BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれば幸いです。 (__)


復讐との出会い方

 

 

鳴木市蝶原に並ぶ雑居ビル群に銀城空吾が作った組織『XCUTION(エクスキューション)』の拠点はあった。古く汚いマンションの左右5部屋上下3部屋の壁を壊し作られたその拠点は外観からは考えられない広さだった。拠点の中にあるバーカウンターの椅子に座り、銀城空吾はグラスに注がれた洋酒を飲みながら人を待っていた。壁に掛けられた時計を見れば約束の時間はとっくに過ぎているが、待ち人は未だに来ない。けれど、苛立った様子も見せずにただ待ち続ける銀城空吾にバーカウンターの向こう側に立つ初老の男‐XCUTIONのメンバーである沓澤(くつざわ)ギリコはグラスを磨きながら声を掛ける。

 

「銀城さん。貴方の話していた死神は姿を見せませんね。やはり騙されたのではないですか?」

 

沓澤ギリコの言葉に銀城空吾は確信をもって首を横に振る。

 

「いや、嬢ちゃんは裏切らねぇよ。あれは裏切りから最も遠い男の娘だ」

 

「死神でありながら我々に加担するという裏切りを既に行っているのに?私の経験則上、一度でも誰かを裏切るような人間は何度でも裏切りますよ」

 

沓澤ギリコの言葉に銀城空吾は確かにその通りだと頷きながらも、「それでも嬢ちゃんは俺を裏切らねぇ」と自信をもって言葉を返した。

 

「そもそも嬢ちゃんの中で俺への加担と護廷十三隊を裏切ることはイコールじゃねぇのさ。たとえそれが傍目には裏切り以外の何物でもなかったとしても、嬢ちゃんの中では裏切りじゃねぇ。父親の意思を継ぐ。本人はただの親孝行のつもりだろうよ」

 

「…その娘。狂人の類なのでは」

 

「はは。違いねぇ」

 

他人に流されることなく自分の中の価値観だけで動くものを狂人だと呼ぶのなら、卯ノ花風鈴は確かに狂人だ。しかし、ただ狂っているだけではないことを銀城空吾は既に知っている。卯ノ花風鈴を動かすものは父親への憧れ。狂人に憧れたからこそ狂人になろうとしている子供。大人である銀城空吾からすればあまりに幼気な狂気を宿す卯ノ花風鈴を知りながら、そんな子供に慰められた恥ずかしい経験を持つ銀城空吾はそれを誰にも喋らない。

たとえそれが見様見真似だとしても卯ノ花風鈴が銀城空吾に向けた優しさは本物だった。

 

(ぬる)いねぇ」

 

「次はロックしますか?」

 

「いや、そうじゃねぇよ」

 

銀城空吾の言葉に沓澤ギリコが首を傾げたその時に部屋の扉が勢いよく開け放たれた。ようやく待ち人が来たのかと扉に目を向けた銀城空吾と沓澤ギリコだったが、そこにいたのは慌てた様子で扉を蹴り開けたピンクの髪の少女‐毒々峰(どくがみね)リルカだった。XCUTIONのメンバーである少女の登場になんだお前かとため息を漏らす銀城空吾とは対照的に毒々峰リルカはいつもの刺々しい態度も忘れて混乱した様子で目をグルグルと回しながら廊下を指さして叫んだ。

 

「た、たた、大変よ銀城!痴女!痴女が乗り込んできたわ!いま向こうで雪緒が襲われてるわ!あんたなんとかしなさいよ!?」

 

「あ?痴女?何っているんだ…」

 

「ひぃ!?き、来たわ!?」

 

扉の前で意味不明な叫びを繰り返す毒々峰リルカだったが、廊下を歩いてくる“誰か”を視界に納めると慌てた様子で部屋の中に飛び込んできて、備え付けられたソファーの上で丸くなる。ただならぬ様子の毒々峰リルカの様子に流石に警戒を強めた銀城空吾だったが、次の瞬間に現れた者の姿に目を丸くした。

