BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい 作:白白明け
久々の投稿となります。
皆様の暇つぶしになれば幸いです<(_ _)>
戦いは終わったと俺は思った。百年前から続く戦い。藍染惣右介が起こした護廷十三隊を揺るがす動乱。『王譴』の創成と『霊王』の殺害という目論みは死闘の果てに終わりを迎えた。尸魂界という世界の崩壊を止めたのが、山本元柳斎重國に世界を滅ぼしかねない阿呆だと烙印を押された俺だったことは皮肉に過ぎたが、しかし、終わりは終わりだ。
俺以上の役者はいたのだろうけれど、どんな形であれ尸魂界が救われたのなら、良しとするべきだろう。
戦いは終わり。日常が返ってくる。
六車拳西が背負う藍染惣右介を警戒する『
―――この戦いは我々の勝利だ。
そう独り言を零した瞬間、俺の前に立ちふさがる一人の死神が現れた。
「………」
いや、違う。彼は死神ではない。死覇装の黒衣を纏い斬魄刀を握りながらも彼は死神ではないのだ。俺が目にしてきた者たちの中でも異質。史上、たった二人の存在にして俺の中に確固たる何かを刻み付けた男が今、俺の凱旋の前に立ちふさがる様に立っていた。
「…なんや、どないした。ちゅーか、お前、今までどこに居たんや?いち――」
まるで俺達の勝利の邪魔をするかのように立ちふさがった彼に声を掛ける平子真二を遮りながら、俺は笑みを携えて声を掛ける。
「なにかあったか?死神代行、黒崎一護」
俺の問いかけに黒崎一護は六車拳西が背負う藍染惣右介に一度視線を向けた後、俺の眼を真っ直ぐと見据えながら答えた。
「………浦原さんの読み通り、アンタが藍染惣右介を倒したのか?」
「ああ、そうだ。だが、勘違いはするなよ。惣右介は強かった。確かに俺は惣右介に勝利したが、だからと言って俺が惣右介より強い訳じゃない。惣右介の負けは半ば自滅だ。次戦えば俺が負けるだろう」
―――だから、惣右介は凄いんだと俺が胸を張ってそう言うと黒崎一護はポカンとした間の抜けた表情を一瞬だけ浮かべた後、苦笑する。
「何でアンタは敵だったヤツの株を上げてんだよ。相変わらず変な人だな。風守さん」
「そうか?死闘を以て戦った相手を称えたい。男として真っ当な感性だと思うのだがな。まあ、お前がそういうのならそうなのだろう。確かに変人奇人と言われ馴れてはいるのだ」
和やかに続く雑談は黒崎一護が俺にとっての敵でないことの証明だった―――と考えて俺は何を馬鹿なことを考えているのだろうと思った。黒崎一護には俺と戦う理由がない。むしろ、共通の敵として藍染惣右介が存在したのだから仲間と言っていい存在だ。
人間と死神。別種の存在ではあるが、だからと言って相容れない訳ではない。
事実、俺は朽木ルキアを救う為に瀞霊廷に攻め込んだ黒崎一護らの人間を好ましいと思っている。その気概に勇気。素晴らしい。称賛に値することは言うまでは無い。
だからこそ―――黒崎一護が続けた言葉を俺は聞きたくないと思った。
「…風守さん。藍染との戦いはアンタの御蔭で終わった。それでさ、浦原さんから、俺は聞いてるんだけどよ。アンタ………死ぬのか?」
支離滅裂とも思えるような言動は、しかし、神算鬼謀たる蒲原喜助から全てを聞いていたとするのなら、至極真っ当な黒崎一護から俺に向けられた
だから俺は真摯に返答する。
「ああ、どう繕っても覆しようのない罪はある。死罪に値する罪悪がある。俺はそれに値する」
卍解『四凶混沌・鴻鈞道人』によって齎された阿片の毒が
「この戦い―――我々の勝利だ。黒崎一護。そんな顔をするなよ。俺の死をもって『鴻鈞道人』に生成された阿片の毒は消える。現世は救われる。故に、
「―――っ。いいのかよ。それで」
