。相手はかつて始解の状態でさえ『虚圏』の世界を阿片に沈めかけた男。バラガン・ルイゼンバーンが命を賭して追い帰した後も沈殿した阿片の毒は多くの中毒者を生み『虚圏』に混乱を(もたら)した。

そんな男がはた迷惑なことに卍解(ぜんりょく)を出している。

考えうる最悪な状況にネリエルの顔は青ざめる。

 

「さて、諸君。---

 

果たしてこれからどう動くべきなのか、その判断を下すだろう藍染惣右介の一言一句に注目が集まるなかで藍染惣右介は余裕の笑みを浮かべたまま言った

 

 

---紅茶の準備ができたようだ」

 

 

藍染惣右介の言葉と共に破面の女中(じょちゅう)によって十刃達の前に紅茶が準備される。呆気にとられる藍染惣右介の行動にクスリと笑いを零したのは藍染惣右介の左隣に立つ雛森桃ただ一人。言っておくが、藍染隊長はお茶目で可愛いですとでも言いそうな桃色の空気を纏う彼女が異常なのであって呆気にとられ固まる十刃達の反応こそが正しい。

しかし、余裕がない場面でこそ余裕を見せなければならない。常に余裕をもって優雅たれという貴族の心の持ちようか。あるいは慢心こそが王者の務めと豪語するかの様な絶対的強者の振る舞いは、緊張していた十刃達の心を解す。

 

「さあ、戴こうか」

 

藍染惣右介の声と共に紅茶を一口飲む頃には十刃達の顔から恐怖は拭われていた。

その様子を見た後、藍染惣右介のは静かに一人頷き、言葉を続ける。

 

「期せずして残った君たちは私が選んだ十刃(エスパーダ)の中でも上位の存在」

 

 

第1十刃(プリメーラ・エスパーダ)コヨーテ・スターク。

第2十刃(セグンダ・エスパーダ)ティア・ハリベル。

第3十刃(トレス・エスパーダ)ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク

第5十刃(クイント・エスパーダ)ノイトラ・ジルガ。

第6十刃(セスタ・エスパーダ)グリムジョー・ジャガージャック。

 

 

彼らを見渡し藍染惣右介は告げる

 

「この紅茶を飲み終えた後、我々は現世への侵攻を開始する。予定が前倒しになり、準備も不足していると思うが、各員の奮闘を期待する。コヨーテ。ティア。グリムジョーの三名は私と共に現世に向かう。雛森君は私の傍に居てくれ。ネリエル。ノイトラの両名には虚夜宮(ラス・ノーチェス)の守護と織姫を任せたい。(かなめ)を指揮官として残す。我らの城を頼んだよ」

 

藍染惣右介の言葉に異を唱える者は誰も居なかった。

 

「風守風穴の卍解は確かに強力だ。しかし、同時に明確な弱点も抱えている。それは担い手である風守風穴をしても尚、制御しきれない強力過ぎるチカラ。その弱点は始解の時点から露呈していた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という特性は、卍解になっても変わりはない。ならば風守風穴は現世を阿片に沈めぬ為に『虚圏』から出られないという事だ。私が現世に赴き崩玉のチカラで『霊王宮』へと足を踏み入れる為の”王鍵(おうけん)”を創り出すまで虚夜宮(ラス・ノーチェス)を守り切れれば我らの勝利に揺らぎはない」

 

 

---恐れるな。私と共に歩む限り我らに敗北はない。

 

 

藍染惣右介の言葉によって拭えぬ恐怖を拭いながら、十刃(エスパーダ)達の戦いは始まった。

 

 

 

 





~カットされた戦闘シーン~


第8十刃(オクターバ・エスパーダ)ザエルアポロ・グランツの場合

「ウルキオラが戦闘をしているらしい。アイツはきっと力を隠していると僕の研究者の感がビンビンと言っている。フフフ、研究の為に観測してやる!----ん?なんだあの桃色の煙は…」

( ゚Д゚)





第9十刃(ヌベーノ・エスパーダ)アーロニーロ・アルルエリの場合

「アア、一服スルノニ外二行カナキャナラナイトハ、嫌ナ時代ダナ」

「ソウダネ」(喫煙者感)

「「ウン?ナンダアレ…」」

( ゚Д゚)




第10十刃(ディエス・エスパーダ)ヤミー・リヤルゴの場合

「まったくクッカプーロ(子犬の名前)の奴はしゃぎやがって・そろそろ帰るぞ‼」

「ワンッ!」

「早くしろ!ったく。あぁ?何だあの煙。あ、おい!クッカプーロ!無暗に近づくな…」

( ゚Д゚)






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