 

「おお!銀城さん!ようやく見つけたぞ。此処は広いな。いやー、遅れてすまなかった。共に哨戒任務に就いていた他の隊士を撒くのに意外と時間が掛ってしまった」

 

現れたのは銀城空吾の待ち人。卯ノ花風鈴だった。死神である卯ノ花風鈴は人間である銀城空吾と会うにあたり前とは違い義骸(ぎがい)の中に入っていた。そこまでは良い。元死神代行である銀城空吾とは違いXCUTIONのメンバーの中には死神の姿を見ることのできない人間もいる以上、卯ノ花風鈴の配慮は褒められこそすれ責められるものではなかった。

いけなかったのは卯ノ花風鈴が義骸だけ纏った姿でやってきたことだ。

義骸(ぎがい)』とは魂のない作り物の肉体。死神はその中に入ることにより、その肉体を動かすことができる。なお、一部の例外を除き義骸は技術開発局で作られ持ち運びはそのまま持ち運ぶしかなく、一般的に義骸とは作られた肉体のみをさし衣服はそこに含まれない。そう、衣服はそこに含まれない。だから義骸を使用する際は使用者が事前に義骸に衣服を着せておく必要があるのだが―――現れた卯ノ花風鈴は一糸纏わぬ姿でそこにいた。いうなれば全裸。痴女だった。辛うじて救いがあるとするのなら、何故か卯ノ花風鈴は帽子を被った小さい少年‐XCUTIONのメンバーである雪緒(ゆきお)を正面から抱きしめながらやってきており、女性として隠さなければいけない部分が辛うじて隠れていることだったが、それは言ってしまえば雪緒(ゆきお)に大打撃を与えているということでもある。

卯ノ花風鈴の胸に頭を埋める形で抱きしめられている雪緒はもがきながら声を出す。

 

「は、離せ!離せよ馬鹿!僕をどうするつもりだ!離せ離せ!」

 

「まあまあ、んっ、あ、おい、変なところに当たるから、あまり暴れるな」

 

「あ…ごめん。………って、違うだろ!いいから離せよ!このっ、んなっ、なんで少しも離れられないんだ!?」

 

「あ~、雪緒。嬢ちゃんの腕力は相当強いから力じゃお前に勝ち目はないぞ~」

 

「銀城!?居るんだな‼僕を助けろー!?」

 

ジタバタともがく雪緒。ニコニコ笑顔で雪緒を抱きしめ続けている卯ノ花風鈴。ソファーの上で丸くなりブルブルと震えている毒々峰リルカ。全裸でやってきた珍客にどうするんですかと銀城空吾に視線を送る沓澤ギリコ。そして、銀城空吾は楽し気に笑いながら言った。

 

「卯ノ花風鈴。ようこそ“XCUTION”へ。取り合えずリルカ。お前の服を嬢ちゃんに貸してやってくれ」

 

 

 

 

 

 

XCUTIONの拠点にある一室で来た小さな騒動は銀城空吾の一言により沈静化した。騒動の元凶である卯ノ花風鈴は現在、毒々峰リルカから借りた衣服を身にまとっていた。可愛らしくファンシーな毒々峰リルカの私服は卯ノ花風鈴の白髪に意外とマッチしており毒々峰リルカ自身も「なかなか可愛いじゃない」と漏らす程だった。そうして卯ノ花風鈴が服を着たことにより話し合いの場は整った。バーカウンターの椅子に銀城空吾。バーカウンターの向こう側に沓澤ギリコ。ソファーに毒々峰リルカとその横に卯ノ花風鈴。そして、卯ノ花風鈴の膝の上に雪緒。その状況で銀城空吾は話を始めようとした。が。

 

「あー、改めて紹介する。この嬢ちゃんは卯ノ花風鈴。俺たちの新しい仲―――

 

「おい!待てよ銀城!」

 

―――なんだ。雪緒。途中で話を遮るなよ」

 