「善哉善哉。元より死神とは罪なき魂魄と人間を護る為に存在する」
「アンタ、死ぬんだぞ」
「善哉善哉。わかっているさ。元より覚悟の上でやったことだ」
「生きたく…ねぇのかよ」
「………愛い愛い。黒崎一護。お前は俺をそんなに好きなのだな。ああ、無論。そんなお前を俺も大好きだぞ。幸せになって欲しいと切に願う。お前の様な良い奴は、幸せになるべきだ」
―――その礎になるのなら悪くも無かろう。
そう言い切った俺に向けられた刃を見て俺は心の底から悲しみにくれる。
「一護‼何しとるんや‼」
平子真二の怒声にもブレることなく、黒崎一護の剣先は俺に真っ直ぐと向けられていた。
「………ったよ」
葛藤が滲みだす地の底を這うような声だった。
俺に向けられた切っ先がブレてはいなくても悩みに塗れたものだった。
「誰が、アンタを犠牲にしてまで助けてくれって言ったよ‼」
黒崎一護の怒声は平子真二達の動きを止めて余りあるものだった。敵意ではない。害意でもない。優しさに塗れた悲鳴の様な声を前に俺は静かに笑みを浮かべる。
「世界を救って!アンタが死ぬって!そりゃ、違うだろ。ルキアはアンタの事を尊敬してんだ。今まで世話になってきた分を返さなきゃならねぇって言ってたぞ。井上も
黒崎一護の叫びを所詮は百年も生きていない人間の子供の戯言と断ずる事を、俺はしなかった。確かに黒崎一護の言動は幼稚で無垢な我が儘にしか聞こえない。俺は死なねばならない。それだけのこと仕出かした自覚はあるのだ。
「現世が桃色の煙の底に沈もうとしている。それを食い止めるために俺は討たれねばならない。それは絶対の法だ」
―――
今の俺は護廷十三隊にとっての害でしかない。
「---それを知って尚、お前は叫んでいるのだな?黒崎一護」
「………アンタを救う方法が、ある」
「善哉善哉。それは蒲原喜助の策か?俺を救うか。素晴らしい。だがな、俺を救うと口にするお前は何故、そうも苦しい顔をしている?」
「………」
「わかっているさ。それは外法なのだろう?正道では最早、俺を救うことはできない。いや、俺を殺すことこそが正道なのだから。
「それでも浦原さんはそれを望んでいた。どんな形であれ、アンタに生きて欲しいって願ってた。浦原さんだけじゃねぇ。天貝さん。あの人もだ」
「そうか。繡助にお前は会ったのか。そして、繡助も俺を救いたいと?愛い愛い。あの幼かった繡助が俺を助けたいという程に成長したか。嬉しい限りだ。故に聞こうか?黒崎一護。お前はどうやって俺を救うというのだ?」
俺を殺さずに斬魄刀『鴻鈞道人』。史上最悪と言われた斬魄刀の卍解。『四凶混沌・鴻鈞道人』の生み出した阿片の毒を消し去る方法。それは何かと訪ねながら、俺は半ば確信していた。いくら蒲原喜助であろうともないものをあるとはいえない。ならば、答えは既に語られているもの。
「風守さんの斬魄刀『鴻鈞道人』を俺が破壊する」
やはりそうかと―――俺は溜息をつく。
「千年前、山本元柳斎重國の卍解でさえ壊せなかった斬魄刀『鴻鈞道人』をお前ならば壊せると?冗談にしても笑えないな。いや、人見知りで口下手で引っ込み思案な俺には無いそれが
俺の言葉に黒崎一護は苦し気に口を歪めて言う。
「俺を信じてくれ」
「
俺は抜き身で持っていた斬魄刀を黒崎一護に向ける。
「先の言葉をお前に返そう。黒崎一護。俺はお前に死んで欲しくなど、ないのだよ」
護る為に戦おう。救う為に戦おう。戦いを是とするのでは断じてない。俺には修羅の理に生きる『八千流』のことを理解することが出来ない以上、仲間である黒崎一護との戦いを望む心など微塵もない。だが、しかし、これでも俺は死地に赴く若者を引き留める気概くらいはある大人のつもりだ。
