瞳の記憶   作:本田な

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破章
其ノ参


 

 

「いやぁ、すみません。」

 

日差しも暖かく、涼しげな風が木の葉を揺らす初夏のある日、一人の男の情けない笑い声が病室に響いた。

細くも立派な肉体に似合わず、左腕はがっちりと白いギブスで固められている。

 

彼の名を“はたけ サクモ”と言った。

 

 

男は木の葉の里きっての優秀な忍だった。

そのうえ人当たりもよく、多くの仲間から厚い信頼を得ていた。

 

そんな彼の弱点をあげるとすれば、

人よりも仲間想いだということだろう。

 

確かに仲間を大切にすることは人として当たり前のことである。しかし、この忍の世において最優先させられるのは任務の遂行だった。任務のためならば時には仲間をも見捨てる。

サクモはそれができなかった。

そのために今回のような怪我を負うはめになったのだ。

 

 

それは数時間前に遡る。

 

サクモ率いる小隊は他里にいる捕虜の救出というAランク任務を遂行させ、ちょうど里へと帰還していた。

任務は難なく遂行したと思われたが、帰還途中、敵が仕掛けたトラップに引っ掛かり、部下の一人が崖から落ちてしまったのだった。

サクモは瞬時にロープの両端をクナイに結ぶと、一端は地面に、もう1つは落ち行く部下の腰へと器用に巻き付けた。

 

『間一髪…。』

 

誰もがほっと胸を撫で下ろしたが、それこそが本命の罠だったのだ。

助けた部下というのは敵の忍の変化で、本当の部下は敵に騙されて既に里へと帰還していたのだった。彼らはサクモが仲間を見捨てないことを知っていたのだった。

部下になりすましていた男は起爆札をつけたクナイをサクモらに向けて投げつけた。油断していたうえ、ちょうど崖の縁にいた二人の部下は爆発と共に崖へと真っ逆さまとなってしまった。しかし、それは捨て身とも言えた。起爆札を投げた敵も、自身の命綱をたちきるということだったからだ。

 

迷いはなかった。

 

サクモは勢いよく崖から飛び降りると、落下していく敵をチャクラ刀で切りつけたた。そして、腰につけていたロープを取り上げ、二人の部下へと投げつけた。

 

『掴め!』

 

彼の怒号は数秒先にある絶望すら忘れさせてくれるものだった。部下たちは考えるまもなく必死でロープに手を伸ばした。

二人がつかんだのを確認すると、崖に朱の染みたチャクラ刀を突き刺した。

そこにめがけてロープ引っ掻ける。

この作業までに3秒もかかることはなかった。チャクラ刀を支点に二人の身体は崖の側にぶら下がる状態となった。そこからならばゆっくりと崖にチャクラを流し、垂直に歩くことができる。

二人の部下のほっとした顔を下から眺めながら、サクモはほぼ丸腰な状態で100m先の地面へと向かうのだった。

しかし、幸いにも下に生えていた樹木がクッションとなり左腕の骨折とむち打ちのみで済んだ。

 

 

「まったく…。もっと自分を大切にしろ!」

 

同期である綱手は腹の虫が収まらなかった。

いいように言えば臨機応変だが、あまりに自己犠牲的なサクモの対処に綱手は医療忍者として許せなかったのだ。

そんな心配をよそに、サクモは「すまん。」といいつつも、相変わらずへらへらと笑っている。そんな二人を眺めつつ火影、ヒルゼンは小さくため息をこぼした。

 

「何はともあれ、生きて帰ってこれて何より。今は特にお主の力を借りねばならんほどの任務もない。当分、ここでゆっくり休むとよい。」

 

第二次忍界大戦勃発から4年がたっていたが、木ノ葉隠れの里はそこまで大きな打撃を受けていなかった。

サクモはゆっくりと頷いた。すると、綱手は思い出したかのように真剣な顔をした。

 

「いいか、サクモ。」

 

それに合わせるように、穏やかな部屋の雰囲気も冷たくなる。

 

「今回は部屋数の問題で相部屋にしている。だが、隣の患者は“一応”重病患者とされている。くれぐれもそのバカなお人好しで迷惑をかけるんじゃないよ!」

 

ふと、隣を見やるがカーテンで閉ざされているうえ、人の気配もまったくしない。それは不自然なことだった。サクモほどの忍が隣にいる患者に気づかないわけがなかったからだ。

 

「綱手、本当にその“患者さん”はいるのかい?」

 

綱手はサクモがもう既に忠告を無視していることに苛立ったが、彼の言った言葉の意味に少しだけ希望に似たものを抱いた。

 

「カーテンの向こうは無感知素材の壁だ。」

 

サクモは数々の疑問にたいし、興奮にも似たワクワクした感情がわいていた。気持ちは推理小説の主人公といったところだろうか。

 

 

しかし、ごく自然となんでもない日々は早々と過ぎていった。そこでサクモは例の隣人に対し、また疑問を抱いた。

 

入院してから一週間は経っているといるというのに隣からまったく物音がしない。

 

サクモは無機質なカーテンを再び眺めた。

 

「はたけさん、お体を拭きに来ましたよ。」

 

ちょうど来た看護婦のおかげで決心がついたかのように「あの、」とサクモは何とも謙虚な声を出した。

 

「隣の患者さんは本当にいらっしゃるんですか?」

 

1度も会ったことがないもんで。と続けると、看護婦はなんともばつが悪そうな顔をしてこちらを見た。

 

「…ええ、いますよ。でも…」

 

私も会ったことがないんです。

 

それはサクモの切れ長のつり目をさらに上がらせた。看護婦は続けた。

 

「ただ、少しノイローゼ気味なうえ両親にも見放されいるようで、検査以外ではめったに人にあったりしないらしいですよ。

なんせ、彼女は不治の病を患ってかれこれ五年もここにいるんですから。」

 

不治の病…。

 

綱手がいっていた『一応、重病患者』という言葉が脳裏をよぎる。

そして、五年もここで他者との交わりを経って生きていることに今までとは違う、不安のような胸騒ぎがした。

 

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