「何だじゃないだろ!どうして僕はこの女の膝に乗せられてるんだ!話はこの女が僕を解放してからにしろ!」

 

卯ノ花風鈴の膝の上で抗議の声を上げる雪緒の言葉にXCUTIONのメンバーである三人はそれぞれあまり興味がなさそうに返事を返した。

 

「まあいいじゃねぇか。嬢ちゃんはもう服着てるんだし」

 

「別にいいでしょ。アンタがむっつりのエロガキだってのは知ってるし、嬉しい癖に騒がないでよ」

 

「雪緒さん。まあ落ち着いてください。ミルクでも飲みますか?」

 

三者三葉にどうでもいいから話を進めたいという態度を隠さない返答に雪緒はキレる。誰のお金でこの拠点が使えているんだという不平不満の声を上げながら暴れる雪緒だが、仲間だと思っていた三人からの助けが来ないことを悟ると自分を膝の上に置いている卯ノ花風鈴に非難の矛先を向けた。

 

「大体アンタはなんで僕を離さないんだ!」

 

「ふむ。その疑問に答えよう。雪緒くん。私は今、誰にでもある時期だと思うが君くらいの弟が欲しい時期なんだ。こう抱きしめたときにすっぽりと収まる丁度いいサイズの弟が欲しいと思っていたところに現れたのが君だ。そんなもの抱きしめずにはいられないじゃないか。それに以前、丁度いいサイズの日番谷隊長を抱きしめようとした時は全力抵抗されてしまってな。まさか始解してまで抵抗するとは思わなかったぞ。その点、君は人間で抵抗力がない。なんて都合がいいんだ!」

 

雪緒は卯ノ花風鈴のあまりにもあまりな理屈に戦慄した。弟が欲しいと言いながらも抵抗を許していないところが卯ノ花風鈴の孕んでいる狂気を如実に表していた。人の話を聞かないどころじゃない。もっと恐ろしい卯ノ花風鈴の人間性に触れ、雪緒は抵抗を諦めた。

 

銀城空吾は魂が抜けたような表情の雪緒に心の中で合唱しながら話を再開する。

 

「この嬢ちゃんが卯ノ花風鈴。新しい俺たちの仲間だ。嬢ちゃんは死神だ。信用できるのかって思うかも知れねぇが、俺の目的を果たす為に死神の力は都合がいい。それに俺個人は嬢ちゃんのことを信用している。まあ、ほどほどに仲良くしてやってくれ」

 

「よろしく頼むぞ!」

 

銀城空吾の紹介に満面の笑みで続いた卯ノ花風鈴にXCUTIONのメンバーたちは毒気を抜かれる。それでも毒々峰リルカが突っかかるように卯ノ花風鈴に鋭い視線を向けたのは彼女の性格的な問題故のことだった。

 

「死神が銀城の目的に都合がいいって、どういう意味よ。XCUTIONの目的は数だけ多くて無能で声の大きいだけの馬鹿が支配する世界を引っ繰り返す事でしょう。死神なんて関係ないじゃない」

 

XCUTIONのメンバーはそれぞれが“完現術(フルブリング)”という力を持っている。産まれる前に親が虚に襲われることにより虚の力が母体に影響を及ぼし発現する“完現術(フルブリング)”という能力は性質的に死神よりも虚の力に近い。しかし、“完現術”を持っていようとも彼らが人間であることに変わりはない。異能の力を持つ人間がどういう人生を辿るのか想像することは容易い。

毒々峰リルカは卯ノ花風鈴から視線を外し銀城空吾を睨みつけながら言葉を続けた。

 

「異能の力を持った私たちは数が少ないから大勢に食い物にされる。私たちはバラバラの()()よ。そんなバラバラだった私たちを纏める為にアンタはXCUTIONを作ったんでしょ。この馬鹿に寛容すぎる今の世界を変えるっていうアンタだから、私は同士になったつもりなんだけど。…なに、違うの?」