「斬魄刀『鴻鈞道人』を破壊する?誰が?お前が?無理だ。不可能だよ。黒崎一護。お前が蒲原喜助にそそのかされて行おうとするソレは、土台無理な話なのだ。山本元柳斎重國が折れぬと言った。ならば、『鴻鈞道人』の破壊は不可能。
「そうかよ。それでもそうしなきゃアンタのことが救えないって言うなら、俺はやる。風守さん。前に俺が言ったことを覚えてるか?」
「前に…?」
俺の脳裏に浮かんだのは瀞霊廷動乱の際の黒崎一護の言葉だった。
―――『………ルキアを安全な場所に運んだら、戻ってくる。それまで死ぬなよ』---
「アンタを救いに俺は戻ってきたんだ」
「くっ、はは、ははっ、アハハハハハハハ‼‼―――なんて男だ。黒崎一護。お前はなんて良い男なんだ。俺が女ならば惚れていたよ。俺を救うと?よく吠えた。お前が死地に向かうのを、
―――俺を倒し斬魄刀『鴻鈞道人』を破壊することができるとお前が思うのならば、お前の中ではそうなのだろう。それが全てだ。否定はしない。お前なりの
「俺もまた俺の思う大団円の為に戦おう」
彼も人なり我も人なり。故に対等。
俺がそうである様に黒崎一護にもまたこの戦いの終わり方を決める権利がある。
「---ああ」
そして、気が付けば俺の心は悲しみに満ちていた。黒崎一護と戦うと決めた。
言葉で分かり合えぬのなら、剣を抜くしかないのだ。
だが、しかし、口から零れるのは心の中に収まりきらなかった悲嘆の声に他ならない。
「俺は本心、お前と戦いたくなどないのだよ」
その言葉に嘘はない。俺は争いなど望まないし、戦いなど大嫌いだ。皆が幸せで有れば良いと心の底から願っているし、それは無論、俺の持つ斬魄刀『鴻鈞道人』。仙丹の薬を齎す諸人にとっての救いであるこの奇跡を壊そうという黒崎一護であっても変わらない。
「痴れた音色を聞かせてくれよ…」
斬魄刀『鴻鈞道人』。今だに枯れることのない桃色の煙が俺の身体に纏わりつく。
卍解を終え。万仙陣は廻された。ならば、漏れ出す阿片の濃度は天井知らずに上がっていく。
気が付けば傍らに立っていた平子真二たちが意識を失い地上へと落ちていく。藍染惣右介の手によって薄れていた俺の霊力と共に下がっていた阿片の毒の濃度が戻っていっていることの、それは証明だった。
「なっ‼平子‼…風守さん、アンタ‼」
地上へと落ちていく『
俺はそれを制するように混濁した眼で笑みを浮かべる。
「案ずるな。下には卯ノ花がいる。むざむざと彼らを死なせはせんよ。そして、阿片の濃度が上がっていく…それで俺を責めるなよ。惣右介との戦いで薄れた仙丹の夢。それが一時的なものであることは、わかっていた。…卍解の解除も自在に行えぬ出来損ないである俺だ。…俺が出来るのは阿片を生み出すことのみと、最初からお前には教えていた筈だろう」
史上最悪と呼ばれた斬魄刀『鴻鈞道人』。俺の意思もってなお、止まらぬ
千年前、山本元柳斎重國が尸魂界を炎熱地獄に落とすことでしか消し去ることの出来なかった
「土台…
だというのに、まったくなんてことだろうか。目の前に居る人間はなまじチカラを得てしまったばかりに俺の前に立っている。あるいはそれが嘗ての卯ノ花のように戦いを求める気概の上で発露した感情ならばよかった。しかし、黒崎一護という人間の本質がそうでないことを俺は理解している。
「なあ、黒崎一護。何度でも言おうか」
混濁した眼は偽りをはねのけ真理を映し、俺の口から本音が零れる。
「俺はお前と…戦いたくなど、ないのだよ。自傷を愛好する者や、戦闘に恍惚する者ならば数多に見てきた。故にお前がそういう
以前、見た時とは違う。黒崎一護の卍解の形。以前の形は黒き衣と黒き剣。それが未熟であったことは感じていたが、よもや百年を待たずして卍解を進化させるとは思わなかった。
右腕と斬魄刀が一体化した姿はまさしく人剣一体の姿であると言えるだろう。