 

毒々峰リルカの言葉に雪緒もまた手を挙げる。卯ノ花風鈴の魔の手から逃れることを諦め携帯ゲーム機を取り出していた雪緒だったが、毒々峰リルカの言葉に同意しない訳にもいかなかった。

 

「リルカの言う通りだ。風鈴。死神は基本的に人間には干渉しない存在なんだろう?」

 

雪緒に名前で呼ばれた卯ノ花風鈴はうんうんと嬉しそうに頷いた。

 

「その通りだ。虚に襲われる人間や魂魄を救う為に人間の前に姿を現すことはあるが、死神は基本的に人間が何をしようが干渉はしない。人間のことは人間に任せている。死神が人間を導くのは死後だけだ」

 

「なら、人間社会のシステムを変えるのに死神の力なんてあったってしょうがない筈だよ。それとも、ねぇ、銀城には僕らにも話していない別の目的があるの?」

 

XCUTIONに集う者は皆、暗く孤独な過去を持つ。

親に棄てられて心も力の使い方もねじ曲げてしまった者。

力を使ううちに自分は神の代弁者だと錯覚するようになり大切な人を失った者。

子供心のままに力を使ってしまい自分で勝手に孤立してしまったと嘆く者。

 

そんな彼らの視線に晒されながら彼らを救ってきた銀城空吾は一度目を瞑り考えこむと覚悟を決めて口を開いた。

 

「数が少ないからって黙って死ぬ。そんな馬鹿な事ァ無え。歴史を見てもいつだって数の少ない側が世界を支配してきた。チカラをもつお前たちが悪いんじゃ無え。今の世界がバカに寛容すぎるのが間違ってんだ。だから、世界を引っ繰り返す。俺たちが食い尽くす側に回る世界を作る。お前たちにそう言った()()()()()()()の言葉に嘘は無え。―――けど、俺にはもう一つお前たちに話していない目的がある」

 

XCUTIONのメンバー。彼らにとって銀城空吾という男は自分たちを孤独から救ってくれた存在だ。そんな男のもう一つの目的に誰もが耳を静かに傾けていた。

 

「それは俺を裏切った死神に復讐することだ」

 

“復讐”という目的。銀城空吾が語る声が、その二文字に込められた重さをXCUTIONのメンバーに実感させる。

 

「裏切られ。利用され。挙句の果てには見捨てられる。そして、俺が何より許せ無えのはそれをやろうとした奴が…大切な仲間だと思っていた死神だったことだ。俺は俺を裏切った死神・浮竹十四郎に復讐する。それが()()()()()()()()()()の目的だ」

 

銀城空吾はXCUTIONのメンバーを騙していたつもりはない。彼らに言った言葉の全ては銀城空吾の本心であり、銀城空吾の努力の結晶が“XCUTION”という組織。しかし、同時に銀城空吾が死神への復讐の為に動いていたこともまた事実。だから、騙されたと俺を殴ってもいいと頭を下げる銀城空吾に対して沓澤ギリコは静かに首を横に振り、雪緒は目を瞑った。そして、毒々峰リルカは思い切り銀城空吾の頭を叩き、「これで許すわ」とソファーの上でふんぞり返った。

銀城空吾はそれぞれに「悪いな」と礼を言った後で視線を卯ノ花風鈴に向ける。

 

「そういうわけで嬢ちゃんに協力してもらうのはXCUTIONの目的ではなく俺個人の復讐だ。それでもこれからXCUTIONが行うことと無関係じゃねぇから、こうしてみんなに嬢ちゃんを紹介したってわけだ」

 

銀城空吾の言葉にXCUTIONのメンバーが各々納得する中で「具体的に風鈴に何をさせるつもりなの」と雪緒は問いかける。卯ノ花風鈴もまたそういえば私が何をすればいいか聞いていなかったなと銀城空吾に視線を向けた。

銀城空吾は難しいことではないと前置きをした後で言う。

 

「嬢ちゃんにやってもらいたいのは然るべきタイミングで浮竹十四郎を現世に連れてくることだ。現世から尸魂界に行く手段を俺が持ってない以上、浮竹十四郎には向こうから来てもらわなきゃならねぇからな」

 

「なるほど、了解した。それで然るべきタイミングとは何時だ?」

 

「俺が黒崎一護から力を奪い死神代行だった頃の力の全てを取り戻した時だ」

 

銀城空吾から出た“黒崎一護”という言葉に卯ノ花風鈴の思考は一瞬だけ停止する。

 

死神代行・黒崎一護。

 

その存在を卯ノ花風鈴は知っている。瀞霊廷動乱から表面化した藍染惣右介の反逆に最初から大きく関わっていた死神の力を持つ人間。そして、卯ノ花風鈴の実父である“風守風穴を殺した人間”。

そう黒崎一護の手によって死神としての風守風穴は殺された。しかし、だからと言って卯ノ花風鈴が黒崎一護を恨んでいるかと言えばそうではない。卯ノ花風鈴は風守風穴の死神としての死が黒崎一護との納得のいく決闘の上での決着であったことを他ならぬ本人から聞いている。だから、卯ノ花風鈴が思うことは一つ。

 

―――黒崎一護。あなたは何時だって物語の中心にいるのだな。

 

そんな読者の様な感想だった。

 

 

 

 

 

 

 

卯ノ花風鈴がXCUTIONの拠点にやってきた数日後。

 

 

日が落ちる。茜色に染まる夕暮れの空座町に銀城空吾の姿はあった。住宅街でありながら人通りの少ない路地で大剣を肩に担ぐ銀城空吾の足元には血を流し意識を失い倒れている滅却師‐石田雨竜の姿があった。

約一年前の戦いで死神の力を失った黒崎一護に力を取り戻させ、その力を奪い取るための銀城空吾の計画は既に始まっている。そして、石田雨竜を斬ったことはこれから始まる銀城空吾の復讐の始まりでもある。

銀城空吾が思わず零した笑みを見ながら、黒髪の青年‐XCUTIONのメンバー月島(つきしま)秀九郎(しゅうくろう)は少しだけ呆れたような声をだした。

 

「あーあ、こいつも黒崎一護の仲間だろ?僕の完現術(フルブリング)で斬った方が良かったと思うけど」

 

月島秀九郎の持つ完現術(フルブリング)の名は『ブック・オブ・ジ・エンド』。

その能力は斬った対象の過去に月島秀九郎の存在自体を挟み込むことができるというもの。『過去』を分岐させるその能力で人を斬れば、斬られた相手の人生に月島秀九郎は“家族”として“友人”として“恋人”として深く繋がった相手として登場していたことになる。記憶の改竄(かいざん)や時間の操作どころではない事象の改変は誰がどう考えても強力無比なものであり、だからこそ月島秀九郎は石田雨竜は自分が斬った方が良かったのではないかと思った。

仲間の裏切りではない。黒崎一護の仲間にとって月島秀九郎こそが昔から知っている仲間であり、それに敵対しようとする黒崎一護こそがおかしいのだという状況は人ひとりを容易く壊す恐怖だとしりながら、月島秀九郎は銀城空吾に視線を向けた。

 

銀城空吾はそんな月島秀九郎の視線に「何を言ってんだ」と笑いを返す。

 

「こいつは鍵になるんだよ。こいつとお前に斬られた他の連中との差異に気付くかどうかが黒崎の命運を分けるんだ。勝ち目の無え勝負なんか面白くもなんともねえだろ」

 

これから銀城空吾は黒崎一護に仲間として近づく。そして、黒崎一護の完現術(フルブリング)の能力を開花させる。成長する完現術(フルブリング)の力を使い、最終的に死神の力を黒崎一護に取り戻させる。