だが、感じられるのは俺と戦うことに対する葛藤で在り、苦悩であることを俺は即座に見抜いて見せる。
故に俺の口から零れるものは間違いなく悲しみであり、嘆きなのだ。
「やりたくないことはやらなくていい。嫌なことからは逃げればいい。辛い記憶など忘れてしまえばいい。至極真っ当なことを言っているつもりなのに、何故か賛同は得られない。俺はただお前に幸せになって欲しいだけなのに、外界がそれを邪魔するのか?なら、よかろう。俺が其処からお前を救ってやろう。万仙陣とはもとより、
―――『人は救われねばならない‼』。
そんな言葉を聞きながら黒崎一護は悲嘆した。愛を語り、平和を語り、
黒崎一心。
黒崎
黒崎
黒崎一護にもまた守りたい家族がいる。そして、守りたい仲間たちもいる。
正しい。正しい。正しいのだ。―――風守風穴の口から零れる言葉の全てが正しく優しいものだった。
―――『だというのに、結果が最悪です』と蒲原喜助は言っていた。阿片をばら撒く盲目の仙王。
あるいはその感情が風守風穴に対しての侮辱に等しいものだと理解しながらも―――
「風守さん。俺はアンタに救われた。ルキアの時も井上の時も、アンタは俺の知らない所で俺達の為に戦ってくれていた。そんなアンタだからこそ、俺はアンタを護りたい」
―――黒崎一護は風守風穴が許せない。
もっといいやり方があった筈のなのだ。もっと別の最悪ではない終わらせ方があった筈なのだ。手を伸ばせばあるいは届いたかもしれない最悪の結末ではない終わり方が、あったかもしれないと黒崎一護は思わずにはいられない。
無論、風守風穴にも風守風穴なりの事情があったことは理解している。卍解を使わなければならない戦場に立っていたことは理解している。しかし、けれども、だとしても、その結果に風守風穴が死ぬ様な結末を黒崎一護は絶対に認めない。
「ああ、そうだ。アンタの言う通りだ。風守さん。俺はこんなの間違ってると思う。
叫びと共に黒崎一護は風守風穴の懐に飛び込んだ。右腕と一体化した姿となった己の斬魄刀『斬月』。その卍解である『天鎖斬月』を振り上げて繰り出すのは単純明快な一刀。
基本であるが故に絶大である上段からの振り下ろしという斬撃は、本来であるならば風守風穴には通じる筈もないものだった。黒崎一護の振り下ろしに対する風守風穴の対処は下段からの振り上げ。振り下ろしと振り上げというの威力は言うまでもなく振り下ろしが勝る。しかし、それを補って余りある力の差が黒崎一護と風守風穴の間には存在していた―――筈だった。
響き合う斬魄刀同士がぶつかる音の中で風守風穴の焦った声が零れた。
「なん…だと…」
其処には風守風穴が黒崎一護との力押しで押し負ける姿があった。元来、この帰結はありえない。未だ十数年しか生きていない人間。最近、死神になったばかりの黒崎一護に千年以上の時間を生きて戦い続けてきた風守風穴が不利な体勢とはいえ押し負けるなどありえない。
ならば何故?答えは自明。
風守風穴は押し負ける鍔迫り合いから逃げ出し、距離を取る。
「黒崎一護。お前は修行によって霊力を捨て、
霊圧の放棄することによって身体能力のみを極限強化する。それが黒崎一護が自分に勝つ手段だと風守風穴は考えた。そして、その行為に対する落胆を隠すことなく風守風穴は嗤ってみせる。
「霊力を捨てる。なる程、死神であれば考えもつかない手段だ。お前は人間だものな、黒崎一護。だが、ならばやはりお前に俺は倒せぬよ。
身体能力で勝てないのなら霊力で押し潰すのみだと風守風穴は手を黒崎一護へと伸ばした。
「破道の八十八。
曰く空飛ぶ竜すら撃ち落とすと言われる威力の光線が黒崎一護に放たれる。それは
「”月牙天衝”」