その裏で月島秀九郎は『ブック・オブ・ジ・エンド』の能力を使い黒崎一護の仲間である茶度泰虎、井上織姫、そして黒崎一護の家族たちを仲間にし黒崎一護の前に敵として姿を現す。

仲間を守るために取り戻した力で仲間と戦わなければならないという絶望的な状況の中で爆発するだろう力を黒崎一護から奪うことこそが銀城空吾の目的。

 

銀城空吾と黒崎一護。新旧の死神代行に配られるカードは圧倒的に銀城空吾の方が有利。その上で石田雨竜にまで『ブック・オブ・ジ・エンド』の能力を使うような真似を銀城空吾は良しとしない。黒崎一護が勝利する道も辛うじて残したまま戦う。

ある種の公平さを持った銀城空吾の考えに呆れた視線を送りながらも自分を救ってくれた男の行動に口を挟む気のない月島秀九郎はもう一つの心配事を口にした。

 

「まあ銀城がそう言うなら別にいいけど。それよりもう一つの作戦。お前の復讐の為に浮竹十四郎とかいう死神を現世に連れてくる作戦は上手くいってるの?あの死神はちゃんと動

いてるのかな?」

 

月島秀九郎の言葉に銀城空吾は空を見上げて少しだけ唸る。

 

「うーん。さあな。こっちから尸魂界に干渉する手段がない以上、それは嬢ちゃんに任せるしか無えだろ」

 

「それでいいの?あの死神が本当に銀城の仲間だって言うなら、定期的に連絡を寄越させる位のことはした方がいいと僕は思うけどな」

 

「護廷十三隊の奴らも馬鹿じゃ無え。現世に知り合いがいる訳でもない嬢ちゃんが頻繁に現世に連絡を送ってれば何かに感付く奴もいる。嬢ちゃんが隊長格の死神なら色々と手段もあるだろうが、まあ、大人として幼児にそこまでは求められ無えよ」

 

「そう。死神の社会も意外と面倒なんだね。なら、仕方ないな」

 

渋々といった様子で納得した月島秀九郎に銀城空吾は「お前は色々と心配しすぎなんだよ」と漏らす。月島秀九郎は当然じゃないかと銀城空吾の言葉に呆れながら、やれやれとため息をついた。

 

「銀城が優しすぎる分、僕がしっかりとして上げているんじゃないか。お前の復讐(もくてき)は僕にとってXCUTIONの目的と同じくらい大切なものだからね」

 

XCUTIONのメンバーの中で一番最初に銀城空吾に救われたのは月島秀九郎だ。まだ月島秀九郎が少年だった頃に彼は銀城空吾に救われた。完現術(フルブリング)という力の使い方を教え、戦い方を教えてくれた銀城空吾は月島秀九郎にとって家族の様な存在。

だからこそ信頼もしているし、同じだけ心配もしているのだという月島秀九郎に対して銀城空吾は感謝を感じながらもどこかこそばゆい。だから、話題を変えようと別の話を振る。

 

「そういえばお前、一応は嬢ちゃんに会ってるんだよな?」

 

「ああ、前にXCUTIONの拠点に来ていた時に廊下で会ったよ。任務に戻らなきゃいけないから急いでいるとかで少ししか話せなかったけどね」

 

「へぇ、ならよ。その時に嬢ちゃんに『ブック・オブ・ジ・エンド』を使えば良かったんじゃ無えか?そうすればお前の嬢ちゃんが裏切るかもしれないっていう心配も無くなっただろう」

 

そんな冗談まじりの銀城空吾の言葉に月島秀九郎はなんでもないことのように答えた。

 

「使ったよ」

 

「はは、まあ、流石にそんな真似は…って、え?」

 

「使ったよ。死神とか普通に信用できないし、当り前じゃないか」

 

「…容赦ねぇな。で、どういう『過去』を挟み込んだんだ?」

 

銀城空吾が引き攣った顔をしながら絞り出した言葉に月島秀九郎は首を横に振る。

 

()()()()()()()()

 

「………どういうことだ?」

 

『ブック・オブ・ジ・エンド』は銀城空吾が知る中でも最強の完現術(フルブリング)だ。事象の改変という神の領域に踏み込みかねない能力は銀城空吾でも喰らってしまえば防ぎようはない。その能力が卯ノ花風鈴には通じなかったと語る月島秀九郎は、考えてみれば簡単なことだったと語る。

 

「知れてよかったよ。『過去』がないものに僕の『ブック・オブ・ジ・エンド』は通用しない。あの死神、見た目通りの年齢じゃなくまだ一年ちょっとしか生きていないんだろう?その時点であの死神には『過去』を挟み込むことのできる時間が少ないってことだよ」

 

「…なるほどな。普通、幼児に能力を使うことなんてないから、気付きようがないことだが言われてみればその通りか」

 

「うん。まあ、死神である以上、普通の幼児じゃないから()()()()挟み込む余地はあると思ったんだけどね。現世での虚との戦いの中で苦戦して、たまたま居合わせた僕が助けたとか。だたあの死神は今まで一度も苦労なんてせずに生きてきていた。だからそれはできなかった」

 

『ブック・オブ・ジ・エンド』に出来るのはあくまで事象の改変のみ。新しく事象を創造することはできない。

 

「それでも無理やり挟み込もうとはした。」

 

「…月島。お前、それで何人の人間を壊してきたと思ってるんだ」

 

「仕方ないだろう。その時、僕はまだあの死神が銀城の復讐(もくてき)の為に重要な存在であることは知らなかったんだ」

 

悪びれる様子のない月島秀九郎に銀城空吾はため息を吐く。

 

過去を改変する行為は人の心を斬るとに等しい。『ブック・オブ・ジ・エンド』で何度も過去を捻じ込んだり、あまりに矛盾の生じる大きさで改変すれば心が壊れてしまう。

 

「それにどうであれ出来なかったんだ」

 

何人もの人間を壊してきた月島秀九郎は無理矢理に卯ノ花風鈴に『過去』を挟み込もうとした。しかし、それはできなかった。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

そんな『過去』を挟み込もうと『ブック・オブ・ジ・エンド』を発動した月島秀九郎が卯ノ花風鈴の中で見たものはあまりにも強固な父親の姿だった。

 

「はは、嬢ちゃんの中の父親のイメージに邪魔されたのか?」

 

「ああ、死覇装とか言ったっけ?あの黒い服装の白髪の男。その男が挟み込もうとした場所にいた。その男の混濁した目と浮かべる笑みを見たときに、僕は思ったよ。吐き気を催す邪悪っていうのはこういうのを言うんだろなと」

 

月島秀九郎は自分が善人であるとは思っていない。むしろ悪人であると自負している。生きる為とはいえ月島秀九郎は多くの人に『過去』を挟み込み様々な人間関係を壊してきた。その中には銀城空吾の言ったように心を壊してしまった人間もいる。しかし、卯ノ花風鈴の中にいた父親はそれ以上に最悪だった。月島秀九郎が卯ノ花風鈴の父親であると事象を改変する為には月島秀九郎がもっと最低な屑でなければならなかった。

 

「まあ、なりたくもないけどね。あんな死神の親にも最悪にも」

 

「…はぁ、嬢ちゃん。随分嫌われてるな」

 

自分に安らぎを与えてくれた少女に下される評価にため息を付きながら、銀城空吾は空を見上げる。気が付けば夕暮れが終わり夜が来ようとしていた。地面に倒れている石田雨竜の存在を忘れて少し長く話し込んでしまったと思いながら銀城空吾が自身の復讐(もくてき)の為の歩みを再開する。

 

「それじゃあ、月島。俺を斬れ。それで俺とお前はかつて裏切られた敵同士だ。そして、お前にまた斬られるまでの間、黒崎一護の味方になる」

 

「…やっぱりやるんだね。仕方ないな」

 

こうして銀城空吾の復讐は始まった。

 


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