卍解『天鎖斬月』の刃から黒い霊力で出来た斬撃が飛ぶ。その斬撃はいともあっさりと風守風穴が放った
瞬間、風守風穴の表情から余裕が消える。混濁した眼はそのままに薄ら笑いを浮かべていた口元が一瞬だけ硬直する。
「ありえない」
それが風守風穴が思わず漏らした言葉だった。
山本元柳斎重國ならわかる。卯ノ花烈でもいいだろう。雀部長次郎なら納得だ。あるいは朽木白哉でも、平子真二でも、狛村左陣でも、市丸ギンでも構わない。
だが、しかし、目の前にいる黒崎一護は、死神ではない。死神代行。---人間だ。
「…
ありえない。無論、否である。あり得ないなどと言うことはあり得ない。黒崎一護の可能性はただの人間をはるかに超えていることを風守風穴は知っていた筈だった。
瀞霊廷動乱時。
否、それより前に。あの日の夕焼けに萌ゆるオレンジ色を見た時から―――
『なあ、待て。お前、名は何と言う?』
『黒崎。黒崎一護だ』
風守風穴は黒崎一護を”特別”であると認めていた筈だ。
―――それを、俺は忘れていたのか。
無論、否である。風守風穴がそのことを忘れることなどありえない。なぜなら、風守風穴が”特別”だと思った存在はその生涯にただの二人しか居なかったのだから。
一人目は戦場で呼吸をする
二人目は
そして、三人目が黒崎一護であったなら、風守風穴が黒崎一護のことを忘れる筈など無い。
ならば何故、風守風穴は黒崎一護のことを甘く見ていてしまったのか。
答えは自明。眼を背けていたからに他ならない。
人間が死神を超える。それは一つの世界の、風守風穴が生きてきた物語の否定に他ならない。
最強とは太陽を指す言葉。最強の死神は炎熱地獄に立つ英雄ただ一人。
その英雄を超える
故にその可能性を理解しながらも眼を背けた。子供の駄々のような感情で、ただただ見ないふりをした。見誤ったのではない。ただ風守風穴は、人でありながら死神となり、一人の死神の少女の為に瀞霊廷に挑んだ黒崎一護という稀代の主人公の物語を見ようとしなかっただけだった。
「………最強は一人…故、俺は最悪足らん」
闘志など無かった混濁した眼に僅かばかりの闘志が宿る。己が描いた
だが、しかし、それを無意味と断ずるように黒崎一護の攻勢は続く。
「うおおおおおおおおおオオぁぁ‼‼」
「うあああああああああアアぁぁ‼‼」
黒崎一護には勝負を急ぐ理由があった。それは風守風穴のことを思ってのことだった。風守風穴と同じ様に黒崎一護には目の前の相手への敵意が微塵もない。救う為に戦っている。護る為に戦っている。風守風穴を傷つけたいと思ってはいないし、苦しめたいとも思ってはいない。そうしなければならないから、そうしているに過ぎない。
ならばどうする?最善手は痛みが続かないように一気に倒しきる他にはない。
故に―――
「もう終わりにするぜ。風守さん。これが、
黒崎一護は微塵の躊躇も無く風守風穴に最強の一撃を叩き込む。
黒崎一護の身体が黒い霊力の奔流に呑み込まれた。
そして、霊力の奔流が晴れた時、そこにいたのは
「”最後の月牙天衝”ってのは、俺自身が月牙になる事だ」
その姿に風守風穴の混濁した眼が見開かれ、口元に浮かべていた薄ら笑いは完全に消えていた。それほどまでに圧倒的なチカラを風守風穴は黒崎一護から、
それは本来、死神が感じ取れるチカラではない。二次元の存在が三次元の存在に干渉できぬ様に、要は
それが
「その姿…そのチカラ…斬魄刀との、融合。それは…まるで―――」
「この技を使えば俺は死神の力の全てを失う。俺は最後の死神の力でアンタを救う‼」
黒崎一護の振り上げた右腕に黒い霊力の刃が形作られる。そして、静かに。
「風守さん。…アンタはいい加減に、その痛ましいユメから覚めろよ…」
「”無月”」
次回、最終回です(; ・`д